衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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スリーポイズン

直訳すると三つの毒。

仏教には煩悩という概念があり、その内の代表的なものは「三毒の煩悩」
(とん)(貪欲であること)
(じん)(思いのままにならないことに怒りや執着すること)
()(無知故の自己中心的な態度)

の3つです。

さて、タイトル解説はここまでにしておいて

今回久々に士郎がブチギレる回です。
恐らくこの作品の中でこれ以上にキレる回はないと思います。



#9 The Three Poisons/第二次学力試験(Ⅰ)

桐藤との対談の数日後。

 

「本日もお疲れ様でした!

明日は遂に第二次学力試験です!

 

この一週間の合宿で私達はしっかり合格できるだけの実力を身につけられたはずです。」

 

「あぁ....。」

 

「....そうですね♡」

 

「ええ!絶対リベンジしてみせるんだから!」

 

模試の結果も中々の点数を叩き出したヒフミ達はもはや「向かうところ敵なし!」と言わんばかりの自信と学力を身につけていた。

 

それと急遽だが、ヒフミと浦和、ワカモに桐藤と話した内容を伝えた。

 

俺を含めた()()の結論は「桐藤ナギサは補習授業部全員を退学にするためならどんな手も辞さない」。

故に桐藤本人が漏らしていた「テストの範囲拡大」についてはアズサとコハルに内緒で模試の問題範囲を広げて行うことにした。

 

「難易度上昇」というのは「テストの範囲拡大」と解釈が被っていてよく分からなかった。

が、「会場の変更」に関してはシャーレにいるマコの後輩達に連絡してヘリを何時でも出せるように手配してある。

 

 

「後はしっかり試験に合格し....堂々と補習授業部を卒業するだけです。

今までの勉強が無駄ではなかったことをきっちり証明して、そして最後はみんなで笑ってお別れしましょう!」

 

その言葉を聞いてアズサだけが寂しそうな顔をしていた。

 

「.....そうか。

合格したら皆とはお別れか。」

 

「え!?

な、何しんみりしてるのよ、アズサ!」

 

「コハルは寂しくないのか?

私は寂しい。

何故ならこの一週間はかなり有意義───

ううん、違う...楽しかった。

 

それでもやはり、出会いがあれば別れもある。

全ては虚しいものだ。」

 

「...アズサ...。

わ、私だって...その色々楽しかった、けど...。」

 

中々言いたいことを言えずにいるコハルを、浦和がサポートした。

 

「そこまで思いつめる必要はないと思いますよ?

試験を合格したらもう二度と会えないわけじゃないでしょう?

補習授業部が解散しても、皆同じ学園にいるんですから。

会おうとすれば何時でもまたすぐに会えますよ。」

 

「そ、そうよ。

ほ、ほら私は正義実現委員会の教室にいるから!

暇な時があったらくれば良いし。

 

当然ヒフミとハナコも暇よ!.....多分。

ただ....その、士郎とワカモは...。」

 

そうだ。

ヒフミ達と違い、俺とワカモはそもそもトリニティの関係者ではない。

この補習授業部が解散したら学園から出ていくことはなんら変わりない。

 

「あら。

まさかオマヌケさんがそこまで私達のことを思っているとは....。

 

当然ですが、私としては無問題です。

むしろさっさと合格して頂いて、普段の士郎さんとの生活に戻りたいくらいです。」

 

「ふん!

あんたみたいなヤバい生徒と離れられるんだから私もせいせいする────

士郎!

いまこいつ「オマヌケ」って言った!悪口、悪口よ!」

 

「はてさて、身に覚えがありませんが.....」

 

....全く、皆してもう合格した、みたいな雰囲気になっているが試験はこれからなんだが。

 

「えっと....皆さん。

気持ちとしては同じなのですが、試験に合格することが先決と言いますか....。

何だか急に青春ドラマのエンディングになっているような....

 

とにかく。

今日は早めに休んで、明日の試験に────」

 

部長であるヒフミがこの場を締めくくろうとしていたその時だ。

アロナが叫ぶように俺を呼んだ。

 

『衛宮先生!大変です!!』

 

「うおっ!?

ど、どうしたんだアロナ。」

 

 

急いでシッテムの箱を懐から取り出した。

 

『それが....それが────』

『......!

今すぐトリニティの掲示板を見て!シロウ!』

 

イリヤもアロナの言いたいことを理解したのか、俺に掲示板を開くよう指示を出した。

このタイミングでの掲示板?

確か掲示板って、試験会場とかを通達する為にも使われていた気がする。

 

「えっ、嘘っ!?嘘ですよねこれ!」

 

俺より先に掲示板を見たらしいヒフミから驚きの声が上がる。

浦和はヒフミの端末を覗き込んでそれを読み上げた。

 

「ええっと....?

『補習授業部の「第二次特別学力試験」に関する変更事項のお知らせ』 .....?

 

『試験範囲を既存の範囲から約三倍に拡大』....

 

その単語を聞いてすぐさま端末からトリニティの掲示板サイトを表示した。

───浦和のドッキリなどではなかった。

 

「はぁっ!?何それ!?

訳わかんないんだけど!

普通試験前日にする通達じゃないわよね?!」

 

コハルは浦和やヒフミに訴えかけるも、返事はない。

何故なら元々ここまでは想像が着いていた。

単にそれどころでは無いからだ。

 

「『また、合格ラインを60点から90点に引き上げとする。』...。

 

.....試験会場と時間も変更されていますね...。

.........これは───」

 

浦和の表情が、どんどんと険しくなっていった。

代わりに、読み上げる。

 

「試験会場は『ゲヘナ自治区第15エリア77番街、廃墟の1F』......。

 

試験開始時刻はAM─03:00。」

 

これは、ティーパーティーの権利の外まで及んでいる。

マコトやヒナ達はこの事を知っているのか...?

ただでさえこの間の美食研究会の引渡しにも「大事にしたくない」「政治的問題にしたくない」と言って「シャーレ」として俺が動いたのだ。

 

このタイミングでこんな事がスムーズに決まるわけがない。

 

そしてAMとPMを間違えたのではないかという試験の時間。

しかしそこにはわざわざ「深夜」とご丁寧に記載があった。

 

 

「....なるほど、ナギサさんはどうしても私達を退学にしたいようで───ヒフミちゃん!?」

(ドタンッ)

「....ナギサ様...どうして...。」

 

ヒフミはその場でペタリと床に座り込み、目尻に涙を貯めていた。

唯一、話し合いの中でナギサを庇っていたのはヒフミだった。

 

「確かに、これまで色々な騒動が起こりました....けれど、ナギサ様がそんな酷いことをする筈がありません!」

 

マコの一件も『何か誤解があったのでは?』と最後まで言っていたその彼女は、たった今、桐藤に裏切られ、傷つけられた。

 

一方、現状を理解できていないアズサとコハル。

 

「な、なんで!?

どうしてトリニティの試験をゲヘナで受けるわけ!?

そもそも退学ってなんの事!?」

 

「シロ───」

 

疑問を投げかけてくる2人を半ば無視する形のまま沸騰しそうな頭で冷静に判断を下した。

 

「──────話は後だ。

 

ワカモ。

お前にシッテムの箱に俺のシャーレのIDパス、それとこれを預ける。

 

今から各方面に連絡するからシャーレのヘリが来たらすぐ目的地に行ってくれ。

何が起こるか分からない。

戦闘、撤退を始めとした全ての判断を、お前に任せる。」

 

俺は起動したままのシッテムの箱と、大人のカードをワカモに半ば押し付ける形で渡した。

 

「あなた様は!?」

 

「───少なくとも試験会場とか時刻はミスじゃない。

掲示方法に露骨に悪意が込められてる。

 

それでも多方面に連絡する。

桐藤に万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)、風紀委員会。

 

確認を終えたらシャーレに。

ヘリが来た時点でそれに乗れ!

いいな!」

 

 

それだけ言い残して教室を飛び出した。

走りながら桐藤に電話をかける。

 

『......衛宮先生ですね。』

 

「───桐藤、あの掲示板の試験に関する情報に間違いはないんだな!?」

 

咄嗟に怒鳴ってしまった。

とはいえ、こうもなる。

 

『はい。何ひとつとして間違いはありません。』

 

───ヒフミの願いは、最後まで届かなかったし、

─────俺の言葉も何一つ彼女に伝わっていなかった。

 

その先は破滅だと。

それでもやるなら徹底しろと。

 

彼女はそれの「都合の良い」側面の意味だけを受け取った。

 

「あぁ、そうかよ!

なら俺も勝手にやらせてもらうからな!」

 

『勝手に?

例えばどのような?』

 

......許可を出すとは思えないが、一応言っておく。

幾らなんでもここまで強行されたらこちらとしても受け身に回っている訳にはいかない。

 

「──別館にヘリを呼ぶ!

文句ないな!?」

 

そう、携帯に向かって吠える。

されど彼女は想像しないくらい呆気ない返答をした。

 

『わかりました。

ヘリが来るのは5分後くらいでしょう。

無事に辿り着けると良いですね。』

 

「───は!?」

 

短い会話で通話は終わる。

 

理解に苦しむ。

 

何故、桐藤はこんな無茶苦茶なスケジュールにしておきながら、ヘリでの移動を許可したのか。

 

範囲と合格ラインだけで十分とでも言うつもりか。

 

 

『座標確認、了解っす!衛宮先生!』

 

予定変更して許可も得たので先にヘリを呼んだ。

元々準備してあったというのも大きくマコが居ないながらもしっかりと藤河組のみんなは動いてくれるようだ。

 

 

 

『─────何?

ゲヘナでトリニティ生が試験?

 

ハッ、さして面白くもないジョークだな。』

 

「本当に聞いていないんだな!?マコト!」

 

『───くどいぞ先生、私は知らん。』

 

いち早く万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)に連絡するも、マコトは今回の件に関しては知らないという。

 

「───そうか。

じゃあ今から俺の管轄(シャーレ)の生徒が今から言う地区に向かう。

 

パトロールとかは風紀委員会の仕事だろうし詳しい事はヒナに説明するつもりだけど、ゲヘナに敵対行動をとるつもりは一切ないから──」

 

『───そうか、では私の部下をその地区に───』

 

ザザッというノイズが一瞬耳を襲う。

 

『.....今日の万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)の業務は終了しました。

 

警備、巡回などの相談は風紀委員長にお願いします。

先生相手の相談であればあの人も承諾するでしょう。』

 

次に聞こえてきたのはイロハの声だった。

 

「あ、あぁ、ありがとう。

でも─── 」

 

『お気になさらず。

どうやらお急ぎの問題のようですし。

私はこれから仮眠を取るので。

 

あ、それと。

たまには顔を出してください。イブキが喜びます。』

 

今は寝ていますが、と付け加えて、電話は切られた。

 

頭に血が上って上がった体温が、やや冷める。

今度ゲヘナに行く時は2人に土産でも買っていかなければ。

 

 

 

「もしもし!天雨。」

 

『────なんでしょう。

というより誰ですか?

こんな時間に電話してくる非常識な方は私知りませんが。』

 

 

次に電話をかけたのは風紀委員、天雨アコ。

通話相手の彼女は、どうやら不機嫌らしい。

もともとつっけんどんな態度を取っていたから普段通りのような気もする。

が、それに対応している暇は、今はない。

 

「あぁ、そうだよ、クソッ。

非常識だよこんなこと。

 

いいか、天雨、落ち着いて聞いてくれ。」

 

俺はほぼ一方的に天雨に現状を説明した。

 

 

『深夜の3時からトリニティ生がゲヘナ自治区の廃墟で試験を受ける!?

 

何を馬鹿なことを言ってるんですか。』

 

「あぁ、そうだよな。

今だって、何かの間違いだと思いたい。

 

けどな、ティーパーティーのホスト(桐藤ナギサ)がそう言ってるし指示したんだ!

これは嘘でも冗談でもなんでもない!

 

しかも最悪なことにゲヘナに対して一切許可をとってない!

何考えてんだあの馬鹿はッ!」

 

『......どうやら衛宮先生は巻き込まれた側、ですか。

わかりました。

 

委員長には私からお伝えしておきます。

 

で具体的にはどうしてほしい、と?』

 

演出した訳では無いが、こちらの慌ただしい雰囲気を悟ってくれたのか、はたまた放っておくと仕事が増えるからと思ったのかは知らないが天雨は信じてくれた。

 

その言葉に甘えて要求を口にする。

 

「これからトリニティ生を乗せたシャーレのヘリをゲヘナに飛ばす。

───桐藤の言い方だと何が起こるか分からない。

下手をすると途中でヘリを───」

 

 

天雨と話している最中。

例のテラスへ向かう、その最中だった。

 

(ドガァァァンッ!!)

 

「ッ....爆発!?

一体何がどうな─────。」

 

爆発音がして、立ち止まり空を見上げればシャーレのヘリが砲弾によって被弾────

 

(キュルルル.....ボォン!)

 

空中で────爆発四散した。

 

(───カチリ─!

 

『衛宮先生、ご無事ですか!?

今の爆発音は一体────』

 

 

─────────────撃鉄が、頭蓋を砕き潰した。

 

 

「──────悪い、天雨。

前言撤回だ、多分徒歩でそっちに向かうことになると思う。

また後で連絡する。」

 

『お、お待ちください、衛宮先生!先───』

 

天雨との通話を切り、止まっていた足を、再度動かした。

 

 

 

 

Interlude 9-1 補習授業部の副担任

 

「────という訳です。」

 

理解していない2人に状況を説明した。

士郎さんの呼ぶヘリが来るまでは時間があるが故にかなり噛み砕いて説明した。

 

流石にあの下江コハルでも理解したようだった。

 

「試験に三回落ちたら、退学.....!?」

 

「.....そうか。」

 

困惑する2人にヒフミさんが謝った。

 

「か、隠していてごめんなさい。

───まさか、ナギサ様がこんな事をするなんて。」

 

「いいえ、ヒフミさんだけの責任ではありません。

私やハナコさん、そして、士郎さんも───。

 

ですが、本当の責任者はティーパーティー、桐藤ナギサにあります。

貴女が気にする事では───」

 

「ワカモちゃん.....。

うわぁぁぁんッ!!

 

耐えきれなくなったのか、彼女は私の胸に飛び込んで来た。

一瞬困惑するも、士郎さんから聞いたミレニアムで起きた事を脳裏に浮かべた。

 

自らの所属する部活を存続させる為強敵に立ち向かったものの、挫けそうになったという。

 

士郎さんはその時なんといって才羽モモイ(あの娘)を宥めたのか。

結局教えて頂けなかったが───

 

「大丈夫です。

大丈夫....貴女は補習授業部の部長として、よく頑張りました。

それだけは誰が否定しようと、この狐坂ワカモが認めましょう。」

 

その震える背中に腕を回し抱きしめる。

 

「.....これから、どうします?()()()()()。」

 

茶化すように浦和ハナコが指示を求めてくる。

 

「どうも何も、ヘリを待つに決まっ───」

(ピピピッ!)

 

副担任も忙しいかな。

端末に連絡が来る。

 

「噂をすれば、きっと士郎さんからの───」

 

『ワカモ、届いてる?

私よ、マコ。

 

今後輩の壊れかけた端末を使って連絡してる。』

 

それは、有り得ない者からの連絡だった

目を見開いて、メッセージを送り返した。

 

『.....本当に貴女なのですか!?』

 

『よく聞いて。

 

シャーレからのヘリは撃墜された。

状況は助け出した後輩達から聞いたわ。

 

結論を言うけど、もう迎えは来ない。

貴女は貴女なりの判断をして。』

 

藤河、マコ。

 

ティーパーティー、桐藤ナギサに捕らえられ、監禁された後消息不明になった、シャーレにおける同期の生徒であり私の───

 

『どうして貴女が。

今何処にいるのです!?

 

認めたくありませんが、士郎さんがどれだけ貴女のことを思って、心配していたか───!』

 

『士郎?

あー.....うん、迷惑かけてるよね、多分。

 

急を要するから連絡したけど、私からの連絡があったこと、士郎には教えなくていいよ。

混乱させると思うから。

 

大丈夫、全てが終わった先で、また、会えるから。』

 

全てが終わった先、とは一体何を意味するのか。

それ以上のモモトークのメッセージは、返ってこなかった。

 

 

 

今、彼女の心配をしている場合ではない。

 

 

「────行きますわよ、ゲヘナへ。

 

イリヤさん、アロナさん。

サポートとガイドはお任せします。」

 

『......いいわ、シロウ直々のお願いだし、聞いてあげる。

無事に4人を試験会場まで送り届けなさい。』

 

『わ、わかりました!

......ワ、ワカモさんの....サポート、ですか.....』

 

いつも通りの面をつける。

 

「連邦捜査部シャーレの衛宮士郎先生のご指示です。

これより補習授業部は不肖、狐坂ワカモが指揮をとらせていただきます。

 

皆様、修羅の道を歩む覚悟は宜しくて?」

 

私の合図と共に、アズサさんは銃を手に取った。

 

「あぁ.....

障害物の多さに文句を言ったところで、状況は変わらない。

大切なのは最後まで足掻くこと。

 

ヒフミ、立って欲しい。

()()()()()()()()()()()()()()()()()にも、ここで諦めてはいけない。」

 

「アズサちゃん....」

 

その言葉に唸づいた。

浦和ハナコもヒフミさんの手を取った。

 

「....そうですね。

アズサちゃんの言う通りです。

今は動くべきです。

 

コハルちゃん、準備はいいですか?」

 

「何もかも意味分かんない!

と、とにかく行くのね!

 

私は問題ないわよ!

あんた、補習授業部の部長でしょ。

ほら、立ってヒフミ!

ならさっさとワカモと一緒に指揮とって!

これでもずっと頼りにしてるんだから!」

 

「コハルちゃん.....。

───わかりました!

 

私、皆さんと一緒に頑張ります!」

 

 

Interlude 9-1 補習授業部の副担任 End

 

 

 

「ナギサァァァッ!」

 

(ドガッ!)

 

ドアを半ば蹴り飛ばす勢いでテラスに入る。

 

こちらを視認したティーパーティーの生徒は銃口を向けてくる。

しかし、構わず視界に入った桐藤の胸ぐらを掴み、右腕を振り上げ───

 

「────ッ!」

 

(パン パンッ!!)

 

 

(ドガッ....!)

 

 

 

 

乾いたような高い音と小さい悲鳴が聞こえたあと、その左頬を───殴りつけた。

女子に手を出す、なんて罪悪感はかなぐり捨てた。

 

その衝撃とともに、右腕は炸裂した。

 

「─────!」

 

鋼のハリネズミとかした腕は、大量に血を流す。

そうなると、分かっていた。

 

同時に─────

 

「....」

己の右胸と腹部には、穴が。

 

(ゴボッ...)

認識した途端、喀血、ナギサの制服へと飛び散った。

 

(カランッ...)

 

「え.....そ、そんな、まさか本当に傷がつくなんて───。

た...だ、私はただ──」

 

拳銃を床へ落とす桐藤。

 

(パシンッ!!)

 

そんな彼女の右頬を(はた)いて覚まさせる。

 

「聞け!ナギサ!」

 

「....は、はいっ!」

 

「.....どうして、どうしてこんな事をしたんだ!

お前、自分で何をやってるか分かってるのか!?」

 

「何とは...───衛宮先生が私を───」

 

「違う!

俺が言いたいのは「裏切り者」を切り捨ててまで選んだ道があるのに。

どうしてそれに不利になるような事ばかりするんだって言ってるんだよ!!」

 

「....道?」

 

こいつは、分かっていない。

 

自分のしていることを、理解していない。

 

見たい現実しか、見えていない───!!

 

「エデン条約だ....。

お前はそれを完遂するために「裏切り者」を見つけ出して追放して、邪魔されないようにしたいんだろ?

それはわかるよ。

 

大を生かすために小を殺す。

学園のトップならそれくらいは決断しなきゃいけないってのも。

 

なら、なんで試験会場をゲヘナにした...!

マコトや天雨───風紀委員会に連絡したけどそんなこと聞かされてないって言ってたぞ。

あいつらがそのまま行けば不法侵入でトリニティとゲヘナの政治的問題になることくらい、わかってただろうッ!」

 

「─────それ...は。」

 

彼女はハッとして、俺からの視線を背けた。

それは間違いなく「今気づいた」と、そういった風だ。

 

「濡れ衣を着せようとしたのか?

違うよな?

 

何故なら会場を指定したのは、他ならぬお前だからだ。

 

それはこうして携帯端末で確認できる!

つまり、それはお前の責任だって、誰が見ても一発だ!

 

お前は、()()()()()()()()()()()為だけにこんなくだらないことをしたのか?

それはティーパーティーの、トリニティのホストとして正しい選択だったのかをしっかり考えた上での判断か?決断か?

 

────なぁ答えろ、ナギサ───!!

 

今の桐藤ナギサは怯えている。

疑心暗鬼のただ中で、誰も信用できず、誰にも助けなど求められず。

 

「──────。」

 

テラスを満たすのは静寂。

割れたティーカップから床へと流れ落ちる紅茶の音すら、誰にも聞こえていない。

 

周りのナギサ付の生徒も何も言えず、立ち尽くす。

 

「答えられないなら───別にいい。

 

ただな、ナギサ。

お前は間違ってる。

 

何の為のエデン条約なんだよ。

 

目的と手段を履き違えるな。

 

理由も目的も手段も見失ったら、残るのは望まなかった残酷な結果だけだ。」

 

「..........。」

 

彼女の肩を掴み、視線を強引に向ける。

 

「いいか、思い出せ。

お前はどうしてエデン条約なんて結ぼうと思ったのか。

その為には何をして、何に配慮しなきゃいけないのか。

頭を冷やして考えておけ。

 

それとな、ヒフミは最後までお前のことを信じてた。

補習授業部に裏切り者がいるって言ったな?

 

それは、違う。

()()()()()()()()()()()()()んだ。」

 

「ヒフミさんが.....?」

 

 

 

「もういい。

誰か救護騎士団にナギサの手当を──」

(ズサッ)

 

立ち上がろうとした矢先、ズルリとコケた。

まるで足元に油でも巻かれたかのように。

 

受身をとった左手は、赤い液体に触れていた。

────流出元はナギサの空けた銃痕からだった。

傷は癒える気配がなかった。

 

「頼んだぞ、お前達....!」

 

今度こそ、バランスをとって立ち上がる。

 

「ま、お待ちください!衛宮先生!

その御身体で何を───」

 

咄嗟に俺の体を支えてくれたのは、別館を襲撃した生徒達の代表格。

 

「何って....なんだよ。

俺は、補習授業部の先生なんだからな。

 

試験会場に、行くだけだ...。」

 

弾は運良く貫通している。

が、喀血したということは呼吸器を損傷した可能性も否定できない。

 

それでも──

 

「ほ、本当に死んでしまいますよ!?」

 

「.....外で車を待たせてる。

だから、大丈夫だ。

 

.....ありがとな。」

 

そういってその生徒の手を払い除ける。

 

「ば、化け物....だ。」

 

止めようとする名前さえ知らない生徒達を身振りで振り払う。

扉の前まで来て、立ち止まった。

 

「───ナギサ。

俺は責任を果たしに行く。

補習授業部の、先生として。

 

お前は、お前が決めたことを、自分の邪魔───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、やり通せ。

 

.....もし此処で諦めたなら──何の意味もなくアイツらを傷つけたお前を俺は許さない。」

 

 

後ろを向いて血を流しながら去る。

そこに、声がかけられた。

 

「─────先生。」

 

背中を向けたまま、その言葉を促した。

 

「....試験会場には、温泉開発部が来るようにウワサを流した上、対人地雷が仕掛けてあります。」

 

「─────!!

お前──」

 

振り向いてしまう。

 

「......衛宮先生があの日、美食研究会を引き渡している最中です。

空崎ヒナを羽沼マコトに呼び出すように伝えた本当の目的。

それはティーパーティーの工作員をゲヘナ自治区内へ潜入させやすくする為。

風紀委員長が居なくなったその隙をついて、会場を選定し、地雷を仕掛けさせました。」

 

今、ナギサの元へ駆け寄って、殴ったところで何もならないと分かっていながら苛立ちが、怒りが積もる。

 

「........どうか、ヒフミさん───」

 

「────言われるまでもない。」

 

(ドダンッ!)

テラスのドアを勢いよく叩きつけるように閉じた。

 

『うっ.....私は....わた..私は

..うっううううううっっっ.....!』

 

『ナ、ナギサ様!』

 

『お気を確かに!』

 

閉じた向こう側からは嗚咽が聞こえてくる。

何の感慨も湧かないまま扉の前を後にした。

 

「衛宮先生!一体何が!」

 

最悪のタイミングだ。

眼前から駆けてくるのは正義実現委員会副委員長。

 

「......ハスミか。

ちょっとナギサと喧嘩しただけだ。

 

親衛隊、って言うんだっけ、ああいう取り巻き。

あいつらに任せはしたけど、一応お前達も着いててやってくれないか?」

 

「─────衛宮先生....そのお怪我は──」

 

「頼むな。」

 

驚愕の表情を浮かべながら俺へ手を伸ばしたハスミの横を通り過ぎる。

 

 

「─────イチカ!

......数人連れて衛宮先生の護衛を!」

 

「り、了解っす。」

 

その声に、足が止まった。

 

「いや、俺はこれからゲヘナに───」

「貴方の向かう場所は関係ありません。

今ここで強引にお引止めしても宜しいのですが、それは私の思うところではありません。」

 

ハスミや他の正義実現委員会の生徒の視線は下へ注がれている。

....体で引きずって床に着いた、赤い液体。

 

本当はハスミも俺を止めたいのだろうに。

それをしないのは───

 

「......しっかり手当はされるんですよね?」

 

「あぁ。」

 

「では結構です。

行きますよ、貴女達。」

 

「「は、はい!」」

 

去り際に一言だけ、ハスミから囁かれた。

 

 

「....コハルをよろしくお願いします。」

 

「なるほどな.....見逃して貰えたのはあいつのおかげか。」

 

「....先生、本当に大丈夫っすか?」

 

心配どころかドン引きしているイチカと正義実現委員会の生徒達。

 

「見た目ほど重症じゃ──」

 

「重症っすよ。

ゲヘナに行くとしたら移動方法は車っすね。

車内で治療するっすよ。

 

肩貸しますんで、どうぞ。」

 

なんて気軽に近寄ってくるイチカ。

 

「馬鹿、それだとお前の制服が───」

 

「────あんまり我儘いうと今からでも救護騎士団の部室に直行するハメになるっすけど。」

 

拒否したら拒否したで鋭い眼光で威圧された。

───イチカは怒らせたら物凄くヤバい。と直感で判断した。

 

「わかった.....頼むよ。」

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