戦場に生き残った人間たちが、俺を拝みながら感謝の言葉を並べてくる。
「あなた様がいなければ、この国は滅んでいました……!」
「どうか、我らの神殿において、あなたの偉業を讃えさせてください!」
「永遠に語り継ぎましょう!」
――うん。
ありがたいけど、正直どうでもいいな。
俺は王女様の態度をそれっぽく真似ながら、上品に頷いてみせた。
が、実際は9割以上聞き流している。
――女神様への義理は果たしたし、そろそろ帰るかー
そう思ってふと戦場を見渡すと――
巨人の死体、死体、死体!!!!!
戦場一面に転がる巨大な亡骸たち。
「あー……後片付けしねぇと帰りにくいな」
仕方ない。ちゃちゃっとやるか。
俺は「くしゃみ(ドラゴンブレス)でまとめて吹き飛ばすか?」と一瞬考えた。
が、「それやると地形が変わるからダメ」という常識的な判断を下す。
そこで、地面を大きく踏みしめ――
「よし! いっちょやるか!!」
豪快に拳を突き立て、地面を抉った。
ドガァァァン!!!
荒野に大穴ができる。
俺はそのまま、巨人の死体を次々とぶん投げて穴に放り込んでいく。
「よいしょっと!」
片腕を持ち上げるだけで、大の男十人分はある巨体が宙を舞う。
見ていた生意気勇者と美ショタ勇者が、会話を始めていた。
「すごい……! 竜の姫君は、やっぱり僕たちの味方だったんですね!」
「は?」
隣で腕を組んでいた生意気勇者が、露骨に呆れた顔をする。
「いや、あの巨人どもを片付けてくれたのは事実だけどな?」
「お前、こいつのこと本気で『正義の味方』だと思ってんのか?」
美ショタ勇者が「えっ?」と戸惑った表情を浮かべる。
生意気勇者は軽く溜息をついて、俺が次々と巨人をぶん投げていく様子を指差した。
「こいつが巨人を片付けてるのは、雑草かなにかみたいに鬱陶しく感じたからだろ」
「そんなこと……!」
美ショタ勇者が反論しようとするが、俺の姿を改めて見て、何かに気付いたように口をつぐむ。
――俺の顔に、一片の達成感も使命感もない。
あるのは、ただの作業感。
「よっと……おらぁ!」
巨人の死体を軽々と投げ捨てながら、どこか面倒くさそうな雰囲気すら漂わせている。
美ショタ勇者は、そんな俺をじっと見つめた後、ぽつりと呟いた。
「……じゃあ、どうして戦ったんですか?」
「そりゃあ、女神様に恩があるからだろ。重力ってのは良く分からないがな」
即答だった。
生意気勇者は「やっぱりな」と言わんばかりに腕を組み、美ショタ勇者はさらに混乱した顔になる。
「……でも、それってつまり……?」
生意気勇者は肩をすくめる。
「こいつは、あの国の王女と国王がうまくやってるから、今んとこは協力してるだけだ」
「本質的には、俺たち人間とは価値観がまるで違う。だから……」
生意気勇者は、巨人を次々と埋めていく俺の姿を見ながら、ぼそりと呟く。
「……こいつに対して『邪竜』とか『災厄』っていう噂、あながち間違ってない気がするんだよな」
その言葉に、美ショタ勇者は完全に言葉を失っていた。
巨人族の死体をだいたい片付けた後、俺は王女様のいる国へ帰っていた。
「あれ? そういや、あの国、ボロボロでなにもかも足りないんじゃね?」
女官たちに体を綺麗にしてもらっているときに気付いた。
確かに、生き残った人間たちは頑張っている。
でも、戦で国が滅びかけた直後の状態で、復興もままならない状況。
で、俺は思ったわけだ。
「王女様に相談するか!」
数十分後、俺は馬鹿デカい鉄の箱(箱は小人の国からの献上品)をぶら下げて飛んでいた。
そして、その鉄の箱には――
「ぐっ……風が……冷える……!」
騎士団長レオナルドがしがみついていた。
「騎士団長!?」
気付いて驚く生意気勇者。
いや、俺も最初はレオナルドのこと置いていくつもりだったんだけど、飛び立つ直前に「王女様からの正式な支援として届けるなら、私も同行しよう!」とか言い出したんだよな。
「風、強かった?」
俺がそう尋ねると、レオナルドは口元を引きつらせながら答えた。
「姫様……普通に馬で来るべきでした……」
――うん、それはそう。
俺はドーンと鉄の箱を置いてから着陸して、堂々と宣言した。
「お土産持ってきたぜ!」
「……は?」
生意気勇者と美ショタ勇者が、まったく意味がわからないという顔をする。
鉄の箱の蓋をガコンと開くと、中には水や食料や毛布がぎっしり詰まっていた。
「これ、王女様の国からの支援ってことな」
「……こんな短時間で?」
生意気勇者が呆れながら問いかける。
「詳しくは知らねー。王女様に相談したらくれた」
「全部ひと任せかよ!!!」
「細けぇことは気にすんな!」
俺がドヤ顔でそう言い放つと、レオナルドが咳払いをして、真面目な顔で前に出た。
「我が国からの支援として、物資をお届けしました。これを貴国の復興のために役立ててください」
騎士団長らしい、堂々とした言葉だった。
国の指導者たちは、ようやく事態を理解し、感謝の意を述べはじめる。
「すごい……!」
美ショタ勇者が、俺をまっすぐ見つめている。
「やっぱり、姫様はただの破壊神じゃなかったんですね!」
「おい待て、破壊神って言ったな?」
「尊敬の意味を込めてですよ!」
うーん、どうなんだそれ。
美ショタ勇者はキラキラした目で俺を見上げてくる。
――この距離感、王女様だったら嬉しいんだけどな。
そんな俺を見ていた生意気勇者が、呆れたように腕を組んだ。
「お前、よくわかんねぇヤツだな……」
「よく言われる」
俺があっさり答えると、ふと何かを思い出したように背後を振り返る。
「……そういや、お前の着替えも持ってきたぞ!」
「は?」
俺はニッと笑って、フリルとリボンがふんだんにあしらわれた、お姫様風の華やかな魔法少女衣装を取り出した。
「ほら、着替えろよ!」
「こんなもん着れるかァァァァァァ!!!」
生意気勇者の叫びが、夜空に響き渡るのだった――。
続く。