衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
アーチャーの言葉を借りましょう。
『せいぜい、この"オレ"に騙されていろ』
「ゲヘナの77番街...座標も合ってるわよね....。」
そこら中の建物にスプレーで落書きがされた廃墟街の一角。
指定されたのはいたって周りと変わらない建物で、コハルさんが不安げに確認する。
私達は無事、試験会場へ着いた。
時刻は2:50。
試験開始の、10分前。
「ワカモちゃん、衛宮先生からの連絡は?」
不安そうに尋ねてくるハナコさんにありのまま話す。
「士郎さんは「今そっちに向かってる」とだけ。
ですがおかしいのです。
ここ一帯電波が入りにくくなっていると言いますか....。」
そう、あれから士郎さんはおろか、対策委員会や藤河組のグループチャットさえ、更新されていない。
否、
ホシノさん達にも士郎さんにも連絡は取れない。
「こ、これもその桐藤ナギサ...様の妨害ってこと?
本当に何がなんなの!
こんな事される覚え本当にないんだけど!」
「 ....コハルちゃん...。」
コハルさんが憤慨するのも当たり前だ。
士郎さん曰く「下江コハルは正義実現委員会に対しての"人質"」。
藤河さんのように、
一方のヒフミさんは何か言いたげにしている。
が、とうとう桐藤ナギサを庇うことを、諦めたらしい。
「衛宮先生を銃撃で負傷させた上でのこの妨害。
───本当に、ナギサさんは私達を
「はぁ ...どうしてそこで笑みを浮かべられるのか。
小一時間ほど問い詰めたい所ですがそうもいきません。
士郎さんと分断し、私達の試験を受けるための資格を剥奪しようとでも考えたのでしょうけど。
今回は士郎さんがその一歩先を行っています。
何せ今の私は「補習授業部の副担任」ですから。
こうしてあの御方の教員IDだったり、この....ええと何でしたか....。」
顎に手を伸ばし、思い出す。
『シッテムの箱ですよ!ワカモさん!』
「そうそう、「シッテムの箱」。
そして、イリヤさんと
手に取るのはこれで
あぁ....思い出します...。
士郎さんと初めて出会った、あの運命の日を...♪」
弾痕で穴の空いたスーツ。
緩めたネクタイ。
視界に入った時、小汚いとさえ思えた。
しかし、そんな状態で私の手をとり、その綺麗で真っ直ぐな瞳を向け傷ついた体で───
───心の臓が爆発しそうだった、いや、していたに違いない。
何故なら彼は私の全てを奪っていた。
視線が離れない、指先一つ、動かなかった。
それこそ金縛りといってもいい。
真っ直ぐなその瞳。
私の心や体全てを見通すような視線が恥ずかしくて───
『ちょっと、ワカモ?
思い出に耽るのはいいけれど、名前くらいちゃんと呼んであげたら?
ここまで貴女達を道案内したのはアロナなのよ?』
「あ、あら?
失礼しました。」
我に返る。
頭を抱えたイリヤさんと、その横でプンスカと、怒っているアロナさんのアバター。
『ま、いいわ。
シロウがいない状態で「シッテムの箱」の起動を維持するの結構大変なのね....。
貴女達はさっさと試験でもなんでも済ませて。
私達は少し休むわ。』
『....もうアリナでもウリナでもエリナでも好きに呼んでください....しくしく....。』
そういうとシッテムの箱の画面は落ちた。
「ちょ、ちょっと。
試験の参加資格が貴女達だったらどうするつもりです!?
....全く。」
2人が居なくなる。
馬鹿騒ぎもしてられない。
この一瞬にも試験時間は迫っている。
廃墟内に立ち入った。
そこには机と椅子が───4つしかない。
桐藤ナギサめ。
士郎さんと私には立って過ごせと?
「あ、あの。
ワカモちゃん、試験用紙が....。」
ヒフミさんの声にまたも我に返る。
「....確かにありませんね?」
第一次学力試験では解答用紙と問題用紙はそれぞれ机の上に置いてあった。
「ま、まさかこの期に及んで盗まれたとか風で吹き飛んで無くなっちゃったとか!?
どうするのよ!
試験も問題も何も
「いえ、まさか....
解答用紙を我々が紛失した事にして試験を強引に落とすつもりでしょうか?」
パニックになるコハルさんと、反対に冷静に状況を整理して答えを出そうとするハナコさん。
いや彼女も冷静とは言えない。
先入観に捕らわれている。
「ワカモ。
奇妙なものがある。」
逆にずっと冷静さを保っているのはアズサさん。
彼女は何やら大きい砲弾を指差した。
「ただの榴弾砲ではありませんか。
廃墟ですし、元々どのような方々に使われていた建物かも分かりませんけれど、砲弾があっても別に何も──。」
私は見向きもせずに机の周辺を調べようとする。
が───
「───なんですって?」
その言葉に全員が砲弾へ視線を向けた。
そうして、アズサさんが砲弾を解体する。
「これは不発弾...にしては随分と綺麗ですね?」
私の質問に、アズサさんは的確な答えをだした。
「L118牽引式榴弾砲の弾頭だ。」
シャーレで読んだミステリー小説の探偵ぶりの観察眼。
よくもまぁ、弾頭を見ただけで特定できるものだ。
「L118であればティーパーティーの所有している....
ア、アズサちゃん?
随分と手馴れていますね。」
これには私だけでなく
銃はまだしも、砲弾の解体など出来るものはそう多くない。
しかも、ティーパーティー保有の武装となるとだ、触る機会など無いのではなかろうか。
「....?このくらい皆もできるだろう?
よし!開いた!」
アズサさんが砲弾の中から取り出したのは、問題用紙と解答用紙。
そして、ひとつのホログラム投影機。
『....これを見ているということは、無事に到着して、
映し出されたのは、ティーパーティーホスト、桐藤ナギサ。
「ナ、ナギサ様!?」
「え!じゃあこの方がティーパーティーの偉い人で、私達を退学にしようとしてる人なの!?」
「......ッ!」
頭に血が登り、投影機に手をかける。
「ま、待ってくださいワカモちゃん!!」
「そうです!落ち着いてください!
せめて最後まで聞きましょう!」
『えぇ....恨みつらみ、怒りの声が聞こえてきます。
とはいえ、これは録画映像なので大半は私の想像ですが、ふふっ....。』
こちらを見透かしたような言い方、表情。
実に腹立たしい。
『到着されたということで、では試験を始めてください。
一応リアルタイムでモニタリングはさせていただいておりますので。
その事はお忘れなく。
では
あぁ、それと衛宮先生も恨まないでくださいね。
「「は?」」
桐藤ナギサは意味深なセリフを残し。
『それでは補習授業部の皆さん
(バキッ!!)
そうしてホログラム再生は終わった。
というか。
「......失礼。
あれ以上聞いていたら耳が腐ります故。」
私の行動を非難する者も、一言を否定する者も、誰もいなかった。
ただ、疑問に残ることがある。
「.......なんだか、最後含みのある言い方でしたね.....?
衛宮先生を待ちますか?」
「.....そこです。
テストの範囲を広げ、合格ラインを引き上げ。
場所をトリニティからゲヘナへ移し、時間帯を頭が回らなくなる午前3時へ変更。
その上シャーレのヘリを撃墜し、士郎さんさえ害する女です。
奥の手や隠し手があってもおかしくありません。」
解答用紙の紛失偽造をされるのでは?と私達が誤解するくらいに。
「もしかしたらテスト開始と同時に爆撃なり、テロ容疑を被せられてヴァルキューレ警察に囲まれるかもしれません。」
「.....否定できないのが辛いですね。」
むしろ否定できるならして欲しい。
なんせ状況が状況だ。
矯正局送りにならずとも拘束は有り得る。
トリニティに帰れなければどちらにしろ不合格な事に変わりはない。
しかし、試験を受けないことには始まらない。
「とにかく時間が無い、早く始めよう、ワカモ。」
アズサさんは覚悟を決めて席に着いた。
「そ、そうですよ皆さん。
合格さえしてしまえばなんの問題もありません!」
そしてヒフミさんの言動で全員が椅子を引いた。
そう、私達にはわからなかった。
本当に、寝ていなかった私達にとってこの時間帯は悪夢そのものだった。
「......。」
流石ゲヘナというか。
あの後、道がなくなってたり穴だらけになって通れなかったり、橋が落ちてたりして。
しかも電話はホシノと連絡したきり何故か何処へも繋がらない───。
結論から言うと、俺は試験開始時間に間に合わなかった。
しかしそれどころじゃない。
「衛宮先生、これは....一体。」
(ゴゴゴゴゴ)
───試験会場に指定されていた地区の周囲は火に包まれていた。
「─────。」
「皆───!」
「え、衛宮先生!」
燃える77番街へ、身一つで飛び込んだ。
試験会場もやはり、倒壊していた。
「───アズサッ!ワカモ!ヒフミ。コハルッ!」
崩れ掛けの建物の外には地に伏せる
「おい!頼む、4人とも起きてくれッ!
お願いだ!」
アズサとワカモの肩を揺らす。
その手に、更に手が置かれた。
「....シロウ....。」
「アズサ!」
生きている。
───良かった、本当に。
手遅れにならなくて。
「何があったんだ!」
「試験を始める瞬間だった.....椅子にワイヤーでも付けられていたのか、それとも感圧式のトラップか....。
とにかく椅子を引いて座ろうとした瞬間に私とワカモが違和感に気づいた。
けれど、遅かった.....。
完全に油断していた....圧力還元式のS-mine....トリニティならばおそらくあれはAP-No.3の跳躍地雷だ。
地面から弾体が飛び出てきた所までは覚えている。」
おそらく、ナギサの用意した地雷だ。
────俺は、間に合わなかったのだ。
気絶したワカモが抱きしめていたコハルが意識を取り戻し、辺りをみまわした。
「ねぇ!ハナコは!?
ハナコは何処なのよ!」
「「!!」」
そうだ、見当たらない。
ここに居るのはコハルとコハルを庇ったワカモ。
ヒフミとヒフミを庇ったアズサ。
だというのなら、浦和は一体、誰が守ったというのか。
「ッ!」
「し、士郎!!」
「そこで待ってろ!
必ず浦和を連れて戻る!」
建物内へ炎に目もくれず分け入った。
(ガコンッ!)
過去の傷が疼き始める。
炎の中にいる筈なのに、指先まで冷たい。
寒い、寒い、寒い寒い寒い──!
「──────浦和っ!」
炎と煙が充満する部屋の中は崩れ落ちてきた外壁や建物の構造物で埋まっていた。
鉄骨をどかし、中央へとたどり着く。
「一体何処に──。」
叫んでも、声は返ってこない。
実はもうどうにか退避したのではないか。
「──馬鹿か俺は!
んな訳あるか。」
そんな都合の良い事がある訳ない。
頭を振って楽観的な思想を吹き飛ばす。
考えている暇はない。
瓦礫の山を、片っ端から持ち上げてはその姿を探した。
ふと、柔らかい感触が手のひらに伝わる。
間違いなく、人の肌。
「ッ──浦和!
しっかりしろ!」
瓦礫をかき分け、その身体を拾い上げた。
脈もあり、呼吸もしている。
頭から血を流しているものの、無事だった。
「....衛宮.....せんせい。
.....ご無事で、良かったです。
でも、どうして...」
そう言いたげな彼女の態度が、頭にきた。
「──────この馬鹿っ!
人の心配してる場合かってんだ!」
「....あっ....。」
引き寄せて、その体を抱きしめた。
彼女の腕は力なく垂れたまま。
「ふふっ...随分と大胆なんで───」
生きていてくれて....良かった....。」
「────先生.....?」
それだけで、救われた。
彼女を見つけ出した所で、背負ったものが軽くなるなんてことはない。
それでも、同じような状況の中、同じ過ちを繰り返さずに済んだことを。
掛け替えのない大切な生徒を失わずに済んだことを。
「ありがとう....。」
俺のそんな心を知ってか、知らずか。
こいつは、自虐した。
「...お馬鹿さんですね....先生は。
......私が手のかかる生徒であることは、私自身がよく知っています。
人より少し覚えが良くて、頭が回るだけのどうしようもない嫌な子供。
いっそ私なんて見捨ててしまえば、衛宮先生にとっての面倒事も、ナギサさんにとっての裏切り者候補も減って───」
「本当にどうしたってんだよ、浦和ッ!」
弱気になっている彼女の肩を揺する。
ここ最近、ずっと嫌だった。
喧嘩したあの日以降、ずっと浦和は
「正直に言うとな、俺は浦和ハナコって奴の笑ってる所が好きだ。
コハルをからかって馬鹿やってる姿も。
少し後ろから見守るような視線でヒフミとアズサとコハルを見つめるその表情も。
お前だけじゃない。
ヒフミもアズサもコハルも、笑顔がよく似合う。
俺は、お前達に笑っていて欲しかっただけなんだ。
だって───」
素直に笑う事が出来なくなってしまった俺にとって。
誰かが笑っていてくれる事が、
言い換えれば、誰かが笑顔でいることは
「やっぱり嫌なんだな。
悍ましいんだな。
俺みたいに、デリカシーの欠けらも無い。
配慮の足りない情けない大人が先生なんて。
だって言うなら───」
「.....い....す。」
「え?」
一度目は小さなその呟き。
次は、ハッキリと聞き取れた。
「違うんですっ...。
衛宮先生は悪くありません....
私が卑怯で誰かのせいにばかりして、周囲の事ばかりで自分の事は棚に上げて!
何の関係も無い筈の先生まで、傷つけてしまいました....。
そんな先生のお陰で、自分が居たい場所が見つかりました!
でも....そうです、その居場所だって知らない内に私は壊しかけていた──!」
浦和は、泣いていた。
浦和ハナコを苦しめているのは罪悪感。
これまでの行動による責任にも近い思いが、彼女の道の邪魔をしてしまっていた。
知っていた。
彼女が真面目で繊細であることを。
だって言うのに。
本当に俺は余計な事をしてしまったんだろう。
「ずっと、思い詰めてたのは、その事だったのか。
そうか.....。」
彼女の身を腕から離す。
周囲を見れば、入口はさらに崩れ落ちて瓦礫をどかしてどうこう、という状態ではなくなっていた。
あぁ、こんな煙と炎が密集した場所で何をしていたんだか。
「
壁に魔力を通して構造を調べる。
四方の壁の厚さは約20cm。
おそらく、
動けそうにない浦和を背負い込んだ。
「せ、先生?」
「少し、眼と口を閉じて耳と鼻の穴塞いでろ。
出口ならこじ開ける。」
「こじ開ける...って....。
.....もう、この建物は崩れ落ちる寸前です。
一瞬でも、衝撃を加えればどうなるか...。」
ネガティブながらも正論だ。
だけど、正しさだけがこの世の全てとは限らない。
「悪いけどな浦和。
俺に非がないってならとことんやらせてもらうぞ。
補習授業部を4人揃って無事合格させて。
お前達に笑って過ごせる日常を返す。
俺は諦めないぞ。
皆に笑顔で居てもらうのが、俺の目指す
瞳を閉じて、撃鉄を起こした。
「───
ショットガンの瞬間火力で壁の構造に脆弱性を生み出す。
しかし、それだけでは足りない。
トリニティでの美食研究会との戦闘。
あの時の踏み込みを今一度再現し、壁を突き崩す。
やる事は至ってシンプル。
突撃である。
検索照合───慣れないトリニティの盾では駄目だ。
何にも負けず、割れず、砕けない。
厚い、
「
────故にまた、この手に馴染んだホシノの銃と盾を
シェルを投入し
「行くぞ、ハナコ。
しっかり掴まってろ。」
彼女はただ、俺に身を任せ頷いた。
「
(バンッ!)
引き金を引いた瞬間。
足先に力をいれ、壁へ、全力突進した。
(ドガァァァン!)
地面に倒れ込む。
同時に試験会場であった建物は完全に崩れ落ちた。
「浦和、無事だな?」
「えっと.....その....ち...///」
ち?
どこか出血したのか?
いや、それとも俺の体が?
なんて思っていたのだが。
「......近いです....///」
「わ、悪い!
いや、お前が心配でつい!」
数歩離れようと、しりを引きずって下がった。
───いや、下がろうとした。
しかし、手を掴まれた。
「.....嫌じゃ、ありません。
衛宮先生....少し、少しだけ甘えさせて──」
「衛宮先生!何処!!」
浦和が全てを言い終える前に、ヒナの声が聞こえてきた。
あ、そういえばここはゲヘナだった。
「ヒナッ!
俺はここだ!
表に動けない生徒が数人いる!
介抱してやってくれ!」
「──無事なのね!
うん....わかった。
チナツ、補給は十分よね。」
「はい!」
何はともあれ。
これでひと段落。
「よし、浦和。
立てるか?」
制服がボロボロになった浦和に、さらにボロボロになった俺のスーツを羽織らせる。
「っと ....そういやシャツボロボロで上何も来てないんだった。」
「..........///
いえ、その.....。」
「お前も動けそうにないか。
さもありなんだな。
よし。」
背負おうとして。
裸の背中に歳頃の少女を背負うのは当人は嫌がるのではなかようか。
と、なると。
「よいしょ!」
「へっ....!?」
彼女の腰と膝裏に腕を回して抱える。
所謂、「お姫様抱っこ」と言うやつだ。
昔は戦闘中、セイバーにしてもらっていたことがあったが、まさかする側になるとは思わなかった。
「嫌だろうけど少しの間我慢してくれ。」
そういうと浦和は首を振り───
「いえ....構いません♪」
と。
俺が見たかった、笑みを浮かべてくれた。
残り猶予、1度。
だが、まだ希望はある。
そう、本人達が笑っていられるなら。
希望は残っている。
アズサとの絆エピソードの前半はとある理由で士郎を怒ったアズサが士郎をガンショップに連れていく話です。(今のところ)さて、士郎はどんな銃を買うでしょう。
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回転式拳銃(リボルバー)(一丁)
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自動式拳銃(オートマチック)(二丁)
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サブマシンガン(一丁)
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マシンガン(一丁)
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アサルトライフル(一丁)
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スナイパーライフル(一丁)
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ショットガン(一丁)
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ショットガン※レバー式(二丁)
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アンチマテリアルライフル(一丁)
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買わない