最強ドラゴン姫(♂)、異世界で無双する   作:星灯ゆらり

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天界の陰謀、動き出す

 俺は自分の神殿で、いつも通りゴロゴロしていた。

 王女様の国から戻ってきてしばらく経つが、ここ最近は慌ただしかったせいで、ようやく一息つける感じだ。

 とはいえ、世の中はまだ落ち着いていない。

 

 「神剣探索」のために姫騎士と元勇者(俺が魔界から救い出した一人)の特殊部隊じみた行動は続いているし、魔王軍も簡単には滅びやしない。

 それに加えて、裁定の神の隠し子疑惑なんて爆弾が発生しているらしく、天界も地上も妙にザワついているようだ。

 

 俺自身は最初「へぇ、そうなんだ」くらいの感想だった。

 でも、よく考えたらヤバい話だよな、これ。

 

 裁定の神が「私の子です」と認めたら、天界の勢力図が変わる。

 それを恐れて、「姫騎士を始末しろ」って言い出す神が出てもおかしくない。

 逆に「利用する価値がある」と考えた神々が、強引に奪い去ろうとする可能性もある。

 

 「神剣探索? そんなのやってる場合じゃねぇ!」

 って状況になるのが、割とマジで見えてきた。

 

 ――いやいや、勘弁してくれよ。俺の平穏、どこ行った?

 

 神々の思惑なんかどうでもいいだろ――と本音では思うが、天界と地上の関係がこじれると、結局俺のところにまで問題が降りかかる。

 例えば「神竜(見習い)よ、地上への過度な干渉は許されない」とかいうやつだ。

 実際に裁定の神からガチ警告を受けたばかりで、俺もさすがに気まずい。

 

 そんなわけで、俺は神殿の大広間の床でごろりと寝そべりながら、適当に備え付けのパイプを吹かしていた。

 うまい空気を吸い、視線は天井の装飾へ。

 ――ああ、風呂に入りたい。ついでに腹も減ってきた。

 

 ちょうどそんなタイミングで、生意気勇者がバタバタと慌ただしい足音を立てながらやってきた。

 

「神竜!」

 

 息を切らしている様子を見て、俺は半身だけ起こす。

 

「……なんだよ、こんな朝っぱらから」

 

「朝っぱらってもう昼近いわよ! それはともかく、お客! 急いで!!」

 

 俺は生意気勇者に促されるまま、神殿の応接室へ移動した。

 そこには、地母神が所作だけは上品に腰掛け、こっちを待っていた。

 

「おー、地母神か。どうした?」

 

「ちょっとね、天界があわただしいのよ。例の“裁定の神の隠し子疑惑”で」

 

 地母神が深いため息をつく。

 相変わらず高位の神らしからぬ軽い口調だ。

 

「ほかの神々が、姫騎士をどう扱うかで意見が割れてるの。まあまともな神は『保護すべきだ』と言うし、性格の悪い連中は『利用価値があるから奪うべし』なんて言ってるみたい」

 

 地母神が肩を落とす。

 

「……実際に、もう動き始めてるのよ。魔王軍に手を貸してる神々が、すでに“刺客”を仕込んでるわ」

 

「マジか」

 

「次に姫騎士が魔王軍と戦う時、“神の加護”を受けた異端の勇者が送り込まれる可能性が高い」

 

「……待て。異端の勇者ってなんだよ」

 

「神の力を受けながらも、その力を捻じ曲げて使う者たちよ」

 

 俺は思わず口笛を吹いた。

 ――神剣探索どころか、姫騎士が命を狙われる確率のほうが上がってねぇか?

 

 俺は少しムカ、イカしてきた。

 姫騎士はそんなことのために存在してるんじゃねぇだろ。

 

 けど、そういう神がいるからこそ「やべーポーション」なんてものが作られてるわけだ。

 俺の髪や鱗も、ほんのちょっとですげー効果があるらしいしな。

 

「盗みの神やら、その仲間の神が暗躍してるって話は本当か?」

 

「本当よ。私のところにもちょくちょく情報が届いてる」

 

 地母神は苦い顔をした。

 彼女自身はこれでも最も善良な神に分類されるらしく、こういう裏取引には嫌悪感しかないようだ。

 

「姫騎士が本当に裁定の神の子ならば、天界の一部が激しく動くと思うわ。神同士の利害も絡むし……今後どうなるか分からないの」

 

「ふーん」

 

 俺はあまりピンとこない。

 もともと転生者としての感覚が強くて、神々の派閥争いなんぞ正直どうでもいい。

 しかし、そこに姫騎士が巻き込まれるんじゃ、放っておくわけにもいかない。

 

 生意気勇者が口を挟んできた。

 

「裁定の神ご本人はどうなんです? もし隠し子だと認めたら、天界での立場が危うくなるとか?」

 

「さあ……彼女がどう動くか、まだ分からないわね」

 

 裁定の神は、神々の中でも絶対の中立を保つ立場。

 もし「私の子です」と認めれば、それだけで天界のバランスが崩れる。

 それでも、彼女は姫騎士を無視し続けることができるのか……?

 

「とにかく私は、姫騎士を守ってやってほしいと思ってる。神竜もさっき言った通り、直接の力押しは控えたほうがいいんでしょう?」

 

「うん、次にブレス撃つとさすがになー」

 

 俺は苦笑する。

 いや、撃てなくはないけど、また裁定の神に怒られるのはうんざりだ。

 

 とはいえ、姫騎士の安全は確保してやりたいし、王女様や王妃も姫騎士には同情的らしい。

 そのあたりの折り合いをどうつけるか、悩むところだ。

 

「で、姫騎士本人はこの話、知ってるのか?」

 

「いえ、まだ知らないはずです」

 

 生意気勇者が顔をしかめる。口調は地母神の前なのでいつもより丁寧だ。

 

「王女様や大臣たちは、うすうす勘づいてはいますが、姫騎士本人に確証がない状態で告げるのも酷かと思って……。それに、今は神剣探索で忙しく動いていますから」

 

「忙しく? また新しい拠点に突入するのか?」

 

「そうみたいです。昨日も侍女……魔法少女たちが撮影していたでしょう? かなり危険地帯へ進む予定らしいですよ」

 

 俺は昨日の映像を思い出す。

 姫騎士と元勇者が、まるで現代の特殊部隊のように動き、魔王軍の仮設拠点を静かに制圧した場面だ。

 あれは正直、かなり衝撃的だった。

 

「姫騎士って見た目はおしとやかっぽいのに、動きがキレキレなんだよな……」

 

「それに気づいた“性格悪い神”たちは、彼女を『優秀な戦力』あるいは『母体』としか見てないでしょうね」

 

 生意気勇者が憮然とした表情で言う。

 

「だから地母神が警戒してるわけか。あいつらが姫騎士を奪おうとするなら、俺たちが全力で守るしかないってことか」

 

「その俺たちに私が加われないのが申し訳ないわ」

 

 珍しく落ち込んだ顔をした地母神が、すっと立ち上がった。

 

「私もいろいろと動いてみるから、何かあれば連絡ちょうだい。できる範囲で手助けはするわ」

 

「ああ、助かる」

 

 俺は軽く手を振って、地母神を見送る。

 部屋には、俺と生意気勇者だけが残った。

 

 しばしの沈黙。

 

「……どうしよう?」

 

「どうしようって、姫騎士さんを引き戻すわけにもいかないでしょう。神剣探索のために動いてますし、今さら“あなた、裁定の神の子かもよ?”なんて言っても混乱するでしょ」

 

「うーん……じゃあ黙ってるか。本人が知りたがるなら教えるけど、そうでないなら放置でもいいんじゃね?」

 

 ――姫騎士を引き戻すか?

 そう考えたが、すぐに却下した。

 

 今の姫騎士は、王女様の国のため、城塞都市のため、そして自分の信念のために戦っている。

 俺の一存で引き戻すのは違う。

 だけど……天界のクソどもが彼女を狙ってるなら、話は別だ。

 

「……よし、俺流の方法で守るか」

 

「具体的には?」

 

「適当に吹っ飛ばす」

 

「だから地上への過度な干渉は――!」

 

「冗談だよ。でも、ガチでやばくなったら……考える」

 

 俺の投げやりな提案に、生意気勇者はため息をつく。

 

「もう少し考えてよ。天界の連中が本気で動いたら、彼女を狙うなんて造作もないのよ。あなたが全力を出せないままなら、いよいよやりたい放題でしょう」

 

「……それもそうだな」

 

 確かに、俺が直接ブレスで吹き飛ばすのを避けている以上、天界の神々が本腰を入れたら姫騎士を連れ去るのは難しくないかもしれない。

 しかし、かと言って俺が再びルール無視の攻撃をすれば、裁定の神からの処罰が本当に下るだろう。

 

「――めんどくせえ……」

 

 俺はあぐらをかいて腕を組む。

 でも、ほっといたら姫騎士は確実に狙われる。

 俺が直接手を出せない以上、別の手を考えなきゃならねぇ。

 

「……俺が今できるのは、仲間を頼ることだな」

 

「つまり?」

 

「王女様と王妃に相談しよう。あの二人なら、俺よりうまい手を考える」

 

 生意気勇者がニヤリと笑う。

 

「神竜、珍しく真面目じゃない」

 

「珍しく? 俺はいつも真面目だろ」

 

「はいはい」

 

 生意気勇者が頷いた。

 すると、不意に神殿の外から、子供たちの笑い声が聞こえてきた。

 

「わははは! おいしい!」

「パーン!」

 

 どうやら、昨日の菓子パンの影響で、子供たちがまた盛り上がっているらしい。

 耳を澄ませば、地母神が去っていった気配の後に、新たな誰かが食材を運んできたような物音がする。

 

「ほんとに元気だよなぁ、あいつら……」

 

 俺は思わず苦笑する。

 

「ええ。神剣探索も重要だけど、個人的には子供たちの日常のほうがよほど大事に思えるわ」

 

「そうだな」

 

 地母神も言ってたが、こうやって子供たちが楽しく暮らせる世界であればいいと思う。

 しかし、姫騎士の“隠し子疑惑”は、そうした日常を壊しかねない爆弾でもある。

 

 裁定の神ですら“隠し子”がいるんだ。

 他の神ならもっといるだろ。

 

 そのたびにこれだろ? 絶対に酷いことになる。

 

「ま、俺流のやり方で迎え撃つさ」

 俺はそう呟いて椅子を立ち、神殿の外へと足を運んだ。

 

 ――神々が本気で動くなら、こっちも本気で遊んでやるぜ。

 

 子供たちの弾む声を聴きながら、風呂と飯、それに“次に起こるだろう面倒ごと”をどう乗り切るか、頭の片隅で考えている。

 姫騎士が裁定の神の娘だろうと何だろうと、守るなら守るで割と覚悟はできているんだ。

 

 でも――できれば、平和的に解決したいもんだよなぁ。

 

 俺は青空を見上げ、思わず大きく伸びをした。

 すると、遠くの空に地母神の気配がチラリと残っているのを感じる。

 彼女はもう天界に戻ったのか、あるいは別のところで何かしているのか。

 

「姫騎士は知らずに頑張ってるし、裁定の神は動揺してるし、地母神は助けようとしてるし……」

 

 最強ドラゴン(見習い神竜)として、俺にできることは何だろう。

 ルールを破らずにどこまで姫騎士を守りきれるか。

 そこが、しばらくの課題になりそうだ。

 

 ――ま、どっちにしろ、メンドイな。

 

 俺はそんなことを考えながら、子供たちの笑い声がこだまする神殿の庭へと歩を進めた。

 これ以上、神々の陰謀に好き放題されるのはごめんだ。

 姫騎士は大切な仲間だし、さすがに放っておくわけにもいかない。

 

 どうせ神々が仕掛けてくるなら――俺流の方法で迎え撃つさ。

 そう思いつつ、次に起こるであろうゴタゴタを想像して、思わず苦笑が漏れた。

 

 ――裁定の神、お前がどう出るのか見せてもらうぜ。

 

 そう心の中で呟きながら、俺は子供たちの「パーン!」という元気な合いの手に混ざるように、小さく手を振って挨拶した。

 

 変わり者の神竜(見習い)だけど、俺だってたまには平穏な日々を望んでる。

 ……それでも、今の俺たちには、まだまだ波乱が待っているんだろう。

 

 次にどんな事件が起きるのか。

 少なくとも、そのときは――

 

 姫騎士と、王女様の国と、俺の仲間たちを、守ってやりたい。

 

 そう素直に思える程度には、俺はこの異世界で楽しく暮らしてるってわけだ。

 

 続く。

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