衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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体調を崩しました。
今回の前書きはヒフミに関して。

多分この作品のヒフミはVol1のアヤネと同じく「やや脆く」書いてます。
本編ではエデン条約編3章の橋でアズサと別れる前までクヨクヨする事も、自分の無力さに嘆くこともあまりありません。
それと個人的には「友人」と「他人」の境界線がハッキリしすぎているような希ガス。

今作においては例えば、「ブラックマーケットのことは知っていたけれど「そこにいる生徒達がどうしてそうなった」のか、などは深く考えていない」事にしています。
「そういう物」として認識して「思考停止」してきた。
けれど色々な不良生徒と関わっていくことで本当の「裏側」の事情に踏み込んでいく。

私がこの作品でやりたい事のひとつはヒフミに「色んな生徒に手を伸ばして欲しい」のです。
多くを語ると3章のネタバレ、というよりテーマバレするので伏せますが。

とにかくやりたい事があります。


後はスズミですかね.....。
魔法少女イベント、うろ覚えだけど大丈夫かな。
士郎うっかりNGワード言ってたりしないよな?


#3 誰が為の正しさ、優しさ/Be free to follow your heart(Ⅲ)

 

#/3-1.トリニティの走る閃光弾

 

それは、「ミラクル5000」を 古書館へ持ち帰る最中 。

 

「こんにちは、衛宮先生!」

「シロウ....ようやく見つけた。」

 

ヒフミとアズサと出会った。

 

「....?

お前達何してるんだ、こんな所で。」

 

いや、まぁ俺の質問がおかしいのは承知だ。

ここはトリニティなんだから、彼女達がいて当たり前の場所だ。

 

それでもだ。

「ようやく見つけた。」とアズサは言った。

ということは、だ。

何かあって俺を探していたと見るべきだ。

 

「何か用か?

今日のシャーレの活動は無しだぞ。」

 

「そうではなくて....」

「シロウ、護衛もつけずに一人でトリニティへ行ったとミカから聞いた。

今は1人で行動している訳では無いようだけれど。

何をしているんだ.....。」

 

何って....生徒を助けているって言うか、自分で蒔いた種を片付けているというか。

 

「今のトリニティは不安定だということはシロウ、貴方はわかっている筈だ。

パテル分派の寮が炎上してからというもののどことなくピリピリとした雰囲気も感じる。

今だって何処かで────」

 

(ドカァァァン!)

アズサの会話に続くように。

それ見た事かと言わんばかりに。

爆発音が街に響いてきた。

 

「こ、この音は....どこかで戦闘が?」

 

「みろ、若葉。」

 

指を指し示したのは空。

ひとりでに煙が上がっている場所があった。

 

「あの辺には、確か公園が....こちらです。

行きましょう。」

 

ヒフミには心当たりがあったらしい。

ブラックマーケットを難なく走れる彼女の、ホームグラウンド。

トリニティの地図がまだ頭に入ってない俺にとっては有難い話でもある。

 

現場には、30人ほどの不良生徒───いわゆるスケバンに囲まれた生徒が1人。

その姿には見覚えがある。

 

「守月!」

 

「あれ....衛宮先生。奇遇ですねこんな場所で。」

 

その場に駆け寄っていくと、彼女は目の前の不良生徒達に背を向けてこちらに歩いてきた。

 

「.......あ、あれ?

お前、アイツらはいいのか?」

 

緊迫した状況なんじゃ....?

 

「いえ、どうしてか道行く道に彼女達がいるだけで。 」

 

無関心に呟く守月にスケバンは目を見開いて肩を落とした。

 

「ふっざけんなよ!?」

 

「これだけやってその程度の認識かよ!?

舐めてんじゃねぇぞゴラ!」

 

「あたしらはアンタを狙って来てんだよ!」

 

「心当たりは?」

「いえ、全く。」

 

原因を聞いても分からない。

相手が誰だかもわからない。

 

犬のおまわりさんになった気分だ。

 

「くっ....あくまで知らぬ存ぜぬという訳か。

なら悔しいけど、教えてやるよ!

 

お前たちの「自警団」とかいうなんの権利も持たない無責任な行動のせいでな!

そこにいる守月スズミ───「トリニティの走る閃光弾」の真似をする奴が出てきたんだよ!

 

悪いことは....まぁいくらかしてたけどよ!

言い争いしてただけで煙幕弾投げられたりだの、ロープ頭に載せたやつに突撃されたり機関銃ブッパなされたりこちとら散々な目に遭っててな。」

 

どうやら言い分を聞く限り、自警団として活躍する守月の動画がSNSで拡散され、憧れを抱いていた生徒達が守月の真似をし始めた。

結果良くも悪くも個人の「正義執行」をしているらしい。

 

「あいつら本当にしつこいし!

だから、元凶のお前をぶちのめそうって話になったんだよ!正々堂々私達の相手をしやがれ!」

 

いや、正々堂々なら1対1だろうに。

30人で取り囲んで乱暴しようなんて。

 

「そうですか....私は「誰かがすべきこと」をしていただけなのですが...。

ではあなたがたは私と戦えれば満足するのですね。

私はその煙幕弾を投げる生徒やダッシュロープの生徒は知りえませんでしたけれど....

 

それでも決着をつけたいと言うのであれば。

お相手します。スッキリするまでお付き合いしましょう。」

 

「おい、守月...。」

「大丈夫です。

衛宮先生は早くこの場から離れてください....彼女達....?

 

あなたがた、お名前は?」

 

危機感ゼロの守月。

逆にその余裕の立ち振る舞いには確かに惹かれる魅力がある。

 

「あたし達は何度倒れようとも立ち上がる「七転八倒団」だ!」

 

スケバンの1人が自慢げに言うものの。

七転八倒とは「泣きっ面に蜂」の同類の言葉。

 

「それをいうなら七転八倒じゃなくて「七転(ななころ)八起(やお)き」、もしくは「七転八起(しちてんはっき)」じゃないのか?」

 

「「───────」」

 

その言葉に、スケバン生徒が皆、凍りついた。

 

「なぁ、あんた....じゃあ七転八倒って、何度転んでも立ち上がるって意味じゃねぇのか?」

 

「その言葉はなんというか.....「どう足掻いても苦しみ続ける」みたいな悲しい言葉だぞ?」

 

「─────。」

それを聞いたスケバン達が武器を落として崩れ始める。

 

いわく、「もっと早く知っていれば、そんな名前にしなかった。」と。

 

なんという皮肉か。

そのグループ名の意味の通り、彼女たちは擬似自警団によって何度も苦しみ続けてきた。

 

完全に戦意喪失した。

害はないと、守月が再びこちらに歩み寄る。

 

「そういえば、先生はどうしてこちらに?」

 

「いや、爆発の煙が見えたから何があったのかと見に来たんだけど。

 

元々は「水苔膠(みずごけにかわ)」を探しに来たんだ。

こう、古い建物の建材に使われてたらしいんだが、どこかそういう素材()がある場所を知らないか?」

 

「すみません....その素材は寡聞(かぶん)にして知らず....。

ですが古い建材が置いてある場所でしたら幾つか心当たりが。

1度そちらを見に行きませんか?

 

こう、路地裏を封鎖していたり、建物間に古い資材が捨てられていたりなど...。」

 

「そうだな、目の前の光景をどうにかしたら、案内を頼む。」

 

それを聞いた瞬間、守月の足元に集るようにスケバン生徒が集まって、その足を握る。

 

「ひっ!?

な、なんですか!」

 

「ちょっと待ちな....その古い廃材ってのは.....まさか。」

「私達のアジトのことか!?」

「つまり、お前、私達を追い出してアジトを撤去するってことか!?」

「私達が、雨の日も、風の日も....どんな嵐の時だって、皆で肩を寄せあって過ごした....あ゛の゛....うぇェェェェェんっっ!!!」

 

懇願するように、「止めて」と嘆き始める。

そこに居たのは、悪さをする不良学生ではない。

それはあの時のマコ達と同じ。

単に何もかもを失った──いや、持ちえなかった行き場のない女の子達だった。

 

しゃがんで視線の高さを合わせる。

 

「なぁ、話してくれないか。

お前たちの今の境遇。解決できることがあるかもしれないだろう?」

 

「あ、あんた大人だろ?

私達の話なんて....!」

 

聞く耳持たない彼女達。

それを、俺と同じようにヒフミが説得していく。

 

「皆様、こちらにいらっしゃるのは「シャーレ」の衛宮先生です。

色々と私達も問題を抱えていたのですが....衛宮先生のお陰で────」

 

「シャーレって...?」

「あ、私聞いたことある。

問題児を匿って更生させてくれるっていう....。」

 

俺の正体を知るや否や、おもむろに事情を語り出した。

 

 

 

 

#/3-2.それが彼女達の生きる世界

「─────あたしらだだって、カツアゲとか強盗とか何も好き好んで悪いことして生きたい訳じゃないんだよ...。

真っ当な暮らしができたらどんなに助かるか。」

「これでもやる事はやってきたんだよ!」

「大体の面接は書類落ち....でも成績がアレだから寮でなんて生活できないし....

じゃあ高額な家賃が払えるかって言われたらそれだって無理だ。」

「分かるか?普通に暮らすなんて権利、私達にはないんだよ....。」

「あんた達に言ったって無駄かもしれないけどな .....。」

 

「いいよな!お前達は住む場所もやりたいことやれる時間もあってさ!

「正しい」「立派な」生き方ができんだからよ!」

「─────それは....。」

 

感情任せの批判の声と視線が守月に集中し、それに対して守月は目を合わせられていない。

 

これが、俺がマコ達に説いてきた、「根からの「悪者」がいない。」の典型例である。

 

彼女達のしてきたことは正しいとはとても言えない。

だが食うに困り、誰かから奪うことでしか生き残れない彼女達を事情も知りもせず一方的に否定することは、正義と言えるのか。

否、それは間違いだ。

 

では逆に。

その行為が「悪」と言えるのだろうか?

 

それも、否だ。

 

「......。」

 

黙り込んでしまった守月。

 

「まぁ確かに、お前達の言い分はわかったよ。

けど、やってきたことは、方法がそれしか無かったとしても。

どうしようもなかったとしても。

「悪い事」が許される訳じゃない、犯した罪が正当化されて無かったことになる訳じゃない。

ここで守月を責めるのは筋違いだ。」

 

「じゃあどうすりゃ良かったのさ!」

 

噛み付く先が、守月から俺へと変わる。

数人がかりで、スーツを掴んでくる子もいる。

それに対してアズサや守月は止めさせようと動いて、それを俺が手振りで止める。

 

ヒフミも若葉も複雑な心境のようでキョロキョロと当たりを見回して。

 

「.....悪い、分からない。

どうするのが最適だったのか。

どうすれば、お前たちが幸せに生きていく道に辿り着けたのか。」

 

その問いの答えは、まだない。

俺には答えることができない。

 

「けど、言ったよな?

「真っ当に生きたい」って。

なら、これが、お前たちの正解だ。

 

お前達はきちんと言ってくれた。

相談してくれた。

このキヴォトスにいる大人なんて知っての通り、誰も彼も自分の事しか考えてない奴で、もれなく俺も「生徒を助けたい」なんていう自分の願いを叶えるために走り倒してる。

けどそれでも叫んでくれた、助けを求めて、願ってくれた。

 

変わりたいと、誰かを傷つけて生きていくのは嫌だ。って。」

 

スケバンの1人の、その頭に手を置いた。

 

「大事な思いを伝えてくれた。

お前達の思いはよく分かった。

だから、ここからは俺の出番だ。

 

「シャーレ」に来てくれ。

お前達の欲しかった「普通の生活」。

そこに至れるまで、俺が面倒を見るよ。」

 

「じゃ...じゃあ、あたし達もちゃんとした仕事して、飯にありつけて....暖かいベッドで寝れるのかよ....。」

 

涙で崩れた、その表情。

明日への恐怖と不安に満ちた瞳をしっかりと見つめて答えた。

 

「───あぁ。」

 

「「う、うわぁぁぁぁぁんっ゛」」

(ギシッ!)

全員がひっきりなしに腰にまとわりついてくるせいで、身動きが取れなくなった。

まぁ、それはいい。

 

 

「.....シロウ。」

 

ここで、特大の問題が発生したこと以外は。

 

「ん?どうしたアズサ。」

「....シャーレの居住区は藤河組の生徒で埋まってるんじゃないのか....?」

 

「あ─────」

 

ここで、痛恨のミス。

今現在のシャーレの財政、状況の一切合切を忘れていた。

ただでさえミカ1人をねじ込むのに俺の部屋を使ったのだ。

 

「確かに住まわせる場所がないのは問題だな....給金とかは出してやれるとして。

場所、かぁ.....。」

 

「だよなぁ.....何もかも上手くいくわけないよなぁ....」

 

皆、がっかりして、肩を落とした。

完全に安請け合いというか。

見たい現実しか見てなかったというか。

 

スケバンの数人が、不安そうに見つめている。

武士に二言なし、ここは自払をきってでも居住区を拡張────

 

「───あの、先生。」

「若葉?」

 

ここまで黙って聞いていた若葉が声をかけてきた。

彼女は軽く会釈して俺の前に立って、彼女達に話しかけた。

 

「シスターフッドの若葉ヒナタと申します。

もし、皆様が宜しければなのですが....。

私達と一緒に、聖堂でお手伝いをしていただけませんか?」

 

「あんたが、シスターフッド....?」

「まぁ、確かにそう見えなくも ...ねぇな。」

「いや...どうみてもコスプレというか....」

 

なんと言うか。

まぁ確かにマリーやサクラコと比べると、修道服がアレンジされすぎていて一目では分かりにくいが....。

 

「ホントか?先公(センコウ)?」

 

「あぁ。

若葉はれっきとしたシスターフッドの生徒だ。

今も仕事の為にここまで来てた。

 

働き者のいい子だぞ。」

 

「「おお...」」

 

「事情は少しですが理解しました。

 

お金を稼ぐ仕事はないので、日当などはお渡しできませんが。

ボランティアでしたら何時でも大募集中なんです。

お手伝い頂ける方でしたら寝食の提供は可能ですし。

合わない作業ですとか、他になさりたいお仕事やバイトなどがある場合は推薦書をお渡しすることもできます。」

 

「「??」」

 

首を傾げて分かってなさそうな彼女達に軽く説明する。

 

「ようは、シスターフッドの仕事の一部を手伝えば、しっかりした部屋で過ごせて、食事も1日3食食べれる。

好き勝手に、って訳じゃないがお前達の「拠点」が出来るんだ。

んで。シスターフッドのお仕事を手伝いながら余裕が出来てから働き口を昔みたいに探しに行く。

 

今回はシスターフッドからの推薦書も持たせてくれるからこれまて書類落ちしてた所だって採用してくれるかもしれない、って事だ。

理解できたか?」

 

皆、頷いてくれた。

けれど、驚いたように若葉を見る視線もチラホラ。

 

「でもよ、私達みたいな不良生徒をそのボランティアに採用して大丈夫なのかよ。」

 

「仕事するとはいえ食事と寝床がタダ同然で手に入るなんてよ....。

あんた達にとって何の得になるんだよ.....。」

 

「損得ではありません。

シスターフッドはこのキヴォトス全ての方々が安らかに、そして幸せに暮らせるようにすることが目標です。

皆さんの問題解決に役立って、より安らかな日々を過ごせるのであれば、それに勝る喜びはありません。」

 

「───よし!私はやるぞ!

シスターフッドでそのボランティア活動して、シャーレの仕事を手伝って給金もらって、バイトして金稼ぐ!」

「私も、映画館行くのに正義実現委員会がいるか、気にしなくていいんだよな!」

「好きにゲーセンで遊べるんだろ!やるぞ!」

 

 

 

#/3-3.誰が為の───

 

やる気満々のスケバン達に囲まれてすこし困惑気味の若葉。

 

喧騒から離れる生徒が2人。

その一人に早歩きで寄り添った。

 

「守月。」

 

「あ...衛宮先生。

すみません、全く口が挟めなくて.....。」

 

「何考えてるのか当ててやる。

「自分のやっている事は正しいのか」って所だろ。」

 

「.....!

凄いですね.....どうして。」

 

「簡単な話だよ。

その瞳に、昔の自分を見たような気がするからだ。

.....いや、今もずっと同じこと思ってる。

勿論、これまでやってきたことが間違いか、なんて疑ったことはないけど。

正直言ってずっと悩んでる。

これでいいのか、って。

普通なら自信たっぷりになんて、言えないんだろうけどな。」

 

「衛宮先生でも、悩むことがあるんですね。

どこが悩みどころなのかお聞きしても?」

 

胴上げされている若葉を横目に重い話を掘り下げる。

ベンチ横の自販機にコインを投入してお茶を投げ渡した。

 

「正しいことを実行するなら、本来ただの機械でいい。

機械は間違えないし、裏切らない。

けれど、人の世はそうじゃない。

人を動かすのは感情だからだ

 

だから、誰かを助けたいって言うなら、そいつの情に添った上で行う必要がある。

 

こればっかりは難しくてな。

何度も生徒を泣かせてきた。」

 

肩を竦めて、わからないと。

守月に投げ返した。

 

「そう....ですか。

そういえば衛宮先生は「正義の味方」でしたね。」

 

「まぁ、まだ「セイギノミカタ見習い」だけどな。

だから俺にできる最大限の事をしてきたし、していくつもりだ。

 

お前も今まで通りでいいんじゃないか?

出来ることを精一杯やって、余裕があるなら相手の心情を思いやるくらいの気持ちで。」

 

右手を差し出す。

 

「衛宮先生?」

「一緒に頑張っていこう、同じような悩みを抱えて歩む者同士。」

 

「....はい。」

守月は、力なくではあるものの、俺の手を握り返した。

 

「それとこれは余計なことだとは思うけど言わせてくれ。

 

そんな「誰かがやらなきゃいけない事」なんて寂しいこと言うなよ。

確かにそれは、「必要とされている事」だけど。

仕方ないから、やってる訳じゃないんだろ?

自分で選んだ道だろうし、歩む途中でお前は色んな人の笑顔だって見てきたはずだ。

それが1つでも、1人でもあれば。

過去の誰かの笑顔が頭の中に思い浮かぶってんなら、お前のやってきたことは、間違いなんかじゃない。

誰かを助けたい、守りたいって言うなら「これが私のしたいことだ」って、胸張って生きろ。」

 

「.....確かに、そうですね...。

先生の仰る通りでした。

ありがとうございます。」

 

 

 

「どうしたんだ?ヒフミ。」

 

次に声をかけたのはヒフミ。

いつも元気に笑っているその表情はくすんでいる。

 

「いえ....私これまでブラックマーケットなどは行ったことあったんですが、そこに生きる生徒達の暮らしは全く知らなくて。

 

今もそうなんです。

「あ、私、全く知らなかったんだな」って.....。

こんな風にしか過ごせない、生きられない人達も沢山いるんだ。って。

 

私、これまで本当に知らなくて。」

 

いつの間にか、目尻に涙を溜めている。

初めて会った時から分かっていたが、この子はとても優しく、他人に対し共感出来る、とても良い子だ。

他人の痛みを想像し、共感し、自分のものにできる良い子なんだ。

 

「お前....。」

 

「あ、あれっ?す、すみません。

泣くつもりなんてなかったんですけど....。

良かったなってほっとしたら急に......。」

 

女の子が泣いているのをじっと見つめる趣味はない。

体を背けて、後ろ手にハンカチを渡す。

 

良かった、この場にナギサが居たら開口一番でお説教確定だ。

ロールケーキで顔面圧死するなんて情けないし、そんな死に方したくない。

いっそランサーの槍で一突きか、バーサーカーの腕に引き潰された方がよっぽど納得できる死に方だ。

 

「いいよ、泣きたい時は泣けばいいんだ。

お前たちは聖人君子はおろか、大人や男ですらない。

子供なんだから、泣きたい時は泣けばいい。

 

暫くヒフミは俺の後ろで泣いていた。

 

「落ち着いたか?」

「は、はい...すみません。」

 

まだ、若葉とスケバン達は話し込んでいる。

俺はベンチにヒフミを招き、座るよう促した。

誰かのために、誰かを思って流せる涙。

それは尊いものだ。

 

「ここに居たのがお前とアズサと、若葉と守月だけだったとしても。

多分問題は解決したよ。

いや、見てられないお前が、絶対に解決しようと動いた筈だ。」

「.....。」

 

その不安そうに目尻に残った涙を、指で拭ってやる。

 

「言ったろ?

心の持ちようだって。

 

知らなかったんなら、今から知っていけばいい。

大丈夫だ。」

「───衛宮先生...。

はい....!ヒナタさんみたいに、私もめげずに頑張ります!」

 

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