衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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#2 騒音と狂宴/D.U騒乱(I)

 

D.U地区は酷い有様だった。

どこかしこからも火の手、煙が上がっている。

当然のように戦闘音も響き、硝煙の匂いが風に乗って鼻についた。

 

「戦闘ですね .....でもどうしてこんな事に....?」

「.....これは2人と言わず、藤河組の皆さんにも来てもらうべきだったかもしれませんね....先生!」

 

(タタタタタッ!)

 

浦和は俺の背後に銃口を向け、珍しく引き金を引いた。

 

「うっ.... 。」

(ドサッ...)

 

振り返るとそこにはヘルメットを装着した生徒が倒れている。

 

「あ、ありがとう浦和。」

「衛宮先生、まだ安心出来ませんよ───!」

 

1人倒したその直後、後ろのビルの隙間から沢山の生徒が出てきた。

全員、同じヘルメットを被っていた。

 

「え、えぇ!?」

「何だこの数!」

 

100mはあろうという行動が、生徒で溢れかえる。

 

「来たぞ!衛宮士郎だ!!」

 

「は!?」

 

先頭の生徒が大声で叫んだ。

して、全員の銃口がこちらへ向く。

 

(チャキッ...!)

 

「衛宮先生、ここは撤退しましょう。

状況が掴めません。

 

ヒフミちゃん、案内を頼みます!

厳しいですが、殿(しんがり)は私が──!」

 

「わ、分かりました!

衛宮先生、こちらへ!」

 

「.....了解だ!」

 

即座に撤退の判断を下した浦和に頷いてヒフミに着いていく。

路地を曲がり、射線を切ることから始まった逃走劇。

 

ヒフミの先導なら逃げ切れるだろう。

 

 

 

 

「はぁ....はぁ....。

どうにかなりましたね....ハナコちゃん、大丈夫ですか....?」

 

一番後ろを走っていた浦和は袖口から血を流していた。

所々制服や肌には(すす)が着いている。

 

「おい、お前それ───」

 

「....かすり傷です。ご心配なく。

それより問題は彼女達です。

 

衛宮先生...あれは....。」

 

「あぁ、ヘルメット団だ。」

 

そう。

藤河組の生徒達のように、各自治区にいたはずのヘルメット団だ。

 

それが何故D.Uに。

更に言うと「来たぞ」と俺の事を指していった。

 

「目的は俺か....?でもなんで....?」

 

「.......嫌な予感がしますね、防衛室へ急ぎましょう。」

 

ここに来てやっと、カヤの言っていた「今のD.U」の意味がわかった。

けれど、ヴァルキューレは何をしてるんだ?

ここまでの暴動が起きれば間違いなく彼女たちが動くはずなんだ。

 

「今はともかくサンクトゥムタワー....連邦生徒会の本部。

防衛室に行こう。」

 

 

 

たどり着いたサンクトゥムタワーは厳戒態勢だった。

ヴァルキューレの見覚えのある生徒と視線が合うと、彼女はこちらへ近づいてきた。

 

つい、身構えてしまう。

 

「あぁ、衛宮先生!ようこそお越しくださいました。」

「防衛室長がお待ちです!こちらへ!」

 

「お、おう。」

 

 

厳重な警備の中、なんで俺達は顔パスなんだ ....?

普通そこは身分証とか、確認するだろうに。

 

そして、怪我をしていた浦和とは治療を受けてもらう為別れた。

 

「ようこそ衛宮先生。

ご無事で何よりです。」

 

ここは、防衛室。

キヴォトスにおいての防衛省と警察庁ならぬ警察()の役割を担う公的機関にあたる。

 

立派な席。

両肘を着いて手に顎を乗せた防衛室長、不知火カヤは居た。

特徴的な糸目。

それは正義実現委員会のイチカを連想させる。

して、状況判断も的確で、寛容かつ頭のキレるエリート、って雰囲気だ。

 

「おい、カヤ。

どうなってるんだよ、この状況。」

 

開口一番のセリフを、笑っていなされた。

正直藤河組の事は後回しにする他ない。

いや、何だってこうも中途半端なんだ。

 

「そうですか.....未だに状況は分からないと。

なるほど.....でしたらご説明します。

 

本日、14:30、今から2時間前です。

突如としてシャーレ所属の藤河組()()()狐坂ワカモ.....もとい「災厄の狐」を名乗る者達が連邦生徒会を襲撃しました。」

 

 

「─────は?」

 

頭が真っ白になった。

 

待った待った、今藤河組とワカモが揃って反乱を起こしたって、カヤは言わなかったか?

 

「待て待て待て!そんな馬鹿な話───」

 

「まぁまぁ、聞いてください。

私はあくまで「名乗る者達」と言っただけです。

連邦生徒会本部を襲撃し逃走した者達はヘルメットを被った団員達と、それを率いる百鬼夜行連合学院の服を着た───「災厄の狐」と同じ格好をした生徒達の身元は分かっておりません。」

 

「.....え?」

 

混乱してきた。

えっと、ワカモや藤河組だけど本人達か分からない?

 

「いや、確定じゃないってのは嬉しいんだけどさ。

こう、疑ったりとか────」

 

「いいえ、それはないでしょう。

今の彼女達が反乱を起こすメリットが見当たりませんし。

第一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから。」

 

信頼、と言うよりか脅しにすら聞こえる。

これで本当にあいつらだったらシャーレの面目は丸つぶれだ。

 

「ですが、状況は芳しくありませんね。

何せ反対を押し切って可決した法案でしたから。

現在連邦生徒会内でも見方が随分と別れています。」

 

件のマコ達を保護する法案。

「無学籍生徒保護プログラム」

 

これに対してはかなり意見が割れていた。

最終的に多数決で承認されたものの、禍根の残った案件である。

これに関していえば七神とカヤは賛成派だった。

 

なお、財務室長の扇喜(おき)などが反対派の筆頭でもあった。

 

「しかも、デモも行われていて「シャーレの解体」や「衛宮士郎の辞任」を求めるものでしたから。

これが「彼女達ではない」一番の決め手でした。」

 

「俺を?」

 

「ただ不確かな情報ですが、彼女たちは元々「ブラックマーケット」の生徒達だった、などという話も耳にしています。」

 

......この事件の背景はもしかしたらキヴォトスの闇の部分が関わってきているかもしれない。

あれは、俺が潰したようなものだ。

そしてそこに居た溢れる生徒達。

 

それに対して俺は救いの手など差し伸べなかった。

一方で、偶然縁が出来た「カタカタヘルメット団」もとい「藤河組」への厚い待遇。

 

「おそらくは「シャーレ」や「連邦生徒会」を揺るがす為に「藤河組」を装って問題を起こし、彼女達に罪を着せる腹積もりでしょう。

そこは分かります。

 

ですが.....。」

 

カヤは数枚の写真を差し出してくる。

 

「これ....!」

 

そこに写っていたのは連邦生徒会を襲撃する、ワカモの姿。

しかも、ひとりじゃない。

複数の仮面を使い分けるように、全く違う仮面を被ったワカモの姿だった。

 

「彼女に関しては確認が取れていません。

彼女が衛宮先生の事を慕っている事は聞いています。

 

だから、このような事はしないとは思いますが....如何せん「災厄の狐」ですからね。

どうでした?最近の彼女は。」

 

「いや....その、だな.....。」

 

そういえばずっと、会話をしていない。

それどころか気づけばどこかにふらりとその姿を消す。

 

例えばの話。

トリニティの一件のせいで。

俺が傷つくのを見たくないと言う理由で、この暴動を引き起こす可能性とか。

 

─────有り得てしまう。

彼女ならやりかねない。

 

「.....そうですか。

深くは聞きませんが、何か懸念事項があるようですね。

 

では、防衛室長としてお願いがあります。

狐坂ワカモさんを、衛宮先生────シャーレの手で討伐していただきたいのです。」

 

「───────。」

 

それは、この惨状を招いた俺自身の手でケジメをつけろという事だった。

 

「勿論、今回の一件、無実証明のために「藤河組」の皆さんには出頭して頂きます。」

 

つまり、それは。

 

「俺一人で、やれってのか?」

 

「あ、あの!流石にそれは───」

 

ヒフミは反論してくれる。

が、カヤはヒフミの事を一切見ようとしない。

 

強引な姿勢。

脅迫の様な依頼。

生徒へ視線を向けないその態度。

 

何処か、見覚えがあるような気がするのは気のせいだろうか?

 

「勿論、衛宮先生お1人で、とは言いません。

こちらも、切れる最大の手札を切らせていただきますとも。

何せ、D.Uで起きている事件なのですから、私達も手放しとはいきません。

ですが、連邦生徒会本部、サンクトゥムタワーの警備からヴァルキューレは外せませんので。

 

 

手に入れた情報は全て共有させていただきます。

 

その中には有力な戦力も存在しますよ?」

 

そうして、また4枚。

カヤは俺へ写真を投げてよこした。

 

「?これは?」

 

そこには4人。

狐のような耳の着いた、まるで軍人のような少女が4名写っている。

 

「彼女達は「対災厄の狐」において最大のエキスパート。

「狐は狐をもって制す」とでも言えばいいでしょうかね。」

 

そうして不敵な笑みを浮かべるカヤは告げた。

 

()SRT特殊学園、FOX小隊。

「災厄の狐」を矯正局へ送った英雄達ですよ。」

 

「この子らが?」

 

 

疑う訳では無いが、どうにも彼女達は軽装で、見た目からしても特出して強そうには思えない。

俺には堅苦しいイメージを除けば()()()()()に見えてしまった。

 

七度(しちど)ユキノ、吉野(よしの)ニコ、高倉(たかくら)クルミ、天神山(てんじんやま)オトギ。

 

現在情報によれば、彼女達は4人で独自に暴動を鎮圧して回っているそうです。

合流出来ればこれ以上の頼りはないかと。」

 

「.......。

分かった。

ただ、ヒフミと浦和には手伝ってもらいたい。

それでいいな?」

 

本来はアズサやコハル、ミカにも手伝って欲しいが今からこちらに来るとなると危険だ。

何に巻き込まれたっておかしくない。

 

「....構いません。

ですが、一応トリニティのホストへ許可を取っては?」

 

「あぁ、そうするつもりだ。

それでいいか?ヒフミ。」

 

「はい!私でお役に立てることがあれば。

D.Uの地図は頭の中に入ってますから!

最悪使われてない地下水道や通路もご案内できます。」

 

「「......。」」

 

これにはカヤも俺も口をあんぐり開けてしまった。

.....こいつ、何処からどこまで知ってるのか。

 

 

「では、衛宮先生、ご検討を。」

 

「おう、帰ったら別件で相談があった....んだが、この様子だと無理そうだな。」

 

必要な情報を教えてもらったあと、俺とヒフミは防衛室を後にした。

 

 

 

 

「アロナ、ワカモの現在地。分かるか?」

 

そう聞くと彼女はひょこりと顔を見せた。

 

『.......すみません、位置情報がOFFになっていて探せません。

Divi:sion systemさんはどうでしょう?』

 

[特定不能:端末の電源が切られている可能性を示唆]

 

『そうですか....うーん....この頃のワカモさん、様子がおかしいどころか顔を見ていませんでしたからね....心配です。』

 

「ワカモちゃん......どうして....。」

 

待て待て、まだワカモがやったって決まったわけじゃない。

さっきは嫌な想像したけれど、俺は信じている。

 

「大丈夫だ。」

 

 

「失礼、見かけない者たちだな?

所属と身分証を確認したい。」

 

そして、廊下を通る途中。

とんでもない目つきの女性とすれ違った。

睨みを聞かせるその目にヒフミはおろかアロナまで完全に萎縮していた。

そして、口から見える歯。

それはもう───ギザギザだった。

無茶苦茶おっかない。

 

「────おい、聞いているのか赤髪。」

 

「あ、いや、俺は別に怪しい物じゃ。」

 

そう言って胸ポケットからシャーレのIDパスを取り出す。

 

「「衛宮士郎」.....失礼しました。

貴方がシャーレの「先生」でしたか。

 

今回は例の件で?」

 

「その「例の件」ってのが今起こってる暴動の事だとしたらそうだ。

これから止めに行く。」

 

俺がそういうと、彼女の視線が鋭くなる。

これは恒例の値踏みだろう。

俺が彼女のお眼鏡に叶うといいんだが....。

 

「そうですか、私はヴァルキューレ警察、公安局、局長をしております。

尾刃(おがた)カンナです。

何かあれば遠慮なくヴァルキューレにお申し付け下さい。

それではご武運を。」

 

そうしてそのまま簡易の挨拶をして去っていった。

 

「あ、あれが泣く子も黙るどころか叫ぶ「狂犬」ですか.....。」

 

「うぉっ!?

浦和!お前何時からいたんだ!!?」

 

真後ろに浦和が立っていてビックリしてバランスを崩す。

ただ、振り向いた彼女は首から三角巾をさげ、腕をつっていた。

 

「大丈夫ですか、ハナコちゃん!?」

 

「ご心配なさらないでください。

見た目よりもっと軽傷ですから。

 

それより、話はだいたい医務室で伺いました。

真実を見極めに行きましょう、衛宮先生。」

 

 

「......そうだな。

まずは詳しい情報を持っていそうなFOX小隊と合流する。

残ってる街の人を避難誘導しながら情報を聞き出すぞ。」

 

「「はい!」」

 

とはいったものの相手は特殊部隊だ。

そう簡単に足のつく情報を残すはずもない。

 

それでも、会って、話してみたかった。

()()()()()()()()()()助けられなかった少女達の心の声。

 

それを俺は聞かなければいけない。

その義務が、俺にはあるのだから。

 

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