体育祭当日、川神湾砂浜。
「待ってたぜ、この日を!」
ガクトの魂からの叫びと思う発言はFクラス(一部を除く)男子達が雄叫びを上げる。
―――水上体育祭当日―――
今年度の体育祭は海で体育祭を行う結果になった。そして神月学園全校生徒(女子)は
スクール水着を着てクラス対抗形式をする。優勝したクラスは水に関した豪華景品が出るから
やる気が出るよね。
「で、やっぱりその格好なんだねハーデス」
黒いマントに骸骨の仮面と出で立ちのハーデスが僕の隣にいる。それがどうかしたか?
とスケッチブックで伝えられるけど・・・・・。
『・・・・・俺の水着姿をみたい上にFカップをまた触りたいのか?』
「ハッハッハッ、何を書くんだいハーデス君!僕はそんなこと微塵にも思ったことは
一切ないからねハーデス君!」
彼の肩に何度も叩きながら高らかに笑う。
―――後ろに禍々しいオーラを感じるのは気のせいだろう。
『・・・・・今回だけは俺も晒すか』
「え、ま、まさか・・・・・」
ハーデスが徐にマントに手を掛けた。そんな彼の周囲にムッツリーニがカメラを構えている。
バッ
顔と身体を隠していた仮面とマントが一気に取り張られた!
ハーデスの正体を知る者として男だと断定する!
「なーんてな」
「・・・・・はい?」
ハーデスの姿が砂浜に曝け出したのだった・・・・・が!真紅の長髪に金色の双眸、
印象が残る有り得ない人物が僕の目の前にぃ!?
「お、お、王様ぁあああああああああああああああああっ!?」
蒼天の中央区の王様がハーデスの正体!?え?ど、どーなってんの・・・・・?
他の皆も目を丸くしているから僕と同じ気持ちなんだろう。
「お、王様・・・・・?」
「お前らを驚かそうと思って、ハーデスの格好で紛れこんでいた」
朗らかに、高らかに笑う王様。ほ、本当に大和達が言っていた通りの人だ。
驚かすことにこの人の右に出る者はいない。
「あ、あの・・・・・ハーデスは?」
「ああ、あいつは」
「イッセー!アイラブユー!」
どこぞの有名な盗人のようにジャンプしてきた京をガシリと顔面を
アイアンクロー(弱)した―――
「イッセー様、何を遊んでおられるのですか」
―――鉄人。
「はっはっは、宗一郎。旧友のクラスに紛れさせてもらったよ。
にしても気配を隠した状態で移動できるようになったな」
「ええ、三途の川を何度も送らしたどこかの男に鍛えられれば否が応でもそうなります」
「もう一度鍛えられたいなら何時でも歓迎だぞ。今日はドラゴンも連れて来ているからな」
彼は人差し指を空に差すと、僕は空に目を向けた。
―――空に獰猛で凶暴そうな顔のドラゴンが一匹姿を現した。
ドラゴンを見て鉄人はうっすらと冷や汗を流しながらも厳しい表情で言った。
「・・・・・ドラゴンをどうにかしてください。今は授業の一環で
この場に集まっているのですぞ」
「んー、それもそうだな。ゾラード、人化だ」
じんか・・・・・?どういう意味だろうとそう思ったら、ドラゴンが全身から光を発した。
光は段々と小さくなり王様の隣に降り立った。やがて光が止むとドラゴンは人の形で姿を現した。
肩まで伸びた紫の髪、赤い瞳、整った顔だけど近寄りがたい雰囲気を滲みだす
男性・・・・・。
「それじゃ、鉄心のところにでも顔を出しに行くとしようかな」
王様は人になったドラゴンを引き連れてどこかへと進んで行った。
『・・・・・』
そして―――何時の間にか、ハーデスがポツンと離れたところで佇んでいるのを後で気付いたのだった。
―――☆☆☆―――
最初は海に浮かんでいる足場に乗って各クラス代表一人が相手を海に突き落とす競技。
それを三回戦まで行った。
「おらおら!俺を突き落とすには十年早いってんだ、出直して来やがれ!」
そのうちの一回戦は坂本が勝利をもぎ取った。ガクトもキャップもよく頑張ってくれた。
さて、次の競技は―――水上借り物競走だな。通常の借り物競走の砂浜バージョン。
「うー、イッセーのところに行きたい」
「あの人、マジで神出鬼没だぜ。まさかハーデスの格好をしてくるとは思わなかったぞ」
「性格が全然変わってないや」
「ところで三年生の借り物競走が始まっているな」
「俺達にゃ関係ないだろ」
出番がないから暇だ、ということだ。Fクラス(一部の男子を除く)の男共は血走った
眼で他の女子の水着姿を目に焼き付け、記憶に記録している様子だし土屋は忙しなく
カメラを没収されまいと西村先生から逃げている中でもシャッターチャンスは
見逃さないその執念は凄まじいの一言だ。
「ところで」
「なんだ」
「あの人、思いっきりフリーダムだよな」
ガクトが視線を向けている所にイッセーさんがいる。あの人は何をしているのかと言えば、砂の巨大な城をせっせと作っているんだよな。
「翔一と同じぐらいだな」
「あはは・・・・・あっ、英雄君達が気付いたみたいだね」
「あっという間に英雄達に囲まれたわね」
「むむ、仮にも体育祭なのに自分のクラスから遠ざかるとは」
「Sクラスの場合、戦果に記録されないならどうでもいいんだ。
つまりこの水上体育祭はSクラスにとって正月のお笑い番組的な感じだな」
「というか、イッセーさんがいるところに僕らが有りって風なんだけどね」
モロの言葉に俺達は同感だと頷いた。
「おーい、死神いるかー?」
「あれ?モモ先輩じゃん」
「ハーデスに何か用か?」
当の本人は優雅にパラソルの下で寛いでいる。こっちに来た姉さんこと川神百代は
理由を告げた。
「借り物競走でな。指示書に蒼天って書かれてあったから死神に決めているんだ」
「なるほど、そういうことなんだ。ハーデス、姉さんが呼んでるぞ」
『・・・・・』
声を掛ければ立ち上がってこっちに来る。そんで、姉さんに捕まって渚をゴールに
向かって連れて行かれた。
「絵にならないな」
「ハーデスがあの恰好をしている時点で絵も何もないと思うけどな」
まぁ、あんなかんなであの不釣り合いがない二人を見ていると堂々の一位で
ゴールしたんだがあいつ、こっちに戻ってこないで何故に海の方に駆け走った?
―――お昼―――
「お前、魚介類を獲りに行く為に抜け出していたのか!」
『・・・・・(コクリ)』
昼になった頃、網の中に大量の魚介類や肩にマグロを担いで砂浜に戻ってきたハーデス。
こいつの行動力はキャップ以上だろう。ハーデスの行動にガクトがツッコンだところで、
「よーし、調理道具も用意できたし調理開始するか」
『何時の間にっ!?』
まるで夏休み時のバーベキュー。バーベキューセットを用意していたイッセーさんが
ハーデスを呼び掛けて海から得た食材の数々を調理し始めた。その間、イッセーさんと
交流を持つ者が続々と集まりだす。また、その友人達もだ。
「イッセーさん!アタシも何か手伝うわ!」
「や、ハーデスがいれば十分だ。お前らは自分の弁当でも食ってのんびりしていろ」
着々と進む調理。俺達は何も手伝うこともなくただただそれを眺めているだけでいたのだった。
―――少し離れた砂浜―――
「あれが最後のターゲットってワケね?」
「そんな悪人って感じじゃないが、依頼なんだろう?」
「ああ、そうだ」
「でも、他の人達がいっぱいいるね」
「いま行くのは得策じゃないぜ。ここは当然、誘き出すか夜を待つかだな」
「死体はアタシにちょうだいねぇ?スタイリッシュにアタシの駒として利用したいから」
「ならば、俺があの魂を救済してやろう」
「綺麗なお姉さん達がいっぱいだねー。皮を剥ぎ取るのに困らないや♪」
「フハハッ!経験値がいっぱい得れそうだぜぇっ!」
「・・・・・ねぇ、どうしてこいつらまで仲間になってるわけなのよ?」
「・・・・・聞かないでくれ」
―――☆☆☆―――
「・・・・・」
「イッセーさん?」
「ん、どうした?」
「いえ、何だか気になっていることでもあるのかなと
そんな感じがしたんで・・・・・」
「ああ、大和が中二病が再発したかどうか気になってな」
「ンな事を気にしないでいいんですよアンタはぁっ!」
大和が王様に向かって食って掛かった。そんな様子を巨大な円陣になるように腰を
下ろして座っている一人である僕の目に映った。王様の背後には武蔵坊さんが背中を
預ける感じで座っていて、両隣には京と榊原さん、胡坐を掻いた足の上にはちょこんと
伊達さんが座っている。
「揃いも揃って甘えん坊だな」
「十年の時間を埋めたいの。だから私と結婚しよ?」
「京、先に結婚するのは僕なの!」
「いえ、私です」
大人の魅力というやつなのか、王様は女子に人気だった。
そしてもう一人も女子に人気だ。ハーデスの周りに女の子が集っている。
「しかし、英雄達のクラス負けているなー」
「おや、意外でしたか?」
「意外というか・・・・・ハッキリ言うとエリート集団って言われているのに拍子抜けだな、
なさけないぞ。それともお前らって弱かったっけ?」
小首を傾げる王様。そう言われたSクラスに属する九鬼君達は―――。
「よかろう、我らの本気を見せてやる!」
「ウェーイ!僕も全力で頑張るー!」
「イッセーさんのご期待に応えなければなりませんね」
「うし、こっからは俺達の怒濤の攻めをしてやるっか」
「義経も一生懸命頑張る!」
「そうだね、イッセーさんが見ている手前・・・・・情けないところを見せられないか」
「今更慌てても総合一位は無理だがな」
「確かに・・・・・だけど、遅れを取り戻した頃は上位に食い込んでいるはず」
「イッセーさん、私達の活躍ぶりを見てください!」
「はい☆その通りです☆」
「弱い印象を受けられると癪です。私も本気を出しましょうか」
なんか、やる気を出し始めた。那須与一くんは静かに王様が調理した魚介の料理を食べてる。
「おいおい、英雄達にやる気を出させてどーするんですか」
「なんだ、負けるのか?」
厭らしい笑みを浮かべる王様。僕らが負ける?ははは、王様は面白いことを言うね。
「イッセーさん、次のお休みは何時なんですか?」
「さぁーな。俺も忙しい身だから神出鬼没な感じでお前らの前に現れるさ」
伊達さんの頭を撫でながら言う王様。対する伊達さんは目を細めて嬉しそうに王様の
背を預け始めた。何だかその光景は家族のようにも窺える。
「さてと」
徐に立ち上がった川神先輩が口を開いた。
「イッセー、私と勝負だ!」
「なんだ、また負けたいのか?」
「今度は私が勝つ!」
嬉々と笑みを浮かべる川神先輩。本当に王様と戦いたくてしょうがないんだろう。
王様の方に視線を向けると、伊達さんに離れて貰って立ち上がっていた王様。
「負けたら前髪のそのチャームポイント、真っ直ぐにしてやる」
「そ、それだけは勘弁してくれないか?」
「い・や・だ」
フッと王様が姿を消したと思えば川神先輩が海の方へ吹っ飛ぶそんな先輩の前に王様の姿が。
二人が戦う姿は龍虎そのもの・・・・・かな?
「王様が龍で川神先輩は虎かな?」
「うん、そんな感じだわ」
しばらくあの二人の戦いは映画館のように感嘆と驚きを抱きつつ見て昼食をした。
「潜水土竜!」
「うわっ!?」
砂浜から両手を突き出して川神先輩を砂に引きずり込んで身動きが取れない
その一瞬の隙を突いた王様の勝利となったけどね。
「さーてさーて、罰ゲームをしようじゃないか」
「止めろぉっ!止めてくれぇっ!」
底意地の悪い笑みを浮かべた王様によって無情にも罰ゲームは実行された。
―――少し離れた砂浜―――
「対象者・・・・・なんだか楽しそうじゃね?」
「狙われている自覚がないんじゃね?」
「こっちはこっちで楽しんでいるけどねー」
「というか、何時までアタシ達はここにいなきゃなんないわけ?」
「なんなら今すぐ実行しても良いが?」
「いや、無関係な人間までも巻き込むわけにはいかない」
「じゃあ、眠らせて巻きこませないようにすればいいんだね?」
―――☆☆☆―――
「さてさて、次の競技は三人四脚をするぞぃ。組むパートナは同学年ではなく一年、
二年、三年と後輩や上級生と一緒にゴールまで駆けるんじゃ。ペアは自由にして良いぞ
男女混合じゃ。先に決まったペアはスタート位置に移動するんじゃぞ」
川神鉄心の宣言で学年全体は様々な思いを口に漏らし、心に漏らし組むパートナを求め
動き出した中で早くもパートナが決まったペアがいた。
「ハーデス、ボクと一緒に組もう」
「ふふふっ、死神君。よろしくねん?」
1-F紺野木綿季、3-F松永燕、2-F死神・ハーデス。三人は問題なくペアとなり
スタート位置に。
「ハーデス、キミがもう一人いるなんて驚いたけどあれって」
『・・・・・魔法で作った・・・・・忍者で言うと影分身みたいなもんだ』
「思いっきりキミの思考、言動と違ったことをしていたよね?」
『・・・・・そう言う魔法だからな』
「便利そうな魔法だよん。私も魔法が使えたら楽しそうだねぇー」
松永燕の発言に紺野木綿季は「そうだね」と答え同意するかのように頷いた。
『・・・・・簡単な魔法ぐらいなら扱えることはできるぞ』
「え、ほんと?」
『・・・・・体育祭が終わったら体験させよう』
「それは楽しみだよん」
「うん、ボクも」
ニッコリと笑う少女二人を見るハーデスを余所に続々とペアがスタート位置に集まりだす。
最初に走る三組が三人の隣に佇み、
パンッ
開始の合図と共にゴールまで砂浜を駆ける―――。
「ユウキちゃん、もうちょっと速く走れる?」
「問題ないよ!」
「じゃ、死神君。思いっきり行くよ。合わせてちょうだいな」
『・・・・・分かった』
三人の呼吸と足の出すタイミングが更に絶妙に合い他のペアとグングンと距離を離して
堂々の一位になった。
「「いえーい!」」
『・・・・・いえーい』
両手を上に挙げてハイタッチ。ハーデスはともかく二人は喜びを分かち合い、
足首に結んだ紐を解く。
その時だった。―――砂浜に音色が風に乗り反射的に反応する。
『・・・・・音色?』
「笛でやっているみたいだけど」
「どうしていきなり・・・・・」
しばらくその音色は聞こえ続けていくと異変が起きた。
「・・・・・う」
松永燕の目蓋が重たげに気を抜けばすぐにでも深い眠りそうなほど眠気が襲った。
『・・・・・催眠の効果がある音色か』
異変を察知したハーデスは松永燕の背に触れた。
『・・・・・ユウキ、お前は大丈夫か?』
「ごめん・・・・・ボクも眠い。ハーデスは大丈夫なの・・・・・?」
『・・・・・俺は問題ない。が、他の奴らはそうじゃなさそうだな』
紺野木綿季の背にも触れ、ハーデスは赤い目を周囲に配った。
―――足首に紐を結んだままのペア、神月学園の全校生徒の殆どが砂浜に倒れている光景が
視界に入る。中には睡魔に襲われても耐え抜いている者もいるが、
この異変に疑問を抱いている。―――音色は途端に止み、一拍して砂浜の向こうから。
「ね、これでいいでしょ?」
「何人かお前の音色を効いていない者がおるがな」
「なんでもいいわよ。取り敢えず、さっさと片付けましょうよ」
謎の集団がゾロゾロと姿を現した。
「「―――っ」」
松永燕と紺野木綿季は顔を強張らせる。現れた集団の異様の雰囲気と純粋な―――敵意と殺意に。
眠気などハーデスに背中を触れられた途端に吹っ飛んでいる。
「・・・・・あの人達、普通じゃない」
「それに、全員の目を見ると・・・・・修羅場を潜って来たって分かる」
『・・・・・』
三人の前に現れた謎の集団。その一人がこう言った。
「死神・ハーデス。いや・・・・・兵藤一誠だな?」
兵藤一誠・・・・・?死神・ハーデスじゃ・・・・・と心の中で小首を傾げた。
『・・・・・俺の名前はどうでもいい。この場に現れた理由を言ってもらおうか』
「お前を葬る」
それが全てだとばかり集団から笑みと殺意が更に滲み出た。
『・・・・・皆を眠らせたのはこの為ということなんだな?』
「そうだよー優しいでしょう?」
集団の中で一番若い少年が朗らかに言う。その手には笛が握られている。
『・・・・・神が送った刺客という奴らか』
「っ!」
神、という言葉に反応する紺野木綿季は戦闘スタイルとして瞬時でスクール水着から
戦闘服に変えた。片手直剣を手にしてハーデスを守るように構えた。
「お前が言っていた倒すべき側に付いた者か」
「じゃあ・・・・・キミ達も神様に甦られた人達なんだね」
「私は違う。神に直接依頼されたが他の者達はお前の言う通りだ」
黒い長髪に赤い双眸の少女は腰に帯剣していた刀を鞘から抜き放った。
「お前は標的じゃない」
「ハーデスは何もしていないって言うのに殺すって言うのかい」
「依頼だ。恨みはないが標的を葬ることが私達の仕事」
「罪もない人を殺して何とも思わないって言うの!?」
紺野木綿季の叫びに誰も表情を変えない。ハーデスの命を狙う集団の様子に悲しげに
漏らした。
「ボクは、ボクは・・・・・あの人達のようにハーデスを倒そうと
していたんだね・・・・・」
『・・・・・』
「ゴメンね、ハーデス・・・・・だけどボクは・・・・・」
ポンと紺野木綿季の頭に包帯だらけの手が置かれた。
『お前はあいつらじゃない。だから何も気にするな』
「ハーデス・・・・・」
顔を上げてハーデスを見る。骸骨の仮面で隠れて表情は分からないが自分を励ます
ハーデスに心が軽くなった。
「なるほどのぅ。お主、訳有りじゃったんじゃな」
川神鉄心がゆっくりとハーデスの後ろから現れた。
『・・・・・老人なんだから寝てればよかったのに』
「ほざけ、あのような笛の音でワシが眠るわけがなかろう」
「ふん、鉄心の言う通りだ」
「その通りですよ」
金髪と銀髪、二人の執事服を身に包んだ老人も静かに砂浜を歩いて近づいてきた。
その表情は眠気など微塵も感じさせない。
「おいおい、ハーデスの言う通りだ。老人は寝ていろよ」
中央区の王、イッセー・D・スカーレットも悠々とした態度で言う。
「イッセー様、あなたは重要人物なので下がってもらえると助かりますが」
「そうだ、貴様は大いに邪魔だ。下がっていろ」
「クラウディオは優しいなぁ。俺に懲りずに百回も負けた棺桶に片足踏んでいるどこぞの
老人より優しくて涙が出そうだ」
「貴様・・・・・後で俺と勝負しろ」
「あいつらより先にお前から倒してやろうか?」
睨み合うイッセーと金髪老人ことヒューム・ヘルシング。
「なぁ、どっちが本物なんだ?」
「あっちが本物の標的」
刀の切っ先がハーデスに向けられる。
「標的の情報は分身を作って別行動させている。が、分身も本体と遜色がない強さだ」
「分身だと?貴様、何を言っている」
ヒュームの問いに黒髪の少女は淡々と言う。
「お前達は標的じゃない。邪魔をするな」
「そうは参りません。目の前に殺される罪のない人を見捨てるほど私達は見逃しはしませんので」
「ならば、葬る」
その一言で戦いは始まった。迫りくる集団にハーデスが、
『―――エスデス、お前も無理しなくてもいい』
目の前に突如と発生する巨大な氷の壁を見つめ、仮面の中にて尻目で問うた。
ハーデス達の周囲は氷の壁に包まれていた。
「悪いが、そうもいかない」
フラフラと眠気に耐えながらもエスデスは近づいてきた。ハーデスは淡い光を纏って
彼女の額に触れた。
『・・・・・悪いな』
「なに・・・・・気にするな。おかげで眠気も冷めたぞ」
『・・・・・なら、戦いに専念ができるな』
真上から感じる気配に視線を上へ向けた。
「悪は全て滅ぼす!」
茶髪のポニーテールの少女と摩訶不思議で小さな動物らしき生物が舞い降りてきた。
「死神が悪だと?」
エスデスは敵を人睨みにし、空気中の水分を一瞬にして数多の氷の矢を作り上げた。
「ふざけるな」
氷の矢は弾丸のように空気を裂き、真っ直ぐ敵に向かって放った。
「―――隊、長・・・・・?」
敵はエスデスを見て思考が停止したが小さな動物が飛来してくる氷の矢を防いだ。
―――身体を巨大化にして。
「巨大化した!?」
「あれ、生き物・・・・・だよねん?」
愕然とする紺野木綿季と松永燕の目の前の氷の壁に罅が生じ粉砕した直後に破壊した
氷の壁からも敵が飛び掛かる。上も目の前からも襲われ、
必然的にどちらも対処せざるを得なくなった。
「最近こういう騒動があって面倒だな」
イッセーが溜息を吐く。
「本体、今回の敵を見るからには相当殺しには慣れているようだ。
こっちも本気を出さないと少し危険だがいいな?」
『・・・・・(コクリ)』
「よし、ならやるか久々に」
意味深に言い笑みを浮かべるイッセー。ハーデスはマントから金色の錫杖を取り出して
呪文のような言葉を口にし続ける。そんなハーデスの身体はいきなり分身した。死神の
格好をしたハーデスが続々と増え続け、目の前の敵と上空の敵を圧倒した後に氷の壁に
空いた穴や脚力で氷の壁から出ていく。
「死神・・・・・貴様、一体何者だ」
ヒュームの問いは返ってこなかった。ハーデスは氷の壁に手を触れるとその瞬間に氷は
忽然と消えてしまい周囲の砂浜を見渡せるようになった。
砂浜には大勢のハーデスが静かに何かを待っているかのように佇んでいた。
『・・・・・全員、あいつらを学校に連れて行け』
ハーデスの指示にハーデス達はこの場から踵返して倒れている神月学園全校生徒や
教師に向かって駆けだす。直ぐに戦争地域になりそうな川神湾から遠ざけようとする為に。
『・・・・・』
マントから金色の軍杖を取り出すハーデスが横薙ぎに振るった。
一拍して轟ッ!と嵐が発生して襲撃者を海へと吹っ飛ばした。
「今の風、それにその杖は・・・・・」
「まさか・・・・・貴様」
クラウディオとヒュームは表情には出さないが少なからず驚愕した様子でハーデスを見据える。
当のハーデスは仮面とフードを取り払って素顔を見せた。
「巻き込んで悪かったな。二人とも」
「―――――あなたが死神・ハーデスの正体だとは」
「イッセー・D・スカーレット・・・・・・ッ」
腰まで伸びた真紅の長髪、垂直のスリット状の金色の双眸が砂浜に晒した。
直江大和達が尊敬、敬愛している旅人ことイッセー・D・スカーレットである。