俺は、馬鹿デカい鉄の箱をぶら下げながら飛んでいた。
精神的に疲れている。いや、マジで疲れてる。
「尋問って、思ったより難しいな……」
箱の上に座る生意気勇者が、風を浴びながらポツリと漏らす。
その顔には、明らかに疲労の色が滲んでいた。
「お前、マジで疲れてんな」
「……そりゃな」
俺は、そんな生意気勇者をチラッと見て、誇らしげに胸を張った。
「俺はうまくやったぜ!」
「お前に怯えてただけだろ!!!」
生意気勇者が叫ぶ。
「尋問ってのはな、脅すだけじゃダメなんだよ! もっと情報を引き出す工夫が必要なんだ!」
「いや、でもビビってたのは事実だろ?」
「ビビすぎて気絶したら尋問にならねぇだろ! あれ縁起じゃなかったぞ!!」
俺たちは空中でにらみ合い、しばらく言い合いを続けた。
——が、すぐに「無意味だからやめよう」という合意に至る。
「……もういい、疲れた」
「俺ももうめんどくせぇ」
俺たちは同時にため息をついた。
ぶら下がった馬鹿デカい鉄の箱の中では、主催者とその部下たちが震えている。
さらに、箱の中には呪いの武器っぽいものもゴロゴロと詰め込まれていた。
なんか……思ってたより、やべぇ荷物になってる気がする。
まあ、考えるのが面倒だから後でいいか。
——と、そんな感じで飛び続けていたら、王女様のいる王宮の中庭が見えてきた。
ようやく帰還だ。
着陸すると、王宮の人々はすでに受け入れ態勢を整えていた。
俺の行動に慣れすぎて、食事、風呂、着替えの準備が万全すぎる。
「おかえりなさいませ、姫様」
女官たちが俺を迎え、箱の中身の確認をするために役人たちがぞろぞろと集まってくる。
どう見ても税関。
「……俺は寝る」
生意気勇者がいつもの部屋にベッドへ向かう。
「おつかれー」
俺も風呂に入り、湯の中で力が抜けて——そのまま寝落ちした。
翌日。
俺は王族用の食堂に座り、遅めの朝食……いや、ほぼ昼食をとっていた。
料理は相変わらず豪華だ。俺のために特別に用意された、肉たっぷりの献立。
しかし——
「……王女様」
聞けば、王女様は朝早くから王都で仕事中らしい。
――生意気勇者は?
「体力回復のため、ベッドで大人しくされております」
俺は露骨にテンションが下がった。
そのとき、食堂の扉が開いた。
「姫様、ご面会の申し出がございます」
執事っぽい人が、深刻な顔で頭を下げる。
「誰?」
「大臣の一人が、魔法の専門家と共に参りました」
俺は肉をかじりながら頷いた。
「んー、じゃあ会ってやるか」
待ち構えていたように、大臣と数人の侍女……いや、魔法少女衣装を着た侍女たちが現れた。
――ちょっと待て。なんで魔法少女が大臣と一緒にいるんだ?
「なんか……独創的すぎる組み合わせじゃね?」
「魔法の専門家として協力を仰ぎました」
大臣が真面目な顔で答える。
俺は「へぇ〜」と気楽に頷いた。
「魔女……じゃなくて、魔法少女がいじめられてなくてよかったぜ」
実際には、彼女たちが正式に王宮の魔法研究員として受け入れられるまで、いろいろな交渉や葛藤があったらしい。
が、俺はそんなこと全く知らない。
「で? なんの話?」
「まず、トーナメントに関わっていた人間の大半は、魔王軍とは無関係でした」
「へぇ」
「しかし、主催者を含む一部の者が、魔王軍と関係を持っていたことが判明しました」
「へぇ〜」
「さらに、姫様が持ち帰られた武器の中は——」
俺は肉と骨を咀嚼しながら聞いていたが、その次の言葉で箸を止めた。
「全て最上級の呪われた武器でした」
「えっ」
思わず飲みかけたスープを吹きそうになった。
「全部? 特級?」
大臣は静かに頷いた。
――じゃあ俺にちょかいかけてきた呪いの剣は最上級のさらに上なのか?
俺は、よく分からないことは考えないことにした。
「それで、問題は?」
「これらの武器を破壊したり、安全に保管する手段がないのです」
「えっ、マジで?」
「魔法少女たちにも解析を依頼しましたが……」
大臣にも俺の言葉が移ったらしい。
ちらりと見ると、侍女達……魔法少女たちはどこか充実した表情をしている。
たぶん久しぶりに魔女としての仕事ができて、やりがいを感じたんだろう。
ただし疲れも濃い。
――いきなり普段してない仕事を押しつけられたらそうなるよな。
――こいつらが頑張ってる間、俺ただ寝てたわ。
俺は考えるふりをして肉ごと骨をかじる。
もぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
しばらく考えた結果、俺はようやく気づいた。
「……俺が後片付けしないとダメなの!?」
大臣は無言で頷いた。
「いや、俺、そんな片付け得意じゃねぇし!!」
「我々も全力を尽くしますが、姫様のご協力が必要です」
「いやいやいや!?」
俺は困惑しながらも、目の前の肉料理を食べ終えた。
――こうなったら、仕方ねぇ。
――食後の運動がてら、やるか!!
王宮での食事を終えた俺は、大神官と生意気勇者を連れて王都を出発した。
目的はただひとつ。
呪われた武器の後始末。
というわけで、俺たちは王都から離れた大都市に向かって飛んでいた。
「いやぁ、悪ぃな大神官。お前んとこ、エルフの国でも世話になったのに」
俺が飛びながら言うと、大神官は俺の腕の中で穏やかに微笑む。
「女神様の御心にも沿いますので、ああいう件には是非協力させていただきたいものです」
俺の腕の中で……っていうより俺がデカイ大神官に俺がしがみついている感じだ。
呪われた武器は束にして持ってもらっている。
「なんかこの体勢、恥ずかしいな……」
生意気勇者が小声で呟いた。
大神官に子供みたいに抱えられてるんだよな。
距離感が娘と父なのは分かってるけどちょっともやもやする。
俺たちはそんな感じで目的地へと向かう。
到着した場所は……「冒険者ギルド」だった。
「マジか! 冒険者ギルドって実在したんだ!!」
俺は目を輝かせる。
大きな木造の建物、活気ある酒場、壁に貼られた依頼書の数々。
まさにファンタジー世界の王道!
――まぁ、王女様の国にはこういうのなかったからな。
「おい、興奮してねぇで行くぞ」
生意気勇者が俺の腕を引っ張る。
「へいへい」
向かったのはギルドの奥にある小部屋。
大神官が手続きを済ませ、俺たちはある人物を待つ。
「……お待たせしました」
扉が開き、現れたのは——
「あんたが鑑定勇者だったのか!」
見覚えのある勇者だった。
そう、トーナメントで戦う前に速攻で不戦敗を選んだ勇者だ。
俺が目を丸くしていると、鑑定勇者は軽く溜息をつく。
「……やっぱり、私の逃げ場はないんですね」
「逃げんなよ!」
俺がツッコむと、大神官がにこやかに微笑む。
「まあまあ、女神様の導きというやつですよ」
「神官様、便利な言葉を使いすぎ!」
生意気勇者が即ツッコミを入れる。
とりあえず、話を進めよう。
「お前、呪いの武器の正体、鑑定できるんだろ?」
「……ええ、できますとも」
鑑定勇者はため息混じりに頷いた。
「でも、どうやって処理するんです?」
「俺が壊すか、大神官が浄化する」
「……なるほど」
鑑定勇者は一瞬沈黙し、それから諦めたように微笑んだ。
「それなら、さっさと始めますか」
シリアス顔になると、俺の本能が(てごわい)と警告を発した。
「まずは、この剣ですね」
鑑定勇者が一本の剣を指差す。
「呪いの性質は——」
説明が、長い。
「私の担当ですね」
大神官が静かに祈りを捧げる。
「女神様、どうかこの穢れを浄化し……」
ズズズズ……と、武器が輝きだし、呪いが祓われていく。
「おお、すげぇ!」
俺でも壊せるけど、壊した後の破片に呪いがくっついてたら放置するしかなくなりそうだしな……。
鑑定勇者の、次の剣の解説がもう始まっている。
「姫様」
大神官が俺を促す。
鑑定勇者の説明を2文字で要約してくれるのが滅茶苦茶たすかる。
渡された槍に思い切り力を込めると、悪魔を殴ったときと同じ感触があって後にぽきりと折れる。
この日の悪魔の討伐数は、人類の歴史上最多だったらしい。
続く。