俺は、豪華な椅子にどっしりと座っていた。
いや、正確に言えば、そう「見えていた」らしい。
戦場を収めたばかりの防衛隊の指揮官たちが、押っ取り刀で駆けつけたこの国の大貴族とともに、騎士団長レオナルドに深々と頭を下げている。
「騎士団長殿……この度のご助力、誠に感謝いたします!」
「姫様のご活躍には、ただただ驚くばかり……!」
俺の方にもチラチラと視線が送られてくる。
しかし、俺はただ静かに座っているだけ。
「……」
――これ、なんか俺がすごい立場の人みたいになってない?
完全に「王女様の国の王族」みたいなポジションじゃん。
でも、まぁいいか。
黙ってるだけで、話をつけてくれるなんて楽でいいなぁ。
俺はレオナルドが真剣な顔で話をまとめているのを眺めながら、のんびりと考えていた。
「お、ジュースと肉の確保もしてくれるんだ。さすが騎士団長! 気が利くぜ!!」
レオナルドは、王女様のいる国が支援する形で、この国が借りを作る……とかいう細かい政治的な話をまとめていたが、正直俺にはどうでもよかった。
防衛隊の一人がヒソヒソと囁く。
「まるで王のような風格だ……」
「見据えるだけで人を従えるその威厳……!」
「やはり国は格が違う……」
――いや、俺なんもしてねぇぞ!?
「……姫様」
気がつけば、レオナルドが俺を見ていた。
「そろそろ視察に向かわれませんか?」
「視察?」
「ジュースの原料となる葡萄畑や、肉の名産地をご案内します」
「おおっ!」
俺は思わず椅子から飛び上がった。
「行く行く!!」
そろそろ退屈してきていたところだったし、何より俺の好きなジュースと肉の現地視察なら大歓迎だ。
「では、出発いたしましょう」
こうして俺は、レオナルドとともに移動を開始することになった。
視察目的地に到着した俺たちを待っていたのは――
焦げ跡と、ガラッガラの牧場。
葡萄畑は、魔王軍によって無惨に焼き払われていた。
遠くに見える牧場には、わずかな牛しか残っていない。
「……おいおい、マジかよ」
俺は愕然とした。
今まで魔王軍に対して特に恨みとかはなかった。
戦争だし、略奪はそういうもんなんだろうなって感じで、むしろ冷めた目で見ていた。
でも――
畑をぶっ壊すのは許さん!!!
「百歩譲って略奪はそういう世界って納得できるかもしれねーが、畑をぶっ壊すのは許さん!!!」
俺の声に、レオナルドをはじめとした騎士たちがビクッとする。
「姫様……?」
「食い物は命だろ!!! 何でこんなことすんだよ!!!」
俺は焼け跡を握りしめ、ギリギリと歯を食いしばる。
その時――
ズズッ……!!
地下の方から、不穏な気配が漂ってきた。
「……!」
突然、地面が盛り上がり、牛サイズの野ウサギ型モンスターが飛び出してきた。
体毛はごわごわで、目は真っ赤に血走っている。
鋭い前歯がカチカチと鳴り響く。
どうやら、魔王軍が地下に潜ませていたやつららしい。
しかも……
数がやばい。
次々と地面を突き破り、巨大なウサギたちが現れる。
「うわっ、めっちゃいるじゃん!!?」
「こ、こんなの……もう終わりだぁ!!」
「残った畑まで食い尽くされてしまう……」
住民たちが絶望の声を上げる。
しかし、その前で真剣な顔をしたレオナルドが、静かに剣を抜いた。
「姫様……私が先陣を切ります。お下がりください」
戦意を漲らせる騎士団長。
その姿を見て、俺は思わず――
「なあ、ウサギって美味いの?」
と、超どうでもいいことを聞いてしまった。
レオナルドは「え?」みたいな顔をしたが、すぐに真面目な顔に戻り、頷いた。
「……ええ、煮込み料理などにすると絶品かと」
「マジで!!?」
俺、満面の笑み。
「よっしゃ、狩るぞーーー!!!」
俺は一気に跳躍し、牛サイズのウサギを蹴り飛ばした。
ドガァァン!!
俺の蹴りで吹き飛んだウサギが、家の壁をぶち抜く。
「……あ、ヤベ」
レオナルドが頭を抱える。
「姫様……周辺の被害を最小限に……!」
「おう!」
今度は控えめに叩く。
ウサギは地面に叩きつけられ、ぴくぴくと痙攣する。
他のウサギどもが警戒するが――
「お前ら、逃げんなよ!!!」
俺は素早く距離を詰め、次々とウサギたちを蹴り、叩き、ぶっ飛ばしていく。
住民たちや防衛隊が呆然と見守る中、レオナルドが苦笑しながら剣を振るう。
「姫様……せめて、どうすれば美味しく食べられるかを聞いてから仕留めてください」
「なるほどな!!」
俺は狩りの最中に、レオナルドや地元の料理人に質問しながら、ウサギを解体しやすいように倒していく。
「筋を潰さない方が美味いのか!!」
「なるほど、内臓は先に取った方がいいんだな!!」
戦場が、完全に調理場みたいな会話になっていた。
そして、気づけば――
牛サイズのウサギたちは、全滅していた。
「ひとりじゃ食い切れないから、みんなで食っていいぜ!!」
住民たちの目に涙が浮かぶ。
「姫様……なんとお優しい……!」
「ここ数ヶ月、まともな肉を食えてなかったんだ……!!」
俺のひと言で、住民や防衛隊たちは一気に盛り上がった。
「姫様、ありがとうございます!!!」
焼かれる肉、立ち上る香ばしい煙。
食欲をそそる香りが、あたりに充満する。
「うめぇぇぇぇ!!!!」
みんなが歓声を上げながら、豪快にウサギ肉を頬張っている。
俺も串焼きを手に取り、一気にかぶりつく。
「……うん、悪くないな!」
美味い、美味いんだけど――
……王宮の飯と比べると、ちょっと味が落ちるな?
俺はジュースを飲みながら、ふと考えた。
「……やっぱ王宮に戻ろうかな」
肉はうまい。
ジュースも最高。
でも、王宮の飯はもっと美味いんだよな……。
こうして俺は、再び王宮への帰還を決意するのだった。
続く。