衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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#15「「それでも」」

Interlude 15-1 責任の果たし方

 

「.......。」

 

眼前にあるのは古材のレンガが砕け落ち、陽の光の差した座敷牢。

此処は自身の最初の罪の在処(ありか)であり、崩壊の始まりの場所だ。

衛宮士郎先生、彼を怖がる余り不用意に人質を確保しようとした末路がこの有様。

 

セーフハウスの現状を自らの手で確認しながら転々としている。

 

 

私、桐藤ナギサの現状は有り体にいえば逃避行である。

(ガサッ)

 

唐突に耳に届いた足音。

警戒しながら後ろを振り返ると────

 

「随分とおいたしちゃったみたいだね。

ナギちゃん。」

 

「ミカさん....。

よかった、貴女は無事だったのですね。」

 

そこには幼馴染の聖園ミカが立っていた。

 

 

「───無事って...何処が?」

 

「.....え?」

 

彼女の瞳が、私の心を穿(つらぬ)いた。

何を、言いたいのだろう?

 

「まさか!

何処か怪我を!?」

 

「怪我?

私がするわけないじゃん。

トリニティで私に勝てる子なんて居ないんだから。」

 

そう聞いて一安心した。

そうだ。

私の知っている聖園ミカという少女は地頭()良く、戦闘においても強い。

 

彼女は崩れた壁からセーフハウスへ足を踏み入れた。

鍵のかかった牢柵を()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ミカさん.....?」

 

ダイニングとも言えない部屋に入った彼女はテーブルの上に無造作に置かれた銃を手に取った。

 

藤河マコから取り上げたそれは一発しか装填できない何の役にも立たない銃。

 

それを見ながら呟いた。

 

「.........ナギちゃんは知らないだろうけど、補習授業部の一件のせいでティーパーティーの電話(ホットライン)はなりっぱなし。

 

トリニティの被害地区やゲヘナからだけじゃない。

顧問の先生を襲ったっていう抗議の電話がアビドスやミレニアムからも殺到してるんだ。

 

あ、もちろんシャーレからもね♪」

 

「.......。」

 

......確かに私の端末からでも各方面に指示は出せる。

されど連絡窓口は、ティーパーティーのテラスなのだ。

 

「酷いなぁ。

責任者はナギちゃんなのに。

対処を全部私に丸投げなんて。」

 

「──元より休みは頂いていましたし、その旨はお伝えしました。

ですが、ごめんなさい。

貴女を巻き込むつもりは無かったのですが.....。」

 

「ほんと、いい迷惑だよ。」

 

言葉とは裏腹に、彼女は気にしていない様子だった。

されど───

 

「でもさ。

この状況、どうやって収拾するつもりなのかな?

肝心な衛宮先生と補習授業部の生徒達はまだ戻ってこない。

シャーレに喧嘩を売る形になっちゃったからゲヘナどころかアビドスやミレニアムといつ諍いが起きてもおかしくない。

 

って、私は思うんだけど。」

 

「─────」

突きつけられる逃げようのない、逃れようのない現実。

 

油を撒いて、火をつけた森は火の手が、広がっていた。

当初の計画ではボヤにさえならなかったはず。

しかし、今となっては大きくそれていて軌道修正はもはや不可能。

 

このままでは他の学園と本当に戦争になりかねない。

 

「そこで、さ....。」

 

重い雰囲気のまま、ミカさんは提案した。

 

「どうかなっ♪

ここでホストの座を私に譲って第一線から身を隠すっていうのは。

そうすればナギちゃん傷つかなくて済むし、ほとぼり冷めた時にまたホストにもどればいいよ。

 

今の問題は....うん。

私ナギちゃんより衛宮先生と仲良いし♪

現状の問題は頑張って解決するからさ。

 

ね?」

 

「─────。」

 

彼女が私へ向けて手を差し出した。

 

この肩を、私を押し潰しそうな責任から解放される....?

 

それはなんという────

 

 

差し出された手へ、自らの手を伸ばす。

 

 

 

 

元々、私はホストなどではなかった。

フィリウス派の代表という肩書き。

 

それがセイアさんが襲撃されて席が空いた為、なし崩しに務めることになった。

 

私は怯えていた。

何故セイアさんが殺されたのか、犯人が狙っているのはティーパーティー全員か、それともホストの座に就いた者を襲っているのか。

 

それ以降も。

 

私は怯え続けた。

否、その対象は次々に増えていった。

 

 

影に怯えるようになった。

 

『誰か、そこにいるのですか.....?』

 

暗闇に怯えるようになった。

 

得体の知れないものがそこにいる気がして──

 

他人に怯えるようになった。

 

 

何を考えているのか──わからない

 

気づけば頼りに思える者は誰一人として居なくなっていた。

 

それでも恐怖心を押し殺して、ホストとしての責務を果たさなければならないと自らの役割と向き合い続けた。

 

気づけばいつしか私は()()()()()()()()()()

 

遊び心のただのひとつも無い。

ただ職務をまっとうするだけの機械装置のようなもの。

────気づけば、最後に心から笑ったのは何時の事だったか、わからない。

否、笑い方すら失ったのかもしれない。

 

敢えて言うなら、()()()()()()()()のだ。

純粋だったあの頃へはもう、戻れない。

 

私は───

 

「ミカさん────」

 

差し出された手に指が触れる、その直前。

 

 

『だからせめてお前は───』

 

 

彼の言葉が、思い起こされた。

 

「.....ナギ...ちゃん?」

 

何故か驚いている目の前の彼女。

 

気がつけば私は突き出した手を、もう片方の手で抑えていた。

体が、勝手に動いたのだ。

 

「裏切るのか」と。

 

今まで苦しんできたのは何の為に。

 

犠牲にしてきた自身と、傷つけた彼や彼女達は何の為に。

 

条約の為だ。

 

 

 

では、エデン条約を推し進めたのは何の為に───!

 

その答えは、目前に()()

忘れていた(思い出した)

これまでなんの為に進んできたのかを。

 

伸ばした手を、握りこんだ。

真っ直ぐに、相手の目を見据えて答える。

 

「ありがとうございます。

 

それでも私はエデン条約を結ぶまでホストの座から退くことは、ありません。

 

どれほど周りから罵倒されようと。

 

どれだけ叩かれようと。

 

愚かで厚顔な生徒会長(ホスト)と言われようとも。

 

背負うべき責任に押しつぶされることはあってはならない。

犯した罪をなかったことにできる訳ではありませんし、そもそも逃げてはならないのです。」

 

彼は私に告げた。

 

「もし此処で諦めたなら──何の意味もなくアイツらを傷つけたお前を俺は許さない。」

 

思えば1度たりとも私の方針を否定する事はなかった。

 

私は殴られた。

引き金を引くでも、斬りつけるでもなく。

私を殺せるであろう彼は、ただ私を殴り、叩いて説教をしてくれた。

その殆どが否定に近いものであったが。

 

これまで彼ほど親身になって───なろうとして怒ってくれた者が、いただろうか?

 

「─────罪からは逃げられない?」

 

トリニティの為?

ゲヘナの為?

キヴォトスの安寧の為?

 

違う、そんなものは二の次だった。

 

私が本当に守りたかったのは───

 

「エデン条約を締結し、セイアさんを襲った犯人をゲヘナと協力し見つけ出す。

 

昔に戻れなくとも。

また、私たち───」

 

目の前にいる、唯一無二の親友だった────。

 

私がこんな無茶(錯乱)をしてでも守りたかった唯一無二の親友。

阿慈谷ヒフミ(最愛の少女)と天秤にかけて悩みに悩み、それでもよりおもかった支えの────

「そっか.....。

うん、やっぱりナギちゃんは強いね。」

 

差し出された手は掴みどころなく、垂れた。

 

「それに、私がホストの座を降りてしまえば今度はミカさんが狙われてしまうかもしれません。

 

ですから────」

 

(ドスッ ..!)

 

告げ終える前に、呼吸が出来なくなった。

腹部に重い何かがぶつかったような。

 

気づけば、背後は壁。

 

察すると同時に、頭が、理解を拒んだ───

 

「ごめんね、ナギちゃん。」

 

倒れる直前に見たのは、悲しそうなミカの、顔。

 

「私はナギちゃんと違って卑怯で、臆病者だから。

私はもう、どこにも行けないから───」

 

頭も強くぶつけたらしい。

そのまま私の意識は刈り取られた。

 

Interlude 15-1 責任の果たし方 End

 

 

「百合園セイアが生きてる───?」

 

唐突なカミングアウト。

どういうことだ?

 

「なんだって、お前がそんなことまで知ってるんだ?

だってセイアが死んだって話すらティーパーティーの内々の生徒しか知らないってミカが───」

 

そうだ。

トリニティ上層部への不信や、崩壊を防ぐ為にデマとして「休養中」「入院中」という話をしていた筈。

 

それを一介の生徒である浦和が知っているのはおかしい。

 

「はい、それは正しいです。

ですが──そうですね...これは話すかどうか最後まで悩んでいたのですが....。

 

色々な派閥の生徒とお付き合いがありまして。

この話はシスターフッドの方から聞いた情報です。

百合園セイアさんは生きており、現在救護騎士団団長が保護しています。

詳しい現在地は分かっていませんが───」

 

浦和はそういやトリニティの情報に詳しいってミカが言ってたな。

 

「......そうか。

そんな気はしてたんだ。

 

でもなんでそれをナギサやミカ達が知らないんだ?」

 

上層部がそれを知らなきゃ意味がない。

真実を知らないから余計な混乱が───

 

「──ちょっと待て浦和。

今回の件。

首魁は歌住サクラコ、とか言わないよな?」

 

アイツ、なにか知ってそうな口ぶりだったからな。

藤河の事もそうだ。

 

あの時俺は一切話しを聞けずじまいだった。

 

「あ...いえ、そうではありません。

シスターフッドの情報網はティーパーティーのものよりかなり広く深く。

昔から秘密主義を貫いてきたので。」

 

なるほど。

在り方的には()()()における魔術協会とかそちらに近いのかもしれない。

 

「それにティーパーティーの一部に僅かですが不審な動きもあるとか。

さらに言うとここ最近のティーパーティーは──」

 

「あぁ、言峰から聞いてるよ。

ティーパーティーがシスターフッド内でどう思われてるのか。

 

つまり、なんだ。

信用出来ないからサクラコも話さなかった、と。」

 

しかしひとつ疑問がある。

浦和は何時そんな情報を知ったのだろうか?

そんな話大勢の前では出来ないだろう。

 

アズサみたいにこっそり会いに行っていたのだろうか?

 

いや、今考えなければいけないのはそこじゃない。

 

 

「話を戻す。

とにかく今のナギサはセイアを襲撃した犯人を探し出そうとしてる筈だ。

その容疑者に俺たちが突っ込まれたのはナギサの目が恐怖心で曇ったからだと思う。

真実さえ疑わしく、何も信用出来ず、見極めることは諦めて。

何が正しいのか分からない、だから怪しい者は全員檻の中に叩き込む。

「そうでもしなければ次は自分の番だ」って。

 

たぶんそんな感じだと思う。」

 

本当の所は、そう。

ナギサの言う通り、他人である俺には分からない。

 

「で、───衛宮先生。

私達はどうしたらいいの?」

 

ヒナが問う。

 

「それはゲヘナ風紀委員会が、ってことか?」

 

「風紀委員会だけじゃない、この場にいる全員。」

 

みんなが一斉に俺を見る。

 

「正直トリニティ以外の奴は今は静観を貫いて欲しい。

全てが終わったらちゃんとナギサと一緒に頭下げに行くよ。

それに今回は()()()()()()「シャーレの権力」は使いたくない。」

 

誠意を持って、願い出る。

しかし、ヒナは「そこじゃない」と言う。

 

「......この事態はどう収集をつけるの?

「噂」を押しとどめることは難しいわ。

 

人の口に、戸は立てられない。

このままだとその犯人の思う壷になる。」

 

「確かに.....私達アビドスはともかくゲヘナとミレニアム、それにトリニティの人口密度は高いです。

ミレニアムの情報隔離もいつまで保つか ....。」

 

アヤネはヒナの意図を理解したよう。

分かりやすく教えてくれた。

 

「.......皆に怒られそうな手段だけど、対策はひとつある。」

 

「へぇ?どんな?

おじさんには全く思いつかないけど。」

 

「.......衛宮先生、情報というのは何処からいつ出てくるか分かりません。

それにミレニアムですらあの状況ならトリニティはもう───」

 

諦めたようなホシノとヒフミ。

しかし浦和は違うようだ。

 

「....情報には情報で対抗、撹乱する。

まさに情報操作、ということですか。」

 

「──あぁ。」

 

流石というか、よく頭が回る。

浦和は俺の思考を完全に見抜いていた。

 

「ハナコちゃん。どういうことですか?」

 

「それは、私も衛宮先生の口から直接聞きたいですね。」

 

だよな。

やっぱり、ちゃんと説明しないと。

 

「......藤河組はクロノススクールに強い伝手(つて)がある。

それを利用して「今回の事件の原因は俺、学力試験の会場に関する相談をゲヘナに伝達し忘れた」という情報を流そうと思う。

 

真実味のある情報には話題性のある情報で対抗しないと勝てない。

 

なんせ俺は「何をするか分からない怪物」らしいからな。

世間に漂ってる悪評を利用する。」

 

まぁ、皆いい顔はしていない。

 

百合園セイアに言われたことを覚えている。

 

俺の悪い噂が広まるということは、それだけ俺の担当する部活や学校の、果ては連邦生徒会の評価悪化や信頼低下の懸念が生まれる。

そして、今後出会う生徒からの信用も、失う可能性も高くなる。

それを覆す術を、俺は知らないし、持ち合わせていない。

 

罪を犯した生徒の為に。

今頑張っている皆の努力を無碍にするかもしれない。

 

それは間違いなく「正義の味方」の形ではない。

 

だけどやはり───

苦しむ生徒を、声なき叫びを無視して進む事は、出来ない。

 

「俺が顧問になってる部活や学校には迷惑はかけるだろうけど....。

俺はナギサも補習授業部も助けたい。

勿論これは俺の我儘だ。

 

他に意見や方法があるなら聞くし。

こんな俺を許せないって言うなら顧問を降りたって、構わない。」

 

ホシノと視線が交わった。

その表情は、無表情。

されど思考を巡らせている事は察せられた。

 

「.......衛宮先生の好きにしたらいい。

そもそも衛宮先生は風紀委員会の顧問じゃない。

それにゲヘナは元より()()()()()だから。

 

私達には影響は少ない。」

 

ヒナの返しはいつもより、冷たく聞こえた。

 

それも仕方ないと、割り切る。

 

一方のホシノはというと────

 

「やっと()()()見るようになったんだね。」

 

小さくも、呟きが耳に届いた。

 

「おじさんは別にいいよ~。

まぁセリカちゃん辺りは聞いたら怒りそうだけどさぁ。」

 

「ふふっ...確かに。

セリカちゃんならおそらく

 

『また、あんたは!』

 

って言いそうですね。

 

ですが、私達は「衛宮先生」を知っていますから。

それでいいんです。」

 

案外、ホシノとアヤネはすんなりと受け入れてくれた。

アビドスの時とは違う選択をした俺。

 

それでも信頼してくれている。

 

間違いなく、これが俺がここに来て「得た答え」の一つだ。

 

 

 

残る補習授業部、ヒフミや浦和。

正義実現委員会のイチカからの反論は、なかった。

 

方針は───決まった。

 

 

 

 

「......シ────衛宮先生。

貴方は大丈夫なの?

撃たれた傷....。」

 

ヒナが恐る恐る聞いてくる。

 

そういえば───勝手に塞がった傷の件。

あれはどう説明したらいいか。

 

「まぁ大したことないよ。

この通りピンシャンしてる。

 

ただ目がなんか───」

 

そういえば、その件も誰も突っ込まない。

 

「俺の左目、青いだろ?

さっき気づいたんだけどさ。

 

いつの間にかこんなになってて。

しっかり見えはするんだけどさ。」

 

なんというかこう。

まるで他人の目をぶち込まれた様に瞳孔が────

 

「.....何言ってるの?

シロウ、両目ともいつも通りだけど.....。」

 

「へ?」

 

ヒナが変なことを言い出した。

むしろヒナの視力が下がったり、異常が出てるのではないか心配になる。

 

けれど、その疑念は直ぐに潰された。

 

「そうですよ?

衛宮先生の目は特に変わりありませんが。」

 

「私も、そう思います。」

 

「そんな馬鹿な。

だってさっき鏡で───」

 

(パシャッ)

浦和とヒフミに大真面目に返され、挙句の果てには浦和が写真を撮って見せてきた。

 

「先生もお疲れだったのでしょう。

見間違えたんだと思いますよ?」

 

「....ほんとだ....。

気の所為...だったのか?」

 

ホシノが微妙な空気を、手を叩いて締めた。

 

「────ま、無事でよかったじゃん。

さてさて、皆呼んで朝ご飯にしよー!

 

おじさん期待してるからねー、衛宮先生。」

 

「あいよ。

────いや、待て何人分だよ!」

アズサとの絆エピソードの前半はとある理由で士郎を怒ったアズサが士郎をガンショップに連れていく話です。(今のところ)さて、士郎はどんな銃を買うでしょう。

  • 回転式拳銃(リボルバー)(一丁)
  • 自動式拳銃(オートマチック)(二丁)
  • サブマシンガン(一丁)
  • マシンガン(一丁)
  • アサルトライフル(一丁)
  • スナイパーライフル(一丁)
  • ショットガン(一丁)
  • ショットガン※レバー式(二丁)
  • アンチマテリアルライフル(一丁)
  • 買わない
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