衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

132 / 134
【#Epilogue】TRINITY UI's Interlude 「心からの謝罪、信頼」

林から抜け、トリニティの市街地に入ってから寮が見えてくると恐る恐るとヒナタが話しかけてくる。

 

「あ、あの...衛宮先生...その...ウイさんは?」

 

「え?

あぁ、お前の事を心配してたというか......。

流石にぶっ通しで作業してたからな、今頃ミラクル5000でも食べて一息ついてるんだろ。

 

さすがに今日はもう遅いし、寮には連絡いれて事情を説明しておいたから、先に帰ってゆっくり休んでくれ。

ウイへの感謝は明日でだって間に合うだろうし。」

 

「そ、そうですか....。

分かりました。」

 

ちなみに、式典は後始末で丸々欠席した。

せっかくのシスターフッドからの招待を無駄にしてしまった。

今度、サクラコに謝りに行かなければ....。

 

「じゃあ、またな、ヒナタ。」

 

「....!

はい、良い夜をお過ごしください。」

 

そうして、門の前で、俺たちは別れた。

 

 

 

honey jam

 

古書館の古びたドアをノックする。

返事がない。

 

「.....む、流石にもう寝てるか....。」

 

(ガチャ....)

 

施錠されているだろうと思いきや、ドアは開いた。

「........。」

 

そのまま館内へ入ると、数時間前まで作業していた机でウイが一人ケーキを食べていた。

 

「.....?

え、衛宮先生.....戻ってきてしまったんですか.....。

 

───あ、その....別に嫌とか、先生がいてはいけないという意味ではなくて!

もう時間も随分と遅いですし、そのまま帰られたのかと....。」

 

確かに、時間はもう深夜3時を回っている。

このレベルの夜更かしは随分久しぶりだ。

 

「まぁな、お前にも事後報告しなきゃいけないし、気になってたろ?」

 

「......そうですね....外の事はいつもなら衛宮先生の言う通りなんですけど ....。

自分が復元(治療)に携わった経典 ()だから、かもしれません。」

 

まぁ、それもあるだろう。

けれど、本当はそれだけじゃ無いはずだ。

本人は気がついていないだけかもしれないが。

 

「なぁ、どうでもいいならなんで俺とヒナタにソファーで休むよう言ったんだ?

「集中したいから出てって欲しい」って言われても俺たちは従ったぞ?」

 

「.....!

そ、それはこうして差し入れ(ミラクル5000)を持ってきて貰いましたし....この経典()壊し(怪我させ)てしまったのは私ですし....。」

「ただの負い目ってことか?」

 

よし、話を変えよう。

 

「ヒナタの事、どう思う?」

 

なんて、自身で言って呼び方が「若葉」から「ヒナタ」呼びになっている事にようやく気がついた。

たまにやってしまう。

 

まぁ、当人は嫌がってる素振りは無かったし、もはや気にしてすらいないかもしれない。

 

「ヒナタさんのこと...ですか?

.....正直、ああいう人は苦手と言いますか.....。」

 

Oh shit(なんてこった)

流石にミラクル5000だけではご機嫌取りにはならなかったか。

ため息をついて露骨にがっかりしてしまった。

 

「まぁ活発な子だしな ....。」

 

「い、いえ、苦手と言いましたが..."嫌い"ではありません。

....その、なんと言いますか。

放っておけないといいますか、何かしでかさないか心配といいますか....。

 

でも、努力家のいい人だとは思います ....。」

 

「じゃあ、最初の"アレ"っていう評価。

覆ったってことでいいんだな?」

 

「.....ま、まぁそういう事にしておいてください。」

 

 

聞きたいことが聞けたので、俺はその後の顛末をウイに説明した。

 

「.....正義実現委員会と....そうですか...。

まぁ、あの人達は話の通じにくい人達なので。」

 

「......正直やり過ぎたとは思ってるんだよ、俺も。」

 

テーブルの上に置かれたケーキ。

あまり手がつけられていなかった。

 

「.....悪い、味が落ちてるか?

随分連れ回したもんな.....。」

 

保冷剤やらなんやらも梱包していたとはいえ、日中外気に当てていたのだ。

ケーキの状態も悪かろう。

 

「あ....!

いえ!その....実は私....甘すぎるものが得意ではなくてですね.....その、今日言った苦手ではないというのも....。」

 

なるほどな....まぁ、あの状況だと「もう買ってくること確定」なので水を差したくなかった、と。

 

「.....気を使ってくれてありがとな。

良く考えれば古書館内だし、飲食も控えるよな....。」

 

なんというか、無理やり押し付けてしまったというか....。

彼女の為を思うなら、さっさと材料を集めて、復元してもらって安心して貰うべきだったのかもしれない。

 

「.....ウイは優しいんだな。」

「な...!別にそんな事は....。」

 

席を立つ。

 

「あ、あの...!?衛宮先生、何処へ?」

「いや、こうケーキが甘いと進まないなら紅茶でも入れようかなって。

待っててくれ。」

 

そして給湯室。

ティーポッドに茶葉を入れ、湯を注ぐ。

数十秒の間、辺りを見回すと違和感に気づいた。

 

そう、新品同様のコーヒー豆の入ったボトルが幾つもあった。

 

対して、手元にある紅茶の缶は蓋の(ふち)がやや錆びている。

買ってから相当経っている。

「──────。」

 

 

 

 

 

「.... 随分かかりましたね.....?」

「いや、悪い。

コーヒーメーカーは扱かった事がなくてな。」

 

「扱ったことないって....自分の時は挽いてるのですか?

というか、わざわざ入れてきたんです!?」

 

という訳で俺は紅茶。

ウイにはコーヒーを出した。

 

「────紅茶ほどでは無いですけど....まぁ中々です.....。」

 

む、この反応は随分とコーヒーに舌が肥えてる奴の反応だ。

 

「....ミルクとか砂糖、必要だったら持ってくるけど、どうなんだ?その辺。」

 

「い、いえ大丈夫です。」

 

ズズズ、とコーヒーを飲むウイ。

しかし、今更だがこんな深夜にコーヒーを出すという、我ながら完全にやらかしだ。

 

「若干の苦味が残ってます ...これ分量あってるのでしょうか....。」

 

なんて言うもんで、おもてなしは失敗に終わったらしい。

 

「...わるい、今度練習し直す....。

あ、折角だし好きな種類とかあるのか?」

 

そう言われ、迷いながらウイは返答した。

 

「では.....次があるのでしたら「アイスアメリカーノ」でお願いします....。

それが、私の好きなものなので.....。」

 

その後、ウイとは色々な話をした。

まぁ主に書物に感じてなのだが、例えば「アリウス」に関する書物があるかだとか。

どのくらい古い本があるのだとか。

 

「「アリウス分校」ですか....?

えぇと....た、多分探せば多少見つかるとは思いますが....。」

 

必要な情報があるかどうかまでは自信が無いようだった。

流石に今日調べるのは難しい。

 

「......また、ここに来てもいいか?」

「...「シャーレの先生」に対して、私は拒否権を持っていないので....その、来たかったら、お好きな時に.....。」

 

なんというか酷く卑屈な言い方。

でも、まぁ、銃を持ち出される程不快、という訳でないようだ。

 

「....そろそろ帰るかな。」

 

ソファーから立ち上がろうとするとウイに引き止められた。

 

「い、今からD.Uにお帰りになるんですか....?!」

 

「....まぁ、だって寝る場所なんてそこしか....。」

「流石にもう深夜ですし....その....衛宮先生が、お嫌でなければなのですが....そこのソファーでお休みして...明日朝になってから帰るというのではいかがでしょうか....。

その、もう終電も終わってますし....。」

 

む、言われてみればその通りなのだが...。

 

「いいのか?それで。」

 

「....わざわざ報告に来てくださったのに、何のもてなしも出来なくてむしろ申し訳ないです....。」

 

「いや、もうウイは充分やってくれたよ。

まぁ、でもそこまで言うのならお言葉に甘えるか....」

 

こうして俺は夜を古書館で過ごす事になった。

 

 

 

 

 

 

そうして、彼は寝息を立てて眠りについた。

シャーレの仕事も忙しいと聞いていたし、疲労は溜まっていたのだろう。

 

「.....お疲れ様です、衛宮先生。」

 

寝ている彼に、そう、声をかけた。

伝わることのない労い。

 

「正直最初はどうなる事かと思っていました....。

何分(なにぶん)外の方と会話するのも久しぶりだったので....。」

 

けれど、彼は常に真摯であり続けてくれた。

私やヒナタさんの事を考え、案じ行動してくれた。

 

「かなりお節介ですし....押しも強い...。

今までならそういう人は毛嫌いしていた筈なのですが....どうしてでしょう....?」

 

衛宮先生とヒナタさんだけは....どこか違う気がして。

 

「まぁ、何はともあれ.....お疲れ様でした...衛宮先生。

.....さてと...解読の為のメモから経典の完全な複製、作るとしますか.....。」

 

衛宮先生に毛布をかけて、私は作業に勤しむことにした。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。