衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
突然ですが、実を言うと私は先生失格なのです。
というのもエデン条約編第1章と2章において、ずっとハナコを疑っていました。
ここの士郎も同じです。
というより、マコの一件があって大分動揺しています。
そして、ミカの放った一言と、アビドスでの一件がここで響いてきます。
第1章、第2章のサブタイトルは
「先生失格」です。
#1 シスターフッド
「ただいまー。」
ガラガラと教室の扉を鳴らして開ける。
「お帰りなさいませ─────士郎さん?
随分と顔色が悪いようですが.....。」
「いや、大丈夫だ。
それより、俺のいない間、変わりはないよな?」
どうにか悟られないようにと振舞ってみるものの、訝しむワカモの表情は変わらない。
それどころか見透かされているような気がするのは、気の所為だろうか?
目の前では第二次模擬試験の結果を全力で説明しているヒフミがいるが、全く頭に入ってこない。
「.....先生?」
「あ、あぁ、悪い、なんて言ったんだ?」
間抜けみたいに聞き返す始末だ。
そうとうボケているように見えているに違いない。
皆、変な顔をしている。
「やはり....何かあったのでは.....?
士郎さんが私達の為に秘密にしようとしてくれているのは分かりますが.....それでは皆さんにも何かあったのかと看破されてしまいます。
本当に何も無いのであれば────」
ワカモが俺の肩をゆすろうと近づいてきたその時だ。
(スッ.....。)
誰かが、
「──────!」
ミカが、戻ってきたのだろうか?
イリヤへ視線を送る。
『違うわ。
でも喜ばしい相手じゃない事は、確かみたいね。』
警戒しろ、とイリヤは言う。
一瞬マコが瀕死の体でここまでやってきたのかと思った。
しかし、それは踏み入れた人数でわかる。
10人以上はいるのだ。
しかも、裏門からわざわざ人目を避けて。
(ガタッ!)
椅子を倒す勢いで立ち上がる。
こんなタイミングでやってくる後ろめたい事がある奴の用事なんて、襲撃しかありえない────!
「ワカモ!皆!戦闘準備だ!!」
「え、衛宮先生!?」
「....!?な、何言ってるの?
頭おかしくなったんじゃないの?!」
俺の反応にあたふたするヒフミとコハル。
しかし、アズサだけは違ったようだ。
「....シロウ、敵は?」
(ガチャンッ!)
彼女はもう自前で武器を装備し、臨戦態勢を取っている。
雰囲気だけで、敵襲を察知したらしい。
「裏口に10人は来てる!
まずは相手の出方を伺う、
万が一だけど.....もしかしたら勘違いかもしれない。
ワカモ、ヒフミ、コハルはここで待機!
浦和とアズサは一緒に来い!」
「───────。
お2人の事はおまかせを。
お気をつけてくださいませ、あなた様。」
「.....?」
「え、何!?ホントなの!?」
ワカモは言いたいことを我慢して指示に従ってくれた。
これがもし出会った当初であれば俺の最初の一声で動いていただろう。
成長している証拠だ。
して残りの2人は理解していない。
ぼけーっと椅子に座っている。
教室の扉を開け、左右を警戒しながら廊下へと飛び出す。
アズサは即応。
浦和は戸惑いながらも俺に着いてきた。
「了解した、状況を開始する!」
「わ、分かりました。
ですか、衛宮先生、何が起きているんです?」
「話は後だ浦和、今はこの状況を乗り切る!
イリヤ、アロナ、戦闘準備。こっちの人数が普段に比べて少ない分最悪俺も前に出る!」
2人には状況の把握に務めてもらう。
こういう時こそ、頼りどころだ。
『で、ですが衛宮先生!
昨日の夜のように上手く行くとは限りません!
お願いですから極力────』
(タタタタタンッ!)
なんの口上も無しに、その生徒達は発砲してきた。
『衛宮先生!』
アロナが障壁を張ってくれたお陰で3人とも無事で済んでいる。
が、今のは確実に初撃で相手に致命傷を与えるための射撃。
俺たちは廊下の曲がり角に隠れ、様子を伺った。
「──────あの制服は.....。」
「まさか、襲ってきた相手がティーパーティーの生徒とはな....」
これには浦和もアズサも、俺も吃驚だ。
撃ってきた相手はアズサの言った通りの外見をしていた。
「───────。」
戦って、いいのか?
これはもしかして俺を陥れるための、桐藤のとった策ではないのか....?
それか百合園セイアを襲撃した犯人かもしれない。
俺たちに襲われたと虚偽の報告をされてしまっては、そこで、おしまいだ。
今の桐藤の状態から察すると、信用されていない俺達の言より、自らの部下達の言葉を信用する可能性が高いからだ。
イリヤへと視線を送ると、また彼女も同じ心配をしていたようだ
『シロウ、捕らえましょう。
ナギサの所へそのまま返すのは不味いわ。』
「.....わかった。
聞いたな2人とも、倒したらその場で手早く拘束。
情報を引き出す。」
こんな手を使うのは桐藤のやり方のようで気が引けるが立場が悪くなって4人を巻き込むより断然マシだ。
「...わかった。」
「どうやらただ事ではないようですね。
拘束のことならお任せ下さい♡」
.....浦和に任せたのは失敗かもしれない。
なんて思っていた時だ。
(ドカァァァン!!)
「なっ!?」
突如として前方にいた敵2人の足元が爆発した。
「何が起こったんだ!?」
自爆した素振りなんてなかった。
その理由を端的にアズサは語り出す。
「.....甘いな、ブービートラップにも気づかないとは。
シロウ、追撃を開始する!」
「わかった!
けど、1人で大丈夫か!?」
「.....この程度問題ない。」
彼女は走り、煙幕の中を駆け抜けていく。
しばらくしてその中から、淡い閃光が弾けるのと同時に銃声が少し。
その後、アズサが気絶した2人を引っ張ってきた。
(ドサッ!)
「捕獲完了だ。
あと8人以上いるとの話だったか?」
「あ、あぁ...具体的な数は分からないけど、多いのは確かだ。
でもどうして人数なんか────。」
して、アズサが推測を語る。
「シロウ、これは計画的な襲撃じゃない。
そうだとしたら素人同然だ。
恐らく突発的に起こしたなんの気なしの行動だ。
なら勝機はある。
校内の残敵掃討は私に任せてくれ。
ハナコ、拘束は任せた。」
「お、おい!待てアズサ!」
俺の静止を聞かず、1人走り出すアズサ。
気絶した生徒を浦和に託して、追いつくため足を動かす。
「
ホシノの盾を展開したし、アロナとイリヤがいる。
防御に関しては不足はない。
しかし、だ。
結局の所、生徒相手には何も出来ない。
どうやって取り押さえるか困っていた、そんな時だ。
違和感を感じた。
これまた2人ほど、結界内へと足を踏み入れた生徒がいる。
が、新手かと思えばそんな雰囲気は全くない。
むしろ1人は知り合いのようだ。
「だ、誰だこんな時にやってくるなんて....!」
巻き込まれたらまずいと俺は正門の方へ駆け抜ける。
そこに居たのは、これまた場違いな服装だ。
「い、伊落────マリー!?
って事は隣の生徒もシスターフッドか!」
シスターフッド─────それはトリニティの派閥の1つであり、言峰が在籍している不鮮明なグループだ。
「ごきげんよう、衛宮先生。
シスターフッド所属の歌住サクラコです。
どうぞサクラコ、とお呼びください。
日々に安寧があらんことを。
.....それにしてもこれは....。」
「.....ただ事では無い様子なのは確かのようです、サクラコ様。」
2人は煙の上がる館内をじっと見つめて戦闘態勢に移行した。
話が早い。
今の反応からは察するに別の要件で来ていたのだろう。
「単刀直入に現状を話す。
敵はティーパーティーで、状況がいまいち掴めない。
お前たちは加わらない方がいい、派閥間の関係性が悪化する可能性だってある。
だから館内には────」
戦闘には加わるな、と一言言いたかった。
散々「結論から話せ」と色んな人物から言われてきたのが土壇場で成功しているのはなんとも皮肉としか言えない。
が、しかし、それを彼女たちは────
「大丈夫です。状況は理解しました。
生徒を更生している補習授業部をティーパーティーが襲う理由はありません。
故に、今襲われているのは別件です。」
灰色の髪をした生徒は宣言した。
状況なんて、お互い不鮮明なはずなのに─────
「今この時、シスターフッド、歌住サクラコは 衛宮先生の指揮下に入りましょう。」
まるで、今の俺の立場を知っているかのように、味方についた。
「今日も平和と安寧があなたと共にありますように.....。」
祈りを捧げる様子のマリー。
いや ....そのだな。
銃を手に持って、そんな言葉をつぶやくのはぶっちゃけどうかと思うぞ....?
2人を引き連れて、再び館内へと突入。
元々仕掛けられていたブービートラップを回避しながら進むとアズサと鉢合わせになった。
「シロウ!その後ろの2人は!」
「一応味方だ、それより首尾は!」
「あれから更に4人倒した....けれど、何かおかしい....戦闘の意思は感じるのにまるで正気じゃないというか....」
.....?
どういうことだ、正気じゃないって。
「居たぞ!」
「撃って、撃ちなさい、私たちが生き残る為に衛宮士郎は───シャーレは────!」
聞こえてきたのはティーパーティーの生徒達のものだ。
「おいおい....いくら何でも物騒過ぎやしないか......?」
文字通り「必死」にこちらを狙って引き金を引く彼女達。
鋼鉄の盾に重い衝撃が加わる。
ミレニアムの戦闘以降盾を展開したことは1度もない。
不安要素の多い守りだが頼らない理由もない。
今回は無事問題なく防いでくれているようだ。
「話はあとです!
生徒5人、こちらへ向かっております!」
「.....我らに恵みを与えたまえ。」
(タタタタタタッ!!)
(ダダダダダッ!!)
撃ち合いが始まった。
いや、それは撃ち合い等を通り越し、せめぎ合いに近い。
相手の前衛3人が無鉄砲にもこちらへと駆け寄って来たのだ。
「あぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
「───ッ!」
アズサが引き金を引く。
その一撃は相手の頭部に直撃した───しかし止まらない。
それどころか勢いを増すばかり。
「こんな事で、終わる訳にはいかないのッ!!
私は────私達は....ッ!」
「なっ....!」
(ダダダダダッ!!)
その少女はその身に弾丸を何度受けようと止まらず、
「くっ....」
想定外の敵の動きに、アズサも驚いて反応が遅れている。
「アズサッ!」
(ガキィン!)
盾で攻撃を防いだ、その瞬間、俺は見てしまった。
「──────。」
「─────ぁぁぁ!!」
恐怖に歪んだ、その顔。
涙を流し、必死に銃を叩きつける、その姿を─────。
(ドガッ!)
『衛宮先生!!』
『シロウ!』
「あ─────」
油断した。
ガツンと、頭に重い一撃がクリーンヒットし、タイル作りの床に倒れ込む。
「シロウ─────────。
よくも.....っ!」
そしてアズサの顔も、怒りに歪む。
銃を振りかぶり相手を殴りつけたあと、何発も相手に弾丸を叩き込んでいる。
多分その2人の姿を一生、忘れることは出来ないだろう。
「衛宮先生!!」
その後、意識が朦朧とする俺の隣、割って入ったマリーや歌住のおかげでどうにか事態を収集することが出来た。
イリヤが奇妙な事を言い始めたのはその時だ。
『シロウ.....この生徒たち、魔術で操られていた痕跡が残ってるわ。』
────は?
「じゃあなんだよ、トリニティの付近には魔術を使える生徒か、それに近しい大人がいるってのか!?
痛っ.....。」
魔術師の知り合いなんて言峰しか知らない。
.....アイツなら何やってもおかしくないとはいえ、流石に急すぎる。
『わからないわ....でも。』
「異様な状況であることは確かのようですね。」
生徒にかけられた魔術の解除をする為、とりあえず補習授業部の部室へと戻ることにした。
襲ってきた生徒たちは拘束はしつつ、一旦別の部屋へ。
「衛宮先生!?そのお怪我は!?」
「あら、おかえりなさい。先生、お待ちしていました.....
マリーさんと、サクラコさん.....?
何故ここに....」
浦和はどうも2人と知り合いだったらしく唐突な登場に驚いている。
「は、はいこれ。
....まさか本当に敵襲なんて .....。
お疲れ様、アズサ.....それと、士郎は大丈夫なの?」
教室に戻るとコハルは人数分の水やタオル等を準備してくれていた。
「サンキュ、コハル。
少し頭が痛いだけだ....何ともない。」
「コハル、ありがとう。」
一息吐いて振り返る。
これは桐藤の指示じゃないことだけは確かだ。
これだけのことだ、ティーパーティーと言えどもタダでは済まない。
ミカの言では桐藤はポカをやらかしてはいるが、シャーレと事を構えるのは避けたいとの事。
ミカは論外だ、あいつは持っている情報を自分が不利になる可能性があったにも関わらず、教えてくれた。
そんなアイツがアズサがいる補習授業部を襲う理由がない。
そう考えるとこの生徒達の独断、っていうのが考えられる中で最も可能性が高い。
例えば、ここにいる生徒達が軟禁中のマコの世話係だったとしたら。
シャーレは生徒達にとって恐怖する対象だともミカは言っていた。
マコの行方不明の件で思うところが何かしらあったなら、俺を含めたシャーレそのものを排除しようと動いてもおかしくない。
戦闘中、彼女達は言っていた。
「
.......。
そうだとすると、マコの言っていた通りトリニティ総合学園というのはホストが統制を取れておらず、とてつもなく危険な学園なのではないだろうか?
統制といえば、やはり気になるのはここにいるシスターフッドの2人だ。
「そういえばマリー、どうしてここに。」
「実は.....」
聞くと彼女はとある生徒の代理でやってきたそうな。
話はアズサが正義実現委員会のあの部屋に連れてこられる少し前に遡る。
アズサは集団にいじめられている生徒の目の前に偶然通りかかり、庇ったのだとか。
しかし、虐めていたグループにも面子があったらしい。
アズサに暴力を振るわれた、と虚偽の申告をした結果正義実現委員会はアズサを拘束しようとした。
その結果アズサは武器庫に立てこもり、数時間も戦い続けたそうだ。
........結局、アズサは正義実現委員会に拘束された。
何1つ、彼女は悪いことをしていなかったのだ。
「何がどうあれ、売られた喧嘩は買う。
あの時も弾薬さえ切れていなければもっと長く戦えたし、あれ以上に道連れも増やせたのに.....。
それにアレは気の毒だけど、いつまでも虐げられているだけじゃダメ。
それがたとえ虚しいことであっても、抵抗し続けることを止めるべきじゃない。」
こちらはこちらで、なんとも、逞しい。
「それでその方が報告も兼ねて私達の元を────」
マリーとアズサの話に聞き入っている時。
「衛宮先生。
こちらへ....お話したいことがあります。」
歌住が俺の耳元で囁いた。
(こくり)
驚くことは無い、おそらく話があるだろうと踏んでいた。
俺達2人は、他の人の邪魔をすること無く教室の外へ出た。
「ええと....改めまして。
歌住サクラコと申します。」
随分と礼儀正しく、深々とお辞儀をした彼女。
見た目通りしっかりした子らしい。
「先生のことは言峰神父から聞いております。
困っている方を助ける慈悲深き御方、だと。」
......あいつ、なんて紹介の仕方をしてやがる。
いや...まぁ別に違うか、と言われたらそうでもないし。
かと言ってな....。
「そんな人を神様みたいに言わないでくれ。
俺はできる限りの事をしてるだけだ。
別に聖人君子って訳じゃないぞ。」
あぁ....だからあんな恐怖に顔を歪めるような少女達を作ってしまったのかも知れない。
失敗した、そうは思いたくない。
なにもかもか間違っていたのなら、今、ホシノ達が掴んだ権利と自由はどうなるんだ。
協力してくれた皆の気持ちは、頑張りはどこに消える?
「そう...ですか。」
「それで?話って?」
彼女はキッ、と目を細め呟いた。
「藤河マコさん...。」
「え.....?」
どうして、知っているんだ?
「彼女が今、どうしているのか知っていますか?
そして、どこにいるのか.......。」
これが、本題か。
「お前、知ってるのか。
マコが────アイツがどこにいるのか。」
「─────────。」
突き刺すような瞳。
しかし、決して絶やさない笑み。
もしかしてコイツが─────。
「教えてくれ!マコを、マコを何処へやった!!」
「え、衛宮先生!?
い、いえ!私は────」
気づけば肩を掴んでいた。
「わ、悪かっ─────」
彼女の肩から手を離す。
その瞬間、押し寄せていた、意識の薄れと、痛みと、疲労が一気に襲ってきた。
「あ、あら!?
衛宮先生!?
衛宮先生!」
色んな方の先生作品で「桜花絢爛お祭り騒ぎ」を見かけます。いかがでしょう。読みたいですか?
-
要る。
-
後回し、本編に進んで