衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
これは件のイベント、「ドタバタシスターと古書館の魔術師」の冒頭でした。
うん、ミカに対する作者としての愛情が隠しきれず話が長引いてしまいました。
これまでの他の生徒の絆ストーリーにもちょこちょこ出してきた癖に、まだ足りねぇのかこのバカは。
しかも、かなり重要な話を組み込んでしまい消すに消せなくなりそのままイベント本編と切り離して単独のストーリーに移行しました。
ストーリーラインはこのままドタバタシスターイベントに入る形になります。
ほぼ序章と言っていい流れ
【#Prologue】TRINITY Mika's Interlude 1「忘れ物と忘れた
「シャーレでの暮らしはどうだ?ミカ。」
ある日、気まぐれにミカに質問してみた。
「ん?悪くないよ?
ただ、たまにゲヘナの子と顔を合わせるのは嫌だけど。」
「お前、口開けばそれだもんな....。
なんでなんだよ。」
「うーん.....生理的嫌悪感?
こうね、角とか目とか、顔を見ると背筋が.....うーんと。
こんな感じ?」
途中で言葉を止めたミカは席を立ち俺の後ろに回り込む。
そうして、書類にサインをしている俺の背中を、指先でスーッとなぞった。
驚いて反射的に万年筆を落としてしまった。
「お、おい、何すんだ!」
「あはは!いい反応!
でもこんな感じだよ?
悪寒が走るって言うか。
うーんと、自分じゃどうしようも無い、みたいな。」
「....まぁ、嫌いなものは誰にでもあるよな。
俺もダメなものは幾つかある。
ただ、それを表に出しすぎなのは良くないんだよ。
今まさに「あ、代表がそうなら私達もそうしなきゃ」みたいな側面があってこんなことになってるかもしれないだろ?」
「うーん....どうなんだろうね?
私がゲヘナと和解の道にいけば皆その方向に向かって歩きだす訳じゃないと思うし...最悪私だけ社会的に抹殺するかもしれないよ?」
「お前の周り敵しか居ないのかよ....。
話が通じる味方だって、いるだろ、数人くらいは。」
なんのたわいもない、ミカとの世間話。
その最中に、デスク上の端末が鳴った。
しかもDivi:sion systemが勝手に「通話ボタン」と「スピーカー」のアイコンを押す始末。
......待て待て、なんだよ、お前。
そして、聞こえてきたのは聞き覚えある声。
『もしもし....ええと ....シャーレの衛宮士郎先生のお電話でよろしいでしょうか?』
ちょっと待ってろ、とミカを押しのけて応答する。
「えー?」なんて頬を膨らませ、自分の席に戻った。
「あぁ、俺だよ。
えっと....確かこの前病院に迎えに来てくれた....若葉、だっけ?」
『はい、覚えていて下さりありがとうございます。』
席を立ち、スーツのジャケットを羽織る。
まぁ電話で解決できる問題でも無いだろう。
「で、今日はどうしたんだ?
わざわざ俺にに直接電話をかけてくるんだから。」
『はい......実は─────』
「古代の経典が発掘されて、その発表式をする。
で、お前はその経典の一時的な管理者で、サクラコが俺にも式へ参加するように.....。」
『はい、ですからトリニティまでお越し頂けると...。
それと段取りの説明もあるとかで、こちらに宿泊することになってしまいそうですが....ご都合は大丈夫でしょうか?』
なるほど。
列記とした式典で、俺にも見届け人をしろってことか。
まぁ、明日っていうのがちょっと連絡が遅すぎると思うが。
「了解した、断るほど忙しい訳じゃないからな。」
まぁ、それは嘘なんだが。
やることは沢山あるとはいえ、居るべき式典に出ないわけにもいかないし。
「てなわけで、また俺はトリニティに出かけてくるから───」
「ねぇ衛宮先生、働きすぎじゃない?」
ミカに一言断って出かけようとして、訝しむような質問が飛んでくる。
いや、俺は「シャーレ」の先生なわけだし。
あちこち出向かなきないけないわけで。
「昨日だって、「アビドスに行ってくるから。」
一昨日は「ちょっとゲヘナに」
.....しかも護衛もつけずにひとりで。
理解してる?
シャーレの先生だからこそ、無理や無茶はダメだっていうこと。
それこそ昔、アビドスとかゲヘナやブラックマーケットで人質になっちゃったって聞いたし。
衛宮先生は地位と名声、どっちも持ってる。
今先生が不良の生徒に捕まって身代金なんて要求されたら目も当てられないよ?」
「お、おう。」
なんだろう。
これまでミカを叱ることはあったが、その逆───ミカに叱られた事など一度もなかった。
しかも、叱り方がホシノとセイアを足して半分にしたようだ。
初めて会った時もそうだ。
ミカは逐一「生徒を信じることの意味」「疑うことの意味。」「情報のない事の無力さ」、それを俺に教えてくれた。
「───って言っても護衛なんて、なぁ。」
付けたらつけたで、近寄り難い印象になってしまう。
それに今は懐にこいつだって忍ばせてる。
しかしここ最近は
確かに命の危機に陥ったことはあるが、銃社会のキヴォトスでは多少は仕方ないことではある。
ただ、あれから俺は「シッテムの箱」を肌身離さず持ち歩いているし。
「なんだって皆そんなに心配するんだよ。」
「うーん ...まぁ以前にも似たような事言われてるよね?
余計なお世話だったかな。
でも衛宮先生ってなんだかほっとけないっていうか。
気づいたら死んじゃってるというか ....。」
「.......。」
まぁ反論できないのは自分が自覚しているのもあるのだが。
それはどちらかと言うと、ミカの方だろう。
いつか、自身が誰かを傷つけた記憶を思い出した時。
彼女はそれから目を逸らさずに受け入れられるのだろうか。
稀に、ミカは窓の外を眺めながら黄昏れる事がある。
そんな彼女を置いて出かける度にいつも思う。
帰ってきた時にはその姿はなく、忽然と姿を消しているのではないか、と。
分かっている、それは焦りや不安に影響されただけの悪い想像だと。
あれからアリウスの情報だって、探ってはいるものの全く進歩もない。
だから、そんな事ばかり考えてしまう。
しかし、当の本人にはそんな俺の想像なんて
「あー....もういっそ、私もトリニティやめてシャーレの子になっちゃおうかな?
私も藤河組の子達みたいに「悪い子」みたいだし。
そうすれば私が衛宮先生の事も守れるし。
ねっ、どうかな?」
「───────」
冗談だと分かっている。
本人だってそれが叶うとは思ってないだろう。
頭が沸騰しそうになったのを、溜息を吐いて冷やす。
「あのな、お前とアイツらは違うんだ。
ミカにはまだ戻るところがあるだろうけどアイツらにはない。
今の
「えー....それ贔屓じゃない?
なんで私はダメなの?
あの「災厄の狐」もシャーレにいるんでしょ?
一度も見かけた事ないけど。」
......そうか。
ワカモの奴、何が原因で記憶が戻るか分からないミカに配慮して顔を出さないようにしてるのか?
少なくともその結果
だが、それは行き過ぎた心配だ。
そうであれば、俺の顔なんてしょっちゅう見てるんだから。
「何がなんでも。
お前、自分が三大分派、パテルのリーダーってこと忘れてないか?
曲がりなりにも1人の生徒会長なんだから、間違っても外で「トリニティ辞めたいー」なんて言うなよ?
ナギサを見習ってもう少しだな────」
「あーーあー!!!聞こえないなぁ!
はぁ.....せっかく面白いこと考えたのに。
分かったよ、先生。
じゃあ、これ御守り。」
そう言って、ミカが渡してきたのは単発装填式の見慣れた銃。
"トリガーアクセル"───マコの銃だった。
「お前これ何処で....。」
外見上の損傷などは全くない。
大事に保管されていた事が伺える。
装填部には1発だけ、銃弾が込められていた。
「うーん....何処でだったか、誰のだったか分からないけど持ってたんだ。
でも私にはこれがあるし、充分かなぁ、って。」
ナギサに取り上げられたマコの銃。
帰ってきたのは彼女のヘルメットだけだった。
本人に聞いても「分からない」と言っていたそれは、ミカが持っていたのだ。
しかし彼女の個人邸宅は全焼した。
であれば、まさか。
操られ、俺と戦闘している際も所持していたことになる。
何故かそれはあの時の戦闘では使われなかった。
単純に一発だけでは意味がないから、ミカを操っていた奴が戦力外としたのか。
それともそれがミカの最後の抵抗だったのか。
それを知る術は、今はまだない。
「それ、ずっと持ってたのか?」
「うん、そうだよ。
ずっと持ち主を探してたような気もするんだけど、もう顔も名前もわかんない。
もしかして知り合い?なら気兼ねなく衛宮先生に預けるね。」
「.......。
そうか。」
ナギサの後輩から聞いた話ではミカがマコを助けたのは事実らしい。
ティーパーティー10人以上に対して、彼女はたった一人でマコの背後を守った。
本当にそれは、俺を陥れる為の計画の一部だったのか。
───そうなのかもしれない。
現に今彼女の記憶に「藤河マコ」という生徒の名前は無くなっているだろう。
けれど今言った「ずっと持ち主を探していた」。
それは聞きようによっては、俺の願いを、全うしようとしていた事にもなる。
ミカにとって、マコは何だったのかは分からない。
だから、俺にとってのマコがどういう奴だったのか、伝えなければ。
「コイツの持ち主は。
まぁ、なんというか手間のかかる.....いや、手間の
キヴォトスに来てから殆どそいつとずっと居て。
最初はマトモにレポート書けなかったり、勝手に非合法組織に喧嘩ふっかけたり、お前の言う「災厄の狐」同様、手のつけようがない奴だったんだけどさ。
それでも、後輩達を殆ど一人で面倒見てた苦労人で。
一生懸命、失敗しながら料理や仕事を覚えて。
銃とかヘルメットの整備して、煤だらけになりながら笑ってるところ見ると、俺も自然に頬が緩んでた。
あいつは────俺にとっての家族
「そっか。
ふーん、
私達、邪魔物じゃん。
だから皆私達を見る目が嫌な視線だったんだ。
納得。」
そろそろ出ようと、「シッテムの箱」の入ったカバンを片手で背負う。
流石のミカもその雰囲気は読んだのか、呼びかけは一言だけだった。
「ねぇ衛宮先生、私その子と仲良くできるかな?」
その言葉に自信を持って答えた。
特に、そう答えた理由は、なかった。
「当たり前だ、2人とも気が合うと思うぞ。」
ただ、そうであって欲しいと、相も変わらず願ったのだ。
「そっか、じゃあ頑張って仲良くしてみるね!」
そう言って手を振るミカに、少しだけ希望が見えたような気がする。