「おーい!誰かそこの釘を取ってくれー!」
「暗幕足りないぞ!体育館から引っぺがしてこい!」
「ねぇ、ここの装飾って涸れ井戸だけでいいのー?」
「これはまた、凄い騒ぎじゃな」
「うん。雄二が鉄人の補習をサボるために本気で手を回していたからね」
翌日、神月学園の新校舎3Fは肝試しの為の改装作業で大いに賑わっていた。
「それにしても、まさかSクラスまで協力してくれるとは思わなかったよ」
肝試しの会場に使う教室はS~Dクラスのものだ。せっかくやるなら、広さがあって
涼しさを演出できる教室を、という理由で提案してみたんだけど、
本当に教室を使わせてくれるとは思わなかった。
「Sクラスはハーデスが九鬼に頼んだらあっさりと了承してくれたそうじゃぞ」
「英雄がハーデスの言うことを聞くってどうなってんだ?」
「さあ、でもいいんじゃない?二学年が一つになったって思えば楽しいよ」
僕は朗らかに笑う。大和は顎に手をやって悩む仕草をするけど、今は良いじゃないか。
「Sクラスと揉め事にならなければいいんだがな」
「仮にそうなったらハーデスに全て任せよう」
「他力本願だな明久」
「じゃあ、大和よろしくね」
「ハーデスに任せよう」
キミだってそうじゃないか。
「しっかし、肝試しか・・・・・」
「何か思い出とかあるの?」
大和が懐かしそうに、遠い目で言ったので尋ねた。
「ああ、昔な。ある時、旅人さんは俺達をどこか暗い山の中に連れて肝試しをしようって
言いだしたんだ。人数も多かったから3人1組で山の頂上にある寺から赤いお守りを
持ってくるようにって言ってさ」
「王道的な肝試しだね」
「そうだな。で、俺とキャップ、ワン子と組んで山の頂上にランタンを持って向かった。
山を登って10分ぐらいだったかな?そこでとある少女がいたんだ」
とある少女?暗い山の中にいたなんて不思議だな。
「迷子かな?って思って声を掛けたんだ。すると、こっちに振り向いた瞬間・・・・・」
『ねぇ・・・・・そのお顔ぉ・・・・・ちょうだぁぁぁい・・・・・・?』
「その少女がそう言いながら、まるで卵のように顔が無い顔をこっちに向けてきたんだ」
「「きゃあああああああああああああああああっ!」」
姫路さんと島田さんが悲鳴を上げた。
「俺達はそれはもう驚いた。急いで山を登ってお守りを取りに行こうと駈け出したほどだ。
だけど、その少女が両腕を真っ直ぐ俺達に向けて追いかけて来たんだ」
『あははは!あはははは!あははは!』
「って、高らかに笑いながら追いかけられたあの日は・・・・・物凄く怖かった。
口が無いのにどうやって笑ったのか考えたくもなかった」
「止めて!もうそれ以上怖い話しは止めて!」
「お願いします!もう聞きたくもありません!」
姫路さんと島田さんが恐怖のあまりに僕に抱きついて、
頸椎や腰骨に深刻なダメージで僕は恐怖とは別の意味で悲鳴を上げた。
「ふ、二人とも・・・・・大和の怖い話しは昔のことだから、
離れて・・・・・くれないかな?」
安心させるために微笑みを作りながら二人に話しかける。
ここで解放してもらえないと僕の命に関わる。
『・・・・・』
ふと、何時の間にかハーデスが現れた。
「「きゃぁああああーっ!」」
ああ、骸骨の仮面を見て、驚いちゃったんだね。
『・・・・・吉井明久に近づくなと言ったはず』
僕から強引に島田さんと姫路さんを引き剥がして、無造作に放り投げた。
『・・・・・』
僕の胸に手を押し付けてくるハーデス。すると、ハーデスの手が淡く光って僕の全身に
水の波紋のように何度も広がる。あ・・・・・痛みが無くなっていく。
『・・・・・骨にダメージがあった。これで大丈夫だろう』
「あ、うん。ありがとう」
一体どうやって治してくれたのか分からない。だけど、痛みが無くなったのは事実で
ハーデスに感謝の言葉を述べた。
「・・・・・ハーデス、明久」
『・・・・・?』
「なに?」
「・・・・・向こうのロッカーを動かして欲しい」
ムッツリーニがAクラスの教室の隅に置いてある二つの大きなロッカーを指差した。
さすがはAクラス。鍵といい収納スペースといい、僕らのものとは比べようもないほど
立派なロッカーだ。あれを人の力で動かすのは―――。
ガタッ(ハーデスがロッカーを片手で軽々と持ち上げる音)
「ええええええええええっ!?」
「・・・・・バカ力」
向こうに持っていくハーデスにムッツリーニと僕は驚愕した。
他の皆もそんなハーデスに目を丸くしている。
「・・・・・男らしいのじゃ」
「俺様のことか?」
「ガクト、ボケなくていいから」
って、僕も運ばないと。
「それじゃ、召喚許可を」
「・・・・・もう頼んである」
ムッツリーニの後ろの方に世界史の田中先生の姿が見えた。こう言う雑用の時だと
先生の許可もスムーズで助かる。
「オッケー。んじゃ、
床に幾何学的な模様が描かれて、姿を改めた僕の召喚獣が姿を現す。
今までの召喚獣と違って手足が長いからこういった作業の時は便利かもしれない。
のっしのっしと召喚獣が動かして目的のロッカーの前に立たせる。
ハーデスが持っていた場所へ向かうため、指示を受けた召喚獣がロッカーに手をかけた時、
コロリと頭が外れてしまった。僕の召喚獣はデュラハンで頭が無い=バカという本質だ。
くそっ、やっぱり解せんっ。
「頭が外れちゃうのは不便だな」
「・・・・・ガムテープで固定するとか?」
「う~ん・・・・・。ハーデスに運んでもらう手もあるけど、
このぐらいは僕もやらないといけないと思うし・・・・・このままでいいや」
システムの調整が終わったら召喚獣は元に戻されちゃうだろうから、
今しか味わえないこの感覚を楽しむことにしよう。
「じゃあ動かすよ。―――よいしょっと」
頭を床に転がしておいて両手でガッシリとロッカーを掴ませる。
人の何倍もの力を持つ召喚獣はその重たげなロッカーを抱え上げた。後は
このロッカーをハーデスのところに持って行って―――痛ぁっ!何!?突然頭に激痛が!
「ブタ野郎のクセにお姉様の抱擁を受けた罰・・・・・死して償うのです・・・・・!」
見てみると、僕の召喚獣の頭を清水さんが思いっきり踏みつけていた。
なんて酷いことをしてくれるんだ!
と言っても召喚獣にロッカーを抱えさせている今、頭を取り戻すのは難しい、
召喚獣は手が塞がっているし、召喚獣に指示を出している間は僕自身が動くのも厳しい。
なんとかしないと、と思っていると、そこに仲間達が助けに来てくれた。
「清水!吉井の頭を渡すんだ!」
「す、須川君、それに皆・・・・・!ありがとう、助かるよ!」
清水さんの前に須川君やFクラスの皆が立ちはだかる。これは嬉しい。やっぱり持つべき者は友達だ。
「邪魔をしないで下さい。このブタ野郎にはお仕置きが必要なんです」
「いいからそれを寄こすんだ!」
「そうだ!吉井の頭を渡せ!」
「それはお前には預けておけねぇ!」
Fクラスの皆が口々に言い放つ。
『俺達が本物の苛めを見せてやる!』
え?そういうことなの?
「分かりました。そういうことならこのブタ野郎の頭を渡しましょう」
「ちょっと待って!渡しちゃダメだよ清水さん!」
「感謝するぞ清水。それじゃ行くぞ皆!女子に抱きつかれた裏切り者への、血の制裁だ!
『
召喚フィールド内に須川君達の召喚獣の本質=腐った根性を持つゾンビが溢れ出る。
「パス行くぞー。おらぁっ!」
「あがぁっ」
「ナイスパース。くたばれクソ野郎が・・・・・!どりゃぁっ!」
「ふぎゃぁっ」
「オッケー!シュートぉっ!」
「うぐぁっ」
デュラハンの頭でゾンビがサッカー。これは一体どこの地獄絵図だろう。
さっきは清水さん本人に踏まれていただけだったからまだマシだったけど、
人よりもずっとりからのある召喚獣に攻撃されていると酷く痛い。
誰か・・・・・助け・・・・・。そう心の中で懇願した時、
赤い巨大な生物がゾンビの群れに乱入して、僕の召喚獣の頭を確保してくれた。
「し、死神!」
『・・・・・』
ハーデスの召喚獣の本質=力の塊。真紅のドラゴンが口を大きく開けて、
ゾンビ達に向けて灼熱の火炎を吐いた。瞬く間にゾンビ達は塵と化となり―――。
「0点になって戦死者は補習っ!」
『な、嘘だろぉぉおおおおおおおおおおっ!?』
須川君達が神出鬼没に登場した鉄人に纏めて連れて行かれた。
『・・・・・大丈夫か?』
「ハーデス・・・・・ありがとう」
『・・・・・白金の腕輪の機能
・・・・・あっ、その手があったか!
「うん、次からそうするよ」
ドラゴンから頭を受け取る。なんてシチュエーションなんだろうか。
「おのれ、死神!美春の邪魔をしないでください!」
『・・・・・嫉妬で暴力なんて、島田と姫路と同じ思考だな』
「「なんですってっ!?」」
あっ、島田さんと姫路さん。
「ちょっと、ウチと美春を同列にしないでよ!ウチが嫉妬で暴力なんてした覚えはないわよ!」
「そうです!」
『・・・・・恋は盲目ってやつか。言いたいことがあるなら召喚獣同士の対決でケリをつけていいが?』
「「うっ・・・・・」」
ハーデスの意見にあの二人は口を噤んだ。島田さんの場合は点数が低く、ハーデスに敵うわけがない。
姫路さんの場合は姫路さんの本質で、召喚獣があんな恥ずかしい格好だから
おいそれと喚び出したくないからだろう。
「ひ、卑怯よ!自分の点数が高いからって模擬試召戦争しようなんて!」
『・・・・・弱い奴はよく吠える。口を動かす暇があるなら手を動かせ、召喚獣が壁な女子高生』
「な、なんですってぇぇっ・・・・・!」
「お姉様のおくゆかしい胸を侮辱するとは許し難いです!」
清水さんが召喚獣を喚び出した。―――だけど、
グシャッ!(清水さんの召喚獣がドラゴンに踏み潰された音)
「戦死者は補習っ!」
「覚えていなさい死神!絶対にあなたを殺して―――――!」
鉄人に担がれて連行されていく清水さんだった。島田さんは清水さんの二の舞になると悟るや悔しい面持ちで姫路さんと手を動かし始めた。
「お前の召喚獣、大きいから少し邪魔になってね?」
今更ながらガクトがそう言う。ハーデスは自分の召喚獣を見上げるなり、
『・・・・・変化』
ハーデスの召喚獣の腕に嵌っている金色の腕輪が発動した。召喚獣は光に包まれて
見る見るうちに小さくなって、龍を模した赤い全身鎧の人型となった。
「おっ。意外と格好良いじゃん」
「へぇー。なんだかRPGに登場しそうなキャラクターだね」
「格好良いのじゃ」
あっという間にハーデスの召喚獣を見に集まったその時。
『お前らうるせぇんだよ!』
3階ではあまり見ない人達が大声で怒鳴りこんできた。何人か知った顔があるけど・・・・・確かあの人達って三年生だったような・・・・・?
ガシッ!(ハーデスとハーデスの召喚獣が三年生達を掴む音)
ポイッ(廊下へゴミのように放り投げる音)
ガチャ(Aクラスの扉を閉めた音)
『・・・・・ゴミを片付けた』
「お、おう・・・・・ご苦労だった」
見事な召喚獣との連係プレー。でも、扉からドンドンと何度も五月蠅く叩く音が
するけど・・・・・無視していいんだろうか?叫び声も聞こえるし。
「ハーデス、アレどーすんだ?」
『・・・・・関係者立ち入り禁止』
「・・・・・あくまでも無視する腹かよ」
『貴様ら!さっきから騒がしいのじゃ!猿は猿らしくキーキーと鳴きながら帰るのじゃ!』
『んだとぉっ!?後輩のくせに生意気な!』
『此方を不死川家の者と知っての上での発言じゃろうな?此方がその気になれば
貴様らのような山猿共を路頭に彷徨わせることも可能なのじゃぞ?』
『・・・・・三大名家の奴かよ。クソッ!』
『にょほほほほ♪ほれほれ、さっさと自分の山に帰るがよいのじゃ。
こっちは訳の分らぬゲームの準備で忙しいのじゃ。山猿共に構っている暇はないのじゃからの』
『ちっ・・・・・!』
どうやらSクラスの人が追っ払ってくれたようだ。こう言う時はありがたいね。
「なるほど・・・・・そういうことだったのか」
「すぐ傍にはSクラスの教室だ。あんだけ騒いでいれば気付くに決まっている」
「腹黒い奴だなハーデス」
『・・・・・坂本には負ける』
「はっ!知略が富んだと受け取らせてもらうぜ」
それから須川君達が補習室に連れて行かれてしまったせいで人数が減ったけど、そこは
ハーデスが人の何倍も動いてくれて無事に肝試しを用いる装飾が完成したのだった。
ピポパポ―ン《2-Fクラスの坂本雄二君。至急、学園長室にまで赴いてください。
繰り返します。2-Fクラスの坂本雄二君。至急、学園長室にまで―――――》
「あ?俺だと?」
「雄二、何か悪いことをしたの?」
「鉄人の私物を売ったお前じゃあるまいし。
たくっ、あのババァは俺を呼ぶぐらいなら自分でこっちにこいってんだよ」
愚痴を零しながら雄二はAクラスからいなくなった。
「なんだろうね?」
「多分、肝試しのことだろうな」
細かなルールでも話し合うのだろうか?まあ、こう言うことは雄二に任せて―――。
「僕達も働こう」
「おっまたせー!」
お昼休みと成り屋上で食べる僕らに明るい声が耳に入ってくる。あ、松永先輩だ。
「そう言えば坂本。学園長に呼ばれた理由はなんだ?」
松永先輩も輪の中に入れた時、大和が素朴な疑問を雄二にぶつけた。
僕もそのことが気になっていたから同意と首を縦に振った。
「ああ、肝試しの件でな。学年対抗肝試し大会にやることとなった」
学年対抗肝試し大会・・・・・?
「学年対抗って・・・・・僕ら二年生と誰と勝負するのさ?」
「三年生だ。しかも相手はAクラス」
「なんでまたそんなことになった?」
「俺が知りてーよ。ババァが驚かす側と驚かされる側、挑戦者を勝手に決めて俺達が
驚かされる側になったんだ」
学園長の考えることも分からなくなったな・・・・・。
「んで、ルールは?」
「ああ、こんな感じだ」
①二人一組での行動が必須。一人だけになった場合のチェックポイント通過は認めない。
※一人になっても失格ではない。
②一人の内のどちらかが悲鳴をあげてしまったら、両者とも失格とする。
③チェックポイントはS~Dの各クラスに一人ずつ。合計五箇所とする。
④チェックポイントでは各ポイントを守る代表者二名(クラス代表でなくとも可)と召喚獣で
勝負する。撃破でチェックポイント通過扱いとなる。
⑤一組でもチェックポイントを全て通過できれば驚かされる側、通過者を一組も出さなければ
驚かす側の勝利とする。
⑥驚かす側の一般生徒は召喚獣でのバトルは認めない。あくまでも驚かすだけとする。
⑦召喚時に必要となる教師は各クラスに一名ずつ配置する。
⑧通過の確認用として驚かされる側はカメラを携帯する。
⑨驚かす側、驚かされる側の者は設備への手出しを禁止する。
「へぇ~。結構凝ったルールだね。面白そうだよ」
「じゃが、どうやって悲鳴をあげた者の失格を決めるのじゃ?」
「そこは声の大きさで判別する。カメラを携帯させるわけだし、そこから拾う音声が
一定値を超えたら失格ってことにする予定だ」
「そんなことできるの?」
「・・・・・問題ない」
カメラと言えばムッツリーニ。下心の為に身につけたその技術に不可能はないだろう。
「二人一組でチェックポイントに行くんだねぇー?」
「ああ、その方が面白味があるだろう?」
「うん!よかったね―――翔花?」
「はっ!?」
今まさに気付いたとばかり、雄二は冷や汗を流し始めた。
「雄二・・・・・一緒にペアを組む」
「じょ、冗談じゃねぇぞ!俺じゃなく他の誰かと組め!」
「一緒にペアを組まなかったら・・・・・婚姻届にサインしてもらう」
「な、なんだとぉっ!?」
ハハハ、雄二。人生の墓場に一直線じゃない?さて、お姉さんの方は?
「・・・・・死神、私と一緒にペアを組まないと正体を明かす」
『・・・・・何て脅迫をするんだお前達姉妹は・・・・・っ!坂本、逃走!』
「ああ!絶対にペアなんて組まないからなぁ!」
雄二とハーデスが屋上からいなくなり、霧島姉妹が二人を追いかけて行く。
「ハーデス、霧島さんのことが嫌いじゃないのにどうして雄二と同じ反応をするのかな?」
「あいつらが言えない事情でもあるんだろう。さて、ハーデスの弁当を俺達が食べようぜ」
「まるで火事場泥棒だよ大和」
「・・・・・同意」