『2年B組 根本恭二 以下の者を観察処分者とする
神月学園学園長 藤堂カヲル』
「へぇー、根本君・・・・・僕と同じ観察処分者になっちゃったんだね」
「・・・・・あの卑怯者は何時かこうなると予想していた」
「だが、明久のバカみたいな行動をあいつはしたのか?」
「あの根本が教師の私物を売るようなことをするとは思えんのじゃが・・・・・」
学校の掲示板に貼り付けられた一枚の紙。そこにはBクラス代表に舞い戻った
根本君の処罰の知らせだった。
「まあ、俺らがあいつのことを考えても何のメリットもない」
興味を失せた雄二がFクラスへ向かった。一階に張り出されている報告書から離れ
階段へ赴く途中、今日は珍しく早く登校したのだろうハーデスが下駄箱にいたのを
視界の端に映った。すると、上履きを取らず裸足(靴下を履いているけど)で
床を歩きだした。どうしたんだろう?そう思って雄二達から離れてハーデスに近づいた。
「おはようハーデス。どうしたの?下履きを履かないで裸足で歩くなんて」
尋ねると毎度おなじみスケッチブックでこう書いた。
『・・・・・下履きがなかった』
「なかったって・・・・・誰かに隠されているとか?」
そんな小学生みたいな苛めをするなんて一体誰がそんな事をしたんだろう?
そんな事をする奴は・・・・・Fクラスの皆がしそうだ。
「先生に言う?」
『・・・・・この程度で言うほど俺は弱くない』
や、強いも弱いもそういうんじゃなくて、
苛めに遭っていることを知らせなきゃダメなんじゃ・・・・・?
裸足のハーデスと階段を上ってFクラスに赴いた。
すると、クラスの皆が何故か座らず呆然と立っていた。様子がおかしいと見ていると
雄二が話しかけてきた。
「おう、明久とハーデス」
「どうしたの?入口のところに立っちゃって」
「ああ、ミカン箱がな滅茶苦茶になっているんだ」
え?僕達の箱が?佇んでいるクラスメートを割り込みながら前に進んで教室の中を
見渡した。
うわ・・・・・と僕は漏らした。僕達のミカン箱が滅茶苦茶に壊されている。
これじゃ勉強どころじゃない。
「これ、酷いね」
「別にミカン箱が壊れたぐらいで俺達が困るわけじゃない。
どうせどっかのクラスの腹いせだろうよ」
「それってどこのクラスなのか分かるなの?」
「どこのクラスがやった~なんて俺達が仮に分かったところでそのクラスの
誰がやったのかも探さないといけないし、特定できてもそいつがやった証拠がない。
だから俺達はお手上げ状態だ」
そんな、僕達は何もできないなんて。
「俺達自身が何か失った物があるわけでもない。別にこんなの痛くもかゆくもないだろう?」
「そうだけど、何だか悔しいと思うよ」
「割り切れ、じゃないと今後が面倒だぞ」
「割り切れって・・・・・じゃあ雄二は割り切れるの?」
雄二から「なに当たり前なことを」と呆れられた。
「当たり前だ」
「霧島さんの妹と付き合うことになっても?」
「ばっ!なんで翔花と俺が付き合うことで割り切らなきゃならないんだ!?」
面白いように狼狽する雄二。落ち着きを取り戻して僕を侮蔑するような
視線を送ってくる。
「ったく、お前はつまらないことを言うんじゃねぇよ」
「つまらない・・・・・?」
うわっ!びっくりしたぁ・・・・・って霧島さんの妹じゃないか?
雄二も身体を跳ね上がらせて驚いていた。
「雄二・・・・・私と付き合うことがつまらない?」
「しょ、翔花っ!?お前、どうしてここに・・・・・っ!」
「雄二・・・・・この婚姻届にサインをして」
「こ、婚姻届だとぉっ!?って、ぬぉっ!?あぶねぇっ!」
婚姻届という単語にFクラスの皆がカッターや鉛筆と先が尖った物を雄二に投げ放った。
辛うじて自前の鞄で防いだ雄二。
『坂本君?俺達と野球をしようじゃないか』
『お前の頭がボールで俺達がボールを打つ役って演劇をしたいんだ。なぁ、いいだろう?』
『答えは聞かないからねぇッ!?』
ハーデスの格好をした皆が雄二に襲いかかってくる。
「あ、朝っぱからどうして俺はこんな目に遭わないといけないんだぁっ!?」
雄二が逃走し雄二を追う死神軍団。「雄二・・・・・逃がさない」と追う霧島さんの妹。
一部の男子を除いてほとんど女子ばかりになった教室。
「朝から賑やかじゃのぉー」
「そうだね・・・・・って何時の間にかミカン箱が直っている!?」
「む、本当じゃ。何時の間に・・・・・」
「・・・・・摩訶不思議」
でも、これで勉強ができるね。戻ったミカン箱を自由に席を座って
いつも通り過ごす僕ら。
「う~ん、やっと授業が終わったねぇー」
「と言っても、まだ一限目だがな」
「次は合同体育じゃったの」
「・・・・・撮影は任せろ」
ムッツリーニが真剣な面持ちでカメラを構えて
女子の体操着姿を撮る気満々だ。
「雄二の得意なスポーツだといいね」
「おいおい明久。俺が得意なスポーツは不良殺法だとわかって言ってんだよな?」
「当然じゃないか。相手を陥れることも忘れないでよね」
「ふん、当たり前だ俺に任せろ」
「お主らは・・・・・」
何だか秀吉が呆れているけどなんにも問題はないはずだ。
更衣室で着替えてグラウンドへ。
「うわぁ・・・・・」
「なんとまぁ」
「俺達と体育をするクラスって」
「・・・・・S クラス」
よりにもよって、因縁のクラスかぁ・・・・・。なにか起こりそうだ。
「直接選手に攻撃してきそうだよ」
「ああ、可能性はあるな」
「・・・・・闇討ち」
「体育の教師はあの川神の師範代じゃから、そのような真似はしてこないと思うのじゃが?」
「・・・・・警戒はした方がいい」
体育の内容はサッカー。一チーム十一人で男女混合。
だから必然的に選ばれた選手は雄二、僕、秀吉、ムッツリーニ、大和、翔一、ガクト、一子、京、クリス、そしてハーデス。
『・・・・・キーパーは俺がやる』
ハーデスがそう買ってでたけど雄二が首を横に振った。
「いや、お前は戦力になる。だから―――」
『・・・・・お前らが全員あいつらに抜かれた場合のことを考えて言っている。
それにゴールキーパーもボールは蹴れる』
「・・・・・はっ、そういうことか。分かった、お前にキーパーを任せよう」
雄二が野性味がある笑みを浮かべる。
「いいの?ハーデスにも蹴ってもらえば確実に勝てそうなんだけど」
「いや、ある意味ハーデスはキーパーに適している。
寧ろハーデスはキーパーでいなきゃ確実に勝てない」
「どういうことじゃ?」
「始めればわかる。あーあ、Sクラスの奴ら御愁傷様だな」
そう言う割には物凄く底意地の悪い笑みを浮かべているよ。
―――そして、合同体育が始まった。
「よーし、お前ら。作戦を伝えるぞ」
円陣を組んで雄二が顔を突き出す僕らに告げた。
「俺達はただ攻撃だけすればいい」
「・・・・・それだけ?」
「ああ、どんどん攻め込むんだ。俺達は守る必要がない」
「どうしてなのじゃ?攻められたら守らないと困るであろうに」
「ハーデスがゴールキーパーなんだぞ?あいつの身体能力は俺達が熟知している」
それって、責められてもハーデスは守護神のようにゴールを守ってくれるってこと?
「・・・・・適材適所」
「ムッツリーニの言う通りだ。しかもハーデスはとんでもないことをしようとする。
それはあいつらの度肝を抜くほどだ」
「本当に守らなくて良いんだな?」
大和が再確認をすれば雄二が首を縦に振った。
「ああ、俺達はガンガン攻めればいい。守りなんて一切しなくて良い。
例えこの場の全員が抜けられてもだ。無論、作戦は考える。大和と一緒にな」
「分かったわ。守りがいらないならアタシはどんどん進んじゃうわ!」
「俺様も思いっきり蹴ってやる!」
「フィールドの外まで出さないでねガクト」
作戦は簡潔に決めてそれぞれのポジションに移動する。フォワード10人、
ゴールキーパー1人。
「おいおい、なんだそのポジション?ディフェンダーとミッドフィールダーは
いないのかよ?」
「代表の作戦でね。僕らは攻撃あるのみさ」
スキンヘッドの井上君が呆れた表情で僕に言う。
井上君は僕らの配置とゴールキーパーにいるハーデスと交互に見て言う。
「あいつが全部ボールを防ぐから守りは必要ないってか?だけどよ、
そっちが全員来たら誰がキーパーからボールを受け取るんだよ?」
「さあ、それだけは分からないや。でも、雄二とハーデスを信用するだけだよ」
「そうか。まっ、今回ぐらい楽しく運動しようぜ」
「そっちが反則するようなことがなければね」
放しているうちにキックオフ。雄二がムッツリーニにパス。
僕も相手の相手のフィールドエリアに前進する。
「・・・・・加速」
召喚獣の腕輪の能力をリアルにできないからね!?
でも、ムッツリーニは小柄の割には運動神経が凄くて妨害してくる敵をかわしたり
ボールをちょっとだけ上に蹴ってスライディングしてくる敵の上を飛んでかわしては
またボールを蹴るムッツリーニ。
「土屋君!こっち!」
「・・・・・」
一子が手を挙げながらムッツリーニにパスを要求。
でも、すぐに一子は敵に阻まれてしまいパスが貰えなくなってしまった。
ムッツリーニは瞬時に目だけ動かして―――。思いっきり前に蹴った。
敵のフィールドには味方が誰一人もいない。そう思っていると、
綺麗な金髪を棚引かせて駆けるクリスさんがボールを追いかけていく。
「ナイスだ土屋!」
は、速いっ。もうボールに追いついて蹴りながら前進する。
でも、敵のフィールドにはディフェンダーがいる!軍人さんと榊原さんだ。
「お嬢様。ここから先は通しません!」
「そのボールをちょうだーい?」
「マルさんと榊原か・・・・・っ。だが、押し通るっ!」
勇ましくクリスさんが猪突猛進のように真っ直ぐ向かった。二人のディフェンダーの
左右からの妨害にクリスさんは体の向きを後ろに変えてボールを蹴った。
「キャップ!」
「あいよ!」
何時の間にかクリスさんの後ろにいた翔一がボールを受け取ってボールと一緒に
空高く跳んだ。
「俺は風になるぜ!」
「なに・・・・・!?」
「おおー」
二人のディフェンダーを跳び越え、ゴールの目と鼻の先まで移動した。
そしてSクラスのゴールキーパーは
「・・・・・あぁー面倒くせぇな」
何故か面倒くさそうにいる那須与一くんだった。
「与一か!食らえ!」
ほどよい距離から翔一がボールを蹴った。ボールは横の回転をしながらカーブをし、ゴールの端っこに跳んで行く。
「見えるぜ、俺の領域を」
翔一のシュートは難なくボールの軌道を読んだ与一に防がれた。
「だぁー、与一がゴールキーパーなんてゴールを入れることが難しいじゃねぇかよ」
「残念だったな。本当ならあの軍人にやってもらう予定だったんだがよ・・・・・」
「どうしたんだ?」
「・・・・・体育の授業を受けないと姐御に折檻されるんだよ」
「お前、苦労してんなぁー」
ボールを受け止められたから今度は相手の攻撃。雄二が言うには抜かれたら
守らなくて良いとは言っていたけどどうするんだろう?そう思いながらもボールを
蹴る榊原さんに妨害を仕掛ける。
「あはは♪それじゃあボールは取れないよー?」
軽やかに僕の動きを見切られた上に避けられた。他の皆も榊原さんからボールを奪おうとするけれど、踊るように動き回る榊原さんからボールを奪われないままあっというまにハーデスと一対一の勝負に・・・・・。
「てりゃああっ!」
ボールは爆発的な脚力で蹴られてハーデスの右側に向かった。―――ボールはそのまま
ゴール内に入るかと思ったら、あっという間に右へ移動したハーデスが
片手でボールを受け止めた。流石だね!僕は信じていたよハーデス!
「お前ら!ラインぎりぎりまで移動しろ!」
突然の雄二の催促。へ?どうしてそこまで移動しなきゃならないの?
雄二に振り向いて疑問をぶつけようと口を開けた瞬間。
―――ゴウッッッ!
と、まるで激しい突風が吹いたような音と凄まじい風・・・・・いや、衝撃波?
みたいなものに僕は吹っ飛ばされた。グラウンドの地面に転がったまま僕は
突風が過ぎ去った方へ視線を送ると・・・・・。
「・・・・・」
那須与一くんが目を丸くしてただ呆然と佇んでいた。
しかも・・・・・ボールを入れることで晴れて得点が入るゴールのネットに穴が
空いていて、肝心のボールは学校の敷地内にある建物の壁にめり込んでいた。
「・・・・・まさか、雄二が言っていたのってこのこと?」
ハーデスがとんでもないことをするって言っていた理由が・・・・・良く分かった。
『ちょっ、審判!ゴールキーパーがボールをゴールまで蹴っていいんですかっ!?』
『うーん、正式なサッカーの競技ルールには今の行動に関する判定が記されていないからネ。
それにゴールキーパーからのキックオフも許されているし、
特に反則じゃないから構わないヨ』
『あんなボールは誰も防ぐこともゴールキーパーが守ることもできない
危険なシュートじゃないですか!』
『ふむ、それもそうだネ。おーい、死神君。もっと威力を弱めないとイエローカードだヨー』
『・・・・・了解した』
審判とSクラスの話でハーデスはさっきのシュートの威力を弱めることになった。
でも・・・・・。
―――ゴウッッ!
確かに威力は弱まっている感じはした。吹っ飛ばされなくなったし、
ボールは那須与一君がキャッチしてゴールの中に吹っ飛んだ程度に。
『『『ちょっと待てぇー!?審判、あれはいいんですか!ゴールキーパーが
保険室行きになっちゃいましたけど!?』』』
『ちゃんとゴールキーパーがボールを受け止めれるぐらい弱まっているヨ。
あれなら英雄のクローン達でも受け止めれるはずダ』
あんなボール・・・・・誰が好んで身体を使って受け止めがたる人が
いるんだろうか・・・・・。
「くくく・・・・・ハーデスがこうする事を予想していたが、実際に見ると愉快だな」
「・・・・・レーザービーム」
「攻撃でも守備でも、ハーデスは凄いのぅ・・・・・」
「あんなボール。ガクトでも止められないんじゃない?」
「俺様だってあんな豪快なボールを受け止めたくはないっての!」
「あいつ、敵だったら俺達もSクラスのようになっていただろうな・・・・・」
「味方で良かったが・・・・・複雑だ」
「直接ゴールキーパーが相手ゴールにいれる瞬間は初めて見たぞ」
味方がハーデスの蹴りに感嘆したり驚嘆したりと話し合う。
結局、今回の体育の授業はFクラスが勝って9割がハーデス、1割が僕らが得点を
増やした。でも、その後ハーデスは二度とゴールキーパーをしてはならないという
体育の先生から注意を受けたのは別の話しだよ。それってディフェンスでも
変わらないような気もするけどね・・・・・。
―――☆☆☆―――
「見ていたよ死神君。凄いねぇ、ゴールからボールを蹴ってゴールに入れるなんてさ。
しかも負傷者を何人か出したんだってね?」
『・・・・・あれでも威力を弱めたんだけどな・・・・・加減難しい』
「お主を蹴らすとボールが殺人球になってしまうのぉ・・・・・」
「ボールだけ限らず球技系全般じゃない?バスケットは別として」
「死神君って意外と不器用なところがあったんだね。可愛いや♪」
「・・・・・意外」
代表が死神をAクラスに呼んで一緒に昼食をしようと提案した。でも、死神の他にも
秀吉や先輩の松永さんもついてきて一緒に食べることに。まあ、別に断る理由もない
からいいけど。Aクラスの皆もFクラスを少し見直しているし、
Fクラスの主力メンバーが遊びに来ても誰も咎めない。
特に死神は何度もアタシ達を助けてくれた。
「死神君。もしもボク達と合同授業するようなことになったら、かなり手加減してね?」
『・・・・・努力する』
その時は球技系じゃなくて徒競走みたいな授業が好ましいわ。被害が遭わなくて済むし。
まあ、死神がダントツ一位でしょうけどね。
「勉強も出来て料理もできて、スポーツもできて死神君は女子の理想の男の子だねん。
弱点とかないんじゃない?」
「大きな声では言えないが、蒼天の王様じゃしの」
「・・・・・実力もかなり強い」
皆が死神を参照する。そうね・・・・・小説や漫画も描くほど文才や絵の才能も
あるわけよね。
『・・・・・俺は完璧超人じゃないぞ』
「またまたぁ~謙遜しちゃってー」
『・・・・・俺だって弱点があるし、俺より強い奴はいる』
・・・・・弱点か。死神に弱点があるなら知りたいわね。
そこを何時しか攻めてやるんだから。
「ほほう?死神君の弱点はなんなのか教えてもらおうかしら?」
「気になるのー」
早速聞き始めたわね。でも、応えてくれるのかしら?
『・・・・・ジャンケンで勝った奴だけ教える。他の奴に教えたらお仕置きだ。
それでもいいならジャンケンをしよう』
「乗った!よし、じゃあボクからね。ジャーンケーンポンッ」
死神がグー、愛子はチョキ。負けたわね。
「ではワシも。ジャーンケーンポンじゃ」
死神がチョキ、秀吉がパー。だらしないわね。
「今度は私だね。はい、ジャーンケーンポンッ!」
死神がパー、松永先輩がグー。これで死神の三連勝・・・・・。
「・・・・・ジャーンケーンポン」
死神がグー、代表もグー。ここで初めてあいこになったわ。
「・・・・・あーいこでしょー」
死神がチョキ、代表はパー。ああ、惜しいっ。
「・・・・・残念。次は優子」
「え?アタシ?」
『・・・・・知りたくないならいいぞ』
む、はぶられる感じは嫌いなのよね。いいわ、やってやろうじゃないの。
深呼吸をしてから死神に挑んだ。
「最初はグー、ジャンケンポンッ!」
死神がグーでアタシは・・・・・パー。
『・・・・・負けた』
「やったぁっー!」
どんなものよっ!初めて死神に勝ってやったわよ!皆から羨望の眼差しを浴びる中、
死神がアタシに近づいてきて口元のマスクを外すと耳元でハーデスの弱点を教えてくれた。
「・・・・・」
その弱点は・・・・・なんというか・・・・・うん。
「死神、意外と子供っぽいのね」
『・・・・・うるさい』
あっ、ふてくされた。だけど・・・・・死神の弱点がまさか・・・・・。
―――お前らと過ごす時間が無くなることだ。
アタシ達と過ごす時間を失いたくないって・・・・・死神、それって別に弱点じゃなくて願いの間違いじゃないかしら?でも・・・・・アタシ達のことをそう思ってくれているという気持ちはアタシだけしか知らない。
それは何故だか・・・・・とても優越感が湧きあがって自然と口が緩んで嬉しくてしょうがない自分がいる。
「ふふっ!」
つい笑みを漏らしてしまった。だからだろう、過激に反応する友達と弟に先輩。
「あー、なになに優子。死神君の弱点はそんなに面白いの?聞きたいなぁー?」
「・・・・・優子、教えて」
「姉上、ワシも教えてほしいのじゃ」
「先輩の私にも教えてくれると嬉しいかなー?」
愛子達がアタシに群がる。あーもう、絶対に教えないわ。これはアタシだけ唯一、
今の死神の気持ちを知っていることなんだから教えない!
『ハァイエブリバディ、皆にとって楽しみのイベントの一つがもうすぐ迫っているね。
今週もラジオ番組LOVEかわかみが始まるよー。パーソナリティは俺ハゲこと井上準と』
『美少女らしく武器は拳の川神百代と』
『新野すみれです。みんな、今日も聞いてくださいねー』
『可愛いなぁーすみれちゃん。どうだ?放課後お姉さんと一緒にデートしないか?』
『奢らされるだけですのでご遠慮させていただきます』
『おおう、ズバッ!と綺麗に断われちゃったぞハゲ』
『いやぁー誰彼構わず金銭を借りているモモ先輩ですからねぇ。
因みに俺が貸した三千円の返してもらう期限が迫っているんですが?』
『さぁーて、話はここまでにして皆から送ってもらったお便りを読もうじゃないか!』
『ちょっと、話を無理矢理変えないでくださいよぉ!
まぁいいや。前置きは飛ばして読みますね。
「こんちには。いつもラジオ番組を楽しく聞かせてもらっています。
ここで素朴な疑問を解消してもらいたくメールを送りました」だってさ』
『女子の悩みごとだったら遠慮なく私に相談してくれ。
その後は布団の中で語ろうじゃないか』
『「最近というより、今年に入って間もなくした頃に死神の格好をした人が登校する
ようになったのですが、中身は男の子ですか?それとも女の子ですか?
気になって眠れずおかげで体重が三キロ減りました」だってよ』
『体重が三キロ減ったことに関してはそれほど悩んでいるということだな?
まあ、弟達の話じゃあ死神の格好をした奴は男だ。
だけど、あいつの性別なんてもうこの学校の奴らは気付いているんじゃないか?』
『死神と接点がない人にとって気になる質問の一つじゃないですかねぇ』
『次は私が読みますね。「単刀直入にお聞きします。二年S組をたった一人で倒した
死神とモモ先輩。どっちが強いんですか?実際に戦っている光景を見てみたいと思います」』
『ほう、そんな質問か。だが安心しろ。皆の期待通り無論この私が強い!』
『死神も弱いとは思えないって。今日の合同体育なんてあの死神、
ゴールから相手ゴールまでボールを蹴ったほどだしな。
あれを食らったクラスメートは全員保険室行きだったし。
その中に那須与一も含まれている』
『ええっ、そうだったんですか?』
『どんだけバカ力な蹴り方をしたんだ?』
『モモ先輩もできそうな気がしますけどねぇー?』
『まあ、死神の奴と戦いたい気持ちはあるがアイツ逃げてばっかりだから強いのか
弱いのか微妙なんだよ』
『他にも死神さんと百代先輩がどっちが強いのか気になるってお便りが殆どですが、
ここはハッキリ実力を示してはいかがですか?』
『あいつが戦うって言うなら私は何時でもどこでも挑戦を受けてたつ』
と―――そんなラジオ番組だった。
「だってさ死神君」
「・・・・・死神が強い」
「ワシもそう思うのじゃ」
「そうね・・・・・アタシも同感だわ」
死神が川神先輩に劣っているとは思えない。この場で松永先輩以外のアタシ達は
知ってる。死神は人間ではないことを。勿論、自慢気に話すつもりはない。
「で、死神君。川神先輩と戦う気は?」
『・・・・・面倒』
戦う気がないようだ死神は。無理して戦う理由もないからでしょうし、
仮に川神先輩に勝ったら勝ったで周りから注目の的になるだけ。最悪、川神先輩の
ファンクラブに敵意を向けられる可能性もあるしそれらを考慮しての否定かしらね。
『あ、さらにこんなお便りが「川神先輩!あのムカつく死神を是非ともぶん殴って
倒してください!お礼として死神・ハーデスを復讐をし隊会から十万円を提供します!」・・・・・とまるで賞金首みたいな扱いになっていますねぇ』
『おいおい、心当たりがありすぎるってこんなメールを送ってかけた連中を』
『よぉーし、死神と勝負しようじゃないか!』
『『えええぇぇぇぇっ!?』』
『死神!聞いているだろう。お姉さんと熱い勝負をしよう!
放課後、第一グラウンドで待っているからなぁー?』
・・・・・武神がお金につられている。
「も、百代ちゃん・・・・・」
「ハーデス、どうするのじゃ?」
『・・・・・駄神の相手なんてしたくない』
気持ちは変わらないようね。
『因みに、逃げたら家まで押し掛けるからな』
『・・・・・あの金の亡者に恐ろしいものを見せてやる』
避けられない戦いだと悟る死神。しかもなんだか怒っているっぽい。
放課後、ハーデスはグラウンドで川神百代と対峙している。片や金に目が繰らんで、
片やはた迷惑な上級生に腹が立って両者は戦いをしようとしていた。
多くのギャラリーは遠巻きでどっちが勝つのか秘密裏で掛け金をしていた。
そんなこと走らない二人は、川神鉄心の試合開始の宣言によって激突した。
「今度は逃げるなよ、死神!」
『・・・・・』
両腕を広げるハーデスに警戒した。すると、急に外が暗くなった。
まだ青空が見える時間帯なのにだ。暗くなったグラウンドにポッポッポッポッと火の玉
が発現しますますハーデスが何をしようとするのか訝しむ川神百代。
火の玉がゆらゆらと揺らめき、拳がハーデスの仮面にぶつかる直後―――。
『ウ~ラ~メ~シ~ヤ~』
ヒュードロドロと擬音が聴こえてもおかしくないぐらい、亡霊の軍団が出現した。
同時にハーデスをすり抜けて攻撃が当たらなかった。
「お、おば・・・・・け?」
愕然と目を大きく開く。次第に心に恐怖感が芽生え・・・・・。
『ウ~ラ~メ~シ~ヤ~』
迫り来る亡霊の軍団に川神百代は我を失うほど
「う、うあああああっ!お、おばけぇええええ!」
叫びながら亡霊の軍団に攻撃をし始めた。しかし、攻撃は当たらず目の前の敵は自分の
攻撃が効かないことを本能的に思い知らされて恐怖に心を奪われた川神百代が、
「ごめんなさいッ!私の敗けでいいから消えてくれ!
もう誰からも金を借りないでいるからさぁー!」
と泣きわめいた。それを聞いたハーデスがパチンと指を弾いた途端に亡霊達は消失し、
川神百代は戦意喪失であることを認知した川神鉄心は宣言した。
「勝者、死神・ハーデス!」
あの川神百代が自ら敗北した。しかもお化けが怖いことを知ったギャラリー。
ある者は幻滅、ある者はこれをネタにしようとし、ある者はハーデスに敵意を抱いた。
両者に対する感情はあまり良くないのばかりであった。
『・・・・・恐怖に打ち勝てなかったか、百代』
「ワン子、モモ先輩は?」
「・・・・・負けたことよりもお化けが怖すぎたせいで精神が不安定な状態よ」
「・・・・・そう」
「お姉様、しばらくは学校を休むことになりそう」
ワン子が落ち込んだ表情を浮かべる。
あいつ、どうして姉さんが幽霊が苦手であることを知ったんだ・・・・・。
「あいつ、許せない」
「ああ、俺様も同感だぜ」
「うん、僕もだよ。あいつ、この世から消えちゃってくれないかな」
「まぁー、なんだ。俺も流石にやりすぎだって思うぜ」
クリスとワン子以外のファミリーがハーデスに対する怒りを覚えている。
「クリス、お前はなにも思わないのか?」
「モモ先輩が精神が不安定にまで追い込んだことには怒りを覚えているが?」
「いや、冷静だったんでなにも思っていないのかと」
「別に憎むほど死神のことを思っていないだけだ。それにモモ先輩は強い。
しばらく私達が話し掛け続けば落ち着きを取り戻すはずだ」
冷静にクリスはそう言った。
「それに人は誰でも怖がるものがある。モモ先輩はお化けが怖いことは
お前達は知っていたはずだ」
「それは・・・・・」
「正々堂々と勝負をしていないから認めないが、死神は相手の弱点を突いて勝利した。
ただそれだけのことじゃないか?」
俺達はなにも言えなかった。クリスの指摘は間違いはない。
「クリスって何かハーデスに肩入れしていない?」
「むっ?私は現状とモモ先輩の強さを指摘しただけだが・・・・・?
別に死神の味方というわけでもないぞ」
「それにしてちゃ、怒っているようにもみえないケド」
「冷静になっているだけだ。全員が怒りや憎しみでいれば自己判断ができず
周りの気を配れないだろう」
「・・・・・大切な人を失った気持ちやまだファミリーになって日が浅いから
モモ先輩が傷ついても平気で冷静にいられる。だから私達の気持ちが理解出来ていないんだね」
「京・・・・・、私が本当にそんな気持ちでいると思っているのか?」
「・・・・・違う?」
まずい・・・・・!この流れは・・・・・!
「おい、京。それ以上は―――」
「クリスって仲間に対する思いが空っぽだよね。それになんだか冷たいよ?」
「・・・・・っ」
京の冷たい発言に青い目を丸くしたと思えば、
パァーンッ!
クリスが京の頬を叩いた。
「ふざけるなっ・・・・・!」
青い瞳から涙を流すクリス。その瞳の奥に悲哀、怒りが籠っている。
「私が薄情者だと・・・・・?私は私までが怒りや憎しみでいれば誰が怒りや
悲しみ憎しみを抱いているお前達を励まし、慰め、叱咤するんだ。
お前達がそれでは旅人がどう思うんだ!」
叱咤してくるクリスの発言に誰よりも早く京が目を大きく見開き、食って掛かった。
「旅人さんのことを知らないくせに、叱咤風に言うな!」
クリス、ここにいない後輩以外旅人さんを知っているのは俺達だ。旅人さんを
知っている俺達だからこそ、旅人と出会っていないクリスに言えることだと思った。
「―――知っている!」
そう思った。けど、クリスが旅人さんを知っているという。・・・・・なんだと、
どういうことだ?彼女は一言も旅人さんのことを言っていなかったじゃないか。
「お前達ほど長い付き合いではないが、私も旅人と接したことがある。
あの人はまるで大地のように心が広く、太陽のように温かく優しい人だった。
私が世界で一番尊敬、敬愛する人はあの人で三人目だ」
「クリス・・・・・お前」
「あの人はこんなことを言った」
『何かに対し怒りや憎しみ悲しむことは悪い訳じゃないが、そいつらを支える存在が
必要不可欠なんだ。もしも止められなかったら力尽くでも倒して止めろ。そうすれば
きっと止めてくれた存在の気持ちを理解し気づいてもらえる』
旅人が・・・・・そんなことを・・・・・っ。
「今のお前達はあの人の言っていた通りの感情になっているからこそ私はお前達の
友人として支えていきたいんだ!皆が冷静じゃなかったら、誰が止めてくれるのだ!?
もう、旅人はこの世にはいないんだぞ!」
『『『・・・・・っ』』』
「・・・・・私は先に帰る。学校でもしばらくは一人にしてくれ」
俺達からいなくなるクリス・・・・・。残った俺達は気まずい雰囲気に包まれた。
「クリス・・・・・旅人さんみたいだったね」
「全然ちがうけどよ、何かそんな感じがしたな」
「あはは、なんだか旅人さんに叱られた気分だわ」
「怒られた時はめっちゃくちゃ怖かったけどな」
・・・・・旅人さん、死んでも俺達を叱るのかよ。それじゃ全然成長していないよう
じゃんか俺達。これでも子供の頃よりは成長しているんだぞこんちくしょう。
「・・・・・ねえ、ハーデスに謝らない?」
「んだな」
「殺したって言ってたけどよ。やっぱ心が受け入れないや」
「あの人が簡単に死ぬと思えないしね」
「・・・・・」
京だけなにも口にしない。クリスの言葉をどう思っているのか分からないが
これはわかる。旅人さんの言葉で少なくとも冷静を取り戻している。