「夏の夜と言ったら祭り!」
「そして町に立ち並ぶ出店!」
「さらに浴衣を着た美少女達!」
「「「いっぱい楽しまなきゃ損!」」」
楽しむ思いは別々だった。
祭が行っている沖縄の夜。僕らは海から離れた町のとある学校を使った臨時駐車場から
歩くこと五分。大きな公園を使った夏祭り会場は大勢の人で賑わっていた。
「あ、あの・・・・・吉井君」
「明久!ドネルケバブがあるわ!あれ、食べましょうよ!」
子供のようにはしゃぎ、僕の手を引っ張ってそんな暖簾を設けている出店へと連れて
行かれる一子も祭りを楽しむ一人だろう。お金が入った財布を片手に出店に並ぶ僕ら。
まだ空いているせいか、直ぐにできたてのドネルケバブを渡された。
「うーん、美味しそうだね。それじゃ早速!」
「お姉さんが食べてやるぞ明久」
「神出鬼没に現れて僕の買った物を食べさせやしませんよ!?」
「ちっ、可愛くない奴め」
つまらなさそうに川神先輩が舌打ちをした。図々しいにもほどがあるんじゃありませんかね。
「自分の金で買って下さい」
「自慢じゃないが、いま私の全財産は―――200円しかないんだ」
「金銭的に考えるとお姉様は明久並みに無駄遣いしているわよねぇ」
200円程度じゃ型取りしかできないんじゃないだろうか・・・・・。
「大和に強請ったらどうなんですか。舎弟、なんでしょ?」
「『明久なら姉さんが抱きしめてやれば喜んで全財産を貢いでくれるぞ』
ってさっきその舎弟に言われたんだ」
「大和ぉっ!僕を売ったなぁっ!?この裏切り者がぁ!」
この近くにはいない友に向かって叫ぶ!おのれ・・・・・っ。自分の私財を守るべく
僕を人柱にしやがって・・・・・!
「ということで・・・・・ほーら、お姉さんが抱きついてやってやるよ」
―――ムニュリ。
「☆☠㌍※§∞ー!?」
か、川神先輩の柔らかい二つの肉まんが僕の背中にダイレクトで伝わって
来たぁぁぁぁあああああああああっ!?な、なんだこの生物兵器は・・・・・!
姫路さんとは違う生物兵器が僕の理性を圧縮してくるぅぅぅっ!
「どうだ?お姉さんにそのケバブをくれるか?」
「う・・・・・ぐっ」
「なんなら・・・・・もっとギュッとしちゃうぞ?」
耳元で色っぽく囁く川神先輩・・・・・・!こ、こんな魅惑的な女性にそう言われて
彼女に従わない男なんて・・・・・。
「ど、どうぞお姉様・・・・・」
「あはっ、ありがとー!」
―――いるわけないじゃないか・・・・・っ。ああ、僕のケバブが川神先輩の口の中へ
豪快に消えていった。
「さーて、今度は誰の食料を寄付されに行こうかなー♪」
川神先輩は満足気にゴミだけを僕に渡して他の皆のところへスキップしながら去っていく。
「あ、明久・・・・・なんだかごめんね?」
「ううん、大丈夫。全ての元凶は大和だから大和にも同じ目に遭わせてやる」
「あはは・・・・・。お手柔らかにね?その代わりだけど、はいこれ。
アタシのと半分こで食べましょ?」
「・・・・・(ぶわっ!)」
「わっ、明久!?いきなり号泣してどうしたのよ!」
「ご、ごめん・・・・・こんなに天使のように優しくされたのはなんだか久し振りでさ・・・・・」
本当・・・・・今の一子は天使のように見えたよ・・・・・。
女子から優しくされたのは本当に久し振り・・・・・。
「も、もう・・・・・大袈裟だなぁ。アタシ達は友達でしょう?ほら、あーん」
「あ、あーん」
一子からケバブを食べさせてもらった。ケバブから溢れる肉汁と香辛料が、
ピリッと辛いチリソースと組み合わさって食欲を刺激する。
口いっぱいに広がる牛肉の味が空っぽの胃袋に沁み渡った。
「うん、美味しいっ」
そして更にこの油っこい味に対してパンとレタスにタマネギなどのさっぱりした
野菜類がまた丁度良い。お肉、野菜、パンを組み合わせて辛めのソースをかけているなんて、
最強の組み合わせだと思う。これを食べていれば暑い夏を乗り切れる為の力が湧いてきそうだ。
お祭りの雰囲気とも相まって、美味しさが倍増だ。あ・・・・・半分以上食べちゃった。
「ごめん一子。つい食べ過ぎちゃった」
「男の子はそれぐらい元気に食べないとね。気にしないわ。他にも色んな出店が売っている料理も食べたいしね。この時の為にバイトをしてお金を溜めたんだから」
「・・・・・心の底からありがとう」
「どう致しまして(笑)。さ、もっといろんなものを食べましょう?」
「うん!」
「・・・・・どうやら明久の奴は調子を取り戻したようだな」
「空元気だったからね。何時もの明久じゃないとなんだか・・・・・ね」
「ワン子と一緒に行動させるってのは正解だったな」
「んで、あの二人と姉はどうすんだ?」
「様子見だな。姉はともかく、あの二人は確かに目に余る。俺達も明久をフォローしてやろうぜ?」
「ってことは・・・・・?」
「もういいんじゃね?明久を風間ファミリーに加えてもさ」
ポンッ コロッ
「うわっ、これで五個連続だよ!」
「・・・・・凄い」
射的屋で景品を次々と当てるハーデス。コルクを詰めた鉄砲を真っ直ぐ景品に突き付け
引き金を引いてコルクを景品に当てる。それを何度も何度も徐々に台からずらして
準備が整えれば景品を落としていく寸法。
最初は中々倒れない景品を果敢に撃ち続けるハーデスを止めるも、
こんな結果を出せばさっきまでのやり方に納得せざるを得ない。
『・・・・・あの指環。狙い撃つ』
赤い目を煌めかせ、鉄砲を一つの景品に突き付ける。引き金を引き、
準備を整えた景品に撃ち放った。
コルクの弾丸は狙いを違わず景品とぶつかり、そのちょっとした反動で台から転げ落ちた。
「ち、ちくしょう!やられた!」
店の責任者が悔しげに漏らした。店の中で高価な物しか落とさなかったハーデスに
恨めしいとばかり睨みながら落とされた景品を渡す。
「凄いね。いっぱいもらっちゃったよ」
「少しは手加減したのよね?」
『・・・・・したつもり』
「ならいいわ」
こっちもこっちで祭りを満喫していたのだった。
「・・・・・自分だけいい思いをして。ハーデス。絶対に許せない・・・・・」
「あの美波ちゃん。あの催しは?」
「ん?ああ、ああれね?―――そうだ、いいこと思いついたわ」
「はい?」
―――☆☆☆―――
夏祭りを堪能し、時間が三十分ぐらい過ぎた頃。
「おい、ハーデス。その景品の山は一体・・・・・」
「死神ったらあらゆる景品を販売しているで店に立ち寄っては景品を手に入れ続けていたのよ」
「・・・・・幸運の持ち主」
「蒼天にいる家族へのプレゼントも含まれているんだよこれ」
身の丈を超えるほどの景品の山・・・・・キャップでもできそうだなこの現状を・・・・・。
「ん?なんか催しがあるみたいだな?」
公園の野外ステージにエスデスが何かの看板を見つけていた。えーっと、なになに・・・・・?
「『納涼、ミス浴衣コンテスト!町一番の夏美人を見つけ出せ!』だって。今日の目玉イベントかな?」
「ミスコンテンストか。面白そうだな」
名前はよく耳にする催しの題名だ。だが、逆に中々目にすることのできない
イベントの一つだ。これは楽しそうだ。
「このお祭りは町興しも兼ねているようですね。色々と手が掛かっているようです」
「凄いわね。浴衣の貸し出しとかもやってるみたいじゃない」
「『・・・・・撮影チャンス』」
「へぇ~。ボク、ミスコンがあるなんて、全然知らなかったよ~」
看板を見ていると皆が集まってくる。皆も興味があったりするようだ。
「モロ、ここはお前の出番だとは思わないか?」
「ガクト。それは一体どういう意味なのか説明・・・・・しなくても分かるから
絶対に僕は出ないからね!?」
「いーじゃんかモロ。キャップの命令としてミスコンに出てみろ!」
「嫌だよ!?僕だけ女装してミスコンに出るなんて絶対にやだよ!
どうせなら明久とか木下君も出たらいいじゃないか!」
「「待て!どうしてそこで
道連れにしようと明久と木下まで巻き込みやがったぞこいつ・・・・・。
下手に喋らない方が身の為か・・・・・。
「あー、そいつも面白そうだな」
「面白くないからね?」
「そうじゃぞ風間よ」
そんな否定的に言う明久と木下に坂本が頭に両手を組んだまま指摘した。
「じゃあ、いっそのことこの三人と女子全員で出場してみたらどうだ?」
「おのれ雄二!自分だけ関係ないとばかりに蚊帳の外に出ようとするな!貴様も参加だ!」
「阿呆言え!この体格で女装なんて無理だろうが!」
「ガクトがそう言うならガクトも出てよね!」
「モロ、このハンサムな俺様に女装は絶対に不可能だからな?」
何だか収拾がつかなくなってきたな・・・・・。ここはさりげなくトイレに行くと言って逃げるか?
「―――そうですね。皆と一緒なら私もいい思い出になると思いますから・・・・・」
不意に姫路の肯定的な言葉がこの場を沈めた。
「姫路、さん?」
「ああ、女子は参加ってことだな?明久、よかったな?」
「良くないよ!僕が参加する前提で話を進めるんじゃない!」
「問題ないだろう?あの清涼祭でチャイナドレスを着たお前の写真の売り上げは
好評だったじゃないか」
「うぐぁー!せっかく忘れていたことを貴様は良くも思い出させたなぁー!?」
それは俺の台詞だぞ明久・・・・・っ。その原因と言えば景品の山をマントの中に
入れ続けている死神の格好をした奴の所為だからな!
「じゃあ、申し込んでみようか。皆可愛いし、きっと勝てると思うわよ。ね、玲さん」
島田が笑みを浮かべながら玲さんにそう言うと、玲さんは笑顔で―――何故か見ている
こちらの背中が寒くなるほどのとびきりの笑顔で、俺達にはっきりとこう告げた。
「はい。出場しましょう。――――――ここにいる全員で――――――」
『散開っ!』
男の俺達は一斉に蜘蛛の子が散らばるようにこの場から駆け走り逃走を図った!
ジャラッ!
が、しかし―――なんだこれは!鎖!?いったい誰が俺の腕を何時の間に縛りあげたんだ!
鎖が繋がっている方へ辿っていけば・・・・・。
『・・・・・』
赤い目を爛々と怪しく輝かせているハーデスが見れば両手で数多の鎖を掴んでいた。
「ハーデス!?お前、血迷ったのか!何を考えている!?」
叫ぶもハーデスが駒のように回り始めたから鎖も引っ張られてしまい、ハーデスのところまで
引き摺られてしまう!俺以外にもこの場から逃げようとした男達がハーデスの鎖に捕まえられていた。
「ハーデス!僕達を強制的に参加させて何が楽しいの!?」
「そうだぜハーデス!お前も参加するんだぞ!?」
『・・・・・大丈夫』
何が大丈夫なんだ。
『・・・・受付で弾かれるのがオチだ』
「・・・・・あ、そっか」
慌てた俺達はバカだった。そうだよな。堂々と男のまま受付で参加しますって現れても
出場させる催しじゃない。
「そ、そうだ!ハーデスの書いてある通りだ!」
坂本もハーデスの書かれたスケッチブックに気付いたようで、島田と姫路、玲さんに指摘した。
「あ。それじゃあ、こうしましょう」
姫路がポンと一つ手を叩いて折衷案を出してくれた。
「用意をして、受付で撥ねられちゃったら私達も諦めます。
でも、そうなければ明久君達はきちんと出場する。そういうことでどうですか?」
言われて考える。常識的に考えて、いくら女装しても男は男だ。木下(秀吉)のような
容姿ではないかぎり受付きの掛かりの人が気付かない訳がない。―――用意をして?
「姫路、何を用意するんだ?浴衣は借りれるが他に用意するものなんてないだろう?」
「ありますよ?カツラとかメイクとか」
メイク・・・・・。―――っ!?まさか、それを担当をするのは木下(秀吉)か!?
あいつ、演劇のホープと言われている。メイクも演劇の技術でもあるから
手加減なんてするわけがない・・・・・っ!
「うん。それならいい・・・・・かな?」
「仕方がない・・・・・。そこまで言うなら、受付まで恥を掻いてやるか」
明久と坂本、この二人は理解していないし気付いていない!木下秀吉という人間を!
「良かったですっ。それじゃ、早速準備を始めましょうか。お願いしますね木下君」
「了解じゃ」
や、やっぱりかぁぁぁぁぁっ!お、終わったぞ・・・・・俺達・・・・・女装してコンテストに参加させられる。
―――かと、思ったら。
『あれ、化粧道具が見当たりませんね・・・・・』
『え、そうなんですか?』
『化粧道具はどこかと混じっているのかも。探しましょう』
『・・・・・バスの扉が開いたままだったから盗まれたのかも』
化粧道具がない事実に俺達は浴衣コンテストに参加する事はなくなった。
『・・・・・処分しておいた』
「「「「「お前は神だ!」」」」」
その原因はどうやらハーデスの仕業のようで俺達は救われたっ。
『残念だったねー。死神君達の女装姿を見れなくて』
『でも、私達もコンテストに出場しなきゃいけなかったのよ?
アタシ、ああいう催しは好きじゃないわ』
『・・・・・中止になってよかった』
再び浜辺に戻った俺達は、女子達の話をバーベキューの準備をしていた。
「材料は夜の為に残していたもんと、ハーデスの奴が現地調達―――」
「海の魚介類を採りに行ったんだろうな」
「沖縄の魚かー。高級魚もいたよね?」
「ああ、いるがこの短時間と時間的に貝はともかく魚は捕獲できないだろう」
「まあ、その間僕らはハーデスに頼まれた調理器具と調味料の準備をしないとね」
それもそうだ。が、夜の海も危険だし、海の中は真っ暗だ。
モリで魚を突くつもりなら装備も必要となる。
ハーデスはその装備品を用意した様子はない。そう思いながら野菜や肉を網において
焼き始めることしばらくしたら、俺達の待ち人がやってきた。何やら大きい物を担いでだ。
それには唖然とし、俺は恐る恐ると尋ねた。
「お帰り・・・・・それ、なんだ?」
ドサッとブルーシートの上に置かれたのは・・・・・大きなマグロとカジキ、その後に様々な魚や貝、タコなど入っていた網状の袋も置きだした。
「な・・・・・魚と貝はともかく、マグロとカジキって沖の方にいる魚だろう!?
お前、そこまでどうやっていったんだよ!」
『・・・・・水面を走って』
「水の上を走った!?お前はどこぞの忍者か!」
ハーデス・・・・・お前は旅人さんか!姉さんでもできるかどうか分からないことを
やってのけてモリか素手で捕まえたってのか。
「これ・・・・・食べきれる?」
「切って分けて保存すればいいと思うよ」
「大トロに中トロ・・・・・(じゅるり)」
どれも食用だが・・・・・こんな形で食べれるとは露にも思わなかった。
ハーデスは長い包丁を片手に魚介類をさばき始めた。手慣れた手つきで鱗や皮を剥ぎ
内臓も取り除き終えて目にも終えぬほどの包丁さばきで夕食用の食材(魚介)を切り終えると、
ガチャガチャッ! ジュージューッ! トトトトトトッ! グツグツグツッ!
味付けや炒め、素焼きや盛り付けなどなど全ての調理をハーデスがたった一人でやってみせた。
「て、手伝う暇もない・・・・・」
「ハーデスが何人もいるように見えるって・・・・・」
三十分ぐらいその様子を見ている頃には魚介の料理がずらりとテーブルに置かれていた。
『・・・・・完成した』
「「「おお・・・・・」」」
す、凄い・・・・・!料理店にでてきそうなものばかりだ。しかも、夜の分に残した
食材も何時の間にか網の上でこんがりと美味しそうに焼き上がっている。
「目の前でお前の料理を作る姿は名人並みだったな」
「・・・・・何時の間にか寿司もある」
「ハーデスってすごいね!」
「・・・・・私の自慢の夫」
『・・・・・さっさと食べろ。温かいうちに食べないと冷めて美味しくなくなる』
「その通りだな。皆、食べよう」
姉さんの言葉に呼応して俺達はテーブルに置かれた料理に手を伸ばす。
「うんっ。このガーリックとオリーブ、他の調味料で味付けされたカジキは最高だね!」
「食欲が湧きあがるなぁー」
「うめぇ!これ、超うめぇー!」
「・・・・・(モグモグ、ゴクン)まだまだ食べれる」
「この寿司も美味しいよねぇー。特に大トロ!」
「・・・・・脂が乗っている」
なんだか・・・・・思い出すな。こんな大勢で旅人さんの作った料理を太鼓判を
打ちつつ食べるのは・・・・・。
「死神、あなたも食べては?」
『・・・・・まだいらない。あいつら、豪快に食うから作り続けないと直ぐに無くなる』
「でしたら、私も―――」
「いやいや姫路さん!ハーデスの邪魔になっちゃうから僕達は食べていようよ!」
「ああそうだな!ハーデスの好意を無駄にできねぇ!」
「・・・・・食べることが俺達の仕事・・・・・!」
「そうじゃぞ姫路よ!」
間も置かず明久達が姫路を全力で制止した。殺人料理を作らすわけにはいかないと
思うと明久達はファインプレーをしたに違いない。
―――☆☆☆―――
「うーん・・・・・」
ぼんやりと目を開けたアタシ・・・・・。時計を見ればまだ夜中の時間帯だった。
「・・・・・」
また眠ろうかと思ったけれど、中々眠れずにしょうがなく寝室から出てみたら、
ぼんやりとした灯火が浜辺に照らされていることに気付いた。その正体はなんなのかは
分からないけど、気になりアタシはバスから出た。その際、バスの扉が開け放たれた
状態だった。誰かが開けたのだろうか?浜辺を照らす小さな灯火に近づくと、
その傍には・・・・・。
「・・・・・」
黒いフードと髑髏の仮面を外した状態の死神が海の向こうを見据えていた。
灯火の正体は宙に浮いている火の玉だった。
「優子、寝れないのか?」
「それはこっちの台詞よ。なに黄昏てんの?」
「黄昏ているように見えるか・・・・・」
苦笑を浮かべた死神。そうじゃなかったら何しているのよと思いたくなる。
「昔を思い出していたんだ」
「昔・・・・・?」
「ああそうだ」
アタシの方を見ず、海の方へ見続ける。その目は遠い目をしている。
こんな死神は初めて見た・・・・・。
「家族と海に旅行した日のこと?」
「五分五分の正解と不正解だな」
「・・・・・家族のこと?」
隣に座ると、死神は小さく頷いた。
「そんなところだ」
「蒼天にいる家族と離れて寂しい?」
「・・・・・別に寂しいとは思っていないな。ただ、懐かしさを一人静かに浸っていただけだ」
「そう・・・・・」
それ以降、アタシ達は海を眺めているだけで時間を費やす。沈黙のままでいるかと思ったけれど、
「優子」
沈黙を破った死神が話しかけてきた。
「どうして俺の傍にいてくれる?」
その問いに怪訝な思いを抱いてこう言った。
「なに?いちゃ悪いの?」
「あいつらは知らないから俺の傍にいるが、俺は人間じゃない。
俺の正体を知ってて尚も傍にいるお前らが不思議なんだよ」
猛禽類のような金色の目がようやくアタシに向けられた。
「そんなの・・・・・今更よ」
アタシはその相貌を真っ直ぐ見抜くように見据える。
「アタシは自分の意思でアンタの傍にいるだけよ」
ただ・・・・・ただ、それだけ・・・・・。
「そうか・・・・・」
死神は自然に私の肩に腕を回してきて抱き寄せた。その行為に顔が真っ赤になったことを
自覚しながら抗議の意を唱えようとしたけれど・・・・・。
「ありがとうな、優子」
「・・・・・」
そう言われちゃ・・・・・なにも言えなくなるじゃないのよ。こいつ、卑怯よ。
絶対に・・・・・。
―――???―――
「ようやく・・・・・準備が整えましたが、行けるとすれば七人のみです」
「七人・・・・・」
「その理由は―――、さらに―――、そして最後に―――が必須だからです。
彼の者がいる場所は私の力をもってしてもその程度なのです。
彼の者と力を合わせ、時を満ちた時に―――するのです」
「・・・・・」
「もしかすると、また行き別れになるかもしれません。―――人選を慎重にお願い致します」
「分かった・・・・・人選したらまたここへ来る」
「準備を怠らずにお待ちしております。これは・・・・・私達にとっても重要なのですから」