俺は今、天界にいる。
どうしてこんなことになったのか、詳しく説明しよう。
遡ること数時間前。
『呼び出しに応じないと、もっと面倒なことになるわよ?』
そう言ったのは、女神様(地母神)だった。
正直、俺は神々の呼び出しなんて無視したかった。
でも、この女神様の大神官には恩もあるし、何より彼女のメンツを潰したら、後々面倒なことになりそうだ。
仕方なく、俺は天界まで飛んで来た。
が――。
宇宙、こええええええ!!!
天界は宇宙に近い場所にある。
つまり、俺がもっとも苦手とする「果てしない空間」との距離が、やたら近い。
俺は重力を愛し、大地にしがみつきながら生きていきたい派なのだ。
そんな俺が、今ここにいる。
――ヤバい、借りてきた猫みたいに大人しくなってる。
いや、武力的には俺がビビる相手なんていない。
だけど、精神的に無理!!!
宇宙が怖すぎて、無駄に暴れたりできねえ!!!
そんな俺を囲むように、天界の神々が並んでいる。
雰囲気はまるで裁判。
「お前は神竜(見習い)とはいえ神なのに、地上に直接関わりすぎでは?」
要約するとそんなことを言いながら、神々が俺を睨んでいる。
――いやいや、地上に関わるなって言われてもなぁ!?
――俺、まだ見習いだし!!
そんな中、法をつかさどる神が苦渋の表情で言い放った。
「……この竜は、神々の約定には一切反してはいない」
神々、沈黙。
女神様(地母神)、ドヤ顔。
冥府の神、「私は無関係」という顔。
他の神々、「信じがたいが、法をつかさどる神が言うなら仕方ないのだろう……」という態度。
ひょっとして、たまたま運良く神様たちのルール的に俺の行動がOKだったから、女神様(地母神)が俺にここへ来るよう言ったってこと?
女神様(地母神)以外を騙した気がしてめっちゃ気まずい。
(気にするだけ無駄……)
――まあそりゃそうだ。
本能とも対話ももう慣れた。
不思議と違和感はない。
多分、俺はこのまま長い時間を過ごせば、完全に“神竜”として完成しちゃうんだろう。
――今と何が違うのかは全く分からないけど。
「この子は子供だけど、神々に対する礼儀はしっかりしてるわ。長い目で見てあげましょうよ」
女神様(地母神)が、フランクな口調で神々を誘導し始めた。
冥府の神が深いため息をつき、しぶしぶ賛同する。
「……この竜は、私の権能の極一部である重力を奪ったが、悪意はなかった。そして、その後、私の神殿で真摯に祈った」
――俺、そんなことしたっけ?
――あっ、あれか。
敵国の神殿で「挨拶しとかねーとな」と思って、決死の覚悟で参拝したやつ。
まさか、あれがこんな形で評価されるとは……。
結果として、神々はこう結論を出した。
「この竜のことはしばらく見守る。駄目なことをしたら地母神が責任をとれ」
「えっ」
女神様(地母神)、あわてる。
「ちょ、ちょっと待って!? そんなの聞いてないわよ!!」
「決定だ」
「いやいや、責任とれって言われても――」
「決定だ」
「ちょ、ちょっと待っ――」
「決定だ」
女神様(地母神)、強制的に責任者認定。
俺はそれを眺めながら、内心思っていた。
帰りたい。
宇宙怖い。
天界、不安。
俺、精神的に限界。
そんなこんなで、神々の会議は進んでいたが……
俺はほとんど聞いてなかった。
――というわけで。
俺は天界を後にし、王女様がいる国の王宮へと戻るのだった。
天界を脱出した俺は、地上へと急降下していた。
――地面が恋しい!!!
――宇宙に近い場所に長時間いるとか、正気の沙汰じゃねえ!!
「うおおおおおおお!!!」
地上に向かって一直線!
重力万歳!!!
俺は無意識に帰巣本能に従い、王女様がいる国の王宮を目指して飛んでいた。
その途中――。
「……ん?」
俺の視界に、見慣れないものが映り込んだ。
王宮の隣に、妙に立派な建物が建設されている。
しかも急ピッチで。
あれ、なんか見覚えがあるぞ?
俺が目を凝らして見ると――俺がモデルの神像っぽい像が目立つ場所に飾られている。
「……え?」
――もしかして、俺の神殿か???
動揺しながらも、俺は一気に着陸態勢へ。
が……。
「ヤバッ!」
勢いよく降下しすぎた!
このままだと地面に激突する!!!
ズガアアアアアアアアン!!!
「……ぐっ」
地面ギリギリで減速したものの、バランスを崩して転倒しそうになった――そのとき。
「全く……無茶な降り方をしてっ!」
ドン!
俺の体が、ふわりと宙で受け止められた。
「……は?」
俺を抱きとめたのは、生意気勇者だった。
「ったく……もう少し慎重に着地しなさいよ」
優しい声とともに、俺の背中をぽんぽんと撫でる。
俺のドラゴンの本能が――
(母さまじゃない……でも、姉さま……?)
という謎の感情を抱いた。
とにかく、俺はふにゃっと生意気勇者に甘える形になった。
「……お、おい」
いつもならそろそろ「触るな!」とか言って突き飛ばされるはずなのに、今日は何も言わない。
――おかしいな?
「……無事でよかった」
生意気勇者が、ぼそりと呟いた。
なんか、すごくホッとしたような声だった。
「……まあな」
俺はつい、素直に頷いた。
「……私を置いてどこかへ行ったら……許さないから」
「……お、おう」
え、なんか今日のお前、妙にしおらしくない???
と、そこに――。
「……むぅ」
小さく唸る声が聞こえた。
王女様だった。
彼女は優しく微笑みながらも、なぜか生意気勇者と俺の距離をじっと見つめている。
――あれ?
なんかちょっと……いや、わりと嫉妬してね??
「……帰ってきてくれて嬉しいですわ」
王女様は控えめに俺の手を取った。
その瞬間――生意気勇者が「むっ」と眉をひそめた。
――お?
え、もしかしてこれ、逆パターン???
さっきまで王女様が嫉妬してたのに、今度は生意気勇者が俺と王女様の距離を気にしてる??
「ふふ、さあ、あなたのためのおうちへ行きましょう」
王女様が俺の手を引く。
「お、おい」
生意気勇者も俺の反対の手を握る。
「まだ休んでないでしょ?」
いや、まあ確かに疲れてるけどさ。
左右から手を引かれ、幼い子供みたいに二人に挟まれたまま歩かされる俺。
――え? これってどういう状況??
「ちょっと待って、俺まだ心の準備が……」
「「行きましょう!」」
俺の抗議は完全にスルーされ、二人に手を引かれながら、俺のために建てられた神殿へと向かうのだった。
第一部完!
ここまで読んで下さり本当にありがとうございます!
この話で毎日更新は終了です。
続きは少しずつ公開していきたいと思っています。
ではまた!