「よーし、さっさと王宮に戻るぞ!!!」
俺は意気揚々と空に飛び上がった。
やっぱり飯は王宮が一番!
ウサギ肉も美味かったが、やはり最高の料理を食べたい。
そんなわけで、俺は最速で戻るために高空飛行を決意した。
俺は羽ばたきを強め、どんどん高度を上げていく。
「おおっ、めっちゃ高い!」
地表がみるみる遠ざかる。
町や森、川がミニチュアみたいに見えてくる。
「これが鳥の気持ちかー……いや、ドラゴンの気持ちか?」
風を切る感覚も気持ちいいし、なんか壮大な気分になってくる。
さらに上昇すると、空気が薄くなり、気温が下がっていく。
でも、俺はまったく息苦しくないし寒くもない。
「やっぱドラゴンすげぇな!」
このままどこまで行けるんだろう――そう思って、さらに高度を上げる。
しばらく飛んで、ふと気づく。
「……降りるの、どうすんだ?」
俺はちょっとだけ不安になって、試しに翼を動かしてみた。
――が、空気が薄すぎて、ほとんど制御できない。
「……ん?」
試しに回転してみようとするが、反応が鈍い。
むしろ、そのままの勢いでフワァ~ッと進んでしまう。
「いや、いやいやいや!? ちょっと待って!!?」
このまま上に行ったら――
宇宙行っちゃうんじゃね!?!?
「そういえば、宇宙に飛びだしたらどうやって地表まで戻るんだ?」
大気がなくなったら、翼があっても羽ばたけない。
方向転換も減速もできず、そのままずっと宇宙空間を漂う可能性が……!?
「や、やば……!!!」
俺は全力で地表へ戻ろうとした。
その途中、何やら神々しい光や壮麗な建築物が視界に映った気がする。
天界とか、そういうものだったのかもしれない。
が、俺はそれどころじゃなかった。
「うおおおお!!! こわいこわいこわい!!! 俺は地上に帰りたい!!!」
さらに、気づかないうちに俺のソニックブームが周囲に影響を与えていたらしいが――
俺はそれどころじゃなかった。
なんとか王宮近くまで降下できたときには、俺は完全に涙目だった。
「ひぐっ……」
鼻もすすりながら、ぐずぐずの状態で着地する。
そこへ、王女様が迎えに来ていた。
「姫様……!? どうなされたのですか!?」
「宇宙……こわい……」
俺は王女様に駆け寄り、全力で抱きついた。
ドラゴンの本能が、王女様を見て何かを囁く。
(おそとこわい……母さまぁ……)
「俺、おうちにひこもるぅ……」
俺はそのまま王宮に運ばれる。
気付いたときには、俺はシーツを完全に頭まで被った状態で王女様の膝枕に収まっていた。
「おそとこわい……宇宙こわい……」
ぷるぷると震えながら、時折鼻をすすりつつ、ひたすら王女様に甘えていた。
王女様は優しく俺の頭を撫でながら、
「姫様……もう大丈夫ですわ」と、落ち着いた声で囁く。
(母さまぁ……あったかい……ここにいる……)
俺の中の本能も恐怖が薄れていく。
完全に安心しきった俺は、膝枕の心地よさに身を委ねた。
王宮に戻ってからというもの、俺はしばらくの間、完全に引きこもることになった。
王女様が近くにいるときは、何事もなかったかのように振る舞っていたが――
王女様がいなくなると、俺は頑なに空を見ようとしなかった。
屋根のある場所を意識的に選び、極力外に出ることも避けるようになっていた。
王宮の使用人たちは、そんな俺を見てそっとしておいてくれたが、
「姫様、すっかりお城に馴染まれましたね……」
「最近、まったく飛び回らなくなりましたわ」
などと話しているのが聞こえた。
違う!! 俺は馴染んでるんじゃなくて、空が怖ぇんだよ!!!
そして数日後。
ようやく回復した国王が、俺を謁見の間に呼び出した。
「竜の姫君」
国王はいつも通り落ち着いた様子で、しかしどこか真剣な顔をしていた。
「対魔王の同盟を立ち上げるため、各国との婚姻政策を積極的に進めるつもりだ」
「婚姻政策?」
俺は首を傾げた。
「王様や貴族が結婚するってこと?」
国王は静かに頷く。
「当然、王族である我が娘――王女も、その対象に含まれる」
俺はなんとなく王女様の顔を思い浮かべた。
(王女様が結婚……? なんか、ちょっと早くないか?)
俺の中で、もやもやとした感情が浮かぶ。
しかし、ドラゴンの俺が人間の結婚に口をはさむのもなぁ……と、一歩退くことにした。
国王は一度言葉を切り、少しだけ表情を和らげた。
「それと……悪魔討伐への謝礼と、王女への贈り物への礼が遅れていた件についてだが……」
「おお、それ俺に何くれるの?」
俺が目を輝かせると、国王は軽く笑い、こう続けた。
「竜の姫様がどのような立場でいるかによって、渡せるものの種類が異なる。
勝敗がどうなろうと大きな被害を受ける国の爵位や土地に、礼としての価値などないだろう?
姫様が魔王軍と戦わないなら、持ち運べる財か……あるいは人を渡そうと思っていた」
――人!?
「えっ、なんで?」
「臣下や従者としてだ。そなたは単独行動が多いようだが、補佐役や世話係がいた方が良いのではと思ってな」
俺は一瞬考えた。
爵位や土地をもらっても、めんどくさくなって投げ出しそう。
財産だけもらっても、どこで何を買うかもわからん。
人をもらっても、生活費とかどうすんの?
「……今の好き勝手できる快適生活が、もう礼ってことでよくね?」
でも、それだと国王のメンツがつぶれそうだな……。
国王は俺の考えていることを察したのか、静かに言った。
「急がなくてよい。何が欲しいか決めたら教えてほしい」
「……おっけー!」
俺はひとまず、この話を保留にすることにした。
そして、国王がもう一つの重大な話を切り出した。
「近いうちに、新たな王妃を迎えることになる」
「ほえ?」
「これまで縁が薄かった魔法大国と同盟を結ぶため、正妃として迎え入れる」
国王が名前をあげると、上は大臣から下は警備の騎士まで顔色を変える。
なんかこう……すごい美人の名前を聞いたときの反応な気がする。
だが、俺は特に深く考えず、「白雪姫っぽい王女様」と「魔法」と「後妻」を結びつけることもなく、ただ「へー」くらいの気持ちで聞いていた。
その時――
「王妃様が、そろそろ到着されるとのことです」
という報告が入った。
俺はちょっと興味が湧いて、新しい王妃を見に行くことにした。
そして、一目見た俺は――
「すっげーーー!!!」
王宮の中庭に降り立った彼女は、明らかにただ者ではなかった。
髪も肌も艶やかで、王女様にはない成熟した色気。
鋭い眼差しと、見ているだけでどきどきしてくる妖艶な微笑み。
「ゲームに出てくる露出度たけー魔女みたいだ!!!」
俺はキラキラした目で彼女を見つめる。
憧れ8割、性欲2割。
後で王女様から「ちょっとだけ気持ち悪かったです」と言われて凹むことになる顔だったらしい。
けど王女様以外の反応は違った。
他国の事情に詳しい貴族や騎士は別だけど、王宮で働く平民にとっては「最近活躍しているドラゴンが憧れの視線を向ける新王妃」に見えたんだ。
「姫様があんな態度なんだから……」
「きっと素晴らしい女性なんだろうな……!」
こうして、新しい王妃の国民好感度が急上昇した。
しかし、当の王妃本人は――
俺の視線に気づいた瞬間、驚愕と恐れで表情が崩れていた。
「……!?」
怯える彼女と、キラキラした目の俺が対峙する。
――なんか、第一印象よりずっと魔女っぽいな!!!
続く。