衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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今回の前書きはタイトル解説。
どうして作品名に「Fate」が入っていないのか。
これは運命から脱却する物語であるため。

作品情報から見れるタイトルロゴはFa/te GRADATION /ARCHIVE
「Fate」に十字架の縦線があり、消されている上に
「N」と「A」の間を区切っています。

これは「N/A」(not availabl)の略で「情報無し」または「該当しない」を意味します。
Excelで関数ミスったことがある方は目にした事もあるのではないでしょうか?
つまりこのタイトルロゴは
「この作品は「運命に該当しない」という意味合いになる」のです。


#4 魔術師二人、揃えば無敵/Be free to follow your heart(IV)

#/4-1.ジョウダンはホドホドに

 

廃材───もといスケバン達の元拠点から水苔膠(みずごけにかわ)を回収した俺達はスケバン達を大聖堂に送った。

事前にマリーに連絡をしていたおかげもあって、彼女達のボランティア活動への参加は即決まり、宿舎で寝泊まりできることを皆喜んでいた。

 

「悪いな、マリー。

言い出しっぺは俺と若葉なのにあいつらの対応頼んじまって。

お前も忙しいんだろ?」

 

「いいえ、問題ありません。

ハナコさんから()()()()()()は聞き及んでいますから。」

 

どうやら、俺たちが件の経典を復元しようとしていること───いや、損壊させてしまったことを知っているらしい。

しかし、怒った様子はなくむしろ心配な面持ち。

 

「ありがとうございます、マリーさん。」

「いいえ、皆様のことはお任せ下さい。」

 

別れの挨拶を済ませ、立ち去ろうとする俺達へ最後、マリーが一つ質問を投げかけた。

 

「あの──衛宮先生。」

「ん?」

「───どうしてヒナタさんの事は苗字で呼ばれるのでしょう....?

私やサクラコ様は名前で呼んで頂いていますが....」

 

......?

何故って言われても「そっちで呼んで欲しい」とは言われてない.....筈。

 

「いや、名前で呼ばないのは俺の心情というか.....。

まだ出会ってまもない女の子を名前で呼ぶ、っていうのが....。

俺は先生でお前達は生徒だし....。

相手にしたって、多分いきなり親しげに呼ぶのを嫌がる奴だっているだろうし。

 

やっぱりおかしいか?」

 

「い、いえ。

ですが、お2人は逢い引き(デート)をなさっている

と、ハナコさんからお聞きしていて.....。」

 

「「──────。」」

 

マリーが顔を赤らめて、上目遣いで問題発言をした。

まさか事情って経典のことじゃない────!?

浦和の奴、マリーを揶揄ってテキトウ言ったな!

こんな純粋無垢のような子にそんなこと言ったら本気にされるに決まってるだろ───!!

 

「ち、違うんだマリー!

とんでもない誤解が発生してる!

別にデートじゃない!」

 

「そ...そうです!

私などが先生とだなんて....恐れ多いです!」

 

2人してマリーに弁解、大反発。

マリーもやや引き気味に苦笑いしている。

 

「そ、そうなのですか.....。

衛宮先生とお話したいという方は多いのでもしかしたら、と...

私も....

い、いえ今のはその....忘れてください。」

 

......?

煮え切らない言い方で言葉を区切るんじゃない。

しかもご丁寧に忘れてくださいって。

 

「なんだって俺なんかと話したい奴がいるんだ?

一応「魔術師」だぞ、俺。

良くない噂だってトリニティじゃ沢山出回ってるし。」

 

「先生の人柄や行いは言峰神父が度々(たびたび)お話してくださりましたので。

皆さん衛宮先生を信じているのです。」

「はい。」

 

若葉とマリーが認識を擦り合わせるように互いに笑みを浮かべて頷いている。

マジか。

ハスミが「胡散臭い」と言っていた言峰綺礼はどうやらシスターフッド内では信用を得ているらしい。

 

というか言峰、何を話したんだ....。

サクラコと初対面の時にもなんか「話を聞いている」風なことを言われたけど。

評価が変に高いのが何か嫌だ。

 

「そっか....悪いけど、俺は言峰を()()()()信用してないし、皆も話半分に聞いた方がいいぞ。」

 

忠告した筈なのに、マリーはクスクスと笑う。

可愛らしい仕草や表情に目を奪われるのとは裏腹に、どこか嫌な予感がしていた。

それを横にいる若葉が説明してくれた。

 

「言峰神父、衛宮先生の今の言葉を予想されていて。

ほとんど同じ事を仰っていました。」

 

「────あの野郎。」

 

なんと言うか、この流れもアイツの想定内らしい。

 

姿勢を正したマリー。

次にかけられたのは心配から出た言葉。

 

「衛宮先生、ご無理はしていませんか?」

 

「大丈夫だ。

これまでずっと皆に心配かけてきたからな。

これ以上のみっともない姿は見せられないって。」

 

「そうですか.....では───」

 

両手を握り、胸に当てるそのポーズは、どうやら祈りを捧げてくれているようだ。

 

「衛宮先生、貴方の行く道にどうか───」

 

 

 

 

「そうか....ではまだ済んではいないのだな?」

「......はい。

ブラックマーケットに行ったことは今シャーレの奉仕活動で許されてる形で....。」

 

聖堂を出ると言峰がヒフミと話をしていた。

あの2人の組み合わせはどこか見ていて心配になる。

 

してそれはアズサも同じようだ。

 

歓談する2人の横を通り過ぎる。

無言、それも一瞬。

けれど、言峰の視線と、俺の視線が交差した。

その口元は一層釣り上がり、不気味な、嫌な笑い方をした。

 

「ったく...気味悪いったらありゃしない。」

 

「シロウ、ちゃんと銃は持っている?」

 

仏頂面で、アズサからいきなり質問される。

 

「ん?マテバか?

ちゃんと携帯してるし、さっき実戦で使ってきたぞ。

凄いな、あの爺さん店主の言った通り下手な戦車の装甲なんか一撃だ。」

 

「........これまでシャーレの試射場でシロウの練習に付き合って来た私から言わせてもらうと、心配だった。

下手な撃ち方をすれば肩を痛めかねない。

実際見ている時もそうだった。」

 

確かに発砲した時の反動に耐えられず銃が手から吹き飛んだ時もあった。

 

「まぁ、本番には強い方なんだ。」

 

「だからシロウは甘い!

この間ヒフミと食べに行ったハチミツシュークレープ並に甘い!

練習で成功しないものが本番で上手くいくのは"まぐれ"だ。」

 

───逆効果の話をしてしまったらしい。

完全に説教モードだ。

 

「いや...待て待て!

そのだな....ほら、運も実力のうち、って言──」

「そうして生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた時に運を頼りにするつもり!?シロウ。」

 

「.......滅相もございません。反省しま.....。」

 

頭を軽く下げるが、プンスカ、と言ったアズサの表情についぞ頬が緩んでしまう。

 

「なら良い......と思ったけど、どうしてそんな顔をしている?

私は怒っている!」

 

頬を膨らませ怒る表情。

なんというか、怒られているのは分かるのだが、如何せん威厳がないというか。

 

「いや、アズサの可愛らしい怒りの表情を見てつい──」

「───は?」

 

アズサは自分の顔に手を当てる。

どうやら意図してその表情を出していたわけではないらしく。

さらに顔を赤らめて言った。

 

「────こういうのが可愛いのか───ハッ....//!

シロウ!揶揄うのもいい加減にして欲しい──」

 

(ドガッ!)

「なんでさ──がはっ」

グーパン一閃。

物の見事にアズサの振るった拳は俺の鳩尾に直撃し、蹲った。

 

「え、衛宮先生?

大丈夫ですか?」

 

「....大丈夫だ。

むしろたかだか私達の打撃などでどうにかなってもらっては困るぞヒフミ。」

 

心配したヒフミの質問にアズサが何故か答える。

なんでさ。

 

本心からの発言を怒られている最中に言峰は消えていた。

ここまで来ると顔を合わせているのに話しかけられることがないと言うのもどこか違和感を感じる。

 

「ダメですよ、アズサちゃん。

いくら恥ずかしいからとはいえ手を出しては───」

「ち、違...わない....うん、恥ずかしかった。

私は恥ずかしかったのか....。

こんな感情も初めてだ。」

 

どうして恥ずかしかったのだろう?なんて考え始めたアズサをそっと1人にしてヒフミが俺へ話しかけて手を差し伸べてくれた。

 

「ご愁傷様です....で、いいんですかね....あはは...。」

「まぁ銃口向けられなかっただけマシだと思っておくよ。」

 

その手に掴まり、立ち上がる。

 

思い返せばワカモなんて恥ずかしさから俺を突き飛ばして高層階からたたき落とした事例があるし。

コハルとかは予想外した瞬間に実際撃たれたわけだし。

 

つまり、揶揄う側にもそれ相応の覚悟が必要という訳か。

────いやまぁアズサが可愛らしい、ってのは本心だったんだけど。

 

「まぁ、しかしちゃんと護衛の生徒がいることがわかって良かった。」

「そうですね。

ヒナタさん...でしたっけ?

衛宮先生をよろしくお願いします。」

「シロウを頼む、知っているとは思うけれど短慮で軽率に危険な行動をとるからな。」

 

「はい。私にできることでしたら喜んで....?」

 

なんかお荷物扱いされている。

では私たちはこれで、と言い残して2人は去っていった。

 

 

 

#/4-2.「自分に出来る事を」

 

「守月はいいのか?

どこか行く最中だったんじゃないのか?」

 

残る材料、聖精水を手に入れるため救護騎士団の部室を目指す俺たち。

唯一の救護騎士団との繋がりであるセリナにはもう先んじて連絡は取ってある。

ふと疑問に思い、守月に声をかける。

 

「変に気遣って俺たちに付き合わなくてもいいんだぞ?」

 

「いえ、巡回中だっただけなので。

それにせめてその救護騎士団の部室までエスコートさせてください。」

 

.....エスコートって....普通立場逆だろ、逆。

 

「せっかくの御厚意(ごこうい)ですし、無下にされては....。」

「まぁそうなんだろうけどさ....。」

 

何となくの嫌な予感が的中。

 

「うわぁぁぁん!!お姉ちゃん何処ぉっ!」

 

「衛宮先生....あの子は...。」

「────あぁ、迷子っぽいな。

おい、どうしたんだ?」

 

道中連れとはぐれた迷子の子供の相手を探して───。

 

「ありがとうございました!

だからちゃんと着いてきなさいって言ったでしょ!

ほら、お兄さんお姉さん達に言うことあるでしょ?」

「ごめんなさい.....ありがとう!おじさん!おねぇさん!」

 

おじさん────おじさん?

.......俺のこと、か?

 

「まだにじゅうさんさい(二十三歳)なのに.....。」

 

硝子も熱すればヒビが入る訳で。

精神的にダメージを受けてしまった。

 

その後も大荷物を持ったお年寄りなど、様々に困っている人達の手助けをしていた。

 

「はい、ですからこの時間帯のこの道は危険なので今後は──」

「まぁまぁ!わざわざ安全な道を教えてくれただけじゃなくて送ってくれて....親切にありがとうね、お若いお嬢さん。

次から気をつけるわね。

貴女もその自警団.....?頑張って!」

 

「────はい。」

 

道案内をする時の守月は、夕日を背景に、表情に影は刺していたけれど。

随分とすっきりしたいい笑顔をしていた。

 

救護騎士団部室へ到着した。

寄り道も寄り道。

怒られても仕方ない。

 

「───ってか、夕方になっちまった!」

「はい....ウイさん、怒ってらっしゃらないでしょうか?」

 

「大丈夫だ、誠意を込めて謝罪すれば───。」

 

皆が皆許してくれる訳じゃないだろうけれど

それでも、誰かのために動いた自分達の行いを、恥じることなんてない。

 

「では、私はここで。」

 

「ああ、ありがとな、守月。

正直助かった。

 

道中もお前が睨みきかせてたのと、無事なルートをなぞってくれたお陰で安全につけたし。」

 

「───いえ、助けになれたのであれば、これ以上に幸いなことはないです。

むしろ、私の方こそ学ぶところが多く、ありがとうございました。

 

今後も何かあれば私に───といっても大したことは出来ませんが。」

 

「わかった、困ったことがあれば相談させてもらうよ。」

 

守月と握手をして、部室前で別れた。

 

「お待ちしておりました。

お望みのものはここにあります。」

 

部室棟に入れば倉庫の方にセリナが一人で仕事をしていた。

事前に連絡を入れていたが為に聖精水(材料)は準備してくれていた。

「.....こっちもこっちで大変そうだな。」

「あ、あの.....。」

 

話しかける若葉の上目遣いの表情。

もう今日で何度見たことか。

 

 

「わかってる。

なぁ、セリナ───」

 

そうして俺達はセリナ──もとい救護騎士団のお手伝いをした。

 

 

 

#/4-3.復元、開始

 

古書館にたどり着けば日はとうに落ちていた。

ノックしようとすればその前に古関がその扉を開けた。

 

「........随分遅かったですね。」

「.....驚きました!

どうして私達が帰ってきたのがわかったのですか?」

 

「.....あ、あまりに遅いので....扉の横に椅子と机を置いて───」

 

そうして俺達の視線は本が置かれた簡素な椅子と机に集中する。

机の上にはブックスタンドに置かれた数冊の分厚い本。

 

「ず、随分暇だったんだな。」

 

「.....準備は終わっています。

材料は?」

 

「あぁ、全部ある。」

そう言って手渡した試験管やら梱包を解いて古関が中身を確認した。

 

「あ、後これ。」

「随分と色々な場所に持って行ってしまったので、1度冷やしてお召し上がりください。」

 

ケーキの入った袋を渡せば挙動不審に俺と若葉、そしてケーキの箱を交互に見る。

 

「これ.....まさかミラクル5000....!

あの一日につき販売数が限られてるという!?」

 

「あぁ。

時間かかっちまったけど、売り切れる寸前、残り1つで手に入った。

あ、支払いとかは気にするな。

なんと言うか元々買っていく予定だったのに訳あって店員さんに押し付けられちまって、タダ同然で貰ったんだ。」

 

「ミラクル5000がタダ同然!?

.......まさかシャーレの権力を行使して....とか...武力で脅したとか───!」

 

どうやら本気で言っているらしい古関の頭に手刀を叩き込む。

 

「....痛いです、衛宮先生。」

「そりゃ本気でやったからな。

いくらなんでもそんな疑われ方するとは思わなかったぞ。」

「────すみません、失言でした。

その.....衛宮先生、ヒナタさん....わざわざありがとうございます。」

 

「はい、どういたしまして♪」

 

そうして若葉から袋を受け取った古関はしっかりと礼を言ったのだった。

というか古書館なのに冷蔵庫あるのかよ....。

まぁ司書室に配置してる理由は分かるんだけどさ。

 

その後復元作業に取り掛かった。

とはいえ古関は「余計なことをせず、昼寝をしてろ」と若葉をソファーへと誘導。

しかし最初は焦りや不安からなのか「自分も何か出来ることは──」と言い始める。

 

「休息をとることも大事な仕事だ。」

 

そう言い聞かせても休もうとしない。

こうなったら一肌脱ぐか。

 

「なぁ、古関。紅茶とか置いてたりしないか?」

 

若葉に聞こえないように、耳打ちした。

 

「ひゃっ...!?

な、なんですかいきなり....私の呼吸を止めるつもりですか!?」

 

肩を跳ね上げ驚き、文句を言う古関。

されど俺の話を聞くと案内してくれた。

 

都合10分程。

俺の淹れた紅茶を飲んだ若葉はソファーでうつらうつらとし始め、そのまま寝てしまった。

 

「......魔法でもかけたんですか?

もしくは睡眠薬を....。」

「馬鹿、そんな事するか。

単純に身体が暖かくなってリラックスした結果寝ただけだよ。」

 

怖がって手をつけない古関の分のティーカップ。

同じように自分のティーカップに口をつけるのを見て、ようやく手を出してくれた。

 

「紅茶なら後でケーキと一緒に────

─────美味しい....。」

 

 

 

音を立てることなくサッと飲み干す彼女。

 

「さてと、やれそうか?」

「ここまで準備してもらった上で、任せてくださいと啖呵を切っておきながら「出来ない」とは言えませんし、言いません。

 

ですが....衛宮先生もお休みになっては...。」

「いや、何かあったらサクラコに連絡しなきゃいけないし。

あいつからの返事もまだ貰ってない。

 

だから休む訳にはいかない。

大体ソファーは若葉が占領───じゃなかった、使ってるだろ?

まさか司書室のお前が使ってそうな仮眠用のベッドがあってそこで寝ろとか言わないよな?」

 

「───い、いえ!?

そんな事されたら恥ずかしさのあまりに憤死しますよ!?

というかよく分かりましたね!?」

 

 

単なる憶測で言った推理は当たったらしい。

 

「まぁ作業の邪魔はしないから見ていてもいいか?

体を休めるって言うなら座って鑑賞してるのも大丈夫だろ。

こう、電化製品とかはある程度修理出来るけどこういう材質の奴はてんで初心者だから。」

 

「あまり面白みのない作業ですが....別に見たいなら...。

その...どうぞ。」

 

そうして2~3時間ほど俺は彼女の作業風景を眺めた。

 

「衛宮先生。」

「ん?どうした?」

 

慣れた手つきで作業を進める彼女。

試験用の紙に調合した比率の違う液体を垂らし、反応を眺めている。

 

「.....衛宮先生は、どうして私と同じようにこの()の扱いをしてくれるんですか?」

 

.....どうやら最初に本の呼称を古関に合わせたことが気になっているらしい。

 

「....正直、お前を説得する為ってのもなくはなかったんだが。

ここの本を見ていてどうにもな .....。

 

俺はこいつらがどんな奴かとか、本の意思は分からない。

俺が読み取れるのは「書いた側」言わば「作り手」の感情とか経験とかだ。

だからお前と全く同じ扱いをしてる、って言ったら嘘になる。」

 

「.....そう、ですか。

衛宮先生が気遣っているのは「作り手」でしたか....。

でも確かに、この()達を生み出した方々にも敬意を払うのは当然でした。

 

ですが....それが分かるのはどうしてですか?」

 

 

「そう....だな....。

ならお前にとっての古書館、この場所と同じようなものが。

場所が、俺にもあるんだ。

 

今から見るものに、お前はきっと驚くだろうから、少し手を止めててくれ。」

 

そう聞かれ、悩んだ末に見せることにした。

 

「────え───!」

 

世界が、書き換わる。

古書館の棚や本が消え、机が消え。

 

ここ、剣の世界には俺と古関のみ。

青く晴れ渡る空の下で。

大地に突き刺さった剣の世界だ。

 

それはほんの数秒。

無詠唱ではその程度しか持たない。

けれど古関にはそれで十分だったらしい。

 

古関の瞬きに合わせ、周りの風景(世界)が帰ってくる。

 

「剣が....あんなに沢山────。」

「大丈夫か?」

 

「はい....夢を見たような、そんな気分で....

で、ですが、あれは...」

 

紛れもない、本物の世界。

 

「俺のあれは言わば剣の図書館みたいなもんだ。

目にした剣を保管する、心の図書館。

 

あの剣の現物にだって製作者がいて、使ったやつがいる。

そいつらがどんな願いを込めて、どんな方向を目指して、何を使って、それを作るためにどんな技術を得て、何を思いながら、どんな月日を過ごしたのか。

 

その意思や意図を汲んでやるのは、俺の唯一の────。

って、悪い変なもの見せた上に語っちまって。

少なくともお前と俺のそういった「物」への扱いの細部は違うと思う。」

 

視線を古関に向ければ、メガネの奥に光る彼女の瞳。

 

「.......いいえ、そんな事はありません。

確かに怖かったですし、恐ろしかったですが.....。

 

自然と、綺麗だと。

あの風景が綺麗な───そう、刀身が光で反射して煌めいて。

まるで大地に星があるように。」

 

心象風景を褒められて気恥ずかしくなった俺は咳払いをして話を元に───いや、古関に作業へ戻ってもらうことにした。

 

「褒められても今の俺には紅茶くらいしか出せないぞ。」

「十分です、頂いても?

それと、その.....古関は呼びにくいでしょうし.....ウイと....呼んでください。」

 

 

「あぁ、わかったよ、ウイ。」

 

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