最強ドラゴン姫(♂)、異世界で無双する   作:星灯ゆらり

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ゴブリン解体ショーと天界の闇

 俺は、ゴブリンの死体を前にして腕を組んだ。

 

「……さて、解体すっか」

 

 ゴブリンのリーダーをバラす。血と臓物が溢れ出すが、特に気にしない。

 

 俺の人格は基本的に人間の男だが、血肉を見ることに抵抗がない。

 

 真っ赤な液体が手のひらを伝う。生暖かく、鉄臭い。だが、嫌悪感はない。むしろ「この後、どうやって綺麗にするか」の方が面倒に思えるくらいだ。

 

 ――やっぱ俺、感性がドラゴンに近付いてるのかも。

 

 そんな俺の手元を、落ち着いた目で観察している存在がいた。

 

「やはり……」

 

 声の主は、俺の隣で記録を取っていた下位神(捜査担当)だ。彼女は慎重にゴブリンの血や組織を採取しながら、冷静に呟く。

 

「証拠は揃いました。あなたの髪か鱗を材料にした、飲んだ対象を超強化するポーションが存在するのは、ほぼ確実です」

 

「それ、ぜってー盗みの神以外も関わってるじゃん! どうなってんだよ天界!?」

 

 ぶっちゃけ、最初から盗みの神だけが黒幕って話には無理があったんだよな。俺の体から作れる「最強ドーピングポーション」が流通してる時点で、こんなの天界の誰かが関与してるに決まってる。

 

 王女様の国の王妃(魔女としては超絶エリート)でも無理なんだから人間も魔王軍もたぶん悪魔も無理だ。

 

「……まぁ、予想通りではありますね」

 

 下位神(捜査担当)は淡々とした口調で答えた。動揺も怒りもない。こいつは最初から、こうなると分かってたんだろう。

 

 俺がため息をつくと、彼女は俺だけに聞こえるような小さな声で囁いた。

 

「地母神と冥府の神は、最も善良な神として知られています」

 

 俺は眉をひそめる。

 

「でも裁定の神はまともそうに見えたぞ?」

 

 そう言いかけた時、俺の視線の先に、一人の騎士が立っていた。

 

 ――ん?

 

 鎧に身を包み、まっすぐな姿勢で立つ姫騎士。その顔立ちは、よく見れば見るほど――裁定の神にそっくりだった。

 

「……不倫とか隠し子とか、そんな感じ?」

 

 俺が半ば冗談のつもりで呟くと、下位神(捜査担当)は無言で視線を逸らす。

 

 ――おいおいマジかよ。

 

 とはいえ、そんな話を詮索するのは今は後回しだ。問題は、その姫騎士が俺を見て怯えていることだった。

 

 俺が魔王軍と戦ってるのは知ってるはずだ。それでも彼女は俺に対して完全に警戒モード。なんでかっていうと――

 

「……あー、そういうことか」

 

 俺は小さく苦笑した。

 

 確かに、俺が助けたのは「王女様がいる国」や「地母神との関係が強い国」ばかりだ。別に狙ってやったわけじゃない。ただ、王女様にはずっと世話になってるし、生意気勇者も元々地母神の勇者だったから、そっちの国を助けることになっただけ。

 

 結果として、「神竜は人間に対して中立的な存在であり、たまたま魔王軍と敵対しているだけ」って思われてるわけだ。実際のところは、「人間に対してちょっとだけ友好的な存在」ってだけなんだけどな。

 

 それに加えて、俺の性癖も原因の一つかもしれない。

 

 俺は基本的に女性に対して性欲を抱くタイプだけど、好意とは無関係に「ソシャゲに登場していそうな色気たっぷりの魔女」にはグッとくる。結果、王妃(魔女であり今は国王に惚れ込んでる)には普通に好意的だし、魔女全体に対して悪意や偏見は持っていない。

 

 でもこの世界じゃ、魔女ってのは差別される存在だ。悪事を働いたり、魔王軍に協力してる連中もいるせいで、「魔女を庇護しているようにも見える俺」が「悪いドラゴン」じゃないかって疑われてる。

 

 ――なるほどな。だから姫騎士は俺を警戒してるのか。

 

 ――でもさ。

 

 ――俺、そんな深く考えて行動してねぇけど?

 

 そう思ってたら、下位神(捜査担当)が「天界に証拠品を運びます」と言い残し、さっさと去っていった。

 

「……あ、行っちまったか」

 

 なんだかんだで真面目なやつだし、仕事に忠実なのは嫌いじゃない。だから、俺も普段の軽い口調のままだが、ちゃんと見送った。

 

 

 そうして、俺は改めて近くにある城塞都市へと目を向けた。

 

「……神殿に挨拶しないとな」

 

 何だかんだで世話になってる神々もいるし無視するのも気が引ける。

 

 すると、案内役としてついてきた姫騎士が、ぎこちない動きで俺の横に並んだ。

 

「わ、私が案内します……!」

 

 ――いや、そんなに緊張しなくてもいいんだが。

 

 そんなことを考えながら、俺は姫騎士と共に城塞都市へと歩き出した。

 

 

 城塞都市の門をくぐると、すぐに活気のある街並みが広がった。石畳の道には商人たちの掛け声が響き、衛兵たちが巡回し、行き交う人々が忙しなく足を運んでいる。

 

 そんな都市の中で、俺の隣の姫騎士はガッチガチに緊張していた。

 

 ――そんなに気を張らなくてもよくないか?

 

「……まずは市長のもとへご案内します」

 

「えぇー……このままの格好で行くの?」

 

 俺は自分の腕を見下ろした。ゴブリンの血がベットリでドレスも汚れている。

 

 人間の家に出向くのも躊躇するひでーありさまだし、これで神殿に向かうなんて祀られている神に喧嘩を売るようなものだ。

 

「わ、私のタオルを……!」

 

「いいって。えーっと、たぶん王宮サイズの風呂は無理だろうから……よしいた!」

 

 俺は人混みの向こうにある、小さな薬屋を指さした。軒先には乾燥させたハーブや薬草が吊るされ、店の奥には年季の入った棚が並んでいる。

 

 姫騎士がキョトンとした顔で俺を見る。

 

「……え?」

 

「ちょっと寄り道するぞ」

 

 そう言って、俺は迷わず店の扉を押し開けた。

 

 店の中には、薬草の香りとともに、城塞都市では名の知れた薬師――いや、魔女が待っていた。

 

 彼女はローブのフードを深く被り、静かに俺を見つめている。

 

「……いらっしゃいませ」

 

「おう、悪いな、ちょっと頼みがある」

 

 俺は血に染まった腕を見せ、ズバッと言い放った。

 

「大火力の魔法で血ごと焼いてくれ」

 

 店内の空気が凍りついた。

 

「……え?」

 

 魔女が困惑した声を漏らす。姫騎士は俺と魔女を交互に見て、さらに混乱した顔になった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? な、何を言って――」

 

「あれって風呂に入るより早いしな」

 

 俺が当然のように言うと、魔女は冷や汗を流しながら首を振った。

 

「わ、私はただの薬師です……! そんな大魔法なんて使えません……」

 

 ――はい、ウソ確定。

 

 俺は肩をすくめて、適当に薬の瓶をいじりながら言った。

 

「分かってるから、嘘つかなくていいって」

 

 魔女の表情が一瞬で凍りつく。

 

「……!」

 

 ――そう、この魔女、実は魔王軍と取り引きしてる奴だった。

 

 王女様の国の王妃(魔女としては超絶エリート)から、魔女の見分け方や符号を教わっていた俺には、こいつが魔女であることなんてバレバレだったのだ。

 

 まあ、魔王軍との取り引きについて知ったのは王女様の国に戻ってからなんだけどな。

 

「……くっ」

 

 魔女は唇を噛み、僅かに視線を動かした。

 

 店の奥で何かを合図するような動き。

 

 次の瞬間――。

 

 ゴオオオオオッ!!

 

 四方から、炎の魔法が俺を包むように襲いかかってきた!!

 

 店の奥から現れたのは、魔女の弟子や同業の魔女たち――つまり、この都市に潜伏していた魔女勢力、総出!!

 

 魔王軍からの超高額懸賞金がかけられている俺を、まとめて焼き払うつもりらしい!!

 

「神竜様!!?」

 

 姫騎士が叫ぶ。

 

 だが、俺は――

 

「ふーん……」

 

 大口を開けて、炎を思いっきり吸い込んだ。

 

 ゴウウウウウウ……!

 

 魔法の炎が俺の口の中に流れ込み、肺の奥まで満たされる。

 

 ――あっ、これ、肺まで綺麗になる感じがいいなー。

 

 王妃(魔女としては超絶エリート)や王妃付きの侍女たち(魔女としてはエリート)と比べると温いけどこれも悪くない。

 

 炎の勢いが収まると、魔女たちは愕然とした表情で俺を見つめていた。

 

「えっ……?」

 

「……無傷?」

 

「うん、なんかサウナみたいで気持ちよかったわ」

 

 そう言いながら、俺は自分の体を確認する。

 

 ゴブリンの返り血や汚れ、そもそもドレスの方が限界だったのか、すべてが綺麗さっぱり焼け落ちていた。

 

 髪も肌もピッカピカ。最高の健康状態である。

 

「……で、請求は王妃に頼むぜ」

 

 そう言いながら、俺は店の壁に飾られていた衣装を適当に引っ掴み、その場で着込む。

 

「あ、あのっ」

 

 魔女たちが慌てるが、俺は気にせず店を出ようとした。

 

「ま、悪いことは言わねぇ。魔王軍と繋がってるなら、今のうちに手を切っとけよ」

 

 俺が軽く忠告すると、魔女たちは呆然とした顔で俺を見つめていた。

 

 その後、彼女たちは完全に心が折れたのか、魔王軍との関係を絶ち、俺が住み着いている王国への移住を決めることになるのだった。

 

 

 その後、城塞都市の支配者――つまり市長から招待が届いた。

 

「後で行く」

 

 とだけ言って、俺は放置した。

 

 ――だって今は、気になるものがあるからな。

 

「……あ、また神殿発見」

 

 都市を歩くたびに、ちっちゃい神殿が次々と目に入る。

 

 別に祀られてるのが下位の神でも気にしない。俺はそれぞれの神に敬意を示すために、片っ端から神殿に向かう。

 

 力は俺が上でもあっちが先輩だ。挨拶くらいはしないとな。

 

「次はこっちだな」

 

「……えっ、ま、またですか!?」

 

 この街で育った姫騎士は案内役としてぴったりだ。

 

 俺に振り回され続けて疲れているみたいだけど、もうちょっと頑張ってもらおう。

 

「お、あの神殿もちっちゃいけどいい感じじゃん」

 

「ちょ、ちょっと待ってください、せめて一息……!」

 

「ほら、急ぐぞ!」

 

「ひゃああああ!!?」

 

 姫騎士って、情けない顔がそそると思った。

 

 続く。

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