最強ドラゴン姫(♂)、異世界で無双する   作:星灯ゆらり

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竜姫、肉とジュースのために飛び立つ

 俺は王宮の門の前に立っていた。

 

 片手には、巨大ゴーレムの片腕を持ち上げながら。

 

「……姫様、それは?」

 

 門番の騎士が、目を丸くして俺を見つめる。

 

「ん? さっき倒したやつの腕だよ。王女様にプレゼントしようと思って」

 

 門番は一瞬、何かを言おうとしたが、深く息を吐いた。

 

「……姫様は相変わらず規格外ですね」

 

 そんな会話をしながら、俺はそのまま王宮の庭園へと向かった。

 

 

 庭園の一角に、どんと置かれるゴーレムの片腕。

 

「よし、これでよし!」

 

 俺は満足げに頷いた。

 

 そこへ、王女様が現れる。

 

「姫様、これは……?」

 

「この前世話になったし、これからも世話になるからお礼! あと、マントくれた騎士にもなんかあげてね!」

 

 俺の言葉に、王女様はぱちくりと目を瞬かせる。

 

「姫様……ありがとうございます!」

 

 王女様は笑顔でお辞儀をするが、同時にゴーレムの残骸を見て首を傾げた。

 

「でも、このゴーレムの素材って、どのくらい価値があるのかしら?」

 

「うーん、俺もよくわかんねぇな」

 

 俺は腕を組んで考える。

 

 ――鉄や石炭がたっぷりあるのは分かるけど、それがどれくらいの価値なのかは知らん。

 

「だったら、詳しい人に聞きに行こう!」

 

 俺があっさり言うと、王女様が少し考え――

 

「では、内務大臣をお呼びしましょう」

 

 ――え、そんなガチの人を呼ぶの?

 

 

 呼ばれたのは、王国の経済と資源管理を担当する内務大臣だった。

 

 貴族らしい立派な髭をたくわえたおじさんで、見た目からして有能そう。

 

「詳しく聞かせていただけますか?」

 

 俺と王女様から話を聞いた内務大臣は、真剣な顔でゴーレムの腕を検分し――

 

「……鉄の市場価格が暴落しかねませんな」

 

 と、頭を抱えた。

 

 どうやらこのゴーレムの残骸は、国内の鉄の供給量を一気に変えてしまうレベルらしい。

 

「へぇ~。おっちゃん、頭いーんだな」

 

 俺は深く考えずにそう言うが、内務大臣は別のことで悩み始める。

 

 内務大臣は、ふと俺と王女様を見比べた。

 

(……この量の鉄を献上すれば、貴族なら昇爵はもちろん、王女殿下との結婚すら視野に入る……)

 

 そして、おそるおそる俺を見る。

 

 だが、俺は王女様が「女官に命じて飲み物を持ってこさせる」のを眺め、純粋な感謝の眼差しを向けていた。

 

「姫様、こちらのお飲み物を」

 

「おお! ありがとう!!」

 

 俺は飲み物を受け取ると、ゴクゴクと飲む。

 

 内務大臣はその様子を見て、(考えすぎか……)と胸をなでおろした。

 

 だが――

 

(……いや、やはり王女殿下の距離が近すぎる気がするのだが……?)

 

 そんなことを考えながら、内務大臣は苦悩を深める。

 

 

「……うっま!!!!!」

 

 甘くて、ほんのり酸味があって、口の中に広がる濃厚な風味。

 これは……何かの果物のジュースだな。

 

「姫様、お口に合いましたか?」

 

 王女様が優しく微笑む。

 

「めっちゃうまい! こんな美味しい飲み物があるなんて……!」

 

 俺は感動しながら、もうひと口飲んだ。

 

 ――その時だった。

 

「殿下! 大変です!!!」

 

 ドォンッ!!!

 

 慌てふためいた様子の貴族がが、扉を勢いよく開けて飛び込んできた。

 

「外務大臣?」

 

 王女様も内務大臣も途惑う。

 

 だが――

 

 俺はジュースに夢中で気づいていなかった。

 

 ゴクゴク……。

 

 喉を潤しながら、俺はうっとりと目を閉じる。

 

「はぁ……なんか、すごい……幸せ……」

 

 頬がほんのり赤くなり、とろんとした目になっていく。

 

 俺は無自覚だったが、周囲の人間――特に王女様の目が少しあやしくなっていた。

 

「……姫様?」

 

「ん……? これ、何のジュース?」

 

 俺がふわふわした頭で尋ねると、王女様は少し考え、そっと微笑んだ。

 

「それは、この国で輸入している葡萄の果実酒……の、ほぼアルコールを抜いたものですわ」

 

「ほぼ?」

 

「ええ。完全にではなく、ほんの少しだけ……」

 

 ――なるほど、微量にアルコールが残ってるってことか。

 

 つまり俺は、転生後初の酔いかけ状態になっていたわけだ。

 

「でもこれ、めちゃくちゃうまいな……!」

 

 口の中に広がる芳醇な甘みと、ほんのりとした酸味。

 しつこくない後味が心地よく、もう一杯飲みたくなるような味わいだ。

 

「この飲み物、クセになりそう……」

 

 俺はグラスを傾け、うっとりとした表情で味を堪能する。

 

 王女様が俺の様子をじっと見つめる。

 

(……これは、良いものを見ましたわね)

 

 そんな雰囲気を醸し出していたが、そこに現実が割り込んだ。

 

「大変です!!!」

 

 外務大臣が改めて叫ぶ。

 

 ようやく俺も気づき、グラスを置いた。

 

「ん? 何が?」

 

「姫様が悪魔を撃退したように、他国にも降伏勧告が行われていました!!」

 

 外務大臣の報告によれば――

 

 ・降伏した国もある

 ・降伏しなかった国は、現在攻撃を受けている

 

 ということらしい。

 

「この国にも来たってことは、世界中で同じことが起きてるわけか……」

 

 俺は顎に手を当てて考える。

 

 ――ま、どうでもいいな。

 

 俺の住んでる国じゃないし、他国のことまで気にする義理はない。

 

 ……そう思っていたのだが。

 

「現在、特に激しい攻撃を受けているのは――」

 

 外務大臣が国名を告げた。

 

 それを聞いた俺は、思わず手元のジュースを見つめる。

 

「……このジュースの原料って、どこ産?」

 

「……まさに、今攻撃を受けている国のものです」

 

「……えっ」

 

 突然、俺の頭がクリアになる。

 

「つまり、これが手に入らなくなる可能性があるってこと?」

 

「はい。現地の農地が破壊されれば、しばらくは入手困難に……」

 

 ――それは困る!!!!!!

 

 俺は立ち上がった。

 

 だが、外務大臣の言葉はまだ終わっていなかった。

 

「さらに、先日姫様が『一度行ってみたい』と仰っていた肉の名産地も、今攻撃を受けています」

 

 ――は?????

 

 俺は一瞬、思考が止まる。

 

 そして――

 

「……ちょっと行ってくるわ!!!!」

 

 そう叫ぶと、俺は全力で庭へと走り出した。

 

「姫様!? どちらへ!?」

 

 騎士団が慌てて止めようとする。

 

 だが、俺は聞いていなかった。

 

 大事なジュースと肉が危機に瀕している。

 そんな状況、放っておけるわけがない!!!!

 

「いくぞおおおおおお!!!!!!」

 

 バサァァァッ!!!!

 

 俺の背中の竜翼が大きく広がる。

 

 そして――

 

「飛んだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 騎士団の叫びが響く中、俺は無意識に飛行能力を使いこなしながら、全速力で目的地へ向かっていた。

 

 続く。

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