国王は、やけにシリアスな顔をしていた。
が――
俺はまったく違うことを考えていた。
――魔法少女衣装がそんなに気に入ったのかな?
そういえば、王妃があの格好をしたら……いや、一発ネタにしかならない気がする。
まさか、それを狙っているのか?
国王って、意外と色んな性癖を持っているのかもしれないな……。
国王が、わざとらしく咳払いをした。
俺の考えていることを見透かしたような視線を送ってくる。
「竜の姫君、貴殿のおかげで王国は大いに助かっている。心から感謝する」
国王は、真剣な表情でそう言った。
「しかし、それでもなお、この国は苦しい状況にある」
「へぇ? でも国王は悪魔を倒せるし、騎士も俺ほどじゃないけど強そうなのに?」
俺が不思議そうに聞くと、国王は苦い表情を浮かべる。
「人間同士の戦いとは違い、魔王軍との戦争は使える手段に制限がなさすぎるのだ」
国王の言葉は続く。
「たとえ一つの戦場で勝利を収めても、都市や農地を破壊されれば意味がない」
「最悪、水源を汚染されれば、国の衰退は避けられない」
「この戦いは、王家の存続どころか、種の存続すら危うくする戦争なのだ」
俺は、「たいへんだなー」と思いながら、適当に頷いた。
――正直なところ、俺が大事にしている人間(魔女含む)は、王女様とその他少数の直接の知り合いだけだった。
「しかし、魔法大国の侍女たちは、実に興味深い衣装を纏っていたな」
国王が、唐突にそんなことを言い出す。
「おお、わかる? 俺も最初は驚いたけど、思った以上に似合っててさぁ」
「うむ。魔女……いや、侍女たちに似合う衣装について、もう少し考える必要があるな」
真剣な顔で語り合う国王と俺。
なお、王妃(相変わらず艶々)と、仕事用の装束が魔法少女になってしまった侍女たちは、微妙な表情でこちらを見ていた。
「……」
その場にいた勇者が、珍しく深刻な表情をしていた。
「どうした?」
俺が聞くと、勇者はポツリと呟く。
「……俺がいた国が、魔王軍と直接戦争してる」
その瞬間、俺の思考が切り替わった。
「暇なら助けてやるか」
俺は、最初は軽くそう考えた。
だが――
「……あの国、女神様(地母神)を主神としてるんだよな」
「――なに?」
俺の目の色が変わった。
「それ、もっと早く言えよ!!」
女神様(地母神)には、重力の件で世話になっている。
ここで恩を返さないのは、俺の流儀に反する!!
「行くぞ、勇者!!!」
「はぁ!? ちょっ、待っ――」
バサァッ!!!
俺は勇者を抱え、一気に飛翔した。
「目標、勇者の友人がいる国!!!」
国王と王妃、そして魔法少女姿の侍女たちが見送る中――
俺たちは、大空へと飛び立った。
巨人族の咆哮が、大地を揺るがせた。
「ウオオオオオオオオ!!!」
それに応じるように、無数の巨人たちが岩を投げ、木を薙ぎ払う。
防壁が崩れ、神殿の門前には瓦礫が散乱していた。
この国に残された最後の砦――女神(地母神)を祀る神殿。
戦いが始まる前の七割は、まだ生存しているが、それも時間の問題だった。
神殿の正門前。
巨人族族長(身長8m、圧倒的筋肉、IQは低め)が、不敵に笑っていた。
「小僧……よく戦ったが、もう終わりだ……!」
そこに立ちはだかるのは――
十代前半の少年。
美少年。
礼儀正しい。
明るくて素直。
この国の勇者――美ショタ勇者。
「くっ……まだ……負けません……!」
彼は必死に剣を握る。
だが、巨人族族長は、余裕たっぷりに棍棒を振り上げ――
「砕けろ、小僧!!」
全力で振り下ろした!!!
その瞬間――
天から、何かが落ちてきた。
巨人族族長が、咄嗟に棍棒を振り上げるが――
ドガッ!!!
落下してきた何かが、巨人族族長の肩口を豪快に切り裂いた。
「グォアアアアアッ!!?」
地響きを立てて、巨人族族長がのけぞる。
そして――
「温いんだよ、このデカブツ!!」
着地したのは、俺と一緒に飛んでいた生意気勇者だった。
生意気勇者は、巨人族族長の傷口を見下ろし、鼻を鳴らした。
「へっ、何だよ。ドラゴンとと比べたら速度も力も格下も格下だな。守りまで薄い。」
美少年美ショタ勇者が、その姿を見て――
「先輩!!!」
目を輝かせながら駆け寄った。
「お前……生きてたのか!」
「そっちこそ、よくやってたな」
生意気勇者が、ニヤリと笑う。
だが、次の瞬間――
生意気勇者の表情が、一気に変わる。
「……っ!? 早く神殿の中に逃げ込め!」
「え?」
美ショタ勇者が戸惑っていると、生意気勇者は空を見上げて、青ざめた顔で叫んだ。
「……あの馬鹿っ!! 力を込めすぎだっ!!!」
美ショタ勇者も、つられて空を見上げる。
そこには――
俺。
口を大きく開け、今にも全力のくしゃみ(ドラゴンブレス)を放とうとしている俺がいた。
だが――
力を込めすぎたせいか、向きが安定しない。
「お、おぉ……?」
俺は、あっちこっちに揺れながら、必死に狙いを定めようとしていた。
「ヤベェ……どこに届くか分からねぇ……!」
地上では、生意気勇者が頭を抱え、巨人族族長は血まみれになりながらも不敵に笑っていた。
俺は、必死にくしゃみを抑えようとしたが――
もう無理だった。
「全軍、突撃ィィィィ!!!!」
深手を負った巨人族族長が、血しぶきを撒き散らしながら怒号を上げた。
その瞬間、巨人たちの地響きのような咆哮が響き渡る。
ドドドドドドドドドドッ!!!!
身の丈8メートルの巨体が、一斉に神殿へ向かって殺到する。
だが――
それより速く、俺のくしゃみ(ドラゴンブレス)が発射された。
「ハ……ハ……ハックショオオオオオオオオオオイ!!!!!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
その瞬間、凄まじい熱と衝撃が戦場を包み込んだ。
巨人族族長の目に映ったのは――
半径数百メートルが、まるで砂粒のように粉々に吹き飛んでいく光景だった。
大地がえぐれ、天を焦がす炎が立ち昇る。
「……っ!!?」
近くにいた巨人たちの手足が、熱と衝撃波で吹き飛び、戦場が一瞬で地獄絵図と化した。
「……え?」
神殿の中にいた人々は、恐る恐る外の光景を見つめた。
戦場が更地になっていた。
だが――
神殿だけが無傷だった。
女神(地母神)の加護によって、神殿の周囲だけが、まるで何もなかったかのようにそのまま残っていた。
「……やっぱり女神様、すげぇ」
俺は感心しながら、くしゃみの余韻で鼻をすすった。
「ゲホッ、ゲホッ……! ちくしょう、飛ばされるかと思った……!」
神殿の外にいた生意気勇者が、砂埃まみれで立ち上がる。
服はボロボロだが、ダメージはほとんどない。
「……頑丈だな」
俺は思わず感心した。
が――
巨人族の生き残りたちは、そんな余裕すらなかった。
「ひ……ひぃぃぃぃ!!!」
「逃げろおおおおおおおおおお!!!!」
生き残った巨人たちが、一斉に逃げ出す。
戦場に響き渡るのは、巨人族の悲鳴と、ゴーレムのような重い足音だけだった。
半数以下に減った彼らは、もう二度とこの国に手を出すことはないだろう。
そんな戦場を見下ろしながら、俺はゆっくりと降下していった。
陽光が俺の姿を照らす。
白銀の髪が輝き、ドレスの裾が風に揺れる。
神々しすぎる登場に、神殿の人々が次々とひざまずいた。
「……神の御使いだ……」
「竜の姫君……!!」
彼らは、本気で俺を拝み始めた。
そんな中――
美ショタ勇者が、俺を見上げていた。
その目には、純粋な憧れと、尊敬の色が浮かんでいた。
「……きれい……」
そう、小さく呟いた彼の頬は、わずかに赤く染まっていた。
俺は、その視線に気付き――
「おっ」
興味を持った。
が――
「……なんだ、男かー」
俺のテンションは、一瞬で下がった。
「ええ……」
美ショタ勇者は、がっくりと肩を落とすのだった。
続く。