王宮は、俺を迎え入れるにあたり、まさに「最大限の礼」を尽くしていた。
馬車から降りた瞬間、目の前に広がるのは豪奢な大理石の回廊。
足元には分厚い絨毯が敷かれ、王宮の装飾は金と宝石で輝いている。
「姫様、お待ちしておりました!」
俺を出迎えたのは、ずらりと並ぶ女官たち。
――おお……なんか、めっちゃ貴族待遇なんですけど!?
銀髪に青い瞳の女官が恭しく頭を下げる。
後ろには数人のメイドらしき女性たちも控えている。
「まずは姫様のお召し物を整えませんと」
あっ、そういえば俺、今ボロ布一枚のほぼ全裸状態だったわ。
さっきまでの戦闘やくしゃみブレスのせいで服は完全にダメになっていた。
それに気づいた女官たちは「まあ……!」と軽く驚いた様子を見せつつも、手際よく豪華なドレスを持ち出してくる。
「姫様には、こちらの装いを……」
「えっ、いや、それドレス?」
「ええ、王族としてお迎えするにふさわしい装いを」
いやいやいや、俺、一応男なんだけど!?
と心の中で叫びつつも、考えてみたら見た目は完全に美少女ドラゴン姫。
しかも、背中に小さな翼までついてるし、どう見てもドレスが似合うタイプだ。
でも、服よりも……
グゥ~~~~~~~~……
「……ん?」
俺のお腹が、無情にも盛大な音を鳴らした。
「……」
「……」
女官たちが一瞬黙る。
「あの……」
と、遠慮がちに俺の目の前に現れたのは、黒髪の少女。
「まずは……お食事を用意しましょう」
透き通るように白い肌、漆黒の髪、そして赤く映える唇。
まるでおとぎ話の白雪姫をそのまま描き出したような姿の少女は、静かに俺を見上げた。
王女様……ってことだろうな。
「さすがにお腹が空いていては、着替えどころではありませんわ」
なるほど! いい判断だ!!
「めっちゃ助かる!!!」
俺は思わず満面の笑みを浮かべた。
王宮の食堂は、予想以上に豪華だった。
装飾された長いテーブルの上には、豪勢な料理がズラリと並んでいる。
香ばしく焼かれた肉、スープに浮かぶぷるぷるした食材、ホカホカのパン。
そして、なぜか骨つき肉が特に目立つ。
「姫様、ご自由にお召し上がりください」
「じゃあ、遠慮なく!!」
俺は即座に肉を掴み、ガブリと齧りついた。
――うまっ!!!
肉のジューシーさが口の中で広がり、自然とほどけるような感触がたまらない。
さらに、口の中に残った骨を噛み砕くと――
「おお、骨にも適度な歯ごたえと美味しさがあってすごい!!!」
テーブルの向こう側に座る王女様が、ハッと目を見開いた。
周囲のメイドや女官も、一斉に硬直する。
「あの……姫様……骨まで召し上がるのですか?」
「うん! なんか、すごく美味しい!」
王女様は、じっと俺を観察してくる。
――あっ、普通は骨食わないのか?
いやでも、噛み砕いたらコリコリして美味しいんだよ!?
――もしかして、これ、ドラゴンの力なのか?
「すごい……」
王女様が、ぽつりと呟いた。
いや、そんなに感心しなくても……。
まあ、そんなことはどうでもいい!
とにかく今は――
「うわ、これも美味しい!」
「このスープ、なんか滋養強壮に良さそう!」
「パンがふわふわ!!」
俺は夢中で食べ続けた。
王女様はそんな俺を、何とも言えない表情で眺めていたが――
最終的に「ふふっ」と微笑むと、静かに口を開いた。
「食事を楽しまれるのは良いことですわ。お腹が満たされましたら、次はお風呂にいたしましょう」
「お風呂……?」
そういえば、まだ一度も入ってない。
異世界初のお風呂か……!
「よし、行く!!!」
俺は即答し、王女様についていった。
次の瞬間、女官やメイドたちが大慌てで準備に動き出したのだった。
王女様に案内され、俺は王宮の奥へと進んでいく。
通路の壁には、黄金の装飾が施され、大理石の床には美しい紋様が彫られている。
豪華なシャンデリアが天井から吊るされ、柔らかい灯りが優雅に揺れていた。
――すげぇ、王宮ってこんなにキラキラしてんのか……。
そんな俺の感想とは裏腹に、女官やメイドたちは、しっかりとした動きで俺の世話を続けている。
「姫様、浴場へ向かいますので、お足元にお気をつけください」
「おぉ、ありがとう!」
女官たちは一糸乱れぬ動きで俺をエスコートし、やがて、大きな扉の前で立ち止まった。
ゴゴゴゴ……!
ゆっくりと開かれる扉の奥から、蒸気がふわりと漏れ出す。
その瞬間、俺の目に飛び込んできたのは――
異世界の超豪華風呂!!!
大理石の柱が立ち並び、壁には美しい彫刻が施されている。
広大な浴場の中央には湖のような巨大な湯船が広がり、湯気が幻想的に漂っていた。
天井はガラスのように透明で、夜空の星々が煌めいて見える。
「……すっげぇ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
まるで神話に出てくる神々の風呂じゃねえか!?
「姫様、ご入浴の準備を整えますね」
メイドの一人が、そっと俺の髪に触れた。
「お背中もお流ししますので、こちらへ」
「あ、うん……」
流れるような手つきで、女官やメイドたちが俺を誘導し、髪をほどいたり、タオルを手渡してくれる。
俺は湯気に包まれながら、ゆっくりと湯船に足を入れた。
ジャボンッ……!
――あっつ!! けど、超気持ちいい!!!
温かいお湯が全身を包み込む。
疲れがじわぁ……っと溶けていくような感覚。
「ふぅ~~~~……」
これ、最高すぎる。
飯はうまいし、風呂は広いし……俺、このままでもいいかも。
俺はふと、自分の手を見る。
白く、すべすべとした細い指。
元のゴツい男の手とはまるで違う。
湯の中で、そっと翼を動かす。
ふわり……。
俺はもう、普通の人間じゃない。
それどころか、見た目は完全に「異世界の姫」だ。
「……普通なら、もっと悩むのかもな」
俺は天井を見上げる。
でも、飯はうまいし、風呂は最高。
しかも、くしゃみするだけで……たぶん都市もぶっ壊せるほどのパワーまで手に入れた。
「ま、いっか」
悩むよりも、この世界を楽しんだ方がいい気がする。
「姫様、髪をお流ししますね」
後ろから、メイドの指が俺の髪に触れる。
丁寧に梳かれ、ゆっくりと温かい湯で洗われていく。
「……すごいな」
近くで見ると、メイドや女官たちは全員美人だ。
すらりとした姿、整った顔立ち、細く白い指――。
でも、まったく欲情しない。
いや、俺、確かに元は男だったよな?
「……ドラゴンって、繁殖期とかあるのかな」
ぼんやりとそんなことを考えながら、俺の意識はだんだんとぼやけていった。
――ああ、風呂って、最高だな……。
続く。