バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

20 / 84
第七問だと義経は報告する

「・・・・・んぁ」

 

「お、起きたか大和」

 

「ああ・・・・・ぐっすりと眠れた」

 

合宿所に辿りついてやることもなく俺は寝ていた。隣で筋トレを励んでいるガクトが

視界に入る。何て起き方をしたんだ俺は・・・・・。

 

「贅沢な学校だよな。それにこの旅館、蒼天が買い取って

合宿所に作り変えたらしいぞ」

 

「じゃあ、ある意味ハーデスの所有地だってことだよね?」

 

「大富豪じゃのぅ」

 

部屋の振り分けで決まったメンバー。大雑把で言えば明久、坂本、土屋、

女子を除いた風間ファミリー計七人だ。

ハーデスと木下ははぶられたかのように二人だけ別の部屋となっている。

 

「なあ、土屋の姿が見えないが」

 

「ああ、どっか行ったぜ」

 

まさか、この旅館に仕掛けに行ったわけじゃあるまいな?

 

ガチャッ

 

「・・・・・ただいま」

 

噂をすればなんとやら、土屋が部屋に入ってきた。

 

「ムッツリーニ、どこに行っていたんだ?」

 

「・・・・・情報収集」

 

情報収集・・・・・ということは昨日の件か。

 

「・・・・・昨日、犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

 

「おおっ。流石はムッツリーニだね」

 

「・・・・・手口や使用機器から、明久と雄二、直江の件は同一人物の犯行と

断定できる」

 

「ワシが雄二の声音を真似した人物かの?」

 

「どうして秀吉がそんな事を了承したのか後で聞くとして、ムッツリーニ。

犯人は誰だった?」

 

「・・・・・(プルプル)」

 

坂本が尋ねると、土屋は申し訳なさそうに首を振った。

 

「あ、やっぱり犯人はまだ分からないの?」

 

「・・・・・すまない」

 

「いや、そんな。協力してくれるだけでも感謝だよ」

 

そうだな。こういった技術(スキル)を持った奴を共にすると心強い。

 

「・・・・・『犯人は女生徒でお尻に火傷の痕がある』ということしか

わからなかった」

 

「「キミ(お前)は一体なにを調べたんだ」」

 

思わず明久と揃ってツッコンでしまった。普通の人は名前や顔を知っている相手でも

尻の火傷の有無なんて知らない。こいつの調査方法が気になるところだ。

 

「・・・・・校内に網を張った」

 

そう告げながら土屋が取り出したのは小さな機械。

 

「・・・・・小型録音機。昨日学校中に盗聴器を仕掛けた」

 

土屋は録音機のスイッチを押すと、内蔵されている音源からノイズ混じりの声が

部屋に響いた。音声に少女と犯人思しき声が聞こえてくる。

坂本の声音を真似をした木下のコピーをもう一つ購入を求めているのは

霧島翔花だった。だが、強化合宿で引き渡しは四日後となり、坂本は胸に手を当てて

安堵で胸を撫で下ろす気分でいた。

 

「・・・・・それで、こっちが犯人特定のヒント」

 

土屋が機械を操作する。その音声から聞こえるのは、こんな売買をしていたことを

一度バレて、自分の尻にお灸を据えられて未だに火傷の痕が残っていると、

乙女に対して酷い仕打ちだと愚痴を零していた。

それ以降は他愛もない商談がいくつか続いた。

 

「・・・・・わかったのはこれだけ」

 

「なるほどね。それでお尻に火傷の痕か」

 

「今の会話を聞いても女子というのは間違いなさそうだろうね」

 

「良くやったムッツリーニ。ところで、ハーデスの姿が見えないが?」

 

「・・・・・さっきそこで見掛けた」

 

そう言った土屋の発言後に、この部屋の壁を何事もないようにすり抜けてを

入ってきたハーデス。

 

「お、お前。なんて入り方をしているんだよ!?」

 

「幽霊かと想像してしまったぞい・・・・・」

 

「いやいやお前ら?そこはツッコムところじゃないと俺は思うんだが?」

 

雄二が呆れ顔で俺達に言う。

 

「んで、お前はどこに行っていたんだ?部屋に入ったら、

ここに集合だと言ったじゃないか」

 

『・・・・・学園長と少し話をしていた』

 

こいつの正体を調べない限り、色々と疑問が募るばかりだな。

 

『・・・・・何している?』

 

「ああ、俺達を脅迫している犯人の特定の特徴が分かってな。

お尻に火傷がある女子だと言うことが分かった」

 

そう説明すると、ハーデスはスケッチブックに描いた。

 

『・・・・・知り合いの女子に探してもらえば済む話だな』

 

その提案に坂本達は顔を見合わせた。

 

「Aクラスの翔子達と、Fクラスの姫路達にそうしてもらおう」

 

「でも、引き受けてくれるかな?」

 

「大丈夫だ。お前とハーデスを自由にして良いといえば喜んで引き受けてくれる」

 

「ちょっと!僕をダシにしないでよ!」

 

食って掛かる明久。そんなことしなくてもこっちにはワン子と京がいる。

あの二人に任せようかな。

 

「僕とハーデスより、秀吉に女子風呂に入って確かめるべきだよ!」

 

「明久。なぜにワシが女子風呂に入ることになるのじゃ?」

 

「それは無理だ、明久」

 

坂本が強化合宿のしおりを明久に放ってよこした。

 

「どうして無理なのさ?」

 

「3ページ目を開いてみろ」

 

3ページ。確か入浴時間の振り分けだったな。

 

 

~合宿所での入浴について~

 

 

男子ABCクラス・・・・・20:00~21:00 大浴場(男)

 

男子DEFクラス・・・・・21:00~22:00 大浴場(男)

 

 

女子ABCクラス・・・・・20:00~21:00 大浴場(女)

 

女子DEFクラス・・・・・21:00~22:00 大浴場(女)

 

 

Fクラス 死神・ハーデス、木下秀吉・・・・・21:00~22:00 個室風呂④

 

 

「なんでハーデスと秀吉が一緒の風呂なのさー!」

 

「いや、これはこれである意味当然かもしれない」

 

「そういうことだ」

 

明久の叫びに俺はうんうんと納得した態度でいると、

 

「どうしてワシだけが個室風呂なのじゃ!?」

 

『・・・・・不満だ』

 

案の定。二人は「異議有り!」とばかり言う。

 

「いや、秀吉はともかくハーデス。お前は仮面のまま風呂に入るつもりか?」

 

『・・・・・』

 

ハーデスは徐に部屋の隅に座り込み―――いじけた。

 

『うおぃっ!?』

 

意外な行動に俺達は総出でツッコンだ。

 

「ねぇ、Sクラスに負けたクラスが普通に前のクラスとして

扱われているけどどうしてなの?」

 

「こっちのほうが分けやすかったからじゃないか?」

 

「D(C)・E(B)・F(A)とシオリに振り分けを記入するより楽じゃろう。

Sクラスもおらんしの」

 

「あっ、そっか」

 

納得した面持ちで手を叩いた明久は不意にハーデスへ視線を送った。

 

「ハーデスに女風呂に侵入してもらおうよ?壁をすり抜けれるんだしさ」

 

「壁ってことは床もすり抜けられるものなのか?」

 

「姉さんの時もすり抜けたし・・・・・どうなんだ?」

 

視線はハーデスに集まる。俺達の話を聞いていたのか、

カキカキとスケッチブックに言葉を書き初めて、書き終わると俺達に見せてくれた。

 

『・・・・・できる。透明化になることも』

 

「「「「「「「おお・・・・・」」」」」」」

 

それは凄いことだ。透明って光学迷彩のようなものでなれるものか?

 

「・・・・・!」

 

土屋が物凄い速さでハーデスに近づいた。

 

「・・・・・ハーデス」

 

『・・・・・なんだ?』

 

「・・・・・透明になれる物をくれ」

 

でた、でたぞ性識者の言動が!

こいつ、透明になったら好き放題女のスカートの中を覗くつもりだ!

 

『・・・・・一着、100万』

 

意外と思っていたより安い値段だった。

 

「・・・・・ローン払いで・・・・・」

 

土屋は購入した!

 

「そこまで欲しいのかお前は!?」

 

「流石だよムッツリーニ!」

 

「明久よ。そこは感動するところではないぞい」

 

「俺様も欲しいかも・・・・・」

 

「ガクト、捕まってもフォローしないからね。ちゃんと罪を償って帰って来てね」

 

ハーデスは自身を羽織っている黒マントを黒マントから取り出して土屋に渡した。

 

『・・・・・毎度あり』

 

「・・・・・感謝」

 

早速マントを羽織り、フードを被ると土屋の姿が俺達の前から姿を暗ました。

 

「おお・・・・・凄い!」

 

「なるほど、これなら女子風呂に入っても気付かれはしないだろう」

 

マントを脱いだ土屋の姿が現れる。これならいける!と、そう思った時だった。

 

―――ドバン!

 

「全員手を後ろに組んで伏せなさい!」

 

「その通りじゃ!」

 

凄い勢いで俺達の部屋の扉が開け放たれ、女子がぞろぞろと中に入って来た。

 

「な、なにごとじゃ!?」

 

「木下はこっちへ!そっちのバカ三人は抵抗をやめなさい!」

 

先頭に立つ島田が、咄嗟に窓から脱出しようとした明久と坂本とマントを羽織った

土屋の機先を制した。フードを被らないと透明化にならないらしいな。

 

「なぜお主らは咄嗟の行動で窓に迎えるのじゃ・・・・・?」

 

『・・・・・何かしらの自覚、身に覚えがあるんじゃないか?』

 

・・・・・多分、否定できない。

 

「仰々しくぞろぞろと、一体何の真似だ?」

 

窓を閉めながら女子勢に向き合う坂本。

明久と土屋も貴重品の入った鞄を下ろしながらそちらを向いた。

 

「よくもまぁ、そんなシラが切れるものね。あなた達が犯人だってことくらい

直ぐにわかるというのに」

 

島田の後ろから出て来て高圧的に言い放ったのはEクラス代表の中林だ。

後ろで並んでいる大勢の女子も腕を組んでうんうんと頷いている。

中には元Cクラス代表もいる。他の女子と違って様子を窺っているようだ。

 

『・・・・・Eクラスの代表。どうした?』

 

「どうした?よくもそんな態度で尋ねてくるわね。

やっぱりアンタはこの為に私達を騙したのね」

 

『・・・・・この為にお前らを騙す?』

 

ハーデスは訳が分からないと首をスケッチブックを見せながら傾げた。

中林達・・・・・女子のことか?そいつらをハーデスが騙すなんてどういうことだ?

 

『・・・・・Sクラスを倒そうとしている気持ちは本気だぞ』

 

「それも嘘だから私達を誑かした。―――全部、私達の裸を盗撮する為にね。

 この覗き魔」

 

・・・・・覗き魔?どういうことだ?

 

『・・・・・俺が覗き魔?どうしてそうなる?』

 

「これ」

 

小山が俺達の前に何かを突きつけてきた。なんだ?

 

「・・・・・CCDカメラと小型集音マイク」

 

「盗撮、盗聴で主に使われている機械だね」

 

その手の物には圧倒的な知識を持つ土屋とモロが代わりに答えてくれた。

 

「そうよ。女子風呂の脱衣所に設置されていたの」

 

「・・・・・・はい?」

 

女子風呂の脱衣所・・・・・にだと?

 

「え!?なんでそんな物が!一体誰がそんな事を―――!」

 

「とぼけないで。あなたたち以外に誰がこんなことをするって言うの?」

 

この台詞を聞いて、木下が中林の前に歩み出た。

 

「違う!ワシらはそんな事をしておらん!覗きや盗撮なんてそんな真似は―――」

 

「そうだよ!僕らはそんなことはしない!」

 

「・・・・・!(コクコク)」

 

・・・・・土屋。お前だけは絶対に言い逃れはできないぞ!

木下の反論に合わせて前に出た明久と土屋を冷ややかに見る中林。

 

「そんな真似は?」

 

「・・・・・否定・・・・・できん・・・・・っ!」

 

「「えぇっ!?信頼足りなくない!?」」

 

『・・・・・土屋の存在が信頼を減らしているんだと思う』

 

「・・・・・!?」

 

ハーデスの冷静な指摘に土屋は愕然となった。

それに、今さっき透明になれるマントを購入したところだしなぁ・・・・・。

 

「なあ、それをどの辺りで見つけたんだ?」

 

「棚の上よ。あなた達が仕掛けたんでしょう?

今さら聞いても意味ないじゃないかしら?」

 

それが犯人だったらそうだろうが、俺達は無実だ。

ハーデスだってそんな変態なことをするわけがない。

 

「どうして俺達が犯人だと決めつけるんだ?お前らとこの合宿に着いたのは

一緒だったし、俺達は女子の大浴場に行った覚えはないぞ」

 

「一番有力なのは―――死神がSクラスをたった一人で倒せる実力者だからよ。

それにこの手のことを得意なのはFクラスにいる土屋君って島田さんや姫路さんからの

情報を聞き、この二人が手を組めば容易く仕掛けることができると思ったから。

これで疑う余地があると言うのかしら?」

 

そう言われハーデスと土屋を交互に見て・・・・・唸るように漏らす。

 

「・・・・・否定・・・・・できない・・・・っ!」

 

「『・・・・・っ!?』」

 

土屋とハーデスが物凄くショックを受けたのが分かった。

すまん!だけど、確かにお前らなら可能なんだよ。

 

「まさか、本当に吉井君達がこんなことをしていたなんて・・・・・」

 

殺気立つ女子の中から一人悲しそうな声を上げたのは姫路だった。

そう言われると俺達が本当にしたみたいな言い方をされて戸惑うって!

 

「吉井・・・・・。信じていたのに、どうしてこんなことを・・・・・」

 

「島田さん。信じていたなら拷問器具は用意して来ないよね?」

 

この二人、絶対に明久の事を信頼してねぇ!言っている事とこれから

やろうとしていることが完全に違うから!

 

「もう怒りました!よりによってお夕食を欲張って食べちゃった時に

覗きをしようなんて・・・・・!

い、いつもはもう少しその、スリムなんですからねっ!?」

 

『・・・・・いつもと変わらない体型だと思う。

胸の脂肪が主に体重を増やしているんじゃないか?ホルスタイン姫路』

 

「う、ウチだっていつもはもう少し胸が大きいんだからね!?」

 

『・・・・・なに、目に見えている儚い嘘を吐くんだ?

 ―――永久Aカップ島田のくせに』

 

ハーデス・・・・・お前、ある意味勇者だよ・・・・・。

ほれ、姫路と島田から怒気のオーラが感じ始めたぞ・・・・・?

 

「皆、やっておしまい」

 

素早い動きで周りを取り囲まれ、キャップと木下を除いて

俺達は石抱き・・・・・別名、そろばん責めという江戸時代の

拷問がされるぅぅぅぅっ!?

 

『ちょっ、俺様達まで!?』

 

『な、何で僕も!?』

 

『おいおい!俺の家族に手を出すなって!え?一緒に拷問を受けてみる?

・・・・・すまん、皆』

 

『浮気は・・・・・許さない』

 

『翔花待て!落ち着ぎゃぁぁあああっ!』

 

『・・・・・死神、浮気は許さない』

 

『・・・・・お前まで、俺を疑うと言うのか・・・・・っ!?』

 

ヤバい、この状況はヤバいって!そう思った時だった。

 

「な、なにこの状況!?」

 

「代表も死神に何しているの!?」

 

木下の姉と工藤がこの光景を目の当たりにして絶句した。

二人は慌ててハーデスにお仕置きをしている霧島に近づく。

 

「代表!死神君に何しているのさ!大好きな人にこんなことしちゃダメだって!」

 

「・・・・・死神が浮気をした」

 

「う、浮気・・・・・?」

 

『・・・・・』

 

フルフルと必死に首を横に振ったハーデス。

 

「ここにいるFクラスが覗きや盗撮をしたって疑いがあるのよ」

 

「小山さん・・・・・?」

 

小山は俺達に見せた盗聴器や盗撮器を木下の姉に見せた。

 

「これ、女子の脱衣所に仕掛けられていた盗聴器や小型のカメラよ。

こんなことできるのは死神と土屋君しかいないって島田さんや姫路さんからの情報よ」

 

「・・・・・あなたはそうだと言いたいの?」

 

木下の姉が警戒の眼差しで小山を見据える。小山の答えは・・・・・。

 

「確かに、あの二人ならできそうだと思っているわ。

でも、死神は覗きをするような変態じゃないってことは知っているつもりよ」

 

「・・・・・小山さん。あなたはこいつらが犯人だと思って

私達と一緒に来たんじゃないの?」

 

「あら、勘違いをしないでほしいわ。私が何時そんな事を言ったのかしら?

私は真実を確かめようと思って来たまでよ。それに、私は学園長と話しをしている

死神を見掛けたから彼が脱衣場に仕掛けたなんて思っていないし」

 

「なっ・・・・・!?」

 

そんな事を知っているならさっさと言えって心から叫びたかった。

 

「・・・・・死神、本当?」

 

霧島がハーデスに尋ねた。ハーデスは静かに頷いて、霧島から離れて窓を開けた。

 

「・・・・・どこに行くの?」

 

『・・・・・』

 

スケッチブックに書いた後、霧島に見せた文字の言葉。

 

『・・・・・あれだけ俺のこと好きだ好きだと言って、

信用されていないことを知って本当に俺のことが好きなのか、

本当は俺のことは嫌いなんじゃないかと疑問を抱いた。

しばらく心の整理をしたいから霧島を見たくない』

 

「―――――っ!?」

 

ハーデスの心情を知った霧島は瞳を潤わせて静かに涙を流してあいつの下へと

足を動かす。

 

「・・・・・ごめん、なさい・・・・・」

 

霧島は小さく謝る。だが、ハーデスの身体を触れようとするも、

何もないようにすり抜けて触れることは叶わない。

何度も、何度もハーデスのマントに触れようとしても、スッとすり抜ける。

あれは・・・・・明らかに霧島に触れられたくないという気持ちの表れ。

何時しか霧島は座りこんで嗚咽を漏らす。

 

「ちょっと死神!女の子を泣かせるなんて最低ね!」

 

「そうです!翔子ちゃんに謝ってください!」

 

「この変態骸骨!素顔を隠しているから誰にも疑われ―――」

 

『うるせぇぞ、クソガキ共』

 

絶対零度のようなどこまでも冷たく低い声音がハーデスから発した。

それだけでこの場は静まり返った。

 

『島田と姫路、お前らに問うぞ。異性として吉井明久のことが好きか?』

 

「「なっ・・・・・!?」」

 

「え、ハーデス?どうしてそんなこと二人に訊くのさ?」

 

『お前は眠れ』

 

「・・・・・っ!」

 

ハーデスは何もしていないのに、石ごと吹っ飛んで壁にぶつかると動かなくなった。

 

「あ、明久・・・・・?」

 

『気絶させただけだ。手荒だったがな』

 

「よ、吉井!」

 

「吉井君!」

 

あの二人は明久に駆け寄ろうとするが、

ハーデスに阻まれて行くことができないでいる。

 

「アンタ!吉井になんてことをしてくれてんのよ!」

 

『俺達のことを拷問したお前らより可愛いもんだろ』

 

「拷問じゃありません!お仕置きです!」

 

『ほう、じゃあ・・・・・お前らにもお仕置きをしてもとやかく言わないわけだな?』

 

片手で石を掴み上げて島田達に突き付ける。その行為に島田達は一歩後ろへ下がる。

 

「お、女の子に対してそんなことしていいと思ってんの!?」

 

『男だったら何をして良いと言うわけじゃあるまい』

 

「屁理屈ですよそれは!」

 

『平等だ。古の歴史のページを開けば、男も女も子供も老人も酷い拷問を受けて

悲惨な人生を送った人間が存在している。お前ら二人が吉井明久達にしている事と

それと全く変わらない』

 

「何時の話をしてんのよ!その人達とアタシらは全く関係ないじゃない!」

 

『今でも戦争が起きているのに本気でそう言えるのか?その紛争地域で敵兵に

捕まって拷問を受けている人間だけじゃなく、テロリストに捕縛された人質だって

同じ目に遭っているんだ。それがないと言い切れるのか?』

 

「そ、それは・・・・・っ」

 

言葉を濁す島田。ハッキリとYESと答えれないからだ。もしもYESと言ったら

戦争なんて言葉は存在しない。

 

『ドイツも大昔は戦争をしてそんな拷問をしていた。全ては国を守る為、国を奪う為、

色々な建前を立てて行っていた。お前の身体に流れる血だって戦争の中を生き抜いた

先祖の血が流れているはずだ。お前はそれを否定しているようなものだぞ』

 

「・・・・・」

 

『話を戻すぞ。お前らは吉井明久のことが好きか?』

 

「ど、どうしてそれを聞くんですかっ」

 

『好きなら、好きな人を信じて話を聞くからだ。

それからでもお仕置きは遅くはないからな』

 

指を弾いたハーデスに呼応して、俺の膝に乗せられていた石が一人で勝手に粉砕した。

俺だけじゃない、他の皆の石も勝手に壊れた。

 

『だから、お前ら二人は吉井明久のことが好きなのかと聞いている。

いや、聞くまでもないな。お前ら二人は嫌いだからこんなことをしているんだよな』

 

「「なっ・・・・・!?」」

 

『姫路と島田は吉井明久に彼女=性交ができない、島田は死んでも吉井明久に彼女を

作らせないと俺の前でハッキリと公言したんだ。嫌いだからこそ吉井明久の言葉に

耳を傾けずに拷問という名のお仕置きをしているんだろう?』

 

嘲笑うかのように、楽しそうにハーデスは島田と姫路に尋ねた。

 

「ち、違うわよ!」

 

「違います!」

 

『・・・・・どう、何が、違うんだ?』

 

否定した二人に再度問うハーデスに二人は口を出そうとしたが

何かに躊躇って言えず目が泳ぐ。

 

『自分勝手で島田は暴力的で、姫路は死ぬほど不味い料理を作ってくる。

吉井明久も女に恵まれないな。俺はお前らのマイナスな言動しか見たことがない。

ああ、吉井明久を殴ることが趣味な島田は暴力的な女だと最初からそんな印象―――』

 

ジリリリリリリリッ!

 

最後まで言い切れなく、ハーデスからけたたましい音が聞こえた。

その音の正体はマントから出した目覚まし時計。

 

『・・・・・男子VS女子の戦いが始まった』

 

・・・・・そうか、もうそんな時間か。

 

『おい風間。腕輪の機能で召喚フィールドを展開しろ。この場にいる女共を全員、

補習送りにするからよ』

 

「あ、ああ・・・・・分かったぜ」

 

小山もその一人・・・・・って何時の間にかいなくなっている?

 

『ああ、島田と姫路。もう吉井明久のことが嫌いなら無理に接しようとしなくても

いいぞ。とても恋する乙女のようには見えないから本当に好きなのかどうか怪しいし』

 

「なに勝手に決め付けてんのよ!」

 

「そうです!私と美波ちゃんの自由です!」

 

『なら、召喚獣バトルで決着を付けようか。

負けたら卒業するまで吉井明久から五メートル近づくな』

 

「それじゃアンタの有利じゃないよ!」

 

『俺の点数はたったの1点だぞ?当たればどんな相手の点数でも戦死扱いになる。

 試獣召喚(サモン)

 

ハーデスが召喚獣を喚びだした。これに応戦しないと二人は否が応でも戦死扱い。

言葉通り、ハーデスの召喚獣の点数はたったの1点。

 

「くっ・・・・・試獣召喚(サモン)っ!」

 

「絶対に勝ちます!試獣召喚(サモン)ッ!」

 

『・・・・・それじゃ、地獄の補習室に逝って来い』

 

科目のフィールドは古典だったが、点数の高い姫路でさえ腕輪の能力を発動しても

あっさりとハーデスに首を刎ね飛ばされ戦死。続いて島田の首も斬られて戦死。

 

「0点になった戦死者は補習ぅっ!」

 

「や、やっぱりズルいわよこんなことぉっ!」

 

「もう一度、もう一度だけ戦わせてください!」

 

神出鬼没に現れる西村先生に補習室へと連れて行かれる島田と姫路。

 

『・・・・・さて、霧島と木下優子、工藤愛子は自分の持ち場に戻れ。

Eクラス代表とその他の女子共はここで戦死となれ』

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

『いざ勝負!』

 

『男なんかに負けないわよ!』

 

『女子風呂に突っ込めぇーっ!』

 

『変態!変態がここにいたわ!絶対に阻止よ!』

 

『『『『試獣召喚(サモン)っ!』』』』

 

皆、良い感じでハーデスの作戦通りに動いている。偽りの覗き騒動、

本気だけど一気に倒さないように時間を掛けて戦うと大変な思いをしなくちゃ

いけないけどこれもSクラスを打倒する為。ちゃんと各代表達がクラスメート達に

説明をした結果だからこの騒乱状態になっているんだろう。

 

「Fクラスの代表!一騎討ちをしましょう!」

 

廊下を駆ける僕らの前に頭にヘアバンド、女子の体操着姿のEクラスの女子が現れた。

 

「上等だ!手加減なんてしねぇからなっ!明久達は前に進め!」

 

『了解っ!』

 

「雄二、負けたら霧島さんの妹に雄二が『愛している』って言ってたって

言うからね!」

 

「ふざけんなっ!後で追い付いたらテメェを殺す!」

 

悪友の最後の言葉を聞き僕らは前へ駆けだす。

 

「凄い戦況じゃの」

 

「・・・・・一致団結」

 

「だっはっはっ!すげぇワクワクしてきたぜぇっ!」

 

『あっ、キャップを見つけたわ!』

 

『これ以上は通さんぞ!』

 

『私の矢から逃さない』

 

「よし、俺が相手になってやるぜ!試獣召喚(サモン)っ!」

 

「京、俺様の盾を舐めるなよ!試獣召喚(サモン)っ!」

 

「僕も手伝うね、試獣召喚(サモン)

 

一子、京、クリスさんと翔一、ガクト、モロが戦い始めた。

 

「三人共、負けんなよ!」

 

大和が声を掛ける。翔一達を置いて僕らは2Fへ繋がる階段を降りる最中、

物足りなさを感じた。

 

「あれ?」

 

「どうしたのじゃ明久?」

 

「ハーデスがいないけど」

 

「・・・・・何時の間にか姿を消していた」

 

誰もハーデスがいなくなったことに気付かなかった。

でも、今はハーデスのことよりも女子の大浴場に突っ込むことが大事だ。

 

「2FはC・Dクラスのエリアか」

 

「きっと皆も戦っているじゃろうな」

 

「・・・・・ではないと、俺達が不利だ」

 

いざ、僕達は2Fへ足を踏み込んだ。

 

「あら、死神はいないの?」

 

「元Cクラス代表の小山さんっ!?」

 

階段を下りてくる僕らを待ち構えていた!?

ここはDクラス代表平賀君がいたはずだったんだけど!?

 

「小山、平賀はどうした?」

 

「作戦開始直後に、それなりに戦って勝たせてもらったわよ。

点数の差があり過ぎて私の勝ちは揺るぎなかったからやっぱりこういう時、

格上の相手じゃないと経験が積むことができないわね」

 

クスリと艶めかしく笑みを浮かべる小山さん。

 

「なるほどな・・・・・なら、ここは―――」

 

大和が買って出ようとした時、さらに前に出る者が現れた。

その人物は―――小山さんが求めていた相手、ハーデスだった。

 

『・・・・・点数の差で負けてしまうのはしょうがない。

だが、それすら格上の相手と戦うことが今回の目的の一つだ』

 

「ハーデス!一体どこに行ってたの?」

 

『・・・・・他のところを見て回っていた』

 

他のところって、何時の間に・・・・・。

 

「待っていたわ死神。私と勝負してくれるわよね?」

 

『・・・・・いいだろう、相手になってやる』

 

ハーデスは1Fに繋がる階段に指した。行けってことなのだろう。分かったよ!

僕らはハーデスに援護してもらって1Fに降りた。

 

「ハーデスはしばらくは動けないだろう。俺達だけで女子の大浴場に進むぞ」

 

「・・・・・だが、気になる点が一つ」

 

「ムッツリーニよ。それはなんじゃ?」

 

「・・・・・教師が誰一人も俺達を止めようとしない」

 

言われてみれば・・・・・どうしてだろう?今回の作戦、

鉄人達には伝えていないはずなんだけど。

 

「もしかしたら、ハーデスの仕業かもしれねぇな」

 

「え、ハーデス?」

 

「言っていただろう。学園長のところに行っていたって。

今回の事を教えて黙認してくれるように頼んだかもしれない」

 

「じゃが、それは本当に可能なのかの?ハーデスは蒼天から来た者とはいえ、

学園長に今回の騒動を起こさせることを自白して黙認するように

頼みを聞いてくれるとは思えんのじゃが」

 

そうだね、一生徒として学校を通っているんだ。

Sクラスみたいな凄い人達じゃないとどうにもできないと思う。

 

「それは、俺達が大浴場に辿りつけば分かるかもしれない」

 

1Fに辿り着く僕らの周囲から阿鼻叫喚が聞こえてくる。

ここは元A・Bクラスの皆がいる。

 

「あら、ここに秀吉が来るなんて意外ね」

 

「あ、姉上・・・・・」

 

「・・・・・死神がいない」

 

「ムッツリーニ君、みーつけた♪」

 

「工藤愛子・・・・・っ」

 

拙い、Aクラスの主力メンバー(女子)が現れた!

 

「死神がいないのは残念だけど、

アタシを倒した秀吉にリベンジをするのもいいかしらね」

 

「むっ、そう言う事ならワシは戦わんといけないの」

 

「ムッツリーニ君、ボクと雌雄を決しようか。

どっちが死神君に保健体育で挑戦する者として相応しいか」

 

「・・・・・望むところ(ドバドバドバ)」

 

「・・・・・」

 

残りの霧島さんは僕と大和のどっちと戦う?警戒していると・・・・・。

 

「・・・・・行っていい」

 

「へ?」

 

「・・・・・私は死神と・・・・・」

 

元気なく僕らから視線を逸らした。視線は階段の方へ向かっている。

誰かがここに降りてくる気配はない。

だけど、霧島さんはここにハーデスが来ることを待っている。

 

「どうする?」

 

「お言葉に甘えようぜ。大浴場にはまだいるかもしれないからな」

 

大和の言葉に頷いて、僕達は女子の大浴場に繋がる階段へと足を踏み込んだ。

階段を降り切ると長い廊下を進む。だが―――!

 

「そこまでだ」

 

目と鼻の先にある女子の大浴場の前に立つ・・・・・。

 

「て、鉄人・・・・・っ!」

 

「西村先生と呼ばんかバカ者」

 

剛腕な腕を組んで佇んでいる鉄人がいた。

僕らを止めようとする構えじゃないのがどうも不思議だ。

 

「西村先生。質問いいですかね」

 

「なんだ直江」

 

「俺達は覗きをしようとしているんですが、どうして先生方は女子に味方をせず、

試召戦争のように召喚フィールドを展開するだけでいるんですか?」

 

「そうですね。それは僕も思っていましたよ」

 

大和の疑問に僕も同意する。鉄人は鼻を鳴らす。

 

「貴様らの様なバカ共の考えはお見通しだ。

まさか、第二学年全員がこんな騒動を起こすとは俺ですら驚いたがな」

 

「それは、ハーデスが学園長に今回の事を告げたから

俺達を見逃しているんですよね?」

 

「ほう、俺も参加して良いのだな?学園長からは場合によっては

拳で語ってもよいと言われているからな」

 

や、大和ぉぉおおおおおおっ!?鉄人を煽ってどうすんのさぁっ!

 

「良し明久。お前は鉄人と相手をしろ」

 

「ちょっと待って大和!僕が鉄人に敵うわけ無いじゃん!」

 

「始めからできないと思うからできないんだ。初めからできると自分を信じていれば

勝てるもんだ。それに明久、お前には武器があるだろう」

 

僕に武器・・・・・・?・・・・・あ、白金の腕輪か!

 

「思い出したようだな。それを使って鉄人をぶっ倒せ」

 

「直江、後で貴様も拳で語ってやろう」

 

・・・・・とうとう大和も鉄人に目を向けられたね。

 

「・・・・・だが、俺は参戦しない。点数が無くてな。召喚獣が出せんのだ」

 

「え、点数が無いってどういうことです?」

 

「俺はこの前の担任入れ代りのゴタゴタのせいで試験を受けそびれてな。

今は点数が無いんだ」

 

「じゃあ、先生も召喚フィールドを展開するだけですか?」

 

大和の質問に鉄人は頷いた。

 

「ああ、その通りだ。が、俺の代わりをしてくれる者がいる」

 

「鉄人の代わり・・・・・?」

 

疑問を浮かべていると、女子の大浴場から誰かが現れた。

 

『・・・・・』

 

「はっ?ハーデス?」

 

「え、だってさっき・・・・・小山さんと戦っていたんじゃ・・・・・」

 

『・・・・・早々に倒させてもらった。

俺がここにいる理由は間違ってでも女子の大浴場に入れさせないことだ』

 

そう言った後にハーデスは何かを鉄人に放り投げるとそれをキャッチした鉄人。

 

『・・・・・小型カメラとマイクがまだ女子の脱衣所にあった』

 

「まさか・・・・・このバカ共の仕業か?」

 

「「違うっ!」」

 

というより盗聴器だって!?まだ女子の脱衣場にあったなんて一体誰が犯人なんだ!

 

『・・・・・この騒動が終わったら全員の荷物検査をよろしくお願いします。

鞄の中にいらない物を持ってきている生徒がいるはず』

 

「分かった。まずは男子の荷物検査をしよう。女子は高橋先生に任せてな」

 

「「・・・・・」」

 

これで解決するば万々歳だけど、何人かが地獄に連れて行かれるかもしれない。

それは・・・・・僕達も含まれている。

 

「貴様ら、今更抵抗なんてするなよ?この俺が直々に荷物を点検するのだからな」

 

鉄人には釘を刺される。これは・・・・・。

 

「あ、鉄人。僕ら、用事が思い出したんでこれで!」

 

「俺もです。それじゃ!」

 

これは敵前逃亡じゃない。ハーデスは召喚獣を召喚してないから僕達は来た道に

戻るだけだ。だよね、大和?

 

「今更俺から逃げようなどと百年早いぞ貴様らぁっ!

やはり貴様らは俺と拳で語った方が早いようだなぁっ!」

 

「「う、うわあああああああっ!」」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。