「……神剣?」
生意気勇者が眉をひそめた。
「……あんた……じゃなくて、鑑定勇者さん。真顔で冗談を言われても、困る」
「冗談ではありませんよ」
鑑定勇者が肩をすくめながら言う。
「君の剣は紛れもなく神剣です。それも……通常の聖剣よりも遥かに格が上の、ね」
生意気勇者は手元の剣をまじまじと見つめる。
「いや、ただの高性能な剣だろ?」
「いいえ、違います」
鑑定勇者が、しっかりと生意気勇者の目を見据えた。
「……もしかして、扱いが雑だったからですか?」
「うっ」
生意気勇者が言葉に詰まった。
確かに、こいつはこの剣を単なる高性能な剣として扱っていた。俺から見ても、別に雑にしてるわけじゃないけど、神剣とか言われると確かにテキトーだった気もする。
「へぇ、これが神剣かぁ」
俺は興味津々で、生意気勇者の剣をつついてみる。
「おい、遊ぶな! これは俺のだぞ!!」
「私の剣だ……よ?」
横で大神官が軽く咳払いしたせいで、生意気勇者が妙にぎこちない口調になった。
「ぷっ……」
俺は吹き出す。
「お前、急にキャラ変えてんじゃねぇよ!」
「うるさい! これは俺の……じゃなくて、私の剣……だっ!」
「似合わねぇー!」
「お前のせいでこんな口調になったんだろうが!!」
生意気勇者が顔を真っ赤にして怒る。うーん、いつもの口調でいいんじゃないか?
そんなやりとりを横目に、鑑定勇者が一歩下がった。
「……これで、私の仕事は終わりですよね?」
そのまま立ち去ろうとするが、大神官が静かに微笑んでいる。
「何を言っていないか、予想できていますよ」
鑑定勇者がピクリと肩を震わせた。
「……では、これで失礼します」
そう言って、冷や汗を流しながらそそくさと去っていった。
俺は大神官に目を向ける。
「問い詰めなくてよかったのか?」
「無理を聞いてもらった以上、これ以上追及するのは控えます。貴重な能力の持ち主ですし」
「……人付き合いってめんどくさいなぁ」
俺はぽりぽりと頭を掻いた。
そして――
「鑑定勇者が言ってたけど、今回壊した武器って全部……その、魔界産?」
「魔界ってマジで……」
生意気勇者が言いかけて、大神官の視線に気づき、慌てて咳払いする。
「……本当に存在するのでしょうか、神官様?」
大神官は静かに頷いた。
「悪魔に関係する土地だと、古くから伝えられています。鑑定勇者の能力は確かですし、今この状況で嘘をつく理由もないはずです」
「マジかぁ……。魔界って、空がピンク色だったりするのかなぁ」
俺がのんきに呟くと、生意気勇者が思いっきり睨んできた。
「そういうところを気にする? 悪魔の本拠地かもしれないって方が重要だ……でしょ?」
「あー、確かに」
俺は適当に頷いた。
そのとき――
「女神様(地母神)に、お伺いを立ててみます」
大神官が厳かに告げた。
俺は「おお、すげぇ」と適当に感心しながら、悪魔の本拠地ってどんなとこなのかワクワクし始めるのだった。
真っ暗な空間に、突如として神々しい光が満ちた。
魔界の空に輝く門が開く。
「おー、開いた開いた!」
俺は光の門から勢いよく飛び出した。
「うわっ、なんだここ!」
目の前に広がるのは、禍々しい色をした大地。奇妙にねじれた木々が生い茂り、空気そのものが濁っている。空は暗赤色に染まり、地面には怪しく光る紫の霧が渦巻いている。
「あー、これ絶対ヤバいとこだな!」
俺は思わず声を上げた。だってどう見ても普通の場所じゃないし。
けど――
「すっげぇ……!」
俺の中のドラゴンの本能的な何かがゾクゾクする。未知の世界、未知の強敵。これは、ワクワクしない方が無理ってもんだ!
なんて感動してたら、俺の勢いは止まらず――
ドゴォォォン!!!!!
「げふっ!!?」
巨大な城の城壁に突っ込んだ。
俺の突撃の衝撃で、頑丈そうな壁が大穴を開ける。
「うぉぉ……まじか。これが女神様(地母神)の本気か……!」
女神様(地母神)の力で魔界へ送り込まれた結果、思いっきり敵陣のど真ん中に突撃してしまったらしい。
――まあ、気にすることでもないか!
俺がバサッと羽ばたいて周囲を見渡すと、城の奥からドスドスと足音が響いてきた。
「おっ、来た来た!」
続々と現れるのは、鎧を着た巨大な悪魔や、ドロドロに溶けたような肉塊の悪魔、そしてコウモリみたいな羽をバサバサさせて飛んでくる悪魔たち。
「よっしゃー! 誤射を気にしなくていいから、遠慮なくやれるぜ!!」
ブワァァァァァッ!!!!
俺は勢いよく息を吸い込み――
ゴォォォォォォ!!!!
ドラゴンブレスをぶっ放した!!!
直撃した悪魔たちは、炎の渦に包まれて悲鳴を上げる。
ドガァァァァン!!!
吹き飛んだ悪魔が後ろの建物に激突し、城の一部が崩壊する。
「おおぉぉ、すげぇえええ!!!」
俺は思わずテンションが上がった。だってすっごい派手に壊れてる!
気持ちよすぎて、そのまま突っ込んでいく。
悪魔どもが次々と襲いかかってくるが――
「どりゃあああ!!」
パンチ一発で壁ごと吹っ飛ぶ!
「せいやっ!!」
キック一発で塔が崩れる!
ドゴォォォン!!!!
反射的にくしゃみしたら、吹き飛ばされた悪魔が大砲みたいに飛んでいった。
気付けば、城の半分くらいが瓦礫になっていた。
「おっかしいなー! 俺、武器工場を壊しに来たはずなのに、城全体を更地にしそうだぞ!?」
――まあ、いっか!!
そんなノリで暴れ続けていたら――
俺はいつの間にか、城の奥深くまで侵入していた。
そこにあったのは、異様な光景。
巨大な玉座の間には、水晶に封じられた人間、石像に変えられた戦士、そしてモンスターと融合させられた者たちが展示されていた。
「……なんだこれ」
さすがの俺も、ちょっと引いた。
そんで、玉座には――
「ククク……よくぞここまで来たな、人間の王……ん?」
「おらぁぁぁぁぁ!!!」
俺は話を聞かずに、そのままブン殴った。
ドゴォォォン!!!
玉座に座ってた悪魔(デカい)が吹っ飛び、壁にめり込む。
「な、なにをする貴様ぁぁぁ!!?」
「いや、だって偉そうに喋ってるから殴る流れだろ?」
悪魔(デカい)が口をパクパクさせていたが、俺は気にせず周囲を見渡す。
人間たちが、かすれた声で呟いた。
「……た、たすけて……」
「……みないで……」
俺は腕を組み、うーんと唸る。
「治るかどうかは分からないけど、確かめてみるか!」
ドゴォォォォォン!!!!
俺は気絶してる悪魔を思いっきり蹴り飛ばし、玉座の間を破壊。
そのまま水晶とか色々なものを運んで、光の門へ放り込む。
全部運ぶまで10往復くらいした。
数時間後。
神殿の祈りの間。
「すげーぜおっちゃん!!!」
俺が尊敬の視線を向けても大神官はぐったりしたままだ。
癒やしの魔法……奇跡だったっけ?
まあそんな感じで俺が運んで来た連中を全員治療してんだからすごいよな!
大神官を介抱している生意気勇者が呆れ半分避難半分の目で見てくるのは気にしないことにする。
「最高級のポーションを大箱で持って来なさい!」
「聖女様、これを着てください」
神殿の人間たちはすごく忙しそうだ。
大神官に治療された連中は呆然と座り込んでいる。
なんか昔の勇者とか聖女らしい。
けどなんか若いな。
「よし、風呂入るか!」
俺は考えることは後回しにして、全力で暴れた充実感を味わいながら王宮へ飛んでいった。
続く。