バカと真剣とドラゴン―――完結―――   作:ダーク・シリウス

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騒三問

「・・・・・ふむ」

 

手を今の自分を確かめるように開閉して興味深そうに目の前に置かれた大きな鏡に映る

自分の姿を、九鬼揚羽は羽を生やした状態で見詰めていた。

 

「違和感が全くないどころか生身の身体の時とは大差変わらんな」

 

「当然だろう。異変が起きちゃ堪ったもんじゃない」

 

「魔力の塊・・・・・ドラゴンだからこそ有している魔法の根源か。

なんと口に表現して良いのか分からん」

 

「分からなくて良いさ。今のお前は特別な力でもう一つの身体を得ていると実感しているだけで良い」

 

その後ろにハーデスが立っていて実体と入れ代っている九鬼揚羽と言葉を交わす。

翌日の朝食を終えてハーデス達は仮想現実世界―――ゲームの世界に入っていた。

 

「イッセー」

 

「ダメだからな」

 

言葉が続かない。ハーデスを読んだ瞬間に拒絶の居合い斬が放たれた。

不機嫌そうに眉根を寄せて背後に振り返って九鬼揚羽は一言。

 

「我は何も言っては無いぞ」

 

「大方、この技術を我が九鬼家に献上して欲しい。もしくはまたもう一度九鬼家に

仕えて俺が作った仮想現実世界を更に発展して欲しいとそう言いたいんだろう」

 

「・・・・・」

 

まさしく図星であった。思わず身体が固まってしまい、頬がピクリと引き攣った

九鬼揚羽を見て呆れた様子で溜息を吐いたハーデスであった。

 

「悪いけど、俺は人間じゃないからお前ら人間の想像と考えが違い、

やる事や成す事の次元が違うんだ。俺を欲するなら力で示せ。―――一生無理だろうがな」

 

「・・・・・ケチ」

 

「意外な言葉が出てきたな?」

 

本当に意外そうで楽しげにクスクスと小さく笑んだハーデスは、九鬼揚羽の頭を優しく叩いた。

 

「良いではないか。少しぐらい九鬼家の力になって貰っても」

 

「俺=蒼天に頼らんでもお前んとこの財閥は世界の半分を掌握しているだろうが。

今さらさらに利益と名声、栄光を欲しても強欲と傲慢な財閥と印象が付くぞ」

 

「他の者がどう思うと構わん。我はお前が欲しいのだ」

 

その意図を察しながらも底意地悪い言い方をしたハーデス。

 

「蒼天をあっという間に掌握出来るもんな?中央区の王は他の区の王と立場が違うし

蒼天の全体を支配できる。そう言う意味で俺を欲しがっているんだろう?」

 

「違う!」

 

ハーデスの推測を完全否定し叫んだ。お門違いとばかり九鬼揚羽が強く言う。

 

「我はお前が欲しいと言うのは一人の女としてお前のことが好きなのだ!

九鬼財閥の九鬼揚羽としてではなく、ただの一人の女、九鬼揚羽としてお前が好きなのだ!

利益や名声とかそう言うのは二の次である!」

 

「(二の次なんだ・・・・・)じゃあ、全てを捨ててでもまた同じことを言えるのか?」

 

「・・・・・」

 

九鬼揚羽に問いかけた質問が帰ってこない。絶句して目を見張り、

思考が停止しかけている様子にハーデスは短く謝り、話を変えた。

 

「お前が俺のことを好きなのはとっくの昔から知っている。

だけど、俺は何時かいなくなる日が今後訪れてくる」

 

「どういう・・・・・ことだ」

 

「俺は帰らなきゃ行けないところがある。そこに俺は行かないといけない。

ただそれだけだ」

 

「他の者はどうするのだ。お前を慕っている王やその部下達も」

 

「もう子供じゃないんだ。俺がいなくなってもあいつらが頑張ってくれる。それに知らないだろう、中央区で俺はどんなことしているのか」

 

意味深に口の端を吊り上げてハーデスは告げた。

九鬼揚羽は静かに耳をこれから告げられる事実に聞き洩らさないよう傾ける。

 

「確かに俺は密かに外国のお偉いさんの元へ訪問してそれなりに交渉や対談といった外交をしている。だけど、国で俺がしている仕事は一切何もしていない」

 

「なんだと?」

 

「つまり実質上。東西南北の王達がたった四人で纏め、維持し続けているんだ。ま・・・・・その内の二人はサボり癖があって少々不安なところはあるが」

 

脳裏に浮かぶ桃色の長髪の美女と天然な少女。

 

「だからこそ、俺がいなくなっても蒼天は問題なくこれからも存在し続ける。ようやく

この段階までこれて安心している」

 

「イッセー・・・・・お前・・・・・」

 

「九鬼財閥には負けんよ。あの四人は」

 

言いかけた九鬼揚羽の言葉を遮り、挑発した。

 

「俺が数十年掛けて創り、育てた国は負けない。よーく覚えておけよ?」

 

 

 

 

「雷斬り!」

 

雷を纏った刀が雷の速度で振るうハーデスに楊志は冷や汗を流しながらも紙一重でかわし、

二つの刀を振るって捌いたり、受け止めたりして防戦一方な状態を続ける。

 

「ちょっ、まっ!」

 

「まーたなーい。はい、上から雷だぞ」

 

「このスパルタはもう嫌だっ!」

 

断続的に降り注ぐ雷を迫りくるハーデスと相手しながらかわす。

それでも立ち続けているのだから凄いと思うのだが、笑みを浮かべながら攻撃する

ハーデスを誰もが戦慄する。それから二人の戦いを見ていると忽然と姿を消したハーデス。

楊志自身も警戒しながら辺りを見渡していると、

 

 

ボゴッ!

 

 

「んなっ!?」

 

『下が疎かだぞ』

 

「おおおおおおおっ!?」

 

地面から二つの腕が生えて楊志の足首を拘束し、地面に引きずり込まれた。

その結果、地面に頭が生えた状態の楊志と水中のように地面から出てきたハーデスの勝利となった。

 

「ふふっ。今の技、例えコピーできての実際にはできないだろう?

人間、地面の圧力の中で呼吸ができるわけがないしな」

 

「ううう・・・・・私の弱点ばかりしてくるんだから・・・・・」

 

「お前の能力は確かに面白くて強いけど限度ってものがある。それをよく理解しないとな」

 

朗らかに楊志の能力を指摘し、地面から出した。そんな二人を遠巻きから見ていた

面々は揃って溜息を吐く。

 

 

『やはりイッセーは強いの』

 

『絶対に本気じゃない』

 

『あんなヒトを一体誰が勝つってのよ』

 

『いないだろう。この世界には』

 

 

ハーデスの耳に届く外野の話。肯定と心の中で同意し楊志に語る。

 

「今の状態なら、特訓次第で楊志もできるだろう。俺の自慢の技を」

 

「イッセーの自慢の技?」

 

「ああ、右手に気を球体に具現化してみろ。こんな感じに」

 

右手に出てきた気の塊。それを真似をして右手に楊志も気の塊を具現化した。

 

「そんで左手に自身の身体の魔力を集めてみろ。気と同じように」

 

そう言われて初めて魔力という摩訶不思議な力を扱う。具現化する事に関しては

ハーデスのやり方をコピーして直ぐにできた。この二つの力をどうするのか?

と視線で訴えるとハーデスは気と魔力を―――。

 

「感卦法」

 

合わせ、融合してみせた。その結果、ハーデスは光のオーラに包まれた。

 

「―――っ!」

 

武の達人である九鬼揚羽を筆頭に誰もが目を張って思わず立ち上がった。

九鬼揚羽達から言わせて見れば、ハーデスの闘気が一気に計り知れないほど跳ね上がったのだ。

 

「その技・・・・・なに?」

 

「感卦法。これを会得すれば

肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・対毒

その他諸々オマケ付きの究極技法」

 

「おお・・・・・っ」

 

ハーデスが自慢の技だと言うのも頷ける。

 

「―――もしかすると、川神百代とタイマンが張れるぞ。どうだ、会得してみたいか?」

 

「今までコピーして来た技のどれよりも遥かに優れた技だね。勿論、それもコピーして―――!」

 

意気揚々と二つの力を融合しようとした、が。

 

 

バチッ!!!!!

 

 

相性が合わないのか、弾けて消失してしまった。

 

「え、なんで?」

 

「そんな簡単に会得できる究極技法じゃないって。気と魔力は相反、相対する力だ。

時間を掛けて会得してみな。というか、お前の能力の弱点もまた追加されたか」

 

「ううう・・・・・どうしてイッセーの技は私の能力と相性が

悪過ぎるばかりなんだよ・・・・・」

 

「楽に他人の技をコピーした報いじゃね?俺もあまり人のこと言えないがな」

 

苦笑いを浮かべ項垂れる楊志を見た後に軽く応援の声を送った。

 

「ハイハイハーデス!」

 

「ん、なんだ」

 

「ボクもそれ、できる?」

 

「嫌、無理だな」

 

ユウキの質問にバッサリと切り捨てた。

 

「そもそも、ユウキは気の扱い方ができていないし魔力だってないんだ。

会得する前に基礎から始めないと」

 

「うう・・・・・凄そうな技なのに」

 

「人それぞれだ。お前の剣技だって一つの才能なんだぞ?あのマザーズロザリオ、

俺だってできない。練習しないとな」

 

「ハーデスはボクの技をマスターできちゃいそうな感じなんだけどね」

 

二人が話をしている余所に楊志は必死に感卦法を会得しようと頑張っているが

全て失敗に終わっている。

 

「というか、ユウキもこのトリガーを使って魔力を放てるようになれば

もっと強くなるんじゃないか?同じ妖精族にしてさ」

 

「あ、そう言う手もあるんだったね」

 

「魔法と魔力に関してならば俺もいくらか力になれる。例えば魔力を自然の力に具現化して」

 

腰に差していた剣を手にして刀身に自然の力を具現化した魔力を纏わせ見せた。

 

「剣技+炎属性の攻撃が可能な戦闘術の完成っと」

 

「おおっ・・・・・!」

 

「後は大体分かるよな?これをこうすれば」

 

剣を十字に振るうと、十字の炎が飛び出して遠くまで進んで消失した。

 

「属性付きの斬撃を放てる」

 

「凄いっ。ボク、まだまだ強くなれるんだね・・・・・!」

 

「ただ放つだけが芸じゃないからな。後でレクチャーをする。

それまで自習トレーニングしてみな」

 

「うん、お願いね」

 

満面の笑みを浮かべハーデスから闇妖精族(インプ)のアバターになれるトリガーを

貰い受け、早速特訓を始めたのだった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「誰かと思えば・・・・・お前か。俺を殺しに来たか?」

 

来客が訪問したことを察し玄関を開け放つと紫のメッシュがある黒髪の少女が佇んでいた。

ハーデスの問いかけに、

 

「私の剣を返して欲しい」

 

「ん、いいぞ」

 

「・・・・・」

 

「なに呆けているんだ?自分の武器じゃないと勝手が違うんだろう」

 

目をパチクリとハーデスの了承を得たことに信じがたいと思っていた少女。

こんなあっさりと奪われた武器を返してもらえるとは思いもしなかった。だからこそ、

服に仕込んでいた刃物で殺そうと企てていたのだが。虚空に開いた穴の中に手を

突っ込んだハーデスの手に少女の武器が持っていていた。

 

「・・・・・お願いしてなんだけど、私達は敵同士なのに武器を返して良いの?」

 

「お前らから武器を取り上げたのはこの世界に住む人間に危害を与えさせない為だ。

お前らを見張って頃合いになったら返す予定だったんだ。実際、何人か武器を返して

いるんだが?ま、刃物を仕込んで襲おうとしている奴に殺されたら堪ったもんじゃないがな」

 

見破られていたことに少なからず動揺し、武器を受け取った。そして唐突にハーデスは問うた。

 

「あのバカは?」

 

あのバカと言うのはきっと昨日重傷を負った男のことだろうと察し少女は答えた。

 

「医者が言うには両足を切断、全治数カ月の安静だそうだ」

 

「あっそ、どうでもいいがな。―――お前らと俺の家族に止められていなかったら確実に

殺していたのにな」

 

ゾッとハーデスから敵意と殺意、プレッシャーを感じ少女は息を静かに呑んだ。

 

「家の中に入れ、まだ襲ってくるなよ?専用の場所で思いっきり殺しに掛かって来い」

 

「専用の場所・・・・・?」

 

「俺のトレーニングルームだ」

 

ちょいちょいと手を招かれ、敵を招く対象者に怪訝で入り専用の場所までついて行く。

 

「ところで、この世界はどうだ?」

 

「・・・・・何でそんな事を聞く?」

 

「お前らがいた世界とこの世界の文化と歴史が違うからな。楽しいのかどうか気になって」

 

そう言われ、最近の暮らしを思い出し・・・・・少女は答えた。小さく笑みを作って。

 

「かつて敵同士だった娘と一緒にこの世界で暮らせて楽しいよ。最後まで味方同士になる

状況下は・・・・・一度敵対した者同士、複雑だけれど・・・・・」

 

「全ては俺の命を狙う為に再び甦り集結したによる因果・・・・・か。確かに複雑だわな」

 

どこから取り出したのか分からない徐にスケッチブックにペンを走らせて床に無造作に置いた。

 

「・・・・・なにを?」

 

「俺がどこにいるのか場所を記しただけだ。ああ、戦いに割り込ませないから大丈夫だ」

 

上階へ行く為の会談の裏に回り込み、地下へ降りるエレベーターに乗り込んで二人は

目的地の場所へ向かった。そして、ハーデスが言うトレーニングルームへと辿り着いた。

 

「ここが・・・・・トレーニングルーム・・・・・」

 

「広いだろう?さてと、そっちは剣でいいんだな?」

 

「ああ・・・・・」

 

「ならこっちも剣で行くか」

 

虚空に開いた穴の中に突っ込み神々しい大剣を取り出した。

 

「俺は殺す気なんてさらさらない。が、お前を倒す」

 

「・・・・・甘いよ。殺される立場だと言うのに敵を殺さないなんて命があっても足りない」

 

「分かっていないなぁ」

 

肩を竦め呆れられた事にどういうことだと眉根を寄せて視線で問うたらハーデスは笑った。

 

「せっかく甦ったってのにまた殺されちゃそれこそ堪ったもんじゃないだろう。そんな

お前らは幸せに生きてもらいたい事を俺は願っているんだよ」

 

「・・・・・」

 

「俺も一度死んだ身でね。同じ境遇のお前らを殺すことはしないつもりだ。

ただし、俺の言う事を聞けない奴は容赦なく殺すがな」

 

―――変わっている。と少女は心底思った。殺しに来た者に幸せに生きて欲しいと願う

可笑しな思考を持つ標的の言葉を惑わされるほど心は弱くない。ないのだが・・・・・。

 

「・・・・・感謝するよ」

 

「ん?」

 

「お前という存在がいたからこそ、今の私達がいるんだ。

また友達と再会し今度は味方になったしね」

 

「・・・・・俺も捨てたもんじゃないってか」

 

少女の感謝の言葉を受け入れて大剣を前に構えたことで臨戦態勢になった。

対する少女も剣を構えて敵意と殺意、プレッシャーを放つ。

 

「我こそは死神オールベルグの息吹。無常の風、汝を冥府へと導かん」

 

名乗りを上げた少女にハーデスも名乗りを上げた。

 

「我は真龍と龍神の力を受け継ぎし者。我は無限と夢幻の力を以って

汝を無限の夢と幻へと誘おう」

 

二人を包む静寂はしばらくして―――。

 

 

フッ

 

 

同時に姿を消して凄まじい速度で互いが接近し刃と刃がぶつかり合った衝撃で

静寂が破られたのだった。

 

 

―――☆☆☆―――

 

 

「遅いねーハーデス」

 

「そうだね、何をしているんだろう?」

 

「誰かが来たって言ってそれ以来戻ってこない」

 

リビングキッチンにて昼食をしていたボクらだけど、

イッセーくんがいないまま時が過ぎて次第に疑問が湧いた。

何か面倒な目に巻き込まれているのカナ。

 

「玄関に行ってくる」

 

林冲が買って出て玄関に行った。だけど、少しして戻ってきた林冲さんの傍に

イッセーくんはいなかった。

 

「こんなものが」

 

ボク達にソレを見せ付けてくる見慣れたスケッチブックに書かれた文字。

 

 

―――殺し屋とトレーニングルームで殺し合いをしているからな―――

 

 

『・・・・・』

 

そのメッセージに叫ぶ考えはどこかへ吹っ飛び、一斉に立ち上がった。

言葉に出さずとも皆の気持ちは分かる。今すぐ彼のところに行こうと。

 

「こっちだ」

 

と、林冲さんが立ち上がったボクらに案内してくれる。ボク達の気持ちを察して

トレーニングルームに連れてってくれた。会談の裏にあるエレベーターに乗り込んでいざ、

地下にあるトレーニングルームへと赴いた。

 

「あの人の事だから、既に戦いは終わっていると思うけれど注意してほしい」

 

「だったら、トリガーを使った方が賢明と思うわね」

 

「実体と入れ代り、どんなに傷を負っても生身の実態に影響は及ばんからの」

 

イッセーくんが言うある意味不死身な体。ゲームのキャラクターとなればボク達は死ぬことはない。

皆もそう思っているからこそ、持っている皆はゲームスタートと発し実体と魔力の塊な

ゲームの遊び用の身体と入れ代った。その直後、エレベーターは停止して左右に扉が

開いて行く。ここがトレーニングルーム―――!

 

「なんだ、やっぱり来たか」

 

予想していたとばかりの物言いをするボクに振り向くイッセーと全身で息をしている

見知らぬ女の子がいた。彼女が殺し屋・・・・・?

 

「えっと・・・・・大丈夫よね?」

 

「んーあともうちょいかな。まだ戦意があるようだし。だけどそろそろ終わりにするか」

 

そう言ったイッセーくんの目の前にいた女の子が音も無く移動してきて、

持っていた刀で渾身の一撃を放った―――。

 

「またしような」

 

「・・・・・っ!」

 

その最中に突き出したイッセーくんの指が、彼女の顎下にデコピンした。

たったそれだけで女の子の上半身が仰け反り、背中から床に倒れて動かなくなった。

 

「・・・・・殺したの・・・・・?」

 

「脳震盪を起こしただけだ。しばらくは満足に動くこともできないさ」

 

剣を取り上げて肩に女の子を担いでボク達に近づいてくる。

 

 

~~~しばらくして~~~

 

 

「・・・・・タエコと言う」

 

イッセーくんに負けて回復した女の子は何か居たたまれない様子で名乗った。

 

「・・・・・殺し屋って本当?」

 

翔子ちゃんの質問にタエコさんは短く頷いた。

 

「兵藤一誠を殺すことが今の私達の任務」

 

「その殺しの標的に返り討ちにされては生かされている。それが今のこいつらの現状なのさ」

 

ハッハッハッと軽く笑いながらタエコさんの頭を軽く叩くイッセーくん。

 

「警察に通報した方がいいんじゃないの・・・・・?」

 

「いや、こういうやつらは俺の視界に入る範囲にいさせた方が良い。

それにこいつを含めて他の暗殺者に釘を刺しているし」

 

「それってどんな?」

 

「人に危害を加えたら即殺す」

 

釘と言うより脅しじゃないかな・・・・・?

 

「昨日のバカも暗殺者の一人だぞ」

 

「・・・・・嘘」

 

「だから殺そうとしたんだ。大人しく余生を楽しんでいればいいものを。バカな奴だ」

 

眉間にシワを寄せて不機嫌な面持ちを表すイッセーくん。

そうなんだ、ボク達の知らないところでそんな・・・・・。

 

「ユウキ、お前と同じ境遇の人間だ」

 

「・・・・・っ」

 

それって、どんな関係があるのかな。

 

「・・・・・帰って良いかな」

 

「いいけど、相手からちょっかいされても危害を与えるなよ。精々威嚇か脅し程度だ」

 

「・・・・・わかった」

 

タエコさんは立ち上がって、ボクらにお辞儀してどこかへ帰って行ってしまった。

 

「あんな人が他にもいるなんて、大丈夫なの?」

 

「俺限定だし大丈夫。それに中には案外付き合い安い奴等がいるから会話もできる。

根っからの悪人じゃないのさあいつらは」

 

「・・・・・あなたがそう言うのならいいけど、心配だわ」

 

優子が憂鬱に溜め息を吐いているとジーっと翔子ちゃんが優子を見詰め始めた。

 

「・・・・・優子」

 

「何?」

 

「・・・・・どうだった?痛かった?」

 

「へ?」

 

一体何のことだろうと思ったけれど、

 

「・・・・・昨日の夜、イッセーの部屋に行ったから」

 

その言葉でようやく理解して、ボクだけじゃなく他の皆もイッセーくんや優子に

意味深な視線を向けた。対して優子は徐々に赤く染まって―――。

 

「そ、そこまでしてないわっ!」

 

と、否定した。・・・・・え?

 

「してないの?」

 

「・・・・・あのな」

 

そこでイッセーくんが溜息を吐いた。

 

「盗み聞きしている手前で俺が優子に襲うわけがないだろう」

 

「あ・・・・・気付いていたんだ」

 

「当たり前だ。良い趣味しているよなお前ら」

 

うっ・・・・・ごめんなさい。

 

「揚羽達もそう思っているからな」

 

「気付かれていたとは・・・・・すまぬ」

 

「申し訳ないです」

 

深く反省しているとボク達は謝った。そうだよね、知られたくないことを影から

知ろうなんて行いは間違ってるよね。

 

「・・・・・今度は堂々と目の前で見る」

 

「しょ、翔子!何を言っているのよ!?」

 

「度肝を抜かれたぞおい」

 

さ、流石翔子ちゃん・・・・・行動力が凄まじいネ。

 

「じゃあ、二人は一緒に寝ただけなの?」

 

「いや、それは―――むぐっ」

 

「アンタも教えようとしない、言わなくて良いのっ!」

 

イッセーくんの口に真っ赤な顔のまま両手で塞ぐ優子。

うーん、気になる反応だなぁ・・・・・。

 

「さて、そろそろお昼だけどその後はどうしようか?」

 

ボクらに尋ねる弁慶ちゃん。うん、そうだねぇ・・・・・。

 

「何か楽しいことをしてみたいね」

 

「楽しいことか・・・・・」

 

「・・・・・イッセー」

 

「なんだ?」

 

「・・・・・実は家でクッキーを焼いた」

 

翔子ちゃんのクッキー。昨日は一言もそんなこと聞いていなかったけどね?

 

「・・・・・後で食べて感想を聞かせて欲しい」

 

「変な物入れてないよな?」

 

「・・・・・大丈夫」

 

一度、イッセーくんの命を危険に陥れた翔子ちゃんの料理を思い出したのか

顎に手をやってイッセーくんは考え始めた。

翔子ちゃんの言葉を信用しないわけじゃないけど・・・・・ね?

 

「・・・・・よし、皆の平常心を試してみるか」

 

「ボクらの平常心?」

 

「一種のゲームだ。ほら、何時ぞやした肝試しのアレだ」

 

ああ・・・・・あれね、あれは凄かった色々な意味で・・・・・。

というか、どうしていきなりそう言いだすんだろう?

 

「それで?」

 

「ん、俺が皆に平常心を揺さぶって、もしも平常心が揺らがなかった者がいれば

そいつの勝ちって遊びをしようか」

 

「へ、変なこと・・・・・しないよね?」

 

紺野ちゃんが少し警戒の色を浮かべる。うん、思わず警戒するよね。

今までのイッセーくんの言動を鑑みれば・・・・・ね。

 

「変なことって例えば?」

 

「え、えっと・・・・・その、ボク達の身体を触ったりとか」

 

「それは指一本も触れないから問題ない。見ているだけでいいから」

 

見ているだけでボク達の平常心をどうやって奪うのか気になる。

イッセーくんの指示で皆横一列に並び、彼の目の前に待機する。

 

「さて、我の平常心をどう揺さぶるのか楽しみであるな」

 

「この中で揚羽さんが一番問題なさそうだしね」

 

「義経も英雄のクローンとして頑張る!」

 

心の準備をしてイッセーくんの言動を待ち構える。ボク達の様子を見て不敵に口の端を

吊り上げて小さく笑った彼は、何故か出て行った。

 

『・・・・・』

 

どうしたんだろうと思いつつも既に始まったゲーム。きっと彼は何か仕掛ける準備をしに

出て行ったんだろうとこの場の空気がそれを感じさせてくれる。

数秒、十数秒、数十秒と時の流れを感じつつ待っていると

 

 

ガチャッ(扉が開く音)

 

ひょこっ(イッセーくんが顔を出した擬音)

 

 

『・・・・・』

 

・・・・・イッセーくん・・・・・だと思った人物は何故か背が小さい。幼稚園児の背だった。

しかも、真紅の髪が黒髪になっていて猫耳と猫の尻尾を生やしていた。

な、なんで・・・・・?

 

「―――にゃん」

 

次の瞬間。

 

「可愛いいいいいいいいいいいっ!」

 

ダッと伊達ちゃんが席から離れて猫の真似をした子供を抱き締めた!

 

「う・・・・・ぐ・・・・・!」

 

「ア、アタシも・・・・・でも、これは彼の罠・・・・・っ」

 

対して堪えるボクら。これは・・・・・想像以上っ。

 

「正宗アウト」

 

伊達ちゃんが抱き締めた子からイッセーくんの声・・・・・というか本当に彼自身なんだ。

失格を宣言されて伊達ちゃんは別の場所でボクらの様子を見守ることに。

 

「イッセーさん・・・・・あの、その姿は・・・・・」

 

「ん?今の俺は子供の時の姿をしているんだ。どうだ?」

 

「子供の頃のイッセーさん・・・・・」

 

「さてと」

 

うっ・・・・・!

 

「―――お姉ちゃん」

 

『っ!』

 

「僕をギューっと抱きしめて欲しいなぁ」

 

ニッコリと太陽のように笑い両腕を伸ばしてくる子供時代のイッセーくん。

アレは誰かに甘えたい仕草をする子供そのもの・・・・・。

だから、だから―――席から立ち上がって翔子ちゃん、優子、織田ちゃんがイッセーくんを

抱き締めてしまうのはしょうがないだろう。

残るのはボクこと工藤愛子、木下秀吉くん、紺野木綿季ちゃん、源義経ちゃん、

武蔵坊弁慶ちゃん、葉桜清楚先輩、九鬼揚羽さん。(林冲ちゃん達は不参加)

ボク達をどう平常心を揺さぶるのか・・・・・イッセーくんは次はどんな手を使って

来るのか、興味と緊張が混ざって彼がキッチンの方へ姿を消してからも待つ。

 

『・・・・・』

 

待つけれど、彼は現れない。不思議に思い、ボクらはキッチンの方へ近づいてみるとそこには、

 

 

「・・・・・(ぐったり)」

 

 

口から泡を吹いているイッセーくんとクッキーが入ったバスケットがあった。

もしかして翔子ちゃんが作ったと言うクッキー?

―――なんでまた虹色なのか気になってしょうがないんだけど。

 

「・・・・・これ、マジ?」

 

「・・・・・」

 

九鬼揚羽さんがイッセーくんに寄って、状態を確認した。

 

「・・・・・脈がない」

 

「「「「「急いで救急車ぁああーっっっ!」」」」」

 

これがこの日一番の動揺だった。

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