俺は全力で飛びながら、地上の戦場を見下ろしていた。
――魔王軍 VS 防衛隊
魔王軍は、呪われた武器と防具を装備した黒騎士たち。
その中心には、特に禍々しい槍と剣と弓を構えた指揮官がいた。
騎乗している軍馬すら、呪いの馬鎧を装備しているという徹底ぶりだ。
一方の防衛隊は、槍兵と弓兵が主体。
しかし、俺がいた王国とは違い、王や貴族の権限が弱く、軍のほとんどが民兵で構成されているらしい。
戦況は、一目で分かるほど魔王軍の圧倒的優勢だった。
防衛隊の兵士たちは、次々と押し倒されている。
それでも彼らは、民衆が逃げる時間を稼ぐために、絶望的な防衛戦を続けていた。
――ダメだな。このままだと確実に全滅する。
「よし、いくか!!!」
俺は翼を大きく広げ、魔王軍へと急降下した。
「うおおおお!!! ぶっ飛ばすぞ!!!」
俺は大声を上げながら、魔王軍のど真ん中へ突っ込もうとした。
だが――
ビュンビュンビュンビュン!!
無数の矢が俺の方へ向かって飛んできた。
「おっ、マジか!」
俺は空中で回避しようとするが、数が多すぎて無理。
そのまま何本も矢を浴びることになった。
パスンッ! パスンッ!
「……ん?」
被弾した感覚はある。
だが――
痛くない。
肌に当たれば軽いデコピン程度の衝撃。
眼球に直撃しても、ちょっと涙がにじむくらいだ。
「あれ、これ雑魚じゃね?」
俺は気にせずそのまま突っ込もうとする。
「まずは指揮官を落とせばいいんだよな!」
俺は呪われた装備を身にまとった指揮官を狙い、一直線に飛んでいく。
――だが、次の瞬間。
「チッ、うるさい竜め……」
指揮官が軽く剣を振るった。
シャキン!!
「ぐぉっ!?」
俺は回避しようとしたが、完全に動きを見切られていた。
次の瞬間――
剣技が目にも止まらぬ速さで繰り出され、俺は圧倒された。
ズバッ! バキィッ!!
胴に斬撃を受け、腕にも切り傷が入る。
俺の防御力が高すぎて致命傷にはならなかったが、完全に攻撃のペースを握られていた。
「えっ、ちょ、強くね!?」
空中でバランスを崩し、俺は強引に距離を取る。
どうやら――
「正面から戦うのは、相手の得意分野すぎたな……」
俺は一旦、態勢を立て直すために後退することにした。
魔王軍の指揮官が、鋭い目でこちらを見据えていた。
「逃げるか、小賢しい竜め……!」
――いや、違うんだよな。
俺の本能――ドラゴンとしての何かが、頭の奥で囁いてくる。
(人間風情に、今こそ思い知らせろ)
俺は、ふと思い出した。
この前、王国の騎士たちが必死になって戦い、国王がボロボロになりながらも魔王の使者を打ち破ったあの光景を。
人間もすげぇんだよ。
だから、俺も――
「ドラゴンの得意分野で勝負しようぜ!!!」
俺は思いっきり翼を広げ、後退するフリをする。
すると――
「追え!!」
魔王軍の指揮官が、部隊に号令をかけた。
騎士たちが槍を構え、呪いの馬鎧をまとった騎馬兵が一斉にこちらへ突っ込んでくる。
――そう、それでいい。
俺は低空飛行のまま、一気に加速する。
そして――
さらに加速する!!!
ドォォォォォォン!!!!
突如、爆音が戦場に響いた。
魔王軍の兵士たちが、その場で吹き飛ばされる。
「な、なんだ……!?」
「竜が……速すぎる!!」
俺の体は、空気の壁をぶち抜きながら戦場を駆け抜ける。
――これが、音速の衝撃。
魔王軍の騎士たちが必死に矢を放つが、俺はもはや速すぎて当たらない。
「どこを狙っている?」
俺はニヤリと笑いながら、さらに旋回する。
ソニックブームが戦場を駆け抜け、魔王軍の兵士たちが次々と倒れていく。
剣や槍が俺を捉えようとするが、攻撃が追いつかない。
さらに、魔王軍の騎馬兵たちが異常を察知し始めた。
「う、馬が暴れて……!?」
「呪われた鎧が……き、効かなくなってる!!」
呪いの馬鎧をつけた軍馬たちが、パニックを起こして暴れ始めた。
魔王軍の後方では、略奪した物資を積み込んだ荷馬車が次々と横転し、戦線は完全に混乱。
「卑怯者め!! まともに戦え!!!」
魔王軍の指揮官が、怒り狂いながら叫ぶ。
だが、どうしようもなかった。
俺に傷一つつけられず、逆にソニックブームの衝撃で削られていく。
しまいには、魔王軍の兵士たちが震えながら俺を見上げていた。
「ば、化け物だ……」
「これ以上戦っても勝ち目はない……!」
指揮官は歯ぎしりしながら、拳を握る。
「……撤退だ!!」
魔王軍は、奪った物資を放棄し、逃げ出していった。
――勝った。
俺はゆっくりと降下しながら、ほっと息をついた。
「……ん?」
風が、やけに肌に当たる。
俺はふと、自分の姿を見下ろした。
――あ。
マントがない。
いや、それだけじゃない。
着ていたドレスもない。
音速で飛びすぎて、全部吹き飛んでいた。
「全裸じゃん俺!!!!!」
俺はその場で頭を抱えた。
ヤバい。これはヤバい。
いや、戦場では誰も気にしていなかったかもしれないが、ここで地元の人たちと会話でもしようものなら大問題だ。
「どうする!? なんか適当に布とかない!?」
だが、俺が考え込んでいる間に時間が無駄に過ぎていく。
――このままじゃ、挨拶にも行けない。
ドドドドド……!!
馬蹄の音が響いた。
「姫様ーーー!!!!」
その声に振り向くと、そこには――
ボロボロになった騎士団長レオナルド。
そして、その背後に、これまた限界ギリギリの彼の愛馬。
どちらも人間や馬としては飛び抜けて強いが、長距離を短時間で走ってきたせいで、もうフラフラだった。
愛馬は前脚をガクガクさせながらも、必死に持ちこたえていた。
「はぁ……はぁ……」
「姫様……王女様より、お届けものです……」
レオナルドは限界寸前の息遣いで、俺に新しいドレスを手渡した。
「おお!! 助かる!!!」
俺はドレスを受け取りながら、改めてレオナルドとその愛馬を見た。
「……お前ら、すごいな」
俺が本気で感心して言うと、レオナルドは小さく笑った。
「……姫様ほどではありませんよ」
彼はそのまま、疲れ果てたように馬に寄りかかった。
「……ここでお着替えを……いや、もう何も申しません……」
レオナルドは何かを言いかけて、静かに目を伏せた。
こうして、俺の初めての空中戦は勝利に終わった。
続く。