衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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#3 ずれゆく視点

PM 20:00

各自の部屋の前に戻ってきた。

 

「では、衛宮先生。

お疲れ様でした。」

 

「シロウも早く休んだ方が──。」

 

2人ともそのまま部屋に入ろうとする。

思いがけず、呼び止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!

もう随分と遅い時間で悪いんだけど、この後それぞれ時間をくれないか?

 

ほら、今日から「"面談"しよう」って言ってたじゃんか。」

 

こうなるのは予定外だった。

というか襲撃受けて気絶するなんて誰が想像つくんだ?

 

「............。」

 

「今日でなければダメなのか?

私にも用事がある。」

 

 

眉をひそめての猛抗議、のっけから2人とも良くない反応。

ま、そりゃそうもなるか.....。

今日は色々あったわけだしな .....。

 

「いや、まぁ、それもそうなんだけどさ....。」

 

「......最近のシロウはどこかおかしい。

まるで何かを恐れて、焦っているようだ。」

 

「─────────。」

 

 

焦ってる?

確かに、そうでもある。

 

このままではいけないような気がして。

謎の悪寒と危機感がずっと離れていかない。

 

だけれど─────。

 

「....あぁ、そうだな...悪かった。

もう遅いし、みんな疲れてるよな。

日を改めよう。

 

皆もゆっくり休んでくれ。」

 

「わかりました。」

 

「......了解。」

 

扉を開くため、2人の返事を背中で受ける。

部屋に入って、冷静になって考えた。

 

「面談」はそもそも俺が推し進めたものだ。

生徒に強要するのは、間違っている。

 

それに、生徒の事を知りたいと言ったって、素直に悩みを話してくれるかって言われたら難しい。

浦和は特に気難しい性格のようだし、ミカの情報が本当であるなら彼女の悩み──というより不真面目な学習態度の理由もおおよそ検討がつく。

 

では、どのように解決すればいいのか。

それが分からない。

 

「どうなさいました...?士郎さ...ん...?」

 

ワカモの表情が、睨むようなものへ変化する。

......なにかしてしまったのだろうか....。

そう悩んだのも一瞬、後ろから声がした。

 

「それで衛宮先生は何に悩んでいらっしゃるのですか?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

真後ろで、耳元に囁かれた上に一切気配がなかった。

飛び退くのに失敗して床に尻餅を着く。

向くと、そこに居たのは浦和だった。

 

「だ、大丈夫ですか!?士郎さん!」

 

「す、すみません、そこまで驚くとは思わなくて...」

 

苦笑いしている浦和は、本気で反省しているようだ。

まぁいいんだが、正直アズサと一緒に部屋に戻ったのだと......。

 

「で、面談はしないんだろ?

なんか用か?」

 

(ギリギリギリ....)

今にも噛みつかんと牙を露わにするワカモを押さえつけながら浦和に問う。

どうもこの2人はなんというか噛み合わせが悪い。

 

「衛宮士郎先生。」

 

浦和は俺の目の前までやってきて、問いただす。

 

「私達に、何を隠しているんですか?」

 

ニコニコ笑っているものの、俺を見透かすような問いかけ。

流石にあんな騒動に巻き込んでおいて「何もありません」なんてありえない。

確かに、彼女達は知っておくべきだろう。

自身がどのような状態にいるのかを。

 

「話してもいいけど─────」

 

(コンコンコンッ)

『シロウ、少し出てくる。

ヒトフタマルマルまでには戻ってくるつもりだ。』

 

アズサが扉越しに、「出掛ける」と連絡してきた。

 

「あぁ、わかった。

くれぐれも気をつけろよ。」

 

『あぁ....行ってくる。』

 

浦和は俺達の会話を訝しむように、不安げに黙って聞いていた。

 

「アズサちゃんの件もそうです。

彼女は夜な夜な一人で何処かへ出かけていきます。

 

.....夜遅く、という訳ではないので良いのですが....。

許可を貰って動いている、という事はアズサちゃんが何をしているのか、衛宮先生は御存知なんですね?」

 

「.......アズサの件は知ってる。

けど悪い、教えられない。

 

でも危険な事とか危ない事をしていないのだけは確かだ。

それだけは信じてくれ。」

 

どう考えたって、これからするであろう話にアズサの情報を混ぜてしまっては彼女が疑われかねない。

少なくとも何も知らなかったら俺もアズサの事を疑っていたかもしれない....。

 

まぁ何も教えず「彼女は大丈夫だ」なんて言ったところで信頼性などないだろうが。

 

「....悪いけど、お前の質問に答えるには、条件を一つ、つけたい」

 

「条件...ですか?

それはどんな....。」

 

「人数を増やす。

今ヒフミを呼んでくるから────」

 

 

(コンコンコンッ)

『衛宮先生...ヒフミです。

昨日より遅い時間になってしまってごめんなさい...。』

 

またもノックされる。

丁度いいタイミングでやって来てくれた。

俺は浦和とワカモに視線を向けて許可をとる。

 

「あぁ、いいぞ、入ってきてくれ。」

 

「失礼します.....あれ...ハナコちゃんとワカモちゃん....?

衛宮先生....これは...。」

 

困惑しているヒフミ。

それも当然だ。

 

この件に関しては2人の内緒話、みたいな部分があったわけで、その時はワカモも居なかった。

 

「あの話、ここにいる2人にも展開しようと思うんだ。

ダメか?」

 

「えっ....?

ええと......。」

困ったように浦和に視線を送ったり、俺を見たりを繰り返す彼女。

 

「.....確かに、そうですね。

ハナコちゃんにはお知らせした方がいいかもしれません。」

 

ヒフミからの了承は得た。

ってな訳でまずは直球で浦和に疑問を投げる。

 

「なぁ、浦和。

補習授業の合格制度についてどう思う? 」

 

「合格制度というと、合格点数ですか?

それとも─────」

 

()()()()()()()ってところだ。

なんでこんな措置が取られてるかというと────簡単に合格させない為だ。

 

それと三度ある試験。

それ全部不合格になったらその後どうなるって考えてる?」

 

言葉の真意を読み取ったのか疑問形で聞いてきた。

 

「落第.....じゃないんですか?」

 

「違う。

全員退学なんだ。」

 

それを聞いた浦和は「あはは」と苦笑いして否定した。

 

「そ、そんなこと、規則的に成り立ちません。

退学の手続きがそんな簡単には────」

 

 

ワカモは「そんな事だろうと思っていました。」、ヒフミは「本当なんです。」と呟いた。

 

 

「元々桐藤から情報を得ていたのはヒフミなんだ。」

 

その後、ヒフミに知っていることを全て話してもらった。

 

そもそも補習授業部は「生徒を救う為」ではなく「生徒を退学させる為」に作られた部活であること。

シャーレの超法規的権限を使用すれば生徒を退学にする事も不可能では無いこと。

 

ヒフミには約束を破らせてしまい申し訳ないとは思っている。

当の本人は、さほど気にしていない様子だが....。

 

どちらかと言うと暗さでいえば、浦和の方が圧倒的だ。

バツが悪そうな表情をしている。

 

「そうですか.....全員不合格であれば、退学になってしまうんですね....。」

 

「ハナコちゃん...その────」

ヒフミの言葉をさえぎって、浦和を問いただす。

 

「なぁ、浦和。

勉強が出来ないって本当なのか?

 

お前は最初の試験、名前の記述がなかっただけで全問正解してる。

あれが偶然だとは思えない。

それにお前の過去のテストも見させてもらったけど全部満点だった。

 

お前にはこの間の模試も簡単に解けたはずだ。

それが一桁の点数......まるで記憶を失ったか別人みたいだ。

 

正直に答えてくれ。

あれはわざとなのか?」

 

浦和とヒフミの仲が悪化しないよう、咄嗟に庇って嘘をついてしまった。

過去のテストを見たのはヒフミであって俺じゃない。

 

「わざわざ.....調べたんですね....。」

 

「正直悪いと思ってる。」

 

 

溜息をついた浦和。

恐らく、俺の言葉が薮をつついたのだろう。

不機嫌そうだった。

 

されど気持ちを入れ替えたのか謝罪した。

 

「ごめんなさい....「知らなかった」で済まされることでは...ありませんが。

 

皆さんにはご迷惑をおかけしました....。」

 

俺とヒフミとワカモは次の浦和の言葉を待った。

 

「....あの模試の点数はわざとです。」

 

「ハナコちゃん...どうして、どうしてそんな事を.....!」

 

ヒフミの悲痛な叫びは責め立てている訳ではない。

単に分からないと言うだけだ。

 

だってのに浦和の口から出てきたのは────

 

「ごめんなさい、言えません。」

 

冷たいほどまでの拒絶の言葉だった。

 

「!?」

 

「.........。」

 

驚くヒフミ、睨むワカモ。

 

「ごく個人的な理由です。」

 

「あのさ、浦和。

言いたいことがあるんだが。」

 

「はい....?」

俺は、つい、言ってしまう。

 

「1つ目。

知らなかったとはいえ、お前のこれまでの行動や態度が、補習授業部の皆に対して不義理だった、って分かってるんだよな。

それでも本当のことは言いたくないっていうんだな?」

 

「.......はい。」

 

「そうか....次、2つ目。

補習授業部発足1日目に俺がアズサに言ったこと、覚えてるか?」

 

浦和は顎に手をあて考える。

 

「......もしかして、「繋がり」....

「相手を理解するための努力は怠っちゃダメ」っていうあの言葉ですか?」

 

俺は頷いた。

 

「逆に言えば、言ってくれなきゃ理解できない。

もし仮に「理解して貰えない」とか思ってるならそれは間違いだぞ。」

 

 

俺の言葉に、浦和は首を振る。

 

「........。お気遣いありがとうございます。

ですが、そういうことでは無いので大丈夫です。

 

それに.....衛宮先生。

他人を理解しようとするのは素晴らしいと思います。

 

ですが、そうして事情を聞かれた生徒が傷つく事もあるのだと知っておいてください。

聞かれたくない事も人にはあります。

言いたいことも人にはあります。

 

衛宮先生は生徒の悩みや心境に寄り添いたいのだと思いますが、それは貴方のエゴです。」

 

「─────────────。」

 

俺も、ワカモもヒフミも、声が出ない。

 

沈黙が、その場を支配した。

それ以上何も言えなかった。

 

彼女の瞳からは光が消え、真顔で、冷めた表情で、俺を見ていたのだから。

 

言葉が示す意味は1つ、「余計なお世話」。

謝ることすら、許されない。

それは、拒絶の意思の表れ。

 

胃が煮えたぎり、口の中は鉄の味がする。

それをどうにか飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「さて、今はこの補習授業部の存在の方が気がかりですね。

....

ティーパーティーだと....ミカさん...は無理でしょうし、こんな事を

企てるのはナギサさんでしょうか。

 

ですがどうしてエデン条約を目の前に、して...

いえ、むしろ目の前だからこそ....?」

 

浦和は先程までの雰囲気など無かったかのように明るく振る舞い、考える姿勢をとって、答えを出した。

 

「なるほど.....♪

つまりこの「補習授業部」はエデン条約を邪魔しようとしている疑惑がある容疑者たちの集い。

ティーパーティーにとって邪魔な存在を詰め込むための部活だったんですね。」

 

 

「は?!」

 

「えっ!?」

 

浦和は間接的な情報から、答えを手繰り寄せてしまった。

 

「ナギサさんらしいと言いますか、相変わらず狡猾な猫ちゃんですね。

どうせならまとめて処理してしまった方が効率的、といったロジックでしょうか。

何だか私たちがまるで洗濯物のようですね。」

 

 

洗濯物....

 

「きっと今のナギちゃんなら多分「ゴミ箱」とか言うんじゃないかな....。」

 

ミカの言い分では、もっと酷い言い方をしていそうな感じだ。

 

「ええぇと......

 

「トリニティの裏切者」....ナギサ様はそれを私に探して欲しいと.....あ、「「衛宮士郎」という人物について可能な限り調べまで欲しい」とも言われました.....。」

 

なんと、それは初耳だぞ。

 

「衛宮先生も、ナギサさんにしてやられた形ですね。

「成績の悪い生徒達を助ける」という名目で、善意を利用されてこの役割を担い、その実シャーレの超法規的権限が利用されている。

藤河マコさん、彼女は完全なる被害者......で衛宮先生を補習授業部に縛り付けるための人質だった .....。」

 

「それには反論があるぞ。

そもそも補習授業部がそんなことのために作られた部活だなんてついさっき、ミカから教えてもらうまで知らなった。

そんなんじゃ人質ですらない。」

 

「ミカさんが.....?」

 

訝しむ浦和に正直に話した。

 

「知ったのも今日の昼間だ。

アイツ、藤河の事心配して色々調べてくれたんだ。

そもそも俺を補習授業部の顧問として桐藤に推薦したのもミカらしいし。

いろいろ負い目とかもあったんだろ。」

 

 

とうとうここで今まで沈黙を貫いていたワカモが口を開いた。

 

「....桐藤ナギサ。

彼女が士郎さんに対して抱いているのは警戒心ではなく危機感。

藤河さんを人質に取っておきながら頼らないということは最後の切り札だったのでしょう。

 

 

補習授業部、四人同時合格できなければ退学。

そして裏切者とやらが判明した時点で「四人同時に合格」という条件を達成することは不可能になります。

補習授業部が生き残るにはこのまま合格ラインを目指して猛勉強というわけですか....。

 

おそらく彼女はことと次第によっては「シャーレ」の存在そのものを追い詰めるつもりだったかと。

士郎さんは生徒の危機を救えなかった無能として喧伝でもすればシャーレという部活の存在理由に疑問を呈することができる。

 

あなた様、これは間違いなく「妨害」が入るかと。」

 

まさか、桐藤が全員退学にするために勉強や試験の邪魔をするって?

流石に表立ってそんなことしたら彼女の立場といえど無事では済まない。

 

「まさか...今日の襲撃は、彼女達いじめの実行犯の心理状態を逆手に取ったもの......?

彼女達にいらぬプレッシャーをかけ「シャーレに消される」などと言って脅せば......。

ナギサさんは最初から藤河さんを探させるつもりなどなかった....。」

 

「.........。」

 

まずい。悪い現状が悪い想像を引き起こしている。

手を叩いて解散を促した。

 

「はいはい、とりあえずそこまでだ。

今日はもう遅いし解散解散!

寝ることも学生の義務みたいなもんだ、ゆっくり休め──」

 

(ボタボタ)

こらえきれなかった血が、口から滴り床へ落ちる。

そのまま耐え切れず体内で生成された弾丸を吐き出した。

5.56mmの弾丸、目算で30発。

 

........流石に今回は多すぎる。

 

「ひっ!!え、衛宮先生!!?」

 

「あなた様!!?

い、何時誰が?!」

 

大丈夫だ、と答えたくてもそうはいかない。

 

「ァ────ガ」

 

上手く、言葉が発せない。

どうも声帯をやられたらしい。

 

取り乱すヒフミとワカモ。

そういえばワカモは俺が()()()()のをみるのは初めてかもしれない。

ヒフミはブラックマーケット以来だろうか...。

 

となりではどうも浦和が通報してくれているらしい。

 

「何...みんなして...

??────士郎!!?

 

何これ!!誰がやったの?!」

 

....どうやら休んでいたコハルも騒ぎで起きてしまったらしい。

 

生徒に恐れられて、迷惑かけて、心配かけて。

本当に俺は───

 

「ゴメン...な」

 

謝ることしか彼女達に出来なかった。

 

 

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