「おーい、翠いるかー?」
馬を飼育している場所へ足を運んだハーデス。馬小屋の出入り口から探し人の名を
透き通る声で発するとどこからともなく歩にテールを結い上げた緑を基調としている
服を着ている少女が姿を現した。
「アタシを呼ぶのは誰かと思えばご主人様じゃないか。どうしたんだよ?
しかも・・・・・女の子を引き連れて」
ジト目で翠と呼ばれた少女はハーデスに言う。
対してハーデスは手を何度も左右に振って否定したする素振りをしたのじゃ。
「いや、二人とも男だからな?」
「・・・・・嘘だろ?」
「俺が嘘を吐くか」
息を一つ吐いてハーデスはここに来た目的を言う。
「馬に乗りたいんだ。何頭か借りていいか?」
「ここに来たのはそういうことか。それならこれから馬を走らせようとしていたところなんだ。
勿論、赤兎もな」
「好都合だ。赤兎に乗りたかった」
「分かった。じゃあ、赤兎はご主人様に頼むな。あいつは恋か愛紗ぐらいしか
乗りこなせないから馬の世話をしているアタシでも一苦労するんだよ」
馬の世話というのも大変そうじゃの。こうして馬小屋にいる馬達を見てもピンとこんが、
翠という者は手慣れている様子。
「背に乗せなくても言う事を聞いてくれているんだろう?お前のこと信用しているんだ。
他の馬共々の世話にはお前が頼りにしているよ」
「ばっ、な、なに小っ恥ずかしい事を言うんだご主人様は!?
ア、アタシができる事と言えば馬の世話ぐらしか無いんだ。当然だろう!?」
「その能力で日本中の競馬に出場する馬達を圧倒して一位を抑えている翠は凄いぞ?
流石に赤兎は愛紗か恋に乗って貰わないとダメだがそれ以外の馬を巧みに―――」
「ああもう、これ以上アタシのこと褒めるな!背中が痒くてムズムズする!」
・・・・・褒められるのが恥ずかしい上に照れておる。
こう言う少女はワシらの学園にはおらんタイプじゃ。
翠は気を取り直してワシと渡良瀬を一瞥して言った。
「んで、ご主人様。騎乗に未経験者まで乗せるのか?赤兎に」
「コースはそんな厳しい所じゃないから大丈夫だろう?」
「いや、ご主人様にとってはそうだろうけど素人にとってはジェットコースター並みを感じるぞ」
赤兎というあの赤い馬はどれほどの速度を出して走ると言うんじゃ・・・・・。
少し緊張して来たぞ。
「ああ、そうだご主人様。麗羽達がもうすぐ戻ってくるそうだぞ」
「あいつらか。今回はどんな探検をしてきたんだか」
「白蓮に聞いたら海底に沈んだ数百年前の金銀財宝を見つけたってさ。
手土産に帰ってくるってよ」
「アイツの豪運は底知れねぇ・・・・・。ま、アイツの性格を考えれば自由に
動いてもらった方が何かと蒼天の利益となるな。
株の売買も華琳の他に麗羽も任せているし蒼天が黒字続きなのもあいつのおかげだ」
「麗羽にそんな才能を気付いたご主人様も凄いとは思うけど。
っと、話に打ち込んでいる場合じゃなかった。今赤兎を連れてくるな。表で待っててくれ」
「分かった」とハーデスは頷き、ワシらを引き連れて馬小屋から出て待った。
「ハーデス、麗羽とは一体どんな人物なんじゃ?」
「世間知らずのお嬢様だったってところかな」
「そんな人とどうやって知り合ったんですか?」
「北区の王の華琳をこの国に勧誘してからしばらく経ったことかな。
中国の有名な名家のお嬢様がこの国に来て迷子になったんだ。
ま、俺が見つけて保護したのは良いんだけど何故か気に入られた上に華琳と会ったら
幼馴染だと発覚した」
名家の者がどうしてこの国に・・・・・いや、言わずとも分かってしまう。
ハーデスの魅力に魅了されたんじゃろう。ハーデスも気に入られたと言っておったし、
さて、ハーデスの話の続きを聞こうか。
「彼女の両親、元当主だった袁家の両親に引き渡したのはいいが、
俺も一緒に来て欲しいと駄々をこねられた時は困ったもんだった。その時はまだ蒼天を
治めていたのは俺だけだったからもう十年ぐらい前だったか?」
「あ、私が生まれていますね」
「ワシもじゃな」
「だろうな。それで、袁家の当主と説得させて何とか言いくるめたけど、
成長したらこの国に来て俺を手に入れると言いだした」
・・・・・予想通りじゃな。
「だけど、袁家は富裕層を狙った輩によって当時の当主だった麗羽の両親は全員殺され、
麗羽と付き人の二人を残して全てを奪われた」
「「―――――っ!」」
「それを知ったのは中国がその報道をしてからだ。急いでニュースで知った彼女の家を
訪れたが麗羽のはどこにもいなかった」
「では、どこに・・・・・?」
「袁家を狙った輩達に攫われていたんだ。裕福な家庭に生まれ育った麗羽だから容姿が
宝石のようで綺麗だった。人身売買をすればかなりの値打ちで取引されたはずだった
ところを何とか見つけ出して付き人の二人諸共助けて蒼天に引き取った」
・・・・・ハーデス、お主という男はどこまでも・・・・・義を貫いておったのか。元の世界に帰れない状況なのにも拘わらず他人の人生をその手で守り切ったお主は凄い・・・・・。
「それ以来、麗羽はこの国で育って彼女の才能を見出して世界中に旅をさせている。さっき聞いた通り、麗羽は利益に関する才能が逸脱している。ま・・・・・他はてんで才能が皆無だけどな」
苦笑いを浮かべたハーデスだったが、赤い馬を引き連れた翠に気付き話は打ち切られた。
「ご主人様、あまり赤兎を飛ばし過ぎないようにな」
「怪我だけはさせないさ。な、赤兎」
赤い馬の顔を添えるとハーデスの顔に鼻先を擦った赤兎。ハーデスは普通の馬より
一回り大きい馬の背に設置した鞍の両脇に吊るした鐙に足を引っ掛けて軽やかに乗ると、
「秀吉、お前は前だ」
「分かったのじゃ」
「じゃ、私は後ろね」
差し出される手を摑むと思いっきり引っ張られてハーデスの前に乗せられ、
渡良瀬はハーデスの後ろに乗った。
「それじゃ行ってくる」
「気をつけろよー」
手綱を掴んだハーデスが赤兎の腹に軽く蹴ると赤兎は進み始めた。馬の背で揺れる身体。
ワシは初めて騎乗しておる。馬小屋から離れやがて道なき草原に向かって歩き始める。
「おお・・・・・海が見えだしたのじゃ」
「ということは何時ものコースが見えたということだ」
ワシの腹に肩腕が回されガッチリと背がハーデスの胸に抑えつけられた。
「準、両腕を回せ。ジェットコースターが始まるぞ」
「分かりました」
背中から渡良瀬の両腕が割り込んで来たのを感じながら前を見詰める。
「赤兎、今回もお前の自由に駆けて良いぞ」
赤兎に声を掛けた瞬間。前足を大きく上げて鳴いた赤兎は一気に加速した。
―――本当にジョットコースター並みの速度で。
「ぬぉおおああああああああああああああっ!?」
「きゃあああああああああっ!」
加減をしない赤兎がグングンと駆ける。草原の草を踏みしめ、前へ前へと突き進む。
まさか、ここまでの速度で駆ける馬とは・・・・・っ!ハーデスの腕が回されて
いなかったらワシは落馬にしていたに違いない。あっという間に砂浜に辿り着くも
赤兎は止まらず束縛されない自由を喜んでいるかのように走り続ける。
―――と、目の前に聳え立つ崖が!
「ハーデス、崖・・・・・崖が見えておるぞ!?進行を変えんと・・・・・!」
「大丈夫、赤兎は崖を駆け登る!見せてやれ赤兎!」
そのつもりだとばかり赤兎は崖に向かって突進し―――本当に崖を駆け登る!
「赤兎の散歩はトレーニングにも兼ねている。―――だから」
がけを登り切れば次は森林の中へ飛び込む。大きく隆起した根さえも軽々跳び越え、
縦横無尽に針の穴に糸を通すが如く通り抜けて駆け走る。それから巨大な木を駆け登る
芸道をすればそこから飛び降り地面に着地し、再び駆けだす。
―――それが赤兎の散歩コースがもう一周するまで終わらないことを後で気付いた。
~~~しばらくして~~~
「「こ、腰が・・・・・」」
「未経験者にはちと辛かったか」
散歩コースを走り終えた赤兎を柵の中に放って馬具を仕舞ったハーデス。
ベンチで横たわる渡良瀬と共に苦痛を漏らしたのはかなりの速度と長時間の激しい
れによる腰痛。平然としておるハーデスは乗り慣れているから痛みなんて感じないのじゃろう。
「でも、凄かっただろう赤兎は」
「確かに凄かったのじゃが・・・・・」
「あんなに速くて激しいなんて知りませんでした・・・・・」
「今回は三人乗りだったからスピードは落ちていた方だ。本来はもう少し速いんだがな」
本当にジェットコースターを乗った気分じゃった。
遊園地に行ったとしてもジェットコースターは遠慮しよう。
今日のことを思い出して腰に響く・・・・・。
「(・・・・・む、腰に何やら温かくて痛みが和らいでいく・・・・・?)」
尻目で見ると淡い光に包まれているハーデスの手がワシの腰に触れていた。
少しして腰の痛みが完全に無くなり普通に動けるようになった。不思議な力じゃが
これは魔法の力なのかの?ハーデスはワシにしたように渡良瀬の腰にも
淡い光に包まれた手を添えている。
「ああん・・・・・気持ちいですぅ・・・・・」
「変な声を出すな」
「あれ、興奮しません?」
「俺は無節操じゃないことをここで教えてやろうか」
「あだっ、あだだだだだぁっ!?」
・・・・・思いっきり腰に親指一つで捻じり込む。アレは痛そうなのじゃ・・・・・。
「うー痛いですぅ・・・・・」
「自業自得だ」
悪びれない態度で言い切ったハーデス。牧場で購入した乳製品=牛乳を飲んだ。
今この場にはワシら三人しかいない休憩場。男三人であるはずなのに女装をしている
ワシと渡良瀬を見知らぬ者がいれば女子が二人いると認識して誤解されるじゃろう。
「イッセーさん、これからどうするんですかぁ?」
「そうだな・・・・・まだ行ったことがない場所なんて無いし・・・・・そうだ」
手と手を叩いて何か閃いた様子を窺わせるハーデス。
「宇宙に行くか」
「「宇宙・・・・・?」」
アマテラスの頂上に行こうと言うことかの?そう確認すれば首を横に振って
「違う」と言われた。
「直接、大気圏に突入して宇宙に行くんだ」
「・・・・・できるのかの?」
「俺にできないことはない」
ハーデスの背中から十二枚の金色の翼が生え出した。翼はワシと渡良瀬を包みこみ、
休憩所から出たハーデスが力強く翼を羽ばたいて一気に空へ飛翔した。
空気を裂くように突き進み、雲を抜け、天に昇るようにずっとどこまでも上に飛ぶ
ハーデス。次第に空気が薄くなるにつれ呼吸もし辛くなる頃にワシらは金色の球体に包まれた。
―――そして、ついに。大気圏を突入した後に真っ暗な空間がワシらを出迎えてくれた。
「宇宙に着いたぞ」
「ほ、本当に・・・・・来ちゃった」
「凄い・・・・・」
無重力の上に酸素がない宇宙空間。身体に異変は無く正常じゃ。
この金色の球体がワシらを守っておるのか・・・・・。
魔法の力によるものかもしれんが、摩訶不思議な力は本当に凄い・・・・・。
「・・・・・綺麗」
翼に包まれている渡良瀬が目を丸くしてジッと何かを見詰めている。ワシも渡良瀬が
見ているものを見て見据えた。暗い空間に浮かんでいるように見える大きな
大きな青い球体。テレビや地球儀、本やゲームで知る地球の全体と違い直接この目で
見る地球はとても美しい。この光景を見せてくれたハーデスに感謝をせねばならぬ。
「この景色をいつか月から眺める。それが俺の目標だ」
「イッセー様・・・・・」
「そしたら、また三人で見ような」
微笑むハーデスに当然とばかり頷くワシと渡良瀬。その約束は早く叶いたい。
そしてまたハーデスとこの丸い地球を見よう。しばらく地球を三人で見詰めていると
動き出したハーデス。真っ直ぐ地球に、蒼天に戻る意思が感じた。大気圏に戻り、
蒼天が見え始めた時、ワシと渡良瀬は翼から解放され再度ハーデスの胸の中に抱えられた。
「イッセー様」
「なん―――」
「んなっ!?」
ワシの目の前で渡良瀬がハーデスの唇に当てていた。―――自分の唇をっ!!!!!
お、男同士のキス・・・・・なぜだか異和感が全く感じない自分が不思議でしょうがない。
いやいや、渡良瀬は容姿が女の子じゃし服装も女の子。じゃから違和感を感じないのじゃ。
ワシの神経がおかしいわけでは無い。うむ、きっとそうなのじゃ。
「・・・・・」
「ファースト・キス・・・・・あげちゃいました♡イッセー様とのキスはミルク味でしたね」
わ、渡良瀬・・・・・お主という男は・・・・・。・・・・・んむ?
「・・・・・ハーデス?」
「イッセー様・・・・・?」
呼び掛けても無反応なハーデス。今まさに落下中だというのに・・・・・。
「・・・・・まさか、気絶しておるのか?」
「ええー?まさかそんな・・・・・」
しばらくして・・・・・やはり固まっておった。
「やはり気絶しておる!?」
「ちょっ、イッセー様!?こんなところで気絶しないでください!
というか私とのキスでそれは失礼ですよ!?」
絶句しているワシらは何とかしてハーデスの意識をと叩いたり何度も呼びかけてながら
言い合いに発展した。
「いや、お主が悪いのじゃ!男同士でキスされたら誰だって意識を失うものじゃ!」
「んなっ、失礼な!私の外見は立派な女の子よ!」
「性別は男じゃろうが!」
「外見が女の子のキミにだけは言われたくない!」
「なんじゃとっ!?」
「なによっ!?」
睨み合うワシらは今の状況を忘れておる。
「大体、キミはイッセー様のなんなのよ!」
「親しい友人じゃ!」
「なら、私とイッセー様の邪魔しないでよね!」
「ならぬ!ハーデスは誤った道にだけは進ませぬ!」
「蒼天は同性愛結婚は許されている国なの!誤った道でも何でもないわ!
事実、男性同士の結婚はされているし存在しているの!」
「日本はそれを禁止しておるのじゃ!異性同士の結婚以前に付き合いも問題なんじゃ!」
「じゃあ、キミはイッセー様のこと心から嫌いなのね!?」
「何を申すか、ワシがハーデスを嫌う理由はない!」
それは心からハッキリ言える。ハーデスを嫌うなんて有り得ない。
「だったら、異性として好きなのか嫌いなのかここでハッキリしなさいよ!」
「なっ、異性として好意を抱いているか抱いていないかなんて友情には関係ないじゃろうが!」
「―――私はイッセー様に受け入れられた!」
いきなり何を申すのかこの者は・・・・・。
「キミは知らないでしょうけど、私はこの容姿だから男なのに女みたいな奴だって
バカにされ続けていたわ。男子の体操着を着てもそう、男だから男子トイレに入っても
おかしくないのに女が入って来たって言われたりした。そんな学校生活は中学校に
入学しても続いた。でもね、イッセー様は言ってくれたわ。
『バカにされるぐらいなら、それを活かして生きてみろ。そうすれば、
お前は変わるかもしれないぞ』って。私を意を決して女装したわ。口調だって変えた。
―――そしたら皆は私を男の子だけじゃなくて女の子としても扱うようになった」
ワシに語る渡良瀬の目尻には涙が溜まった。
渡良瀬が体験したことはワシと似ているところがある。
同じ苦労をした身だからこそ真摯に聞いてしまう。
「まるで私という存在を認めてくれた気分で物凄く嬉しかった。バカにもされなくなったし、
女の子のように振る舞って続けていると女子の体操着を着ても周りは受け入れてくれた。
私が男だという事実だって知った上で男子トイレにも問題なく入れるようになった。
私の個性がそうさせたんだと思う。でも、それを活かすようにアドバイスしてくれた
イッセー様のおかげで今の私がいるの。そして高校一年の時、全校集会でイッセー様と
再会して何とか話せる機会を得た。イッセー様、女子制服で来た私になんて言ったと思う?」
『どうやら不自由なく学校生活を送っているようだな。安心したよ』
「嬉しかった―――。あの頃より成長した私を褒めるんじゃなくて、
私自身の安否を気にしていたことがとても嬉しかった。
そして覚えてくれたんだと分かった時は嬉しくて涙が出た」
その涙はその当時のことを思い出して流しておるのか・・・・・。渡良瀬はハーデスと
蒼天の国を交互に見て言い続ける。
「この国に生まれて良かったと私は心から断言できる。だって、他の国じゃ異性同士の
付き合いどころか結婚は認めてくれない。世間の目を気にしながら付き合いなんて
難しいし付き合っているとバレたら白い目で向けられる。―――だから、私はこの国が好き。
この国を零から創り上げたイッセー様のことがもっと好き!」
「渡良瀬・・・・・!」
「―――木下秀吉。もう一度問うわ。イッセー様のこと友達以外に特別な感情を抱えているなら、
今ここでハッキリと言いなさい。罰ゲームとは言え、イッセー様とデートをして満更でもない
あなたを見ていると同じ女の子の容姿で女の子の格好をしている自分がいると錯覚して、
私が望んでいる立場を見せ付けているあなたに溜まらなく羨ましい意外にも
嫉妬しているんだから・・・・・!」
涙で濡れた双眸は嫉妬の炎を宿している。
ハーデスにそこまで思いを抱いているお主に・・・・・ワシは―――。
口を開こうとしたその時、
「―――そこまで俺のことを想っていたのか準」
「「っ!?」」
気絶していたハーデスが喋り出した。
「悪い、話は聞かせてもらったぞ。まさか男にキスされるなんて
生まれて初めてだから頭が真っ白になっていた」
「イッセー様・・・・・」
「懐かしい話しをしてくれたもんだ。だけど準、秀吉も秀吉なりに悩んでいるんだ。
男なのに女と認識されてそれをどうにかしたいとこいつは苦悩している」
優しく渡良瀬に語るハーデスの視線はワシに変わる。
「だが、こいつには仲間がいる。心から許した男友達がな」
「・・・・・」
「お前らの考えはある意味真逆だ。育った環境がそれを左右したのだろうが、
人の考えはそれぞれだとは思わないか?」
「・・・・・それは、そうですけど」
ハーデスは足からゆっくりと地面に着地した。蒼天ではない、
蒼天の上空に浮かんでいる巨大な浮遊大陸。―――ドラゴンが棲んでいる大陸じゃ。
「要は自分の気持ちが大事なんだ。どうしたいとか、どうなりたいとか、
どうにかしたいとか何度も何度も悩み続けて自分と向き合い答えを出す。
相談に乗ってくれる人、心から許せる人、親兄弟の助言を受けながらでもな」
「「・・・・・」」
「俺は小さい頃からそうして育った。だから今の俺がいる」
話を聞くにつれ、静かに耳を傾けておる自分がいることに気付いた。ハーデスの言葉は力があり、
説得力がある。
「準が俺に好意を抱いている気持ちも秀吉が俺のことをどう思っているのかも、
それは自分の中で出した答え。―――だから準」
「え?」
「俺、男と付き合うなんて考えたことが生まれてこの方、一度も考えたことがないんだ。
だからこそ、その経験をしたい。―――いいか?」
「―――っ!?」
「これは俺が出した答えだ秀吉」
苦笑いを浮かべるハーデスはワシに話しかけてくる。手を差し伸べて
「俺を友達として好きならこの手を掴まなくて良い。
だけど、心から好きだと思っているなら握ってくれ。これはお前の人生を決める選択の一つだ」
「ワシの人生の選択・・・・・」
「男としてこれからも接していく中、時には女として俺の新たな一部となるという選択肢だ。
もしも今のままの関係でいたいならお前は男として人生を送れることができる。
俺と共に生きていくとお前は男でありながら女、女でありながら男として俺の傍に生きて貰う」
ハーデスの言葉を聞き、渡良瀬を見れば・・・・・ハーデスの手を握りしめていた。
「私は死ぬまでイッセー様のお傍にいます。女の子になって
あなたの子供を産むことも望みます」
断言した。渡良瀬は自分の人生が狂ってもハーデスの傍に生きると言い切った。そして
意味深な視線で向けてくる渡良瀬。―――あなたはどうする?とそんな思いを籠めて。
「・・・・・」
この瞬間・・・・・ワシは人生最大の選択肢を向けられていることに突き付けられる。
前のワシならば当然、男として生きハーデスの友人として人生を送る選択を選んでいたが、
ハーデスと接していく中で・・・・・ワシの心は変わっていくのを自覚した。
差し伸ばされている手を見詰めながら胸の前に握り拳を作った。思考の海に潜り込み、
悩んで・・・・・悩んで・・・・・悩んで・・・・・自分がどうしたいのか、
どうなりたいのか、自分と向き合って・・・・・決心した。
「ハーデス」
「決まったか?俺は催促しないぞ」
「・・・・・いや、その必要はない。決めたのじゃ」
金色の双眸を覗きこむように真っ直ぐハーデスの顔を見る。
「ワシはな、ハーデス」
「うん」
「ワシはお主と―――」
自分の気持ちを打ち明けた。そしたらハーデスは小さく笑った。
「そうか、それがお前の答えだな」
「うむ、そうじゃ。今後ともよろしく頼むのじゃ―――イッセーよ」
ハーデスと言葉を交わし合い、時間が許すまでワシと渡良瀬ハーデスと共に過ごした。
楽しく、呆れたりして今日一日は存分に誰も邪魔されないこの国で。
・・・・・ハーデス、お主のこと何時までも・・・・・・。
「ただいまなのじゃ」
「お帰り、彼とのデートはどうだったかしら?」
「楽しかったぞい。特に馬を一緒に乗ったのじゃ」
「馬ね。赤い馬がいたけれどその馬だったりする?」
「うむ、ジェットコースター並みの速度で駆けたから腰を痛めわい」
「そう。ま、ハーデスと問題なくデートを終えたならそれでいいわ。
見たところ特に変わっていなさそうだし」
「・・・・・心の変化は変わったぞい」
「・・・・・それ、どういう意味?」
「姉上達のライバルがまた増えたと言えばよいかの」
「・・・・・アンタ、まさか・・・・・」
「特に蒼天におるあの者には負けたくはない。
ワシと同じ境遇であるからワシ自身と思って―――姉上、何故ワシの両足を極める?」
「ハーデスのバカァアアアアアアアアアアアアッ!」
「うぎゃああああああっ!?」