ふかふかのベッド最高!!!
俺は豪華なシーツに包まれながら、思わず心の中で叫んだ。
昨晩は風呂で癒やされ、ぐっすり眠れたおかげで、朝の目覚めは最高に気分がいい。
「おはようございます、姫様」
女官たちがそろって頭を下げ、優雅にカーテンを開ける。
窓の向こうには、朝日を浴びて輝く王宮の庭園。鳥のさえずりまで聞こえてくる。
――うん、俺、これもう王族でよくない?
朝食は、広々としたダイニングで提供された。
焼きたてのパン、芳醇なスープ、柔らかい卵料理、そして豪華な肉料理まで並んでいる。
「おぉ~! これまた豪勢だな!」
「姫様、ご満足いただければ幸いです」
メイドたちが微笑みながら給仕する。
俺は一瞬、昨日の王女様の顔を思い出した。
黒髪白肌の清楚な美少女。食事を用意させてくれたあの時の優しさが印象に残っている。
――昨日世話になったし、これからお礼言っとくか。
そんなことを思いながら、目の前の肉をひと口。
「……うんまっ!!!」
肉汁が口の中でじゅわっと広がる。
カリッと焼かれた表面に、じっくり煮込まれた濃厚なソースが絡み合う。
うまい! これはうまい!!
「くぅ~~!! この国の飯、最高だな!!」
メイドたちがクスクス笑いながら、次々と料理を運んでくる。
結局俺は、朝から腹いっぱい食べ尽くした。
食事を終えると、女官たちが俺を丁寧に案内する。
「姫様、国王陛下が謁見の間でお待ちです」
「おっ、なんか正式な感じだな」
通されたのは、広々とした謁見の間。
天井が高く、豪華な装飾が施された王座が奥に鎮座している。
そこには、昨日の王女様の父であろう国王が、威厳ある姿で座していた。
左右には貴族や重臣たちが控え、警護の騎士たちが隙間なく並んでいる。
――いや、なんか警備厳重じゃね!?
俺が入ると、すぐに国王がゆっくりと口を開いた。
「竜族の姫よ。事情は聞いている。我が国で起きた犯罪に巻き込まれたこと、まずは謝罪しよう」
おっと、いきなり謝罪とは。
この王様、なかなか話が分かる人じゃないか?
「いや、別に俺は気にしてないぜ?」
食事は美味かったし、風呂も最高だったし。
だが、国王は俺の言葉に軽く頷きつつも、すぐに本題へと入った。
「そして、君にお願いしたいことが――」
「フハハハハッ!!!」
突然、空間が歪み、不吉な気配が満ちる。
――!!?
王宮の巨大な扉がドォン!!と勢いよく開き、
そこに立っていたのは……
ツノとコウモリの翼を持つ、明らかにヤバそうな存在だった。
黒いマントを翻し、鋭い瞳で周囲を睥睨するその存在。
空気がピリピリと張り詰め、王宮の重臣たちが一斉に青ざめる。
「これは……魔王の使者!?」
誰かが震える声で叫んだ。
「この王国の者どもよ、聞け!!」
悪魔じみた男は腕を広げ、高らかに宣言する。
「魔王様よりの勅命だ。貴様らはただちに降伏し、王女の身柄を差し出せ!」
――は?
俺は思わず目を瞬かせた。
「いや、交渉とかしないの?」
しかし、悪魔っぽいのはニヤリと笑い、続けた。
「交渉など無意味だ。我らの力の前に、貴様らの軍勢など塵にも等しい」
――あー、ダメなやつだ、これ。
完全に「自分が勝者」と決めつけてるタイプ。
こういうやつは、大抵「予想外の一撃」に弱い。
ちらりと横を見ると、王女様が立っていた。
彼女の顔には、恐怖を押し殺したような表情が浮かんでいる。
唇を噛み、拳を握りしめていた。
――俺、昨日メシおごってもらったんだよな。
俺は静かに立ち上がる。
「悪いけど……その要求、却下で」
バキィッ!!!!
俺の拳が悪魔っぽいのの顔面にめり込んだ。
「ぶごああああああ!!!!」
悪魔の体が壁をぶち破りながら吹っ飛んでいく。
王宮中が静まり返った。
「……ん?」
俺は首をかしげる。
「なんか、思ったより軽かったな」
無造作に拳を振るっただけだったのに、悪魔っぽいのは無様に吹き飛んでいった。
――あれ、こいつ、もしかしてそんなに強くない?
そう考えながら、俺はゆっくりと拳を握り直した。
悪魔っぽいのは、瓦礫の中からゆっくりと起き上がる。
「……ほう、やるな」
その目には、怒りと驚きが入り混じっていた。
「だが、無駄だ。我らは物理攻撃では死なぬ!!」
――ほぉ?
俺はゆっくりと拳を握り直した。
「へぇ……なら、本気出せるな」
バギッ!!
次の瞬間、悪魔っぽいのの腹に俺の蹴りがめり込んだ。
「ぐぼぉ!!?」
吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられ、悪魔の体が歪んでいく。
ガゴォン!!
そのまま地面に落下し、床の大理石がひび割れた。
俺はポンポンと手を払う。
「ほら、反撃しろよ」
悪魔っぽいのは歯を食いしばる。
「貴様……!!」
しかし、動こうとした瞬間――
バギィッ!!
今度は俺の爪が振り抜かれ、悪魔の体を深々と引き裂いた。
「ぎゃあああああ!!?」
悪魔っぽいのの体がビクンと跳ねる。
「ん? 物理効かないんじゃなかったの?」
俺が首をかしげると、悪魔っぽいのは顔をひきつらせた。
「ば、馬鹿な……こんな攻撃、効くはずが……!!」
俺はさらに拳を握る。
「効かないなら、もっとやるか」
バゴォン!!
俺の拳が悪魔の顔面に直撃。
「ぶへっ!!」
ドガァン!! バキィッ!!
殴る、蹴る、引っかく!
悪魔っぽいのは、なすすべもなく俺の猛攻を受け続ける。
「うわぁ……」
国王、王女、騎士団長レオナルド、貴族たちが呆然と見守る中、悪魔っぽいのは少しずつ変形していった。
俺はしばらくボコボコにしたあと、ふと手を止める。
「なあ、悪霊退散みたいなやり方、誰か知らない?」
宗教関係者らしき人間が数人、後方で縮こまっていた。
「えっ、えっと……」
どうやら考えている時間はなさそうだ。
「ないなら……くしゃみで――」
「待てぇぇぇぇぇ!!!!!」
バン!!!
騎士団長レオナルドが勢いよく国王に駆け寄る。
「陛下!! くしゃみは!! くしゃみだけはまずいです!!!」
国王の顔がサッ……と青ざめる。
「あの……くしゃみとは……?」
王女様が首をかしげたが、レオナルドは必死に説明した。
「昨晩、姫様がくしゃみをしただけで建物が吹き飛びました!!」
王女様の目が丸くなる。
「……えっ?」
国王はすぐに決断した。
「よし、総力を挙げて悪魔を消滅させろ!!!」
押っ取り刀で気合いの入った宗教関係者たちがやって来て、祈りを捧げながら悪魔っぽいのに聖水を振りかける。
ジュウウウウウウウ……
「ぎゃあああ!!!」
悪魔っぽいのが悶絶する。
おっ、ダメージ入った。
「もっとやれ!!!」
国王が叫ぶ。
「だが、祈りの力だけでは……!」
「ならば、これを使う!!!」
国王が宝物庫の奥深くから運んで来た、ゴゴゴ……と光る聖剣を構えた。
「くらえ!! 我が国の誇り!!!」
ザシュゥゥゥ!!!
悪魔っぽいのの体が、聖なる剣によって切り裂かれる。
「ぎゃあああああ!!??」
さっきよりでかい悲鳴が響いた。
おお、国王やるじゃん。
でもこいつまだ死にそうにないんだよな……。
「……くしゃみ、しようか?」
「やめてくださいぃぃぃぃ!!!!」
宗教関係者、全力で祈る。
国王、渾身の力で剣を振るう。
騎士団長レオナルド、悪魔の足を引きずり倒す。
必死すぎて、なんかもうギャグにしか見えない。
「や、やめろぉぉぉ!!??」
悪魔っぽいのがついに絶望の表情を浮かべる。
そして――
ボシュゥゥゥ……!!!
消滅した。
「……終わったな」
俺がそう呟くと、王女様が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!!」
満面の笑顔で俺の手を取る王女様。
「あ、あぁ、どういたしまして」
俺が苦笑していると――
バタンッ!!
国王と宗教関係者が担架に乗せられて運ばれていった。
全力で戦いすぎて、完全に消耗しきっている。
「……人間ってすげぇな」
俺はそんなことを思いながら、国王が運ばれていくのを見送ったのだった。
続く。