衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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さて、第2章クライマックス。


#16 吊り下げられた選択肢/告解

トリニティの別館に戻り、1週間は過ぎた。

 

あれからヒフミ達は諦めることなく猛勉強している。

行った模試の回数も片手の指の数は超えている。

 

気がつけば第三次学力試験の期日は明日へ迫っていた。

模試の点数も上振れして90点、下で80点台と安定はしてきた。

 

 

しかし、あれからナギサとは一切の連絡が取れずじまいのまま。相変わらず正義実現委員会には一方的に指示が飛んでいるらしく行方不明....とは言い難いのが現状だ。

 

俺はと言うと。

表では補習授業部の顧問を務めながら、裏では情報収集を行う日々が続いている。

 

 

 

 

補習授業部の事をワカモに任せてまでやってきたのは聖テレサ総合病院。

 

アビドスで風紀委員と戦闘した時にノノミやセリカ、アル達が。

大蛇との戦闘でワカモとアヤネがお世話になった病院でもある。

 

訪れた理由はもちろん見舞いである。

今ここにはトリニティでヘリの墜落事件の被害にあった人々が受診、入院しているらしいのだが。

被害者の名前を調べるだけで3日かかるとは思わなかった。

 

 

 

病室を訪ねては、頭を下げ謝罪を繰り返す。

怒号がだけでなく物を投げつけられたり、蔑まれることもあれば、逆に同情されたりもした。

 

それを全て受け入れた。

 

しかし。

最後に訪れた病室だけは、そのどれとも違った。

 

「ん?

セリナ?

なんだってこんな所───いや、救護騎士団なんだから病院にいてもおかしくなんてないんだろうけど。」

 

驚いた。

救護騎士団はこんな立派な病室の手伝いもするのか。

 

声をかけたセリナの表情は明るかった。

が────

 

「あら、衛宮先生!

─────聞いてますよ、銃弾に倒れたと。

しかもその傷ついた体でゲヘナに強行したそうですね。」

 

む?

眉間にかなり皺を寄せている。

なにやらセリナは怒っているらしい。

 

「いや。

あの時は大事な生徒の命がかかっていたっていうか。

やむを得ない事情があったといいますか....。

 

人命優先───」

 

「それは自分の体を労らない理由にはなりませんよ!

 

先生は大人なんですから生徒のお手本になるような行動を心掛けてください!

だからこうして先生の真似をして無茶する生徒さんが増えてしまうんですよ。」

 

「俺の真似?」

 

「はい。」

 

そういうセリナが担当していたのはシャーレのヘリを操縦していた藤河組の生徒。

話に聞くと、最後の最後まで期待を制御する為操縦桿から手を離さなかったらしい。

 

確か名前は蒔苗(まかない)────下の名前は確か「ミキ」だった気がする。

 

そう、───蒔苗(まかない)ミキ。

 

マコを慕う後輩のひとりで、いつも「〇〇の姉御!」と呼んでいるうちの1人。

運動大好き元気娘。

本人曰く日焼けだという黒い肌にヘルメットの下には黒髪と藍色の瞳を持っている、どこかのトラブルメーカーを相続させる名前と姿。

 

というか、直接自己紹介はしていないとはいえ1度は「シャーレ襲撃者」の名簿で名前は見たはずなのだが....

 

皆いつもヘルメットをしているせいか、誰が誰なのか名前が一致しない為、覚えた矢先に忘れている。

 

「.....というか、思ったより元気そうだな、蒔苗。」

 

「お、士郎の旦那。

いや、それもこれも全部姉御のお陰っすよ。

燃え盛る火の中唐突に現れて応急処置して消えちゃったんすけど。」

 

「.....そうか。」

 

ワカモから聞いてはいた。

マコからヘリ墜落の連絡が入ったお陰で出発できた、と。

 

「そういや、姉御は一緒じゃないんすか?」

 

「姉御?」

 

困った。

この場合、どちらの姉御だ?

マコか?ワカモか?

藤河組の生徒の中でもワカモのことをよく思ってない生徒も多い。

そのうちの一人が彼女、蒔苗だ。

 

「マコか?

まぁあいつも色々忙しいんだろ。」

 

「何時になったら帰ってくるんすか?」

 

「......そのうち、な。」

 

そして、この反応からしてまだマコの事は知らないらしい。

 

「........済まなかった、こんなことに巻き込んで。」

 

「いや!

士郎の旦那が謝る必要なんてないない!

 

───でも警告も無しに撃たれるとは思わなかったわー。

 

いや、さすがトリニティ!

どいつもこいつもお高くとまってるだけで頭パープリンなんろうなぁ、きっと。

さっさと旦那もD.Uに戻ってきた方が身のためだって!

 

この病院だって、夜には使われなくなった階で「出る」って話だし。

きっとヤバい人体実験で死んだ生徒の霊とか───」

 

「.....嫌味を言いたくなるのもわかるけどさ───」

 

そこまでにしておけよ蒔苗。

セリナの目が笑っていない。

......お前の目の前で看病してくれているのは、そのトリニティの生徒ナンダゾ?

 

「さて、そろそろ面会のお時間はおしまいです。

 

────ミキさん?

注射のお時間です♪」

 

あの?

セリナさん。

 

その注射器、通常の物より5倍くらい大きくありませんかね?

 

「へ?

───マジすんませんでした!!

平伏してひれ伏すんで注射だけは勘弁してください!」

 

 

「ダメですよ?

良くならないじゃないですか?」

 

「いや、お前。

平伏も平伏すも同じ意味だぞ?

 

それにしてももう夕方か。

───じゃあな、蒔苗、お大事に。

 

セリナ、そいつの事よろしくお願いします。」

 

俺はセリナの持っているモノを見なかったことにして別れの挨拶を切り出した。

 

「はい♪」

 

「待って!見捨てないで!

 

旦那ぁ!旦那ァァァ。」

 

悪い、無理だ。

そうしないと「次はあなたです」って目をしてこっちを見てたセリナに多分治療され(殺られ)る。

 

無慈悲にも、俺はピシャリと扉を閉めた。

 

「南無三。」

 

さて、別館に帰りますか。

 

合宿所も変わらない。

たまに流した噂の真実を確認しに生徒が尋ねてくる。

それを世間話で逸らしたり、追求してくる子にはハッキリと「今は答えられない」と返答した。

 

「説明責任があるのでは?」

「答えられないってことは肯定ということですか?」

 

なんて声も何回か聞いた。

その度、ワカモが牽制を()かせてくれるお陰でそれ以上は何も無く帰っていく。

 

トリニティでの噂の広がり様はそれはもう神速だった。

元々広げられた噂を塗り替えるように。

 

されど───

ここまでして、相手方の動きがないまま第三次学力試験を迎えることになる。

 

「遂に....明日、ですね。」

 

「......はい。」

 

不安そうなヒフミと浦和。

夕食後、作戦会議というか、とにかく互いの考えを話し、方向性を決めようとヒフミが言ったことから始まった集まり。

今ではワカモと浦和だけでなくコハルも話の中に入っていた。

 

アズサはまた出かけていた。

今日くらいはゆっくり寝て欲しいのだが....。

 

「.....衛宮先生。

今のやり方ではいずれ他校からも───」

 

「....だな。

流石にこちらも動かないと。

 

まぁ、俺の心配より、お前たちは明日の試験に集中してくれ。」

 

心配してくれる浦和の意見に同意する。

犯人を見つけて、噂を否定しないと信じてくれている皆に申し訳ない。

 

「歌住.....サクラコと直接話を────」

 

「そちらの方は私に任せてください衛宮先生♪

何かあれば私の方に連絡が来るようになっています。」

 

「そっか。」

 

シスターフッドの事は浦和の方が詳しい。

丸投げという訳にはいかないが、情報のやり取りができるならそれで良し。

浦和が俺に伝えないというのなら、それは今の俺にとって不要な情報なのだろう。

さて、そちらは一旦置いておくとして。

 

「次が最後のチャンスなわけだが。

自信はあるか?」

 

これまで急ピッチかつ、余裕のないスケジュールでの猛勉強をしてきた。

その結果、それぞれ程度はあれど目の下にクマが出来ている。

全く寝ていない日もあった。

 

この期に及んでそんな彼女達にプレッシャーをかけたくない、がそれでも皆のやる気を再確認するべきだと思った。

 

下を向くのはコハル。

 

「......90点....模試でも1度しか取れなかったし.....

もしこれで合格ラインが満点になったら....皆に迷惑かけちゃう.....。」

 

コハルの言う「皆」とは補習授業部のことだけでは無いだろう。

制服の裾を握りこんでいる。

おそらくハスミやツルギに迷惑をかける、とそう思っているのではないだろうか。

 

「や、やっぱり寝てられない!

100点!

100点取れば文句ないはずでしょ!」

 

「それはそうなんですが.....。」

 

黙っていれば無茶を言い始める始末。

そんなコハルを浦和が説得してくれた。

 

「いいえ、コハルちゃん。

明日の為にも今は休息を取るべきです。

1度寝て────」

 

「........。」

『衛宮先生!

掲示板を────』

 

アロナの声で携帯を操作して掲示板サイトを表示する。

今度はどんな無茶苦茶な指示が来るのか。

 

あれだけ怒ったのだ。

もうゲヘナや他校を試験会場にすることは避けるはずだ。

 

「────え?」

 

しかし表示された内容を見て唖然としてしまう。

 

「今度はどんな内容なのよ!」

 

コハルが横から覗き見るので携帯そのものを渡してやる。

 

「『第三次学力試験の試験範囲を通常時のものより30%縮小したものとし.....また、合格ラインを90点から40点にする』....?」

 

コハルの読み上げた内容に、皆こぞって携帯を手に取る。

 

更に「護衛に正義実現委員会を総動員し別館の警護にあたる」とまで書かれている。

 

むしろ、緩和されていた。

これは今までと逆だ。

 

補習授業部を合格させないように動いていたのが、むしろ合格させようとしている意図が感じられる。

だから第一に浮かび上がったのは───

 

「これは、ナギサさんの意思なんでしょうか.....?」

 

「俺もそこが気になってる。

もし、ナギサが既に敵に捕まってるとしたら───」

 

したら───なんだ?

ナギサを襲撃するその「何者」か。

 

そいつにとって「補習授業部」はただ「ホスト」の信用を崩すための道具でしかない筈、なぜ合格させようとする?

一切のメリットがない様にしか捉えられない。

それとも、この期に及んで「補習授業部」を利用するつもりなのか?

 

どのように?

それこそ合格してしまえば補習授業部は解散する。

 

ワカモが、それを解釈してくれた。

 

「事情を知りすぎた私達に対する犯人側からの通告でしょう。

 

「学力試験は合格させてやる。

元の学生生活に戻りたいのならこれ以上関わるな」という。」

 

「それは───ありえない。」

 

「....アズサ?

どこに行ってたんだ?」

 

ドアを閉めて部屋に入ってくるなり否定したアズサ。

 

「あら?どうしたんですか?アズサちゃん?」

 

浦和と入れ替わりで笑顔と口数が無くなったのが、アズサだった。

俺達に向ける視線が、どこか申し訳なさそうなものになっている。

 

「......。」

 

押し黙ったアズサの体は震えている。

 

「アズサ....?

どうしたの?具合でも悪いの?」

 

「寒いんですか?」

 

コハルとヒフミの心配には何も返さない。

 

「皆に、ずっと隠してたことがあった。

でも、ここまで来たらもうこれ以上隠しておけない....。」

 

隠し事....?

それはもしかして───

 

「ナギサが探していた「トリニティの裏切り者」

あれは私の事だ。」

 

「えっ?」

「....はい?」

「........。」

 

アズサが、自らの素性を話し始める。

 

「元々私は「アリウス分校」の出身。

みんなの知ってる通りトリニティの生徒()()()()()()

 

今は書類上の身分を偽ってトリニティに「潜入」している。」

 

「アリウス分校....?

潜入?

何を言ってるんですか...?アズサちゃん?」

 

「えっと.....何?そのアリウスって。」

 

「─────そうか。

()()()()()()()()()()アリウスはそうなのか。」

 

「....。

アリウス分校....かつて、()()トリニティが生まれる時代に連合に反発した、()()()()()()分派の学園です。」

 

バツが悪そうに説明するハナコ。

アズサは、その先を、言葉の意味を言わなかった。

苦い顔をしている。

 

「ま、待って....急に何の話?!

 

そ、そのアズサが変わってるのは知ってるし、嘘じゃないだろうけれど。

 

別に今の私達とは何も関係もなくない!?

アリウスの事は....その、よく分からないけど。

それが私達補習授業部とどういう関係があるわけ?

 

アズサはなんでそんな───」

 

「待てコハル!

それ以上先を言うな!」

 

手振りでコハルの言葉を遮った。

 

「え、でも士郎──」

 

「ダメだ。

例えそれが単純な疑問だったとしても。

いまのアズサには───」

 

「いいんだ、シロウ。

そう言われるのは当然だ。

()()()()()()()()()。」

 

アズサはそう言うが.....

だが、よくある話で察しはつく。

 

イジメっ子と虐められた子。

 

今の加害者側(トリニティ)は過去に行った迫害、弾圧を忘れるどころか被害者(アリウス)の存在すら知らないし、知らされていない。

 

自らの学園の分派のことを忘れ。

時代が進む度に忘れ去られてきた闇。

無知と無恥。

知らぬが故に愚かしい、人の「悪」。

そうした不満は怨みへと変わり、積み上げられ、次の世代へ、また次の世代へと引き継がれる。

 

そんな反応を見たのにも関わらず、それでもアズサは打ち明けた。

 

 

「私に与えられた任務。

それはティーパーティ3人のヘイローを「破壊」すること。

 

....百合園セイアを襲撃したのは、私だ。」

 

「「───!」」

 

皆が目を見開く。

 

(ジャキッ)

 

銃を向ける者も、一人此処に。

しかし、その表情から察するに抱いたのは怒りではない。

 

困惑だろう。

 

「ワカモ、銃を下げるんだ。

 

───そうか。

お前がアリウスの生徒だってのは、ミカから聞いてる。

その学校が()()()()学校じゃなくて、今もトリニティを憎んでるってことも。

俺は聞いてる。」

 

間違っても、()()()()()などとは言えない。

溜め込んだ負の感情など、理解など不可能だ。

 

彼女がこれまで、どのような思いで、考えで、補習授業部に居たのか。

 

「....し、しかし──わかりました...。

ですが、何故です?

 

今、「裏切り者」だとカミングアウトする事がどういう事か。」

 

ワカモの質問に、アズサは答えない。

 

「....アリウスは、ティーパーティーを()()為なら何でもしようという覚悟でいる。

 

アリウスはティーパーティーのメンバーであるミカを騙して、私をこの学園に入れた。

詳細は知らないけど、きっと「トリニティと和解したい」とかそういう嘘をついたんだろう。」

 

「─────。

あぁ。

 

確かにミカはアリウスと和解して。

アズサ達アリウス生徒を()()の────いや、自分達と同じ学園生活を送らせようと考えてた。」

 

「なるほど、ミカさんであれば─」

 

アズサと俺の推察を浦和が確固たるものにした。

 

「彼女は政治的思考は向いていないと言われています。

そこにつけいられたのでしょう。

 

おそらく、全てが終わった後、ミカさんに全ての罪を着せ、トリニティから葬りさる。

そういう筋書きなのでしょう。

 

私もアリウスがトリニティを憎んでいると聞いていましたが、なるほど。」

 

よくもまぁ冷静に捉えられているもんだな。

こっちは頭が、痛すぎる。

 

「───アズサ、確認させてくれ。

 

お前が毎晩───家族《友人》に会いに行っていた。

あれはティーパーティーを陥れる為の───」

 

アズサは頷くことも横に振ることもしない。

 

 

「半分は正しい。

私はサオリに指示を与えられていた。

 

「トリニティに溶け込め」

「適当に使える人物を作れ」

 

など。様々だ。

 

だけど半分は違う。

私はそうしない為に、シロウの言う()()を裏切る為の準備をしていた。」

 

「───え?」

 

困惑する。

思考が停止する。

 

アズサにとって、サオリ達は家族の筈だ。

どんな苦難も共に乗り越え、どれ程の逆境でさえ。

いや、むしろ居なければここまでこれなかった筈の。

 

全てだったハズだ。

 

明日の朝(今日の深夜)、アリウス分校の生徒達がナギサを狙ってトリニティに侵攻する。

侵攻と言っても戦争じゃない。

潜入だ。

 

───私は、それらからナギサを守らなきゃいけない。」

 

なんでさ。

 

お前はどうしてそんな簡単に。

これまで積み上げてきたものを。

過ごしてきた時間を。

大切な家族を。

 

裏切ることが出来るんだ.....?

 

「よく分からないけど!

アズサはティーパーティーをやっつけに来たんでしょ?

なのに守るってどうして?

話が合わないじゃん!」

 

「......それは───」

 

言い淀むアズサの言葉の先を、浦和が続けた。

 

「──アズサちゃん()()は、最初からその目的でトリニティに来た。

そういうことですね?

 

 

最初からナギサさんを守るために、ナギサさんを襲撃する任務に参加した。

言わば()()()()()

 

アリウス側には連絡係として。

常に「問題ない」と、ずっと嘘の報告をしながら、裏切る為の準備をしていた。」

 

「.......。」

 

一方的な押し問答。

浦和は続ける。

「それは誰の命令でもない。

きっと、自分自身が()()()()()()()

では何故?

どうしてナギサさんを守ろうとするんですか?」

 

「───桐藤ナギサの提唱する「エデン条約」。

彼女がいなくなればそれは(つい)えてしまう。

この先キヴォトスの混乱は広がり、いつかはアリウスのような学園が、生まれてしまうかもしれない。」

 

「だから、平和のために?と?

 

─────とても甘くて、夢のような話ですね。

今回の条約の名前と同じくらい、虚しい響きです。」

 

「浦和お前───」

 

もう少し言い方があるだろと。

 

開いた口を、浦和の手で塞がれた。

 

「アズサちゃんは嘘吐きで、誰へ対しても「裏切り者」でした。

トリニティでは本当の姿を隠し、アリウスでも本音を隠していた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ずっと周りの全てを騙していた。

そういうことで合っていますか?」

 

「────。」

浦和は敢えて、嫌な口調で、圧をかけるように話している。

 

それはいつかの過ごした朝に似ている。

最後の、確認だ。

 

「いつか言った。

その場にハナコは居なかったけれど。

 

私はみんなの事を、信頼を、心を裏切ってしまうかもしれないと。

 

本当に、ごめんなさい。

私のことを恨んで欲しい。

ナギサが探している「裏切り者」は私で、私のせいで補習授業部の皆はこんな目にあっている。

今のこの状況は全て私がもたらしたものだから。」

 

それでわかった。

 

アズサには今まで一度として、味方がいなかった。

 

ずっと、トリニティの問題と一人で向き合って、戦ってきた。

誰かを裏切ったとか、そんなことはもうどうだっていい。

 

「信じきったんだな。

お前は、「こうでありたい自分」を。

 

────ありがとう。

お前の本心が聞けて、俺は嬉しいよアズサ。」

 

今、俺の生徒が、重い決断を、下した。

 

非難されるかもしれない。

否定されるかもしれない。

 

「出て行け」となじられることも、通報される可能性だってあったのに。

それを──

 

「おい、浦和。」

 

それ以上は要らないと。

今度こそ視線で意見を伝えた。

 

「ごめんなさいアズサちゃん。

アズサちゃんの真っ直ぐな「形」を見ているとなんだか心が落ち着かなくなってしまって。

 

私はアズサちゃんを信じています。」

 

「....ハナコ?」

 

唖然とするアズサに、浦和は続けざまに話す。

 

「補習授業部はもはや注目の的になりつつあります。

こんな目立つ場所にそんな「スパイ」がいては良くないと、その「アズサちゃんの家族」もそう思っていたでしょう。

でも、理屈(それ)とは裏腹にアズサちゃんは補習授業部に残り続けました。

その理由を私は知っています。

 

─補習授業部での時間があまりにも楽しかったから。

()()()()()()()()()()()()()()()()から。

そうではありませんか?」

 

「───!

どうして。

 

ハナコは()()()に───」

 

あの場、とは。

美食研とのいざこざが終わったあとの事だろう。

 

わざわざ冷やしたその場の空気を、暖かな言葉遣いで、溶かしていく浦和。

それは皮肉にも自分が映し出される鏡に話すように。

 

「皆で一緒に勉強したり、ご飯を食べたり、お洗濯をしたり、お掃除したり、何をしても楽しいことばかりだったから。

だから、この楽しい時間を壊したくなかった。

 

目標へ向け、皆で努力すること。

そしてヒフミちゃんやコハルちゃん、ワカモちゃんと衛宮先生と皆で知らなかったことを学んでいく。

 

そう。知らない自分に出会う(未知を既知としていく)、その行為が楽しかったから。

 

アズサちゃん、違いますか?」

 

「────。」

 

あぁ。

アズサは言っていた。

 

 

『かつて、これほどまでに「物事を学ぶ」ということが楽しいと思える事はなかった。

私生活の何気ない一つの会話から、皆で一緒にご飯を食べることも、掃除も洗濯も。

教本.....参考書の一文について教えてもらうことまで、私にとって初めてだったんだ。』

 

少なくとも、()()()学生生活は。

アズサにとって楽しいものであったのだ。

 

初めて知ることばかり。

そう、言ってしまうとゲームの「初見殺し」のような。

「あっ」と思わせることの連続。

 

彼女が心奪われた事は、想像にかたくない。

 

「───うん。そうだ。

私は楽しい時間を手放せなかった。

 

まだまだ知りたいことが沢山ある。

海とかお祭りとか遊園地とか、みんなと行きたいところも沢山、皆と知りたいことも沢山ある。」

 

アリウスから出てきたアズサは雛子だった。

歩き方も飛び方も知らない。

それが親元を離れ、1人前の鳥として、いま羽ばたいている。

 

「アズサ...?」

 

アズサはコハルへ向き直った。

 

「コハル。

私が暮らしていたアリウスは「誰かを殺す方法を学ぶことが当たり前」だった。

想像できる?」

 

問われる本人は顔を真っ青にするものの、直ぐに首を横へ振った。

 

「そ、そんなのわかるわけないじゃん!

でもそれって「悲しい事」でしょ!」

 

そう、きっと「トリニティ」と「アリウス」の普通は違う。

マコ達の求める「普通」と、ヒフミの求める「普通」が違うように。

 

「───安心した。

それがおそらく「普通」なんだ。

私は、その皆にとっての「普通」、私にとって「普通になりつつある」物を守りたい。

 

()()()()()()()()。」

 

 

 

「......そうですか。

ごめんなさい、分かったような口調で話して。

 

でも、わかる気がするんです、その気持ち。

 

何せ───はい、同じように思った人が、いたんですから。」

 

「....?ハナコ?」

「ハナコちゃん?」

 

浦和はアズサに謝った。

だが、それは言葉を取りけす、では、なく。

むしろ寄り添ったもの。

 

()()()()()()

 

「その人は、何故か要領が良くて、何をしても周りからおだてられてしまうようなタイプで。

本当は()()()()()「その人」ではありませんでした。

 

周りは「その人」の良い所、使()()()()()()ばかりを見て。

裏で何かを画策している人ばかり。

 

その人にとってトリニティ総合学園とは、

嘘と偽りで飾り立てられた、欺瞞に満ちた空間でした。

 

誰にも本心を話す事ができず、誰にも本当の姿を見せることができないまま....。

 

だからその人にとって全てのことは無意味で

学校を辞めようとしていたんです。

何せそのままの生活を続けることは監獄にいる事と同義でしたから。

 

だから、()()()()()()()()()()と周りに思わせることで、消えようとした。」

 

「......ハナコちゃん...。」

「なるほど....だから。」

 

浦和の行動の真意。

それを理解したヒフミとワカモ。

彼女達は何を思うのだろう。

 

それは俺には分からない。

だけれど、信じることはできる。

 

ヒフミもワカモもアズサのことが好きで、信じているはずだ、と。

 

「けれど、たった一つ。

たった一つの点で()()はアズサちゃんと違いました。

()()()()と。

ずっとアズサちゃんは抗っていました。

 

たとえその先に待つことが、全て()()()になったとしても。」

 

「.....え?どういうこと?ハナコ。」

 

「───。」

 

首を傾げるコハルとヒフミ。

理解したのだろうワカモ。

 

「....話は変わりますが、今回の件が終わったら、アズサちゃんのこの学園での生活は終わってしまいます。

 

書類は偽造し、トリニティ生ではない。

その上アリウスを裏切るのですからそこに居場所はない。

アズサちゃんは1人、キヴォトスを彷徨うことになるでしょう。」

 

「あっ ...。」

 

言いたいことを理解した皆の視線は再びアズサに降り注ぐ。

居場所がない。

 

それがどんなことかわかってか、わからいでか。

 

「それを知っていた筈なのに。

アズサちゃんは補習授業部でいつも一生懸命でした。

 

「その人」は試験をわざと落第して。

知らずの内に「自分の居場所」や「素敵なお友達」である皆さんを巻き込んで学園から逃げようとしていたのに。

 

アズサちゃんは短い学園生活に全力でしたね。

Vanitas Vanitatum(全ては虚しいもの)の筈なのにも関わらず。

けれど、アズサちゃんはいつもその言葉を呟くと同時に一文付け足していましたね。

 

「たとえ虚しかったとしても抗わない理由にはならない」と。

 

そして、とある人は言っていました。

 

「誰かを理解するための努力を、怠ってはいけない」と。

 

そうしてその人も気づいたのです。

 

「自分はただ楽しい学園生活を諦めていたんだな」と。

 

手に入るわけがないと思っていたものはいつの間にか手の内に。

だから、その人はわがままになってしまった。

本当にしたいことが見えなくなってしまった。

 

欲しかったものを手放そうとして周りを巻き込んで。

 

ですが、アズサちゃんの言う通り。

諦めてはいけません。

今からでも、取り戻せます。

 

いいえここから作るんです。

私たちだけの青春の日々(ブルーアーカイブ)を。

ですよね?衛宮先生♡」

 

ずっと、生徒達に教えてきたことが一つあった。

「諦めてはいけない」と。

 

 

「......そうだな。

まだ、間に合う。

 

止めよう、俺たちで。

ナギサを、アズサの家族から。

 

そして、試験を受けて合格し、この裏舞台から俺達は去る。」

 

「決まり、ですね。

士郎さんのしたいように。

 

私はそれについて行く迄です。」

 

 

「ええ、これまで様々な嘘と策略の中で弄ばれてきましたがそれもおしまい。

 

今度は私たちの方から仕掛ける番です。

 

何せ今ここには正義実現委員会のメンバー(コハルちゃん)と、

 

ゲリラ戦の達人(アズサちゃん)と、

 

ティーパーティーの偏愛を受ける(ヒフミちゃん)自称平凡な人と、

 

「災厄の狐」として恐れられる(ワカモちゃん)七囚人の1人と

 

 

トリニティのほぼ全てに精通した()がいます。」

 

「....?」

 

「へ、偏愛?」

 

「その上、ちょっとしたマスターキーのような「シャーレ」の衛宮先生までいるんですから。

 

この組み合わせ(面子)ならきっと。

トリニティなんて数時間で転覆させられますよ♡」

 

言っていることは物騒だが。

浦和と────ハナコとようやく意見が合致した。

 

「あぁ。

全て終わらせて、皆でナギサに抗議しに行こう。

多分1年間くらいスイーツなら出してくれるだろ。

 

で皆でお茶会して、誤解を解いてまた明日だ。」

 

「な、何が何だかわからないけど!

やるのね!」

 

「だ.....大丈夫でしょうか?」

 

不安そうな皆をよそにやる気いっぱいな浦和。

 

「さあ、今こそ皆さんの力を合わせる時です!」

アズサとの絆エピソードの前半はとある理由で士郎を怒ったアズサが士郎をガンショップに連れていく話です。(今のところ)さて、士郎はどんな銃を買うでしょう。

  • 回転式拳銃(リボルバー)(一丁)
  • 自動式拳銃(オートマチック)(二丁)
  • サブマシンガン(一丁)
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