今度こそ完結にします
☆愛武サイド
九重に関わるとロクなことがない。
これは、ただの直感。
科学的根拠みたいなものはない。
でも結果的には間違っていなかった、と思う。
少なくとも今のところ、九重に関わったことで死ぬ羽目になった人間が身近に二人知いる。
そして、現在進行形で死にかけている人間が一人。
死んだのは元雇用主ふたり。
富之山豪豪と、喜結院桃鶴。
富之山は九重から『狼』を奪おうとして。
喜結院は九重を殺そうとして、それぞれ命を落とす羽目になった。
そして喜結院と同じく九重を殺そうとしたことが原因で、巡りめぐって現在進行形で死にかけているのが、五階堂舞。
通称まいまい。
話はほんの数時間前。
白玉教の一件の翌朝。
私とまいまいはシェルターから地上に顔を出して、当面の潜伏先に移動するために連絡をとっておいた『逃がし屋』と合流した。
逃がし屋、ふーちゃんこと辻風仁のハイエ◯スに乗り込んで移動を始めてすぐ。
ふーちゃんの人あたりの良さもあってか、早くも気が緩んだらしいまいまいが愚痴をこぼし始めた。
内容はもちろん、九重の話。
あいつのせいでまた無職になったとか、もうちょっとで殺せそうだったのに逃がしたとか、そういう感じのことを後部座席でキーキーと騒いでいた。
私は昨日からのドタバタでそれなりに疲れていたのもあって、聞き役をふーちゃんに任せて助手席でうとうとしていた。
で。
まいまいが『九重の家に兎を送りこんだ時も失敗した』という話を始めた時。
『その話、詳しく聞かせて?』
まいまいが座っていた後部座席の更に後部から声がして、背の高い女の人が顔を出した。
一番後ろの席でずっと横になって寝ていたらしい。
ルームミラー越しにちらっと見ただけで分かる、えげつない美人だった。
思わず振り返って直接見た。
その美人さんは、勝と名乗った。
それから、勝さんの要望で一旦コンビニに停めさせられて、そこで全員コーヒーを奢ってもらって再度出発。
車に乗り込む際、勝さんはさり気なくまいまいの隣へ移動。そして『私も九重嫌いなのよ』と話した。
まいまいはコーヒーを奢ってもらったうえ隣に美人さんがきて、さらに話に乗ってきてくれたことですっかり気を良くして、九重家に兎を送りこんだ経緯について喋りはじめた。
勤めていた屋敷が当時の雇用主ごと九重に吹き飛ばされたせいで職を失い、白玉教に身を寄せた話。
屋敷が無くなる騒動に乗じて兎が脱走した話。
その兎を捕まえて、報復も込みの暗殺のため九重の家に送りこんだ話。
九重の暗殺に成功したら、大福をいっぱい食べさせてあげることを兎と約束していた話。
約束を守るつもりはさらさらなく、ことが済んだら売り飛ばして小遣いにしようと思っていた話。
結局、兎はそれっきり行方が分からなくなった話。
勝さんは先ほどまでのフレンドリーな雰囲気とは打ってかわって、それらの話を神妙な顔をして静かに聞いていた。
それでも、まいまいに喋らせるためか相槌の調子は変えず。
『そういえば、九重も言ってたわ。『悪意をもった侵入者が選びそうなルートに罠を仕掛けたら兎がかかった』って』
『あー、侵入ルート指導したのアタシだわ』
『なるほどねぇ』
そこで、何かを察知したふーちゃんが会話に入っていった。
『あー……先生。この車、ほかの仕事でも使うからあんまり汚さないでね?』
『………………クリーニング代、ほか諸々の損失分は全部私が出すわ』
『う~ん、そう言われちゃうとなあ~……』
それから、ふーちゃんは話をこちらに振ってきた。
『あのさ……愛武くん。私は今日は逃がし屋として来たから、きみたちを目的地まで『無事に』送り届けなきゃいけないと思ってるんだけどね』
『えっ? うん』
『ちょっと難しそうだから……お代は半分でいいよ』
『は? どっ、どういうこと?』
そんなやり取りと、ほぼ同時。
『ちょっ、急になに……あっ、えっ、待って、うま……あっ、んっ』
なんかエッチな声がしたな、と思った。
それから、後部座席で地獄が始まった。
最初は戸惑いのほうが大きかったまいまいの声はすぐに嬌声に変わった。
それだけならまだ良かったのかも知れない。
その嬌声はやがてほぼ悲鳴のような声に変わり、数時間。
現在に至る。
「あ゛っ、が、あぁっ……もっ、やめ゛っ、許しでっ……あああぁ゛!!」
何が起きたのかというと。
勝さんが、まいまいの『まいまい』を手でまいまいし始めたのだ。
まいまいが身体をよじって脚をばたつかせるたび、ビチャビチャと水音がする。
これは、彼女が垂らしたり漏らしたり噴いたりした液体で床にできた水たまりの音。
あれからずっと、勝さんに垂らしたり漏らしたり噴いたりさせられ続けている。手で。
「てっ、てめ゛っ……あ゛とで絶゛対、殺゛っ……」
「……お仕置きが足りないみたいね」
「ああ゛あ゛ああ゛ぁぁ゛あ゛あっっ!!!!」
たぶんだけど、兎の話は勝さんの地雷だったんだと思う。
ふーちゃんの反応も加味して考えるに、たぶん。
「ら゛っ、らぶぢん……たっ、助゛けっ……」
「……助手席にも居たわね。アンタも共犯?」
勝さんの矛先がこちらを向いた、気がした。
ここで返答を間違えると同じ目に遭わされるわけだ。
まあ、勝さんみたいな爆美女に許しを乞うレベルで何時間も責め続けられるっていうシチュエーションには興味が尽きないけど、それはそれ。
「えーと……友だちは友だちですけど、兎に関しては屋敷から逃がした側です」
「そう」
「ら゛ぶぢん゛んん!!?」
見逃してもらえたっぽい。
やっぱり兎か。
そしてまいまいを助けたいのは山々だけど、まあ助手席からじゃ無理だし。
これも『九重に絡むとこうなる』っていうことのような気がするし、そもそも兎の件は私もちょっとそれはないなと思っていたので、まあ、禊ってことで。
車のなかが色んな液まみれになることに関しては、ふーちゃんも早々に諦めたみたいだし。
勝さんの性質を分かってそうなふーちゃんが諦めてるんだから、もう、しょうがない。
「……ちなみにそれ、いつまで続けるんです?」
「目的地についたら離してあげるわよ」
だそうです。
それなら、まあ。
死ななきゃセーフ、か。
それはそうと。
これだけ九重の被害者を観測しておきながら、それでも九重への興味は抑えられそうにない。
あいつは危ない。
でもたぶん、面白い。
意識的に接触を避けたことによって生き延びたような現状があるにも関わらず、また会えたらいいな、なんて考えてしまっている自分がいる。
それは、少し怖い。
近いうちに死ぬ羽目になるかも知れない。
まあ、今考えても仕方ないけど。
なるようになると思っておくしかないのかな。
とりあえず今は、目の前のことに専念しよう。
「も゛っ、降ろ゛しでぇ……降゛ろ……」
「ふーちゃん、目的地まであとどれくらい?」
「3時間くらいかなー……」
「あー」
「いや゛ああ゛ぁぁ゛ああ!!!」
コーヒーうま。
誰か感想ください