最強ドラゴン姫(♂)、異世界で無双する   作:星灯ゆらり

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「重力って俺の力?」 女神様の爆弾発言!

 地図を見下ろしながら、俺は嫌な予感に苛まれていた。

 

 このままじゃ王国が滅ぼされる――そんな直感が拭えない。

 

 外敵どもめ……俺の縄張りに手を出そうってのか?

 

「ふざけんなよ……!」

 

 無意識に拳を握る。

 

 が――。

 

 俺の感情とは裏腹に、国王や大臣たちは確かに緊張しているものの、怯えた様子はまったくない。

 

 ……あれ?

 

 俺は首を傾げた。絶望的な雰囲気になるかと思いきや、意外と落ち着いている。

 

「なに、お前ら怖くないの?」

 

 俺が思ったままに口にすると、国王は静かに微笑んだ。

 

「危険な状況ではあるが、竜の姫君のおかげで早く気付くことができた。対策をとる余裕はある」

 

 余裕、ねぇ……。

 

 ……でもまあ、確かに慌てふためいているわけじゃないし、パニックになってもいない。

 

「……俺が力を貸すと思ってる?」

 

 不機嫌そうに言う。いやまあ貸すけど。王女様と生意気勇者がいるし。

 

 俺から力を貸すのはいい。でも、都合良く利用されるのは嫌なんだよな。

 

 国王は少しも動じず、穏やかに言葉を続けた。

 

「大きな戦力を動かすときは準備に数年かかることもよくある。空を高速で飛べる竜の姫君から見ると、敵も味方も動きが遅すぎるように見えるかもしれないがな」

 

 ……あー。

 

 言われてみればそうかも。

 

 俺は人間だったときの記憶はある。

 

 でも、その感覚は忘れかけてるのかもしれない。

 

 昔は車か電車。一番忙しいときでも定期便の飛行機だった。

 

 けど今は、気軽に空を飛んで、王国だけでなくいろんな場所を空から見下ろせる。

 

 視点が変われば、時間の流れ方も違って感じるんだ。

 

「けど、この状況で有効な対策ってあるの?」

 

 俺は腕を組んで考え込む。

 

「俺が人間の国や軍をぶん殴ったら滅茶苦茶揉めると思うんだけど……魔王軍や悪魔だけ狙って攻撃できるかなぁ」

 

 すると、国王は静かに頷きながら言った。

 

「魔法大国との関係を強化する。……どの勢力も結局は己の利益のために動いている。反撃で自らが滅ぶ危険があると気付けば弱腰になる」

 

 なるほどな……。

 

 魔法大国――たしか、浮遊する島にあって、魔女も多く住んでいる国だったはず。

 

 最近国王に嫁いできたのも魔女だった。まあ子供ができるくらいなんだからほぼ人間だろ。

 

「そこで、だ」

 

 国王は俺に向き直り、真剣な表情で言った。

 

「軍事同盟締結のための使者の護衛兼輸送役を、国家として正式に竜の姫君に依頼する」

 

 ……お?

 

「報酬は、この国の公爵位だ。国や王族からの命令を聞く義務がないと確約し、そのことを広く公開する」

 

 人間の価値観では異様なほど特権的な地位だ。

 

 それが、前払い。

 

「…………」

 

 俺は露骨に顔をしかめた。

 

「面倒なのは嫌なんだけど」

 

 俺があからさまに不満げな態度をとっても、国王の態度は変わらない。

 

「人を養う気があるなら地位は必要。苦手なら得意な者に任せればよい」

 

「……っ」

 

 その言葉に、俺は無言になった。

 

 ……まあ、確かに。

 王宮を住処にしているうちに知り合いも増えた。

 

 王女様や生意気勇者なら困ったときに俺が助けるだけでうまくやっていけるだろうけど、最近助けた勇者や聖女はなぁ……。

 

 今は単なる気まぐれで助けてるだけだが……もし、あいつらをちゃんと守ろうと思ったら、こういう地位は必要なのかもしれない。

 

 特にがきんちょどもは、な。

 

「……わかったよ」

 

 最終的に俺は同意し、すでに準備していた使者たちと共に出発することになった。

 

 だが――。

 

「……ん?」

 

 突如、室内に圧倒的な気配が満ちた。

 

 荘厳で、清らかで、けれどどこか暖かい気配。

 

 神々しい、それでいて圧倒的な存在感。

 

 俺の本能が、瞬間的に理解した。

 

 ――この気配は、女神様だ。

 

『久しぶりね、神竜(見習い)の子』

 

 神々しい気配が満ちる中、荘厳でありながら妙に親しみやすい声が響いた。

 

 ……うん?

 

 俺はピクリと耳を動かした。

 

 今の声、確かに威厳がある。あるんだけど……なんか、ちょっとフランクじゃね?

 

 俺が首を傾げていると、大神官が真っ先に反応した。

 

 ――ガタンッ!

 

 それまで落ち着いていた大神官が、慌てて椅子を引いて立ち上がり、最大限に礼儀正しく頭を下げる。

 

「……これは……っ、地母神様……!」

 

 大神官の動きに呼応するように、国王や大臣たちも一斉に姿勢を正し、深く頭を垂れた。

 

 這いつくばったりはしないものの、その態度には明確な敬意が込められている。

 

 そりゃそうだよな。この国では地母神は主神ではないけど、それでも多くの人が信仰している神様だ。

 

 俺? 俺もめちゃくちゃ敬意を持ってるぞ。

 

 だってこの女神様、俺を地上に繋ぎ止めてくれてるんだから。

 

 高度を上げすぎて宇宙に行きかけたとき、「あ、これ戻れなくなるやつだ」って直感した。

 

 それ以来、俺は重力に対して深い感謝と畏怖を抱いている。

 

 つまり、この女神様=重力の女神様=俺にとって最高にありがたい存在!

 

「で、女神様……ですよね?」

 

 俺が恐る恐る尋ねると、声の主はクスリと笑った。

 

『ええ、そうよ。私は地母神。この世界を支え、大地を抱く神』

 

 うん、言葉はともかく気配は神々しいな。さすが神様。

 

『あなたが魔法の国……今は魔法大国か。そこへ向かうのを止めるわ』

 

「え?」

 

 俺がぽかんとする。

 

 え、ちょっと待って。行くなって?

 

 国王が慎重に言葉を選びながら口を開いた。

 

「……恐れながら、女神様。その理由をお聞かせいただけますか?」

 

 すると、女神様はやや申し訳なさそうに答えた。

 

『あなたの事情は理解しているわ。でも、浮遊島が墜落するのを座視するわけにはいかないの』

 

 ……墜落?

 

 俺は眉をひそめる。

 

 魔法大陸って、浮遊島にあるんじゃなかったっけ? まさか、落ちるってことか?

 

「ちょっ……待って。それってヤバくない?」

 

『ええ、とてもヤバいわね』

 

 あっさり肯定された。

 

 いや、そんな軽いノリで言うことじゃないでしょ!?

 

「でも、それと俺が行くのを止めるのって、どう関係あるんだ?」

 

『あなたが行くと、魔法の国が魔法で弱めている重力が元に戻って墜落するの。地上へ、勢いよく』

 

「ええ……?」

 

 なんで!?

 

 俺、何かしたっけ!?

 

 困惑していると、女神様はゆったりとした口調で言った。

 

『あなた、以前はドラゴンだったけど、今は神竜(見習い)なのよ』

 

 室内に、静かな衝撃が走った。

 

 大神官は「やはり……」という表情で深く頷いている。

 

 国王や大臣たちは「いくら女神様の言葉でも……」と半信半疑な様子。

 

 生意気勇者は、完全に理解が追いついていない顔をしていた。

 

「神竜……見習い……?」

 

 俺は思わず呟く。

 

『そう。あなたはもう普通の竜ではないわ。今も重力を司っている。普段の程度とは違って四角四面すぎる気はするけれど

 

 ……は?

 

「俺、重力なんて扱ったことないけど?」

 

『無意識に使っているのよ。あなたの影響で、この世界の重力は限りなく“あなたの経験した世界”と同じように安定しているわ』

 

「……………………は?」

 

 待って待って待って!?

 

 何それ、初耳なんだけど!?

 

『……見習いだから、こんなものかしらね』

 

 女神様はどこか納得したように呟いた。

 

 俺は納得してないけど!?

 

 っていうか、無意識で重力を安定させてるって、俺そんなすごいことしてたの!?

 

 思わず頭を抱えたくなったが、女神様はさらりと話を進める。

 

『さて、最後にもうひとつ』

 

 彼女の声が、やや愉快そうに響いた。

 

『その子から力の一部を預かっているから、移籍でいいわね?』

 

「えっ?」

 

 いきなり話しかけられた生意気勇者が混乱する。

 

 俺が渡した……そういえば俺の力もちょっと入っている剣が、女神様ほどではないけど強い存在感を放っている。

 

「……ちょっと待て!!!」

 

 生意気勇者が、叫んだ。

 

 顔面蒼白。目を見開き、震える指を彷徨わせる。

 

「な、ななな、何それ!? 私、神官様が誇れる娘になるために、女神様の勇者を目指して頑張ってきたのに!!」

 

 多分混乱しすぎて何言ってるのか分かってない。

 

 俺も何が何だか分かってないし。

 

 いや、正直、今この場にいる全員が、何がなんだか分かってない顔をしていた。

 

 神々しい気配が、ふっと消える。

 

 静寂が訪れた。

 

 ……女神様は去った。

 

「……………………」

 

 数秒の沈黙。

 

 そして――

 

「えっと、爵位返せばいいのか?」

 

「返さなくていい。それより重力という力は使えるのだろうか」

 

 国王が怖いほど真剣な顔で聞いてくるけど、使い方なんて見当もつかねーよ!

 

 というか、女神様が登場したけどピンチの解決策が無くなっただけかよ!!!

 

「困りましたな……」

 

 はっはっは、と空元気で笑う大神官の声が、もとに戻った部屋に響いていた。

 

 続く。

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