メンヘラ魔法少女憑依もの   作:xa

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おまけ ヴァ・夜・メ・魔

愛と正義の名の元に~魔法少女がやってくる!

 

そう言ったはいいものの、自分でも、誰かを助けるために魔法少女をしているわけではないことにはずっと昔から気付いていた。

むしろ、逆。誰かに必要とされるために、魔法少女を演じていた。そうしなきゃ自分の存在意義を確かめられないから。実のところ、元々あたしは全然特別でもない、どこにでもいる少女に過ぎなかったから。

 

本当は、あたしは善人でもなければ正義の味方でもなくて、ただ魔法の力を持った少女に過ぎない。それは先輩たちも同じ。アルカナの力そのものに善悪はないから。ただ時が来たら選ばれるってだけ。

時折、どうしてこの力が宿ったのがあたしだったんだろうって考えることがある。力に善悪がないなら、あたしよりもっと清らかで、正しい心を持つ人に与えられれば良かったのにって、そう思うこともある。

 

それでも、あたしの存在意義は誰かを助けること。誰かに必要とされること。そう生まれついたから...そうあるしかない。

だから、今日もこの施設で二つ目のトランペットがかき鳴らされたときに感じた感情は不安とか、恐怖じゃなくて、むしろ喜びだったんだ。

 

「愛と正義の名の元に~魔法少女さんじょ~!って、あれ?」

 

先輩と戦ってるあの人たち、なんだか見覚えがある。特に、真っ赤な時計の頭をしたあの人。

ダンテじゃん、リンバスカンパニーの。...ダンテ?!う、うごいてるぞ囚人たちが、知らないのに、なぜか知ってるなんて変な話。ていうかあたし誰?

 

...あぁぁああ!!!全部!今全部思い出した!なんで収容されてから今日の今日まで自分のことを忘れてたんだあたし!ていうか、あたしはあの時死んだはずじゃ?いやそれよりもまずは目の前の先輩を鎮圧しないと!

 

でもなんか、助けなきゃいけないのに身体が...身体だっるい。全然力入らないし、テレポートも連発できないし、アルカナ・スレイブなんて撃ったらそのまま力尽きちゃいそうなくらい元気でない。

うぅぅ、なんか調子悪いと思ったら、たぶんこれクリフォト抑止力だよね。でも、辛いのは先輩も同じ。それに、頼れる囚人たちも今は一緒にいるんだからあたしも頑張らないと。

 

普段なら速攻アルカナ・スレイブの準備をしてた所だけど、今は抑止力が掛かってて調子悪いし足が止まるから後ろで戦った方がいいかな。

即興の連携なんて、あたしにはやる自信なかったし。

 

適当に愛を込めて魔法を撃ったり、態勢を崩した危なそうな囚人がいれば、杖でレイピアを弾く。昔戦った経験があるから、何となくでも弾き返すには十分。

ほんとの先輩は、もっと強かった。剣捌きも魔法も、昔見たときはもっと鋭くて正確だった。抑止力で押さえつけられているのもあるだろうけど、それよりも、冷静さを失って暴れているだけの先輩なんて、何にも怖くなかった。

 

先輩の涙で研ぎ澄まされた剣が宙に星図を描きながら空気を切り裂き、迫ってきては、危なげなく躱し、弾くバスのみんな。

空気が破裂したような弾丸の発射音と、剣と剣が衝突する甲高い金属音。そして先輩のすすり泣く声もまた、銃声でかき消されていく。

 

こうして戦ってると、昔の記憶がいくつも思い浮かんでくる。暖かい思い出もあれば、冷たい冬の記憶もある。言葉では表せないような悲しみと失望、そして、あたしが先輩のようになるかもしれない恐怖で、胸がえずいて吐き気がする。

未熟だった魔法を指導してもらったり、魔法少女としての心構え。規律と正義。そして騎士道をあたしに教えてくれた、ずっと一緒に戦ってきた、誰よりも正しかったあの先輩が、その先輩の絶望と涙で研ぎ澄まされた剣が、今誰よりもみんなを傷付けているなんて信じたくなかったから。

 

それでも、あたしは不安を感じているわけじゃない。囚人のみんなが、とってもかっこよくて、頼りになったから。しっかり背中を任せられる安心感は、少しバリに似ているような気がする。

一人一人の実力が高いのもそうなんだけど、何よりも連携が優れていた。ダンテの指揮のおかげかな、特に終止符の二人組と先輩のE.G.Oを身に纏ったロージャが、とんでもなく暴れている。

二人の連携は完璧で、阿吽の呼吸と言ってもいいほどだ。

 

意気揚々とやってきたのに、あたしは大した活躍はしてなくて、それでもずっとずっと戦い続けていれば、いつの間にか勝機も掴んでいた。先輩の剣は全部折られ、膝を付いて涙を自らに突き刺している姿はあまりにも痛々しい。

それでも、訪れたチャンスを逃すほど、あたしも囚人たちも甘くはなかったから。

 

指先と杖に力を注ぐ。愛を崩壊に変える。集中して、詠唱を口ずさむ。身体中からごっそりと魔力が抜けていって、少し意識が朦朧として倒れそうだけど、杖は最後まで離さない。

 

「っ!アルカナ・ビート!これで、とどめ!」

 

淡い桃色の光が廊下ごと空間を貫いていって、先輩は光の中に飲み込まれていく。眩い光と煙埃もだんだんと収まっていって、光の中で残ったものは、倒れ伏した先輩の卵だけだった。

すすり泣く声も、宙に描かれた星図も、もう見えない。聞こえない。あの時のように、立っているのは卵と囚人たちだけだった。

 

「あたしには、こうすることしかできないの。ごめんなさい、先輩。」

 

幻想体となった私たちにはもう意味のない会話だったけど、それでも謝らずにはいられなかった。結局あたしも、先輩のように過去に縛られているままで、あの時からあたしは全く未来に進めていなかった。

卵のような核に戻った先輩を横目に、囚人たちへ振り返る。傷だらけだけど、誰も死んでいない。みんなが無事でよかった、死んでも生き返ることは知っているけど、それでも誰も死なないに越したことはないから。

 

「大丈夫?そんなに苦戦することもなかったかな?あたしがいなくても、あなたたちだけで十分鎮圧できてそうだし。」

 

さっきまで戦いの最中だったから、こうして落ち着いてまじまじとバスのみんなを見るのは初めてかもしれない。

って、あれ。なんかドンキちゃんが私のことめちゃくちゃガン見してきて怖いんだけど。いやドンキちゃんだけじゃない、感の良さそうなヒースとか良秀までもが、あたしのことをじっと見つめてる。

なんでかな、あたし、目立つ外見はしてると思うけどそんなに気に障るようなことしたっけ。

 

「そ、そなたは...その、髪飾りは。私は、いや当人は見覚えがありまする...」

 

え。あの、その、ちょっと待って!??!??

 

「オレも気になってたんだけどよ、お前どうして白い月の騎士のヤローの髪飾り付けてんだ?ただの偶然にしちゃ似すぎてるだろ、それ。」

 

嘘、うそうそうそうそほんとなの?待ってほんとなの!?いやあのさ!別れ際に忍びないからってギフトを渡したのは覚えてるけど、たぶん何百年も前のことだよ!?なのに肌身離さず付け続けてくれてるってこと!?

こういう時なんて言えばいいのあたし!?わかんない!

 

パニックになったあたしの姿を見たからなのか、ファウストの制止も聞かずにドンキちゃんが何かを確信したかのように笑顔で駆け寄ってくる。

びっくりして思わず跳ね上がった手を、しっかりとドンキちゃんが両手で握ってくる。

 

星のように輝いた眼差しは期待と喜びに満ち溢れていて、それはあたしにとっては眩しすぎるような気がしたけど、それでも。あたしは愛と正義の魔法少女だから、にこりと笑顔で受け入れた。

 

 

 

 

 

 

「それで、その...そなたは、何者でありまするか?昔友より伝え聞いた話に登場する伝説の魔法少女に、とっても似ているのでありまする!」

 

「あたし?ここではO-01-04、あるいは憎しみの女王って呼ばれてるかな。ほんとの名前は、もう無くしちゃったからあたしにもわかんないや。」

 

これは本当の話だ。昔、確かにあたしには名前があったはずだけど、もう何も覚えていない。

悲しいと言えば悲しい気がするけど、一度忘れてしまえば大した感情も抱かなくなってしまう。忘れるって、そういうものだから。

 

「憎しみの、女王。その名前は...知っていまする。そんな、バリの話は、あの寓話だと思っていたあの話は、本当の出来事であったのか。」

 

ドンキちゃんは凄いショックを受けてるみたい。気持ちはわかるよ、あたしも髪飾りの話をされたときにすごくびっくりしたから。

でも、まさか死んだ後にもう一回抽出されてバスの皆に会えるなんて思ってなかったな、自分でも信じらんない。正直、めっちゃ嬉しい。

 

「そうだね、すごく昔の話なんだけど...あたし、バリと一緒に旅をしてたんだ。短い間だったけど...それでも大切な出会いだったから。別れ際に、あたしの髪飾りを手渡したのを覚えてる。」

 

「...変ですね。ロボトミーコーポレーションが設立されたのは10年前、彼女は200年前からずっと髪飾りを身に着けているのに、時代がおかしくないですか?それとも、あなたもずっと何百年も生きているんですか?」

 

イシュメールの疑問はもっともだったけど、その話をするとすっごくややこしくて長くなりそう。

 

「それ聞いちゃう?その話をするとすっごくややこしくなりそうだけど、いいかな?」

 

めんどくさそうに目を背ける人もいれば、瞳を輝かせて健気に私を待つ人もいる。反応はそれぞれだったけど、最終的に皆はこくりと頷いた。

特に、ファウストとイサンの研究者二人組の視線が、好奇心にあふれたものに変わった気がする。

 

「えっとね、私たち幻想体は基本的に二種類いるの。外郭とか、遺跡に住んでる天然ものの幻想体と、ここロボトミーで抽出される幻想体の二種類がいるわけ。

それで、昔あたしは外郭の黒い森っていう場所で生まれたんだけど、川の水を探してるバリと偶々出会って、暫く一緒に旅をしてたんだよね。

その後一回死んだはずなんだけど...ここに来るまでの記憶がないから、多分ここで再抽出されたんじゃないかな、あたしは。」

 

「今抽出と言ひき?あなや、信ぜられぬ。よも幻想体より幻想体の起源につきて聞くべきなど。それに、かく理性やうなる幻想体こそあるなど思はざり、君は人間と同ぜむに見ゆ。」

 

「えぇ~あたしが人間みたいに見えるならそれは節穴じゃない?幻想体の言うことなんて信じちゃだめだよほんと。人間の仮面を被った怪物みたいなものだから、あたしは。」

 

全ての幻想体は人間から生まれるから、本質的にはあたしも人間の側なんだろうけど、それでも私は自分を人間だと思いたくなかった。

アルカナの力は表裏一体。光があれば、闇もある。いつかはきっと、あたしも先輩のようになる。大蛇になって、悪になって、人々を殺して回るのがあたしの運命だから。

そんなあたしを見て人間だって思ってくれる人はいないだろう、今は、みんなあたしのことを知らないだけ。

 

「いや、マジで危ない怪物は自分のことを危ないですよ~なんて言ってくれねぇだろ、喋る余地もなく飛び掛かってきてオレたちを踊り食いするのが怪物ってヤツだ。」

 

「そうそう~幻想体にもこんな可愛くて頼れる子がいるだなんて私感動しちゃった、ねね、ちょっと握手してみない?」

 

ちょっと警戒心なさすぎじゃない?バスのみんな。それでもファウストとウーティスはしっかり距離を取って警戒しているのは流石って感じ。

みんなウーティスを見習ったほうがいいと思う。

 

「人は見かけによらないってことは、あなたたちはよくわかってそうだけど。特にそこの時計さんは、あたしがどういう存在かよくわかってるんじゃない?」

 

ダンテに話を振ってみる。彼は頭に仕込まれた黄金の枝の力で、本能的に人間と幻想体、そしてねじれと大罪を見分ける力を持っている。

きっとダンテなら、あたしのことをもう少し警戒してくれると思ったから。

 

チクタクチクタクと指針が小刻みに刻まれる音が響く。身振り手振りで、何かを伝えようとしてくれてるのがわかる。

うん...何言ってるか全然わかんない。

 

「ダンテが、先ほどは助けてくれてありがとう、と仰っていますね。私からも、感謝を述べます。ありがとうございました。」

 

ファウストがぺこり、とお辞儀をした。それにつられて、若干遅れてダンテもぺこり、とお辞儀をする。

いや、おかしいでしょ。自分でいうのもアレだけど、あたしって結構危ないよ?WAWでも相当強いほうだよ?皆もっと私を警戒するべきだよ、なんでそんなに気さくに接してくれるの?

 

「...いや、どうなの?みんなあたしをもっと警戒したほうがいいんじゃない?あたしが急に豹変して暴れだすとか、魅了とか誘惑の力を使ってるとか考えたりしないの?」

 

「いや!そなたは絶対にそんなことはしないであろう!バリがそのような危険な者と旅を共にするはずがない、それに、そなたの活躍はしっかり聞き及んでおる!

なんでも正義のフィクサーとして泉より湧き出でる怪物たちをびっしばし倒し、愛と正義の名の元に人々を助けて回ったというではないか!」

 

違う、それは違うの。あたしは正義なんかじゃない。もっと邪悪で、利己的で、自己中心的に自分のためにしか生きられないのがあたしであり、それが憎しみの女王と言う幻想体だから。

 

「ううん、私は愛と正義の為に戦ってたわけじゃないの。皆に必要とされたいから、誰かに認められたいから戦ってただけで、ほんとは誰が死のうがどうでもよかったんだ。そんな悪人があたしだよ。」

 

「それでも!そなたのお蔭で命を繋いだ人が確かにいたのだろう?それが偽善だとしても、利己的だとしても結果的に誰かを救ったなら、それは紛れもない善に他ならない。だから、そんなに自分を卑下しないでくれ。」

 

...どう返事をすればいいのか、わからない。眩しすぎる、あたしには、見てらんない。何にも揺れず、一直線に夢に向かって進むその姿は変わらない私には眩しすぎる。

やめてよ、あたしが、あたしが悪じゃないなら、もしあたしが善なら、いったい悪はどこにいるの?

 

「実のところ、当人はそなたの話が好きではなかった、そなたを語るバリの表情が、どこか物寂しいものだったから。あの話が事実だったというなら、そなたはやはり...」

 

苦しい、もう、話したくない。憧れの人たちにあえて、嬉しいかと思ったのに、気持ちは辛くて、悲しくて逃げ出したくてたまらない。

このままずっと話していたら、あたしが何なのか、わからなくなる。世界には絶対的な善悪が必要で、でも、あたしが善なら悪もいなければあたしは存在することができない。なら、目の前のお前らが悪になれば...

だめ、そんなことがあっちゃいけない、それだけは、だめだ。

 

あたしには、もう何が正しいのかわからない。でもきっと、バリなら正しい答えを持っている。それでも、この疑問にはあたしが答えを出さなきゃいけない。

あの時、あの瞬間。あたしが消えたあの日に、あたしの善悪とあたしの世界は一緒に消えたんだ。でも、あたしは今生きているから...

 

「...今思えば、あの選択は絶対、間違いだったんだと思う。あれは、逃げだったから。」

 

結局のところ、あたしは自分の責任とか、痛みとか、悲しみから逃げたかっただけなんだ。死んだら、全部が終わると思ってた。あたしが消えれば全部がうまくいくって、もう道化師は現れないんだって、でもそれは言い訳に過ぎない。

友達を、バリを悲しませるくらいなら、あたしはずっと生き続ける勇気を持つべきだったんだ。終わってからそれに気づくだなんて、本当に救えない話だよね。結局、あたしもあれだけバカにしてたカルメンとなんら変わりはないの。

 

かち、とライターの音が耳に響いた。煙草の煙っぽい空気が、あたしを微かにくすぐって撫でて、へたり込んだあたしを起こそうとして、それでも身体に力が入らない。もう、何も見たくなかった。

 

「俺はあんたを知らないし、なんのこっちゃかわかんないが、あんた、強いんだな。」

 

長い沈黙の末出たグレゴールの言葉は、重かった。でも、あたしは愛と正義の魔法少女なんだから、せめて人前では笑顔でいなきゃいけない。

崩れかけた膝を持ち直して、なんとか無理にでも笑顔を作ろうとする。そんなぎこちない笑顔でも、ドンキちゃんは同じようににこりと微笑んでくれる。

 

暖かい、しっとりとした雰囲気がバスのみんなにはあった。この感覚を、あたしは前に経験したことがある。

バリと一緒に旅をしていた時の、あの一緒にいるだけでポカポカするようなあの優しさが、LCBの皆にもしっかりと受け継がれているようだった。

 

「それで、その。休憩してからでよいのだが...もしよろしければ、そなたの冒険談を当人に聞かせてくれぬか...?」

 

うぅ、そんな風に聞かれたら断れないじゃん。自分語りなんて恥ずかしすぎるけど、ドンキちゃんのためなら、やってあげてもいいかな。

こくり、と頷いて。何から語りだそうか思索に耽る。

 

その後は、ずっと、ずっと長い間。あたしのことを、みんなに話してあげていた。あたしの話が面白いからなのか、それともLCBにとって貴重な情報だからなのかは、わからないけど。

みんな揃って熱心に聞いてくれていた。時折笑って、悲しんで。冷たいロボトミー社が暖かい談笑で染まっていく。時間も忘れて、あたしたちはずっと、それぞれの冒険について語っていた。

泉の話も、遺跡の話も。そして、道化師の話も、全部。

 

でも、楽しい時間がずっと続くわけじゃなかった。いつかは、何事にも終わりは来る。

 

「...はぁ、メ・魔。言いたいことがあるなら早く言え。もうすぐヴァ・夜・終、だ。」

 

良秀の言葉に、ふと気づく。閉じていく世界を感じる。振動して、もう今にも消え去ってしまいそうな中央本部の廊下で、あたしは茫然と立っていた。

 

これは最初からわかりきってたことだった。そもそも、あの時死んだはずのあたしがまたこうして生きていること自体が、夢のようなものだから。

雪のように溶けおちて、光になって消えていく私の手足。私だけじゃない、空間そのものが、初めから存在しなかったかのように消えていく。

 

「私は、出れないかな。これでお別れみたい。短い間だけどお喋りできてすっごく楽しかった。ありがとねみんな。

それと、もしバリにまた会うようなことがあれば、あんな別れ方をしてしまって、ごめんなさい。そしてありがとうって、伝えてくれると嬉しいな。」

 

「それじゃあ...ばいばい。」

 

涙ながらに最後に抱きしめようとしてくれたドンキちゃんの身体はあたしをすり抜けて、床にとすん、と倒れて支えようとしてももう何も掴めない。

半ばなくなった手を大きく振り、せめて最後まで笑顔で、バスのみんなを見送った。

 

消えていく世界と同じように、あたしの意識も霧散していく。それが何よりも悲しくて、寂しくて、苦しかった。

 

楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていくものだけど、せめてもうちょっと、もう少しだけ、みんなと一緒にいたかったな...

 

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