衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
作戦が始まった。
シャーレ玄関口にいるのは俺と美甘、そして高倉の3人のみ。
建物前は既にヘルメット団がたむろし始めている。
「こちら「
全分隊に告げる。
現在ポイント
.....こんな感じでいいか?高倉。」
「.....もうちょっと詰まらずにスムーズに言えて欲しいけど....
及第点かしらね。」
作戦前に決められた
これは、七度が提案してきたものだった。
通信時の身バレを阻止し、また効率よく部隊運用する為でもあるという。
幸い各務を除けば別れたチーム全てにFOX小隊のメンバーがいた。
そして、それを委ねられたのは、指揮する人間が俺であり、尚且つ慣れていないだろう事から自身で覚えられる名前の方が良い、という七度の判断だった。
あまり話しかけられない七度から直々のお願いというのもあり二つ返事でのんだ。
その結果、俺は
美甘と高倉は
浦和と天神山は
そして、七度、吉野、ヒフミは
本来のコールサインは一人一人に付けられる。
が、ここには慣れていない俺やヒフミが居るということもあり変則的なコールになった。
『「アーチャー」より「セイバー」へ。
視界良好。
いつでも支援可能。』
「了解だ。
.....よし、行くぞ2人とも!」
俺が合図を出すと高倉は頷いて建物前へスタングレネードを投げ込んだ。
数秒後、呻く生徒達の声を聞き、シャーレから脱出する。
「逃げたぞ!間違いない、「シャーレの先生 」だ!追え!」
数人の生徒は無事なまま俺達を追っている。
これで、いい。
この後ろにそれぞれヘルメット団全員を足していく形で走り続ける。
「......ねぇ、このままいくの?
やっぱり、端から捕まえてった方がよくない?」
いや、今更異を唱えたって遅いぞ高倉。
確かにその方が確実ではあるけれど、相手の
「まぁ確かに....ここには美甘もいるし、やってやれない事はないが、却下だ。
こちら「マスター」。
ポイント
マイクへ呟く。
すると各務から連絡が入った。
『ヘルメット団が1グループ接近してる。
早速合流したみたい。
残り7グループ。
ついでに言うと、合流したのを含めて2人も、『
迅速かつ必要な情報が飛んでくる。
正直言って、逃げながら敵の配置を頭の中でシュミレーションなんてやってられないので非常に助かる。
「えぇと.....お前は「
この場合。」
考えてみれば各務のコールサインは全く決めていなかった。
言い出された時には居なかったし。
『どちらかと言うと
「「CP」.....ってなんだ?」
俺の疑問に対しては高倉が答えた。
「CP....コマンドポストって言うのは通信司令所。
もしくは指揮所のことよ。」
....なるほどな、作戦の元締みたいなもんか。
『.....いいわ、それで。
情報を取り扱う、っていう意味では間違ってないし。』
言われた事がむしろ理解できなくて頭が真っ白になる。
キャスター.....キャスター。
あぁ....ニュースキャスターとかの意味合いのキャスターか。
考えてみればそっちの方が余程一般的だった。
「それで「キャスター」。
監視カメラからこいつらの「司令塔」は見えないか?」
出来るならそちらを片付けた方が手っ取り早い。
そうすれば背後なんて気にせず戦える。
「.....一体いくつD.Uの防犯カメラがあると思ってるのっ!」
.......鼓膜が壊れそうな声量が、インカムから聞こえてきた。
そりゃそうか。
彼女は一人なわけだし。
ヘルメット団の位置を把握するのが関の山だ。
「.....悪い、馬鹿言った。
じゃあ「
『ええ、そういうこと。』
じゃあその中にワカモが居ないとすると
んな
俺にとってワカモは1人だけだし、1人でいい。
「了解した。
引き続き監視継続は頼んだぞ。」
通信を切る。
各務から各ヘルメット団の大体の位置を教えてもらった時点でルートはアロナに決めて貰っている。
「ポイント
『こちら「ランサー」。
了解した。』
作戦は、順調に進んでいる─────
「あ、あの.....よろしくお願いします。
精一杯、頑張ります...!」
作戦は進んでいる。
けれど、特殊部隊員でも、正義実現委員会生徒でもない平凡な私にとって、それは初めての「作戦行動」と言えた。
知らない生徒と、初めて来る場所で。
何もかもが、不安のままだ。
衛宮先生の様子も。
FOX小隊の方々と衛宮先生の関係も。
そしてこの先の未来の事だって。
「.......先ほど指示した通り、貴女にはB棟からの射撃をしてもらう。
合図は私が出す。」
路地裏を歩いて、3人で目標地点へ。
「.....ヒフミちゃんは衛宮先生が心配?」
「は、はい......それもそうなんですけど....。」
あまりにも居心地が悪かった。
初期の補習授業部など比ではない。
「不安なんだろう。
そもそも、無関係な一般生徒である貴女がこの作戦に参加する必要性はないと私は言った筈だ。
練度が低ければそれだけ作戦進行に支障をきたす。」
無関係の一般生徒。
それでいて、強くないから。
「足手まとい」だと彼女は言っている。
けれど、生きている限り「無関係」な事などあるのだろうか?
それこそ、私たち補習授業部はシャーレでやっかいになっている。
「貴女も貴女だ。
どうして付き従う?
どこを見て信頼に足りえると判断した?
何故、彼を守る。」
「え....そんな「どうして」と言われましても....。
衛宮先生には二度も助けられてますし.....恩義、と言う答えでは....ダメでしょうか?」
体を貫かれそうな眼差しに、怖気付いた自分がいる。
けれど、この問いにはしっかりと答えを出さなければいけないという自分もいた。
考えをまとめよう。
「確かに....私は極普通の、平凡な一人の生徒で。
強い訳でもなく、権力も、名声もありません。」
「......ヒフミちゃん、そんな言い方しなくても....。」
ニコちゃんが手を握ってくる。
ユキノちゃんに言われて、自身を
けれど、違う。
私が本当に言いたいのは、この先だ。
「事実です。
だから、私は補習授業部で出来る限りのことはしてきました。
でも、それが出来たのは「退学になるから」なんて脅迫観念だけじゃありません。
「補習授業部」の皆が、大好きだったからです。
皆が居てくれたからこれまでの苦難を乗り越えられました。」
そうだ。
私一人では、何も出来なかった。
無力だった。
「......「ペロロ様」もそうです。」
は?と。
2人の目が丸くなる。
構わない、言い続けよう。
「私は「モモフレンズ」.....「ペロロ様」のグッズを手に入れる為ならどんなことだってしてきました。
ライブに行くためにテストをサボって。
口で言うのがはばかられる様なことも。
衛宮先生に「努力の方向性が間違ってる」なんて言われましたけど...あはは.....。」
「「......」」
2人とも唖然としている。
変なタイミングでの「私、不良です」というカミングアウト。
それでも、ユキノちゃんは口を挟まず、聞いてくれている。
私の語りを止めることもなく。
「それを続けられているのは、ペロロ様のことが大好きだからです。
多分、私は
のだと思います。
だから、私は衛宮先生の事も補習授業部の皆さんと同じように大事で、好きなんだと思います。」
「......なんだ、その要領を得ない回答は.....。」
ここからは、私の番だ。
「.......ユキノちゃんは衛宮先生を誤解しています。」
「───誤解だと?」
緊張して上手く言葉にできずに決めつけているような言い方をしてしまった。
.......そうか。
私は、彼女達に───ユキノちゃんに対して、怒っていたのだ。
「初めて会って何も事情を知らないのに、上辺の情報を信じて衛宮先生のことを否定していた事です。
私は....トリニティという大きな学園で、潰れることも無いような学校に通っているので....自分たちの「居場所」を無くすその苦しみも分かりません。
それでも、それを衛宮先生と絡めて、彼にあたるのは間違っていると思ったんです。
.......今回、騒動を起こした生徒達のことを衛宮先生は十分知っていました。
それでも、助けられなかった。
それは彼が見て見ぬふりをしていた訳ではありません。
「完璧」な人間なんていないから....衛宮先生も誰を彼をも助けられるような人ではないんです。」
「.........。
そうだ。
なのに、あの男は「全てを救いたい」「助けたい」等と実現できない、
所詮は他と変わらない、「嘘つき」で「何もしない大人」だ。」
その言葉に、酷く感情を掻き乱された。
(パシンッ!)
「────!な....!?」
「ユキノちゃんが....反応できなかった....?」
気づけば、その頬を平手打ちしていた。
赤くなった頬を見て、視界が潤む。
「.....っっ...!
衛宮先生の苦悩も、思いも知りもしないで!
そんな決めつけを言わないでくださいっ!
衛宮先生は私を助けてくれました!
アビドス高校をカイザーから守ってくれました!
ワカモちゃんや藤河さんを真っ当な道へ戻そうと、導こうとしてくれてます!
衛宮先生は
アズサちゃんやハナコちゃんに青春を送る機会を取り戻してくださいました!
盲信したナギサ様を止めてくださいました!
もっと沢山、私が知らないだけで、誰かを助けようと、導こうと手を差し伸べている筈です!
そしてその全部が───ずっと、悩んで選択してきた道の筈です。
私は知っています。
衛宮先生の苦悩をずっと....間近で見てきたんです!」
流れていく涙を、袖で拭う。
それでも、止まらない。
初めて、気づいた。
大事な人を傷つけられる事がどれほど、苦しい事なのか。
知らなかった。
しかし─────
「.......勘違い....?いや違う。
なぜなら、私は彼の─────過去を見たからだ。
衛宮士郎はそんな「人間」などではない。」
「え.....?」
その一言で、私の涙は止まった。
衛宮先生の.....過去?
「たった....それだけですか?」
「......あれは変わらない、未熟なまま己に縛られ、何もかもを破滅させる。
苦悩などしない。
彼は、
それでわかった。
この人も、ナギサ様と、同じなのだと。
彼女は、過去しか見ていない。
衛宮先生のことも、恐らくSRT特殊学園の事も。
そして、今度こそ、救われない。
ナギサ様を止めた衛宮先生は、ユキノちゃんに対して強く出れずにいるだろう。
その理由は、
そして、私にはどう止めて良いかわからない。
恐らくハナコちゃんにも。
「可哀想です.....。」
それは衛宮先生に向けた言葉なのか、ユキノちゃんに向けた言葉なのかも分からない。
それからひたすらに目標地点へ黙って歩いた。
着いてからも、指示はたった「散開して潜伏」の一言だけ。
その結果、私はB棟の会社のオフィスと思わしき場所の椅子に座って苦悩していた。
「.....ユキノちゃんに言い過ぎてしまいました.....。
謝る機会も....失ってしまいましたし。
.....どうしよ───」
そして俯いていた私の視界に、何か光るものが写った。
細い糸。
それは机と机の間を繋ぐように存在していた。
ゲヘナの廃墟で起きたことが脳裏にフラッシュバックする。
「まさかこれは....!」
どうして、など考えている暇はない。
急いでユキノちゃんに連絡する。
『.....どうした。』
「ブービートラップです!
私が入った部屋に偶然仕掛けてありました!
こんなこと段取りにありましたっけ!?」
『────何!?』
それで通信は1度切られる。
冷静な声で再度通信が帰ってきた時には、状況を把握したらしい。
『────報告の通りだな...FOX2、気をつけろ!
建物内はトラップが数多に仕掛けられている。
阿慈谷ヒフミ!そこを動くな!
今行く。』
アンブッシュからのブービートラップ。
間違いなくこれはアズサちゃんの得意としていたゲリラ戦術だ。
もし、これに気づかずに撹乱のため部屋を移動して窓から撃っていたら......。
でもどうして?
『......やはり「災厄の狐」は敵の中に紛れ込んでいるな。
元々ヘルメット団をバラバラに配置していたのもこれが理由か。』
ユキノちゃんは、これがワカモちゃんの仕業だと思っているようだった。
『違う、ワカモはこんな回りくどいやり方なんてしない。』
衛宮先生が、走りながら擁護している。
私もそう思う。
ワカモちゃんが、衛宮先生を害するわけが無いのだから。
それでも、ユキノちゃんは疑いを辞めない。
『貴様は以前の「災厄の狐」のその本性を知らない!
あれは狡猾な狐だ!
所詮はシャーレに居た時など仮面を被っていたに過ぎないとは思わないのか!』
それはありえないと、聞いていて思う。
暴論だ。
『「ならお前達だって!
今の「シャーレ」の狐坂ワカモが───
......なんだあれ.....
「アーチャー」!2時の方向、狙撃地点予定Bにきらめく光がみえた。
確認してくれ!』
『オッケー、「マスター」』
急に衛宮先生の側も忙しくなっている。
何かを見つけたような言い方だったが。
『......えっ────』
(パキンッ!)
オトギちゃんの通信に、何かが炸裂したような音が混ざった。
間違いなくそれは、攻撃されたことを示している。
誰に、何の目的で?
『.....!?
おい、「アーチャー」!
状況を報告しろ!何があった!』
ユキノちゃんからの通信に出たのは、ハナコちゃんだった。
『.....こちら、「アーチャー」。
狙撃手が目標を確認する前に攻撃されました。
スコープは破壊され、狙撃手も気を失っています。
相手の弾丸は相当口径の大きい.....20mmの対物弾です。
今建物内から出るのは危険です!
「キャスター」さん。
衛宮先生を注意地点から死角になるように誘導してください!』
『....オッケー。
ガイドは任せて。』
通信が慌ただしくなっていく。
続く良くない情報の数々。
そして─────
「気づかれたか。
余程勘が良いと見える。」
後頭部に、突きつけられた銃口。
冷たく尖った声。
振り向けない。
「あ....あなたは一体....ヘルメット団の方ですか....?」
「.....お前が知る必要はな───」
(ダダダダダダッ!)
銃声。
真後ろではない。
威嚇射撃だったのか、それで後ろにいた生徒は距離を置かざるを得なくなった。
「無事か!」
「ユキノちゃん!」
あれだけ言い争いをしていたのに、結局ユキノちゃんに助けて貰ってしまった。
「.....わざわざ敵の陣地に入り込んでくるとは。
馬鹿め。」
そう言い放った、私の背後にたっていた紺色の長髪の生徒は。
私たちの部屋の中へ、手榴弾を投げ込んだ。
「....くそっ!」
私を庇うように、ユキノちゃんは私をガラス窓から突き飛ばした。
その彼女の背中で、グレネードは炸裂。
そして、ブービートラップに誘爆。
(ドカァァァン!)
「ユキノちゃぁぁぁぁぁん!」
背中で五階の高さからアスファルトへ身を打った。
衝撃で呼吸がしにくくなるのと同時に、
「......一般人か。
関係ない。
見られたからには
この人が、衛宮先生の言う「舵取り」なのだと理解する。
そして、その振る舞い、口調は何処か見覚えがある。
「......全ては──────っ!?」
(ドォン!パァン!パァン!)
向けられた銃口が、再度離れていく。
ニコちゃんが、助けてくれたのだろうか。
「貴女.....誰の許しを得て、衛宮先生の生徒に手を挙げているのですか....?」
この声は....そう、聞くのも久しぶりな.....
「ワカモ....ちゃん....!」
信じていた。
信じてよかった。
「......お待たせいたしました、ヒフミさん。
今お助けいたします。
私は、補習授業部の副担任であり、貴女々の、友人ですから♪」
下から見えた彼女の後ろ姿。
そこには