色々と疲れた俺は異世界島に辿り着き、獣人ヒロインと出会う【怠けると強化!強力スキルで異世界競技チャレンジ!】 作:幸福野郎
■彼の行動の原動力になっているのは、兄と兄の結婚相手を殺した人物への復讐■
■魔剣を振るい、憎き仇を瞳に映して突き進む■
「……」
■その草原に人の気配はなかった■
■輝く月は三日月・魔導の産物■
「ぐ、ああ……」
「おお……あ」
大男と周囲に倒れた複数人の影。
激戦の跡が地面に刻まれて、魔剣を持った大男の周辺だけ草が吹き飛び、丸裸の状態になっている。
魔剣を携えし男の名はマルチネス。
月夜の魔導場で彼は、乱れたちとの交戦を行って見事に勝利した。
最強の守護者として活躍している彼を以てしても強敵と言える敵ではあったが、不動の守護者は揺るがない。
「……」
無言で佇む姿は何の感情も映さない。
儀式場を守れたことに安堵している感情だけが、見え隠れしているような気がする程度。
正常に戻った儀式場内で、魔剣の勇士は戦闘後の焦燥の中にいた。
(……悪辣王)
■彼の中で渦巻く因縁は消えず■
■未だ悪辣の王にその刃が届くことない■
■そして、そんな煮え切らない気持ちを抱えたまま、マルチネスは儀式場の外に出た■
■見上げる夜空は、悲しくなるような半月を描いていた■
「――呼んだか?」
■なので■
■因縁の方から遭いに来た■
「!?」
■背後からの声■
■マルチネスは振り向き■
「――」
■そこに死んだ兄の姿を見た■
「やはり肉親か。分かりやすい」
死んだはずの兄から放たれる手刀。
それは超絶の技巧を以て放たれた・必殺の一撃。
肉が裂かれる音が空間に響く。
マルチネスは腕ごと魔剣を切り離され、その瞬間に勝負は決していると言えた。
「ぐ、あ……!!」
「見事な動きだ。今のに反応するかよ」
「……!!」
死んだはずの兄の幻影はどこにもなく、現在目の前に立つのは仇である憎き悪辣王。
マルチネスは、幻覚を見せる魔導の類かと警戒する。
愉し気に笑う悪辣王はすさまじい乱れを発しながら、マルチネスを仕留める為の構えを崩さない。
重傷を負ったマルチネスと万全状態の悪辣王。
どちらが優勢であるかなど論じるまでもなく、勝負の天秤は片方に傾いてしまった。
「詰みだな。……やはりこういうのは合わないかもだ」
「――申し訳ありません。悪辣王様」
■マルチネスの後方から新たな声■
■女性のものだ■
「私の我儘に付き合わせて……本当にすいません。ですが危険な気がしたのです」
■混迷の太陽に名を連ねる彼女■
■銀の長髪・背中から生えた漆黒の翼■
■華奢な体格ながらも、それを補うような【魔導】の力を感じさせる■
「お前の勘はよく当たるからな。たまには聞いてみるのも良いだろう」
「有難いです。貴方様を私の拙い策に付き合わせて、申し訳なさも大いにありますが……」
銀髪女性は、静かな殺意と警戒心を滾らせながらマルチネスに接近。
その歩みは、手慣れていると強く感じる洗練歩行。
おそらく彼女は、今までも多くの手負いの獣を仕留めて来た、暗躍の狩人。
悪辣王とはまた違った脅威を秘めた、乱れの麗人。
「ここは確実に害虫を仕留めましょうか」
■マルチネスの後方から襲いかかる、銀髪の幻惑士■
「ちィ……!!」
■魔剣の勇士はまだ闘志を消さず、それに対処しようと動いた■
「――!?」
■しかし■
■目前の幻影に更なる衝撃を受ける■
「貴様の兄の隣にいた女性。覚えているわよね?」
■銀髪の女性■
■しかしその姿は、さっきまでと違う■
「――なぜ、だ」
マルチネスの過去。
その日、自身の兄は結婚式前で浮かれていたのを彼は覚えている。
結婚相手はとても綺麗な銀髪の女性。マルチネスは最初に会った時、しばらくの間あまりの美しさに魅了された。
なぜその人物を幻覚使いが知っているのか?
そういえば彼女には妹がいたという話を思い出した。
思い出した?
というよりも考えないようにしていたというか。
実は実際に見たことがあるのだ。
(彼女は確か)
■乱れの銀髪女と、似たような顔をしていなかっただろうか?■
「あの日の真実を教えるわ、魔剣の勇士マルチネス」
■乱れの口から発せられる真実■
■それは・敵の心を抉るような類のものだ■
【すまない】
結婚式前日に悲劇は訪れた。
マルチネスの兄の結婚相手が、乱れとして覚醒してしまうという事態だ。
何が引き金になったかは分からないが、とにかく起きてしまった現実は変えられない。
その時、兄がどんな行動を取ったかというと。
【だが死んでくれ】
異常なほどの早さで、その姉を切り捨てようとした。
なぜなら彼は浄化の兵隊の一員。
乱れを排除するのを生業としているのだから、当然のことと言えた。
しかし妹は納得できない。
なんとか処断を止めようと動いたのだ。
「でも姉は殺され、残った私も処断されようとしていた。本当に怖かった」
そこから必死に逃げた妹。
姉の復讐を考えながら、ひた走る決意の道。
異物となった少女の逃走は、やがて結末を迎える。
「哀れ逃げ出した子ウサギは、質の悪い貴族様に捕まって家畜の様な扱いを受けました。誰のせいかしらね?」
■その妹・銀髪女の言葉が■
乱れは乱れらしい扱いを受ける。
世界の秩序から外れた者を安寧のルールは守ってはくれない、度を超えた悲劇・世界観に合わない苦悩・ありとあらゆる苦痛。
それらを容赦なく浴びる乱れは、元々曲がっていた本質がさらにねじ曲がっていくことになるのだ。
異物は異物らしく排除されよ。
レールから外れたものは復帰不可能。
それがこの異世界の法則なのだ。
彼女は法則に従い、珍種として人未満の扱いを受けてしまった。
そんな彼女を救ったのは。
■そしてその復讐に力を貸したのは■
「貴様の兄は私を殺そうとして・王は私を救った・だから貴様の兄に復讐した。それが現実よ」
■マルチネスの心を・体を抉った一撃■
「――――」
■致命の一撃■
■心を崩した一瞬を狙ったそれは、回避など不可■
「崩された精神はもろい。それを貴様たちは忘れていたようね、この安寧の世界にいたから」
これこそが彼女の精神攻撃術。
マルチネスの行動を支えていた復讐心を根幹から揺るがして、動きを封じて仕留めた。
肉体ではなく敵の精神を突く心理の槍。
それは鋭く・屈強な肉体を持つマルチネスすら刺し貫く。
砕かれた最強の盾は、地面に倒れて動かない。
「さて探し物は」
「自分で持っているはずです。この手の人種は。自身を囮にして、復讐を成そうとでも考えているのならば。……幻影を使っているとはいえ、急いだ方がいいかもしれません王よ」
「はは、加勢が来るのならそれでもいいさ」
■島を守る最強が、また一人削られてしまった■
「おお、あったあった」
■そして■
■悪辣の王は、新たな切り札を手に入れる■
「たしかに返してもらったぞ。計画の要」
■島を覆う暗雲は、更に濃さを増していく■
●■▲
「……ッ」
彼の体は、確実に死へと向かっている。流れ出る血液は止まらずに。だがしかし、なんとか命を繋ぎ止めてはいた。
自身を囮にしていた部分はあったが、想定以上な悪辣王の急な出現によって、マルチネスは満身創痍の状態。
「く、グ……ッ」
試合場がある湿原から、少し荒れた街道を通って近くの町へと向かう。悪辣王たちは彼にトドメを刺さなかった。
それは、放置しても勝手に死ぬと判断してのものか。もしくは。
「――おやおや~? どうしたんですか! こんなところで遭うなんて、奇遇ですね!」
「……」
■彼に、前方から気軽な声がかけられた■
■奇遇と声の主は言っているが、発せられる悪意と殺気の純度から、それは嘘だと即座に分かってしまう■
「……ロリン。まさか、な」
「あはは。まさか……なんです?」
守護者ロリン・ネイドスの姿が在った。
既に刀は抜かれていた・不気味に笑う暗殺者の両足は、マルチネスへと迷いなく一直線。地面を蹴る音は、夜闇の中で死への旋律を奏でているようだ。
当然ながら、今のマルチネスにロリンの攻撃を対処する術はない。
なにかの奇跡が起きて、ロリンの攻撃を止める者が現れない限りは。
「起きさせない。ここで確実に排除スる」
■閃く刃は微塵の隙もなく、仲間だったはずの者に容赦なく振るわれた■