ホビアニ転生!! ~世界を救う戦いに巻き込まれてから一五年が経ち平和に過ごしていたらなんか様子がおかしいんですが?~   作:海星めりい

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九 ホビーの研究所って聞くと真面目なはずなのにフザケて見えるのなんでだろう

 

 

「お休みの日にわざわざ出かけるの疲れるんだよなぁ……」

 

 本日は『Connecters』はお休み――なのだが、前々から呼ばれていた研究所へと向かっているというわけだ。

 正直、休日は惰眠を貪っていたい系の女子なので、気だるいオーラが身体から滲み出ているような気さえする。

 転生前から続く根っからの陰キャな部分が出ているのかもしれない。

 

「マスター、あまり愚痴を言うと余計にテンションが下降すると思われます」

 

「楔さんのお気持ちもわかりますわ。用があるなら、向こうから来ればよろしいのに」

 

「機密性の高い内容とのことでござったが……」

 

 手持ちパノプロイドは全員連れてきてほしいとのことだったので、パートナー勢揃いなわけだが、何やらされるのか分かったものじゃないので全員分のフル装備を用意してある。

 だって、呼び出してきた相手が相手だもんね……。

 そうこうしているうちに、研究所へとやって来たんだけど――

 

「やあ、待っていましたよ」

 

「げっ」

 

「……人の顔を見ていきなり『げっ』はないんじゃないですか? それに僕が呼んだのは分かっていましたよね?」

 

「いや、その胡散臭い笑みを見てたら反射で出ちゃって……」

 

 私の眼の前にいるのは一人のイケメンだ。身長は一七五cmほどで端正な顔立ちと高い鼻筋にシュッとした顎のラインと私じゃなくてもイケメン認定するレベル。

 髪は黒に近いダークブラウンで、軽くウェーブがかかっていた。

 ああいうのって、ミディアムレングスっていうんだっけ?

 

「ひどいですね……楔さんは」

 

 なんて言いつつ、人当たりの良さそうに笑ってこっちを見ていたけど、目の奥は笑っているようには全く見えない。

 どう見ても仮面を被っているってやつだね。

 

 この胡散臭いイケメンは昔、私達と幾度となく戦ったストロフィ博士の部下であり幹部――アニメやゲームのファンの通称は三幹部――『シャドウトリニティ』の一人。

名前を黒羽(くろばね)(けい)という。ちなみに私よりも五歳年上だ。

 トリッキーな動きや計算高い戦法に翻弄された強力な相手だった。

 

 ゲームだとトラップ系の武装を使ってくるだけの相手だったからそこまで強いイメージはなかったけど、この世界だとアニメに近い設定だったせいかパノプロイドバトル以外にも色んな仕掛けでこっちを翻弄してきてすごい面倒くさかった。

 正直、何でもありのルールなら二度と戦いたくない。

 

 ストロフィ博士との最終決戦後は警察に捕まって更正したらしく、今はこの研究所で働いているというわけだ。

 パノプロイドの研究所ってこの世界だと結構なエリートだよね。いわゆる、いい空気を吸っているというやつだろうか。

 もっとも、経歴が経歴だけに監視はある程度されているみたいだけど。

 

「ここじゃなんだし、僕の研究室に行きましょうか」

 

「あ、うん。よろしく」

 

 私を先導するようにゆっくり歩いていく黒羽君の後ろをついていく。

 途中研究所の職員やスタッフらしき人たちとすれ違うも特に反応されなかった。

 てっきり、外面だけはいいから『黒羽君と一緒に歩いているあの女は誰だ!?』みたいな反応が少しはあるかと思ったのだが一つもない。

 というか、なんかバタついているような? 警備員さんの数も多いようだし、なんか忙しいのだろうか。

 

 そんなことを考えているうちに黒羽君の研究室へとたどり着いていた。

 結構広いな。パノプロイド用の機材がこれでもかと置いてあるし、バトルフィールドも三つはある。

 研究用なのか、一部装甲が剥がされて素体が見えているパノプロイドや普段は分解できないようになっている心臓部――コアが鎮座していたりした。

 

「さて、ここならいいですかね? ただのホビーショップをやっている楔さんに話すのはどうかとも思っているのですが、一応話しておくべき案件だとは思いますので……」

 

「それはいいけど、私たちしかいないのに丁寧語は崩さないの?」

 

 昔、シャドウトリニティとして戦ったときから常に丁寧語の黒羽君だけど、ブチギレたときは丁寧語が外れて、荒々しい側面が出てくるんだよね。

 二重人格ってわけじゃないけど二面性のあるキャラクターだった。

 だから、普段は丁寧語の仮面を被っていてプライベートではタメ口なのかと思ったのだけど……。

 

「……もうこれで慣れているんですよ。あと、あまり不必要に昔のことをほじくり返さないでいただけますか?」

 

「ご、ごめん」

 

 黒羽君の頬がピクピクと怒りに震えているので素直に謝っておく。

 そっか、しばらく会わないうちにしっかり社会人やってたんだ。最後に直接会ったの私の高校時代だもんね。変わりもするか。

 ちょっと、おかしくなった空気を整えるように軽く咳をして、黒羽君が話し始めた。

 

「んんっ、全くアナタの脳天気なところは変わりませんね。それでですが、本題に入る前にこちらに来てもらった表向きの用事を済ませてしまいましょう」

 

「表向き?」

 

 その言い方だと当然裏向きの用事があるってことなんだけど。なんか微妙に嫌な予感がするなあ……。

 

「来てもらった時点で確認していますが、楔さんのパノプロイドは昔から変わっていない――つまり、旧式というわけです」

 

 言っていることは分かるけど、その言い方はちょっと腹立つなあ、と思っていたら私よりも先に家の子たちが反応してしまった。

 

「失礼な言い方ですね」

 

「喧嘩を売っているのでいらしたら、買って差し上げすよ?」

 

「少々、聴き逃がせないでござるよ?」

 

 ティア、フレイ、シノ。皆、怒り心頭って感じで黒羽君を睨みつけている。バトル出来るならボコボコにしてやりたいって感じだ。

 ええー、これどうすんの? と思っていたら黒羽君の影から、一体のパノプロイドが現れて、こちらに頭を下げてきた。

 

「サー、言い方が悪いですよ。説明を端折りすぎです」

 

「アシッド、アナタまで言いますか」

 

「サーの口の下手さで無駄に敵をつくるのは好ましいことではありませんので」

 

「……分かっていますよ。全くその口の上手さは誰から学んだのやら」

 

 たぶん、それキミに似たんだと思うよ。とは思いつつも言ったらうるさくなりそうなので声には出さない。

 やってきたのは黒羽君のパートナーである軽量級のヘビ型パノプロイド『アシッドヴァイパー』。

 

 高機動戦とトラップを使い分ける非常にイヤラシイ戦い方をしてくる。性格は生真面目なんだけど、相手が自分の作戦通りに苦戦していると段々笑い方が気持ち悪くなっていく……という、主従そっくりなパノプロイドだったりする。

 ただ、今は通常状態なのか丁寧な応対だ。黒羽君のフォローまでしているし。

 

「……失礼しました。説明を続けさせてもらいます。楔さんのパノプロイドだけでなく、私のアシッドもですが世の中に旧式のパノプロイドが溢れてきました」

 

「まあ、それは確かに」

 

 あんまり家の子たちを旧式とか言ってほしくないけど、事実として見るなら家の子たちは旧式に分類されるだろう。

 小学校から一緒だから約一五年? 大型家電でさえ買い替え時期を過ぎてそうだね。

 

「元々の完成度が高いためパノプロイドが世界に広がってから、今日(こんにち)まで劇的な進化こそありませんが、それこそ改良や付随するシステムなどは日夜新しく生まれています」

 まぁ、それもそうだ。ホビーショップをやっているから新しい装備や施設なんかにはわりと敏感なつもりだし。

 最近だと、小金井ちゃんのところのオンラインプロジェクトなんかは新しいシステムの最たるものじゃないだろうか。

 

「その時に、旧式パノプロイドが対応しきれない場合があるのです。百パーセント起こるわけではありませんが、すでにその傾向は現れています」

 

「ふーん。色々、問題も起きてきているってことか……」

 

「というわけで、楔さんにはアップグレードを先行で試していただこうというわけです」

 

 一応、パノプロイド本体にあるコアを移行させることで新しい型のパノプロイドにすることも可能だけど、使い慣れたパノプロイドをそのまま使いたい人が多いってことだね。

 いきなり、新しい子に買い換えろって言われても嫌がる人のほうが多そうだよね。私もあんまりしたくないなあ。

「アップグレードしてくれるって言うなら助かるけど、私だけ先にするのって卑怯じゃない?」

 

 これでもホビーショップの店長である。自分だけ特権使って限定品を先に確保している――みたいな気分になってしまう。

 

「大丈夫です。当研究所や企業でほぼテストは終わっているので、近日中には全国でアップグレードが出来るようになるはずです。楔さんのアップデートは名目上、一般ユーザーに対する最終テストという形なだけですので」

 

「ふーん。そういう風になってるんだ」

 

「ええ、ただ代わりにデータ取りに協力してもらいますが」

 

「バトルでもするの?」

 

「ある意味手っ取り早いかもしれませんが、必ずしも同条件にならないので却下です。全般的な性能を雑に測るならアリなんですがね」

 

 テストというから黒羽君とバトルでもするのかと思ったらそうじゃないらしい。

 黒羽君がフィールドの方へと歩いていき、

 

「こちらをアップグレード前と後で試してもらいます」

 

 そう言って、戦闘領域が展開される。

 

 そのどこか見覚えのあるフィールドを見て、一瞬で何か分かってしまった。これミニゲームだ。

 ゲームにあった『次々に現れるターゲットを撃て』とか、『特定のフィールドの障害物を避けながら〇〇秒以内でクリアせよ』とかそういうやつだね。

 テストっていうから何かと思ったらこんな感じなのか。なら、普通にできそうかな。むしろ懐かしい感じすらあるね。

 早速、全員(当然一体ずつ)でテストという名のミニゲームに挑戦していく。

 

「イエスマスター。百発百中です」

 

「ワタクシ、射撃はともかく移動には向かないのですけど」

 

「中々こういうのも楽しいでござるな」

 

 とりあえずアップグレード前のデータはこれで終わりだろうか。

 黒羽君の方を見てみると、

 

「………………」

 

 何やら無言で固まっていた。いや、なんで?

 それを見てかアシッドが黒羽君の顔を揺らす。

 

「サー、しっかりしてください」

 

「すいませんアシッド。少々、呆けてしまいました。それにしても楔さん相変わらずイカレタ腕前ですね」

 

「ちょっと言い方失礼じゃない?」

 

「いえ、軽量級・中量級・重量級いずれもトッププロと遜色ないスコアを出されている時点で化け物と呼んでも過言ではないです」

 

「悪化した!?」

 

 イカレタ腕前だの、化け物だのどう考えても失礼なのだが、家の子たちは称賛と捉えているのか特に文句は言ってくれなかった。ひどい。

 

「続けてアップグレード後と行きましょうか。まずはアップグレードですね。こちらに来てください」

 

 黒羽君と一緒にフィールドから一旦離れてデスクの方へと歩いていく。

 

「そこのクレイドルに身体を預けてもらえばアップグレードが終了します」

 

「なんか変わった形してるね」

 

 クレイドルっていうのはパノプロイドのベッドみたいなものかな。充電もここでしているし、万が一のバックアップなんかもクレイドルでしてたりする。

 

「ええ、このためだけのものですからね。本来のクレイドルとは異なります。個人のクレイドルにアップデートプログラムを転送できればいいのですが、そういった機能はついていませんからね。特注のこちらを楔さんのようなホビーショップ等に配布して、ユーザーのアップグレードをしていく……という形になります」

 

「なるほどねー」

 

 パノプロイドに直接ケーブルを繋いで――とかじゃなくてそういう感じなんだ。これならあまり手間がかからなくていいかな。

 家の子たちをスリープモードにして特注のクレイドルへと置いていく。

 どれくらいかかるんだろう? と思ったが、そんなに掛からなかったみたいだ。

 数分もするとアップグレードが終わったのか、全員目を覚ました。

 

「皆、異常はない?」

 

「スリープモード解除。起動に問題ありません」

 

「なんか身体が軽い気がしますわー」

 

「確かにそんな気がするでござるな」

 

 変なことはしないだろうとは思ってたけどこの分なら大丈夫かな。

 

「では、テストと行きましょうか」

 

 再びフィールドに戻って、先程と同様のミニゲームを行っていくのだが、

 

「命中確認。動作の向上を感知しました」

 

「おーっほっほっほ! いつもより狙いがつけやすいですわー!」

 

「反応速度も上昇しているようでござる」

 

 全員先程よりもスコアが上がったことが確認できだ。数値としては微々たるものだが、リンクしていた私も性能の向上が実感できた。

 

「アップグレードすると旧式だったパノプロイドの性能が何%か上がるってこと?」

 

「? はい、そうですね。システム面での最適化がされた――という感じですので、性能が上がるようです。その分、負荷の方にも注意が必要かもしれませんが今のところ、そういった報告は上がっていません。普段通りのチェックをしていただき、何かあれば本体の方の修理で最新のパーツに変えれば問題ないと思います。それがなにか?」

 

「いや、なにか引っかかるものがあってさ……」

 

 旧式なのに動きが良くて強いって最近なにかあった気がするんだよね。そんな印象に残ってないってことはピンチとかではなかったんだろうけど何だっけ……?

 あっ!? パタッシー団のディアノイドだ!?

 私のショップに盗みに入りに来たあいつら!? 昔より少し強いかも? って感じたんだった。

 一応、伝えておいた方がいいかなって思って黒羽君へとパタッシー団の懸念を告げる。

 

「楔さんのところに盗みに入ったパタッシー団のディアノイドがすでにアップグレードされていたかもしれない? 本当だとすればかなり問題ですが……」

 

「うーん、気のせいかもしれないけど、ちょっと動きが良かった気がするんだよね。でも、普通に倒しちゃったからあってるか自信ないかも」

 

「……いえ、貴重な報告ありがとうございます。ここは警察とも連携していますので、その報告とともに少し調べてみましょう。僕が担当になるかはわかりませんがアップグレードされていたのかどうかは分かるはずです。とはいえ、そちらは今は無理ですので後回しです。ひとまず、このデータを纏めるので少々お待ち下さい」

 

 なんか思っていたよりも、大変なことになるかもしれない。

 まだアップグレードについての話しかしていないっていうのに……。

 そんなことを考えている間に、今取ったデータの整理が終わったのかパソコンから離れた黒羽君が私の方へと向き直った。

 

「さて、データも取り終わったところで本題といきましょうか。まずはストロフィ博士の遺産についてです」

 

「ストロフィ博士の遺産?」

 

 黒羽君の口から出てきた聞き覚えのない言葉に私は思いっきり首を傾げるのだった。

 

 

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