衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
この感じだとこのイベントのストーリーは5~6話構成になりそうですね。
では、よろしくお願いします。
#/1-1.その経典、危険につき───
トリニティの大聖堂に向かえば俺を待っていたのか、若葉がポツンと立っていた。
扉の開く音に気づいたのかこちらを振り替えり、歩み寄ってきては丁寧なお辞儀をした。
「突然のお願いになってしまったにも関わらず、ようこそお越しくださいました!先生。」
「おう、若葉、出迎えご苦労さん。
で、早速話を聞きたいんだけど、サクラコは?」
辺りを見回してもサクラコは見当たらない。
ついでにいつも呼んでないのに居る言峰も見当たらない。
まぁ、なんだかんだ言ってあいつも神父なわけだし、忙しいと思っておこう。
「いえ、サクラコ様は式典でお忙しく....
とりあえずこちらへ。」
そう言って招かれた小部屋に入ると古びた木箱が教卓の上に置かれていた。
「これが例の「経典」か?」
「はい、仰る通りこれは先日トリニティの発掘区域にて発見された「経典」です。
歴史的にもかなり重要な経典のようでして、これによって過去の公会議の宣布内容の新たな解釈ができるとかできないとか.....」
「まぁ、ポンと新しく過去の歴史の情報が発見されたようなもんだしな、色々覆ってもおかしくないだろ。
────と考えるとだ。
これ思ったより
恐らくシスターフッドのリーダーが忙しい事態に入ってるということはもうそれはトリニティ総合学園全体に影響が出る問題だろう。
「はい、トリニティ総合学園にとっても凄く良いお知らせ....と言っても過言ではありません。
式典ではサクラコ様が、その経典の前半部分を朗読されることになってまして.....。
古代語はシスターフッドでも話せる人は少なくて、私もあまり詳しくはないのですが....。
サクラコ様の古代語は発音がとっても綺麗で、すっごく美しいんですよ....!」
古代語....外国語みたいなもんか。
そう言えば俺は発音悪いって藤姉に注意されたっけか。
キヴォトス、特にトリニティにおける古代語はこちらで言うところのラテン語に近いもののようだ。
ちなみに俺もラテン語は、当然専門外。
ちんぷんかんぷんだ。
「式典もトリニティの離れにある古い聖堂で行うことになっておりまして、理由はちょっと分かりませんが...
「で若葉も何かするのか?」
そう聞くと本人は大層嬉しそうに笑みを浮かべる。
「私は式典までの間、この経典の管理と聖堂までの運搬を任されました。」
そうしてその視線は木箱に移り、彼女は箱を開いて経典を取り出した。
皮が素材として使われていそうな表紙は所々にヒビが入っており、ページをまとめる為の紐も黒く、元の色が黒なのでなければかなり変色していることになる。
「うわ .....本当に相当古そうだな。
無茶苦茶埃被ってるし。」
「あら...本当ですね。」
(サッサッ....)
指摘をすると、若葉は手で軽く経典を
それにしても、おかしい。
なんで箱に入っている物の表面が埃を被っているのか。
(バサバサ....ッ!)
どうして考えが及ばなかったのか。
どのような環境に置かれていたのかしらないが、古いものは慎重に扱わせるべきだったと、今更思う。
「あ....あ.ぁぁ ...待って!」
目をグルグルと回す。
本当に軽く表面を払っただけなのだが。
若葉ヒナタの平常心が目の前で壊れて行くと共に、古代の経典をまとめる紐は崩れ、中身はバラバラと撒き散った。
「ま、まだ止め糸が切れてしまっただけなはず。
重ねて───」
崩れた経典をまとめようと手を伸ばす若葉。
だが、そのまま触れては二の舞を踏むことになる。
考えている暇もなく、若葉の腕を掴んで止めさせた。
「待て若葉。」
「え?どうしてですか!?
元に直さなくては.....。」
「お前、古代語読めないんだろ?
なら撒き散ったページをどうやって順番整えるんだよ。
それに、糸が切れたってなら中身の方も劣化してるはずだ。」
「は。はぁ....そ、そうなんですかね...?」
慌てふためいているものの、どうにかその手を収めてくれた。
文字の書かれていないそれは
「
魔力を流し、そのページの素材や経過年数を読み取る。
俺の予想が正しければこの経典は恐らく────
(ピシッ....バラバラッ──!)
極小量の魔力にすら耐えられず、「紙」を織り成す骨子が崩れていく、
その1枚は粉々に砕けた。
「え、衛宮先生!?」
「悪い、比較的崩れても大丈夫なページを選んだ。」
しかし、古すぎる。
木刀はおろか
構造のその物がボロボロの為強化所か、「骨子」に手を加えることすらできやしない。
「作られてからもう数万年とか数千年単位で時間が経ってるぞこいつ。」
巻き込まないように空気の流れを作らず、ゆっくりと後退しながら告げた。
この分では一見無事なように見える分厚い表紙も、大分腐食してるだろう。
発掘された時点ではまだ空気に触れてなかったのだろうか。
もしくは急激な保管状況の変化で傷んだ可能性もある。
「こ、この経典はどうしたら.....?」
「一旦放置だ。迂闊に触ったら跡形もなく崩れるぞ。」
それこそ微粒子レベルの塵になって消えてしまう可能性すらある。
年月というのはそれ程までに自然に対して残酷な迄に忠実だ。
「雨垂れ石を穿つ」という言葉さえ、生み出されるほどに。
劣化とも言えるが、これは経典そのものが「風化」したといえるだろう。
「────ど、どうしましょう!?
えっと....サクラコ様に御説明を......。」
「──────。」
幾らなんでも流れが雑すぎる。
こういうのは専門家に一度状況を調べさせてから防腐加工をして現物を保管するだろうに。
───どうやらこれはあまり他人に見せたくない物らしい。
秘密主義のシスターフッドらしいといえばらしいが。
動かすことすらままならないのでは.....。
となれば、ミレニアムに────いや、それではあまりにも時間がかかりすぎる。
それにこれらの修復作業は機械ではまず不可能、人の手で行わなければならない慎重かつ技術が必要だ。
「俺はこの手の事に詳しい知り合いはまだキヴォトスにはいないんだ。
ここらなら....トリニティで、本に詳しい───
確か図書委員会ってのがあったはずだ。
藁にも縋る、だけど。
サクラコに事情だけ説明して、俺たちはこの経典の修復に奔走しよう。」
「わ、わかりました!」
そう言って、モモトークでメッセージを送る。
経典本体が劣化してて触れられない状況にあること。
状況によっては記念式典の予定を変更しなければならないという事。
結論としていえば専門家でもない俺の観察眼でも保全の為の加工が必要であるということ。
そして、破れてしまったページに関しても、修復が必要であるということくらいだ。
俺たちは図書委員会を尋ねるため、部屋の扉に「立ち入り禁止」の貼り紙をして、その場を後にした。
#/1-2.初めまして、図書委員。
「こんにちは。
文字通りの館レベルの本の貯蔵量を有するトリニティ中央図書館の扉を開いて、やや焦りが垣間見える若葉が元気よく挨拶をした。
「こんにちは、な、なにか御用でしょうか?」
「よかった、
俺達を出迎えたのはオレンジ色の髪にハーフリムのメガネを掛けた忙しそうに本を運んでいる少女。
両手で抱える積み上げられた本の高さは優に少女自身の身長の三分の一にもなる。
そのせいか、こちらを認識できておらず、声だけで反応した。
この状態で頼み事はおろか、挨拶するなんてとんでもない、
俺はとりあえずその半分を持ち上げる。
「手伝うよ、忙しいんだろ?
何処に戻すんだ?」
「えっ?ですが...これは────」
「頼み事───いや、相談事の前払いだと思ってくれ。
ちょっと緊急で図書委員と話がしたいんだ。
そんな状態じゃ、話すのなんて難しいだろ?」
「そ、そういう事でしたら....。」
「わ、私もお手伝い致します。
こう見えて重たいものを持つことに関しては自信があるので...!」
こうして図書委員の生徒と三人で棚に本を戻していった。
「ありがとうございました。
今日一日かかると思っていたのですが、まさか30分足らずで済んでしまうなんて.....。」
図書委員の生徒はぺこぺこと頭をさげる。
それに対してバツが悪そうに、苦笑いして若葉が対応した。
「いえ...!私なんて貴女のお手間を増やしてしまっだけで....
本棚は倒しそうになりましたし...。
場所がわからずにあちこち歩き回ってしまって....。
それに比べたら凄いです、衛宮先生。
こんな広い図書館であれほど手際よく本を戻せるなんて.....。」
「私もそう思いました。
私は配置を覚えているので慣れていますけど、殆ど同じ速度で戻せていたので驚きました。」
「いや、配置を
まぁ昔の呪刻探しの方が簡単だったけど。
それに結局は俺も若葉と同じで.....ええと....。
お前の判断に最後は委ねていたわけだし。」
名前が、分からない。
初めて見るのもそうだが、キヴォトスの生徒名簿は生徒会長などの重要役職以外の生徒の名前は名簿で覚えるのは諦めていたから。
というか何億人?いや兆人か?
人間の脳みそで覚えられるわけがない!
「あ、失礼しました。
私は円堂シミコと申します。」
「シスターフッドの若葉ヒナタと申します。」
「やはりヒナタさんはシスターフッドの方でしたか。」
これまた丁寧に2人共挨拶している。
さて、どうしよう。
この流れ、自分の所属を言わなきゃいけない流れなんだが....。
自業自得ではあるものの、ここまで仲良くしておきながら、「シャーレ」と名乗った結果、友好関係を築けないなんていうのは────
「こちらは「シャーレ」の衛宮士郎先生です。」
「あ....貴方が「先生」なんですね。
手伝って頂きありがとうございました、衛宮先生。」
若葉が丸々紹介しやがった.....。
まぁ、今回は幸を奏したようだ。
「まぁ、俺達にも用事があったしな、イーブンだ。
で、早速で悪いんだが──── 」
俺達は席につき、ここまでの経緯を説明し、経典の状況を携帯で撮った写真で見せた。
「.......なるほど、衛宮先生から見たら危なすぎて触れない、と。
........。
それには同意見です。
一目見て、これは私の手に負える案件でないことは分かります。
私も司書の1人として、ある程度の本であれば「壊れた本の修復」なども行えるのですが。
あくまでそれは「普通の本」のレベルと言いますか ...。」
「....そうか。
流石にそんなすぐ直し手が見つかるわけないもんな。」
隣に座る若葉の顔は青ざめ始めている。
それもそうだろう。
大事な物品の管理を任されたのにも関わらず、それを損壊させてしまった。
しかも「大事」というのもトリニティ総合学園という規模。
下手をすれば石を投げられるのは若葉だけでは済まない。
「......このまま明日の式典に間に合わないと、サクラコ───いや、シスターフッドがトリニティから排斥される可能性まで考慮しないと....。」
「ど、どうしてでしょう、管理責任は私にあるのに....?」
「いや、最悪の場合ってだけなんだけど。
ほら、この前の騒動で今シスターフッドがティーパーティーの補助に回ってるだろ?
その上、トリニティ総合学園全体で共有するべき知識の公表を先延ばしにする。
事情を知らない生徒からしたらそれは「ティーパーティー入りした事でシスターフッドが大きな顔をして、自分達に与えられるはずの知識を独占し始めた」っていう見方もあるかもしれない。
あくまで、本当に「最悪の場合」の話だが。
それを前提に動くことに越したことは無い」
懸念材料は盛りだくさん。
中華鍋にすら入り切らないだろう。
延期するにしたって、本当に最短のスケジュールを組まなければ。
それくらい、今のトリニティのバランスは危ういのだ。
そう考えると今のこの状況、ナギサや浦和にも共有しておかなければならない。
「なるほど....大局で物事をみれば、そのようにも考えられますね....。
依頼で必要なのは二点。
まず、古書の修繕に、管理に詳しく復元する技術を持っていること。
そして、破れたページや文字が掠れたページを「復元」する為に必要な「古代語」への理解、もっと簡単に言えば「古代語を習得している」こと。
「修復」が傷口に絆創膏を塗るものだと思ってください。
ですが、この本は治療だけでは足りません。
簡単に言えば本に対する「
円堂の言っていることは理解できる。
それだけのスペックを揃えた人物をこのトリニティで探し出すのは至難の技だ。
「────衛宮先生、それにヒナタさん。
落ち着いて聞いてください。
私に、そのような人物の心当たりがあります。」
────なんと。
これまた都合のいいことに、そんな人物が円堂の身近にいると言うのだから驚きだ。
「本当ですか!?」
図書館なんていう静けさで満ちた空間に、若葉の声が木霊する。
不幸中の幸いか。
悲しいかな、ネット社会になり図書館にいる生徒も見かけない。
それでも円堂の目尻はキツイものになった。
「.....ヒナタさん、図書館ではお静かに。」
「すみません......。」
「いえ、分かって頂ければ。
さて、話を戻しましょう。
居るには居るんです、というか図書委員の生徒なのですが。
何と言いますか、やや頼みにくい方ではありますが....。
古書をこの上なく知り尽くし、誰よりもこの種の作業の経験を積み、ありとあらゆる語学に精通し、そして、もう数週間も顔を見てない方が。」
「....?」
なんか、最後の言い方。
まるで行方不明者の事のように言ってないか?
「凄い方なのは確かです。
何せトリニティでは「古書館の魔術師」と呼ばれるくらいですから。」
「魔術師だって!?───あ....悪い。」
つい、反応してしまった。
それに対して円堂は溜息を吐いて俺の失態を水に流した。
それはさておき、まさか俺と言峰以外に魔術師がいるなんて、聞いてないぞ?!
「シャーレの先生が文字通りの「魔術師」だとは聞いていますけれど。
彼女は実際に魔法を使う訳ではありません。
ですが、その技量や問題解決の
「───そっか、悪い。
つい勘違いしちまった。」
そうだろうとも。
まぁ本当に魔術師だった場合、最悪敵対することすら視野に入れなければならない。
魔術師の縄張りとは得てしてそういうものだ。
お互いに一子相伝とも言える魔術を秘匿する者同士だが接近すれば最悪殺し合いになる。
そんな凝り固まった思想の「魔術師の生徒」はいて欲しくない。
「ですが.....うーん。
ちょっと人見知りと言いますか、他者への警戒が強いと言いますか、太陽嫌いと言いますか。
基本的に古書館に引きこもっていて、ほぼほぼ外に出ない生徒でして。」
「正直言って、どんな相手だって構わない。
見返りが欲しいって言うなら俺にできる全力を尽くすし。
靴を舐めて這いつくばれって言うならやったって構わない。
それでトリニティが平穏無事であるのなら。」
「衛宮先生.....。
私にも出来うる限りの事をさせてください...!」
目を潤ませる若葉。
付き合いは短いが若葉は優しく、他人思いの良い子だ。
しかしそれ故に責任感が強く、全部抱え込んでしまう。
円堂も若葉の態度に心打たれたのか、断腸の思いで答えてくれた。
「そこまでの覚悟が....。
分かりました、お教えします。
その方は私と同じ「図書委員会」所属。
そして、そのトップ....
#/1-3.
さて、現状をナギサや浦和へメッセージで伝えつつ、その場所に向かった。
歩いて数分の距離にその図書委員長が立て篭り.....もとい居着いているという古書館は存在した。
そして首からぶら下がった、それぞれ1つずつの入館証。
円堂曰くこれは俺たちが古書館へ入るための文字通り「許可証」だ。
これを持っていれば最低限敵対はされないとか、なんとか。
まるで脅されているような気分で、古書館の扉をノックした。
一回目、反応がない。
二回目、反応がない。
「おーい、誰かいないのか?」
魔力を通してみると、ドアは施錠されていなかった。
「あれ?開いてます、ね.....?
これは入っても良いのでしょうか?」
「入館証は貰ってるんだ....流石に誰かも確認せずに引き金を引くようなやつじゃないだろ。」
扉を開いて中へ進むと、そこは本があるとは思えないほどの暗がり。
ただ灯りが付いていないと言うだけではない。
言うなれば倉庫のような、使われなくなった古いものが寄せ集められた場所。
されど、俺の家の土蔵ほど冷たい場所ではない。
むしろ人の手が入った、暖かい空間。
暗さに目も慣れてくると、奥の方で何かが動いた。
「....ひぃっ..!?
なんで、ここに。
だ、誰ですか!?この"子達"を奪いに来た泥棒ですか!?」
本を物ではなくまるで人のような呼び方をする。
間違いない、彼女が件の人物だ。
「いえ、違います。
決して怪しい者ではありません。
入館証もシミコさんから頂いて....こちらに図書委員会の委員長がいらっしゃると聞いて.....!」
闇に若葉の声が響くものの、その後は返答なし、静まり返る古書館内。
本当に警戒心が強いらしい。
「あの────」
「待つんだ、若葉。
こういうのは我慢勝負だ。
ここは任せてくれないか?」
「わ、わかりました。
先生がそう仰るのなら....。」
問を投げようとした若葉をまた止めた。
彼女だって、1歩も動かない訳ではないだろう。
人である以上、飯だって食うし水だって飲むだろう。
そしてここは「古書館」。
つまり飲食厳禁だ。
ならいつかは彼女もこちらの存在が疎くなるに違いない。
それに詰め寄ってこちらの要求を立て続けに述べても効果は薄いだろう。
であるのなら、これは待ちが正解だ。
そうして案の定、遅れてその声が返ってきた。
「ど、どうして図書委員長を探しているんですか......?」
来た。
どう答えるのがベストか。
「お前に────」
薄らと見える壁棚の本。
それは遠くからでも、暗くとも、ちゃんと隅々まで手入れがなされた「古いけれど決して汚くは無い」本達。
俺にはわかる。
これは心のこもった本の扱いができる奴だ。
俺にとっての意志を持つ「剣」達が、この古関ウイにとっての、「本」なのだ。
この、古書館は彼女の有り様をそのまま表している。
だから、ただ俺の思ったままに、言葉を紡げばいい。
「お前に、
「────!!
そ、それは.....私は救護騎士団ではありませんが....人は治せません.....ですが────」
その言葉の区切りで、古書館の灯りがついた。
「........それが....本の事であれば...。」
ようやく視認できた。
アリスとまではいかないものの、長く伸ばされた黒髪。
それは手入れが行き届いているとはいえない。
前髪も長いが、それはカチューシャのような布で抑えられ、左右に分かたれている。
そして、制服の上に網製のセーターを着ている。
彼女がこそが、
「ああ、お前の言う通りだ。」
「
どちら様でしょう....?
片方はシスターフッドのようですが....。」
「あ、紹介が遅れてごめんなさい。
仰る通り、私はシスターフッド所属のヒナタと申します。
そして、こちらは「シャーレ」の先生です。」
ようやく出番が来たと言わんばかりに若葉が俺のことも含めて紹介した。
.....なぁ、どこに所属してるとか、そんなに重要か?
「シャーレの「先生」.....?
.......なるほど、先生でしたか.....。」
「初めましてだな、
俺は衛宮士郎だ。」
右手を伸ばし、握手を求めると、恐る恐るではあるものの、彼女の冷たく、また細い指が俺の手を握った。
「こ、こんにちは.....。
えっと ...私はお察しの通り
「あぁ、聞いてるよ。
「古書館の魔術師」、なんだってな。」
やや茶化すように聞くと、本人は不本意そうに入館証を見つめる。
「うう....誰が....とは思いましたが。
その入館証、シミコか.....また変なことを....。
....失礼しました。
その....先生と話すのが嫌、という訳ではなくて...むしろ....」
「そうか、それは俺としても良かった。」
俺の返答を聞いてホッと胸を撫で下ろす古関。
しかし───
「ただ....」
その視線が隣の若葉へ移る。
本人はなんの事かわからず、キョトンとしている。
実際、若葉の声量は大きかった。
「そちらのシスターは.....まぁ、アレですが...。」
「「アレ」!?私もしかして、初見で既に嫌われてますか!?」
「それは...まぁ、有り体にいえば....。
ですが外の方は何考えてるかよく分からない者と、何も考えてない者のどちらかなので....」
外、というのは古書館の外、という意味だろう。
が、しかしこの古関ウイという少女、トリニティの本質を良く捉えているとも言える。
つまり、厄介事や嫌な生徒とは関わり合いになりたくないと考えていいかもしれない。
.....ちょっと請け負ってもらえるか心配になってきた。
「......本題に入りましょう。
本の修復、でしたっけ.....何か貴重な本でも?」
「.......あぁ、これなんだ。」
そう言って携帯の写真を見せた。
彼女はみるみると真剣な
「.....これを放置したのはそこのシスターですか?」
「いや、俺の指示だ。」
「......流石、良い判断だと、思います。
下手な人が触るともっと酷いことになりそうですし。
まぁ、現物を見てみないことにはなんとも言えませんが、どうやら余程重要な古書のようですし、表紙の状態からこの
.......古代の経典...。
それも太古の公会議で使われていた代物....。」
目が、マジだ。
鑑定家のそれと同じような。
「大当たり。
いや、写真の解像度荒いのに恐れ入ったよ。
一目見てそこまで分かるんだな。」
「となると、学園レベルでの宝物じゃないですか。
......確かにシミコが私に話を回してきたのも納得しました。」
そう言って彼女は古書館の入口へ歩き出した。
「私を待っている
衛宮先生、案内を、お願いできますか?」
「....あぁ、頼む。」
古関を追いかけ、俺が右、若葉が左と、挟むような形で並んで、大聖堂へ向かった。
#/1-4.コワレモノニ、ゴチュウイヲ
「本当に古代の経典ですね ....。」
大聖堂に何事もなく辿り着き、別談経典保管していた部屋から現物が無くなったなどと言うことも、特になく。
古関が手袋を両手にしっかりはめ、髪まで後ろで結んでゆっくりと経典を回収していた。
最悪なのは、風を入れないよう、窓を締め切っていたこと。
そして、舞い散っていた埃。
「────っ...」
古関の作業を、俺と見守っていた若葉の体はやや後ろに反れ、口があんぐりと開く。
「くしゅんっ!」
そして、その時が来てしまった。
くしゃみは
(ビクゥッ──!)
そして、それに驚いて、見るからに重そうで分厚い表紙を、手元から古い紙束の上に落としてしまった。
────結果
(バラッ.....ザリザリ ....)
「「「あっ.....」」」
その経典は、最早見る影もなく、粉々になった。
恐らく1ページは20切れくらいになっただろう。
表紙を飾っていた皮も完全に崩れ、ボロボロと素材が削げ落ちる。
2つの意味で、終わったと思った。
まず一つは、もう、これは復元不可能なのではないかという思い。
そして、もう1つは......。
「.....え.......。
あ.....あああああああああああ....!?
なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!?!?!?」
自らの手で、大事にしている「本」というカテゴリの命に、終わりを与えてしまった古関ウイの事だ。
「わ、私はなんてこと────
いいいいいいっ!?あわわわわわ────!」
そうして、座り込んだまの彼女は何処から出したのか、はたまた持っていたのかスナイパーライフルに弾丸を装填、ボルトを引いて銃口を自らの口に咥え、引き金に指をかける────
「なっ!?バカ!落ち着け!」
彼女の銃を、蹴っ飛ばした。
「お、落ち着く!?
これを見て「落ち着け」と言ってるんですか!?
無理言わないでください!こんな粉々になってしまったこの
しかもこれをやったのはこの私なんですけど!?
貴方鬼ですか!悪魔ですか!?
大事にしてるものを自ら壊して、裏切って、騙して、何も思うなってことですか!?
どれだけ面の皮が厚かったらそんな事が平然とできるんですかッッ!!!!」
感情任せに暴論を吐く。
しかし、それも仕方の無いことなのだろう。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい────」
もう、ボロボロだ。
古関も、経典も。
いや古関の方が重症だ。
ずっと、涙を止めようと目をこすっている。
そして、その本への愛が本物の証拠として、彼女は自らの涙で、経典を汚さないようにと、後ずさりしていた。
「......あの...」
「若葉、お前が悪いんじゃないってのは分かってるし、古関だってお前を責めるより自分を責めてる。
でも、ちょっと...な。
とりあえず古関は俺が何とかするから。
お前は部屋の外に出ていてくれないか?」
若葉は....本当に暗い顔で「分かりました...」と一言言って、部屋を静かに出ていった。
この部屋には、図書委員長の慟哭だけが響いていた。