衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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Vol.3 エデン条約編 第3章 私達で(いろど)る私達の物語
#1 ポストモーテム/乖離


公園でのとある野暮用と報告を済ませ、俺はトリニティのティーパーティーのテラスへと足を運んだ。

相変わらず俺に対する視線には懐疑的なものや冷たいものが混じっている。

 

門の前にティーパーティーの制服を着た生徒が数人立っている。

その全員に見覚えがあった。

俺へ気づくと数人は眉が動いた。

────気づけばそれは、補習授業部の合宿の最中に、俺達を襲った生徒達だった。

 

まぁ良い感情を持ってはいないのは確かだろう。

そのナギサの親衛隊というか、部下に声をかけられた。

様子から見るにナギサの指示か何かで俺を待っていたのだろう。

 

「衛宮先生、お疲れ様です。

ナギサ様から案内するように仰せつかりました。」

 

一人が礼儀正しく挨拶をすると、皆同じ様に頭を下げる。

親衛隊の頭取だった。

その生徒からだけは、嫌な感情や態度がさほど感じられない。

 

「あぁ、よろしく頼む。

.......別に無理に敬語とか使わなくたっていいんだぞ?」

 

「何を仰りますか、丁重におもてなししなくては、トリニティの代表であるティーパーティーとして示しがつきません。」

 

......完全に他人行儀になってしまった。

これなら感情むき出しだった時の方が幾か相手しやすかっただろう。

 

「それに、衛宮先生はナギサ様を助けてくださいました。

恩人に失礼な態度はとれません。

そうですね?皆さん。」

 

「「────」」

 

.......おい、何人か、目を背けてるんだが。

前向きに考えるなら、頭取の意識改革ができて。

尚且つ部下を制御下におけているんだから、良くなったと思っておこう。

 

 

 

 

 

「ようこそおいで下さいました、衛宮先生。

D.Uでは何かと大変だったご様子で....。

申し訳ありません、正義実現委員会の生徒に向かうよう手配はしていたのですが。

 

まさか一日で解決なされるとは、流石です。

経典の件も一日で修復し、式典会場まで届けるとは......。

はやり衛宮先生に助けを求めて、良かったと思っています。」

 

俺をテラスで出迎えたのはナギサ、浦和、そしてサクラコだった。

褒めちぎってくるナギサの言葉を思わず否定で返してしまった。

 

「いや、あれは俺一人で解決したんじゃない。

SRTが居てこそだ。

 

むしろ情けない。

俺が不甲斐ないばかりに不満を出汁につけ込まれる生徒が出てくるなんて。

 

む、それはそうとサクラコ。

お前経典の事件の時、一切既読もつかなかったし、電話にも出なかったよな......あれ、今度きっちり説明してもらうからな。

まさか機械音痴で携帯が一人で使えなかったなんて訳じゃないだろうし───」

 

「────衛宮先生はまさか、人の心が読めるのですか!?

仰る通り、私は電子機器に関して不得手でして。

特にここ最近の機種などにはついていけず.....」

 

そうして彼女が見せたのは、ガラパゴスケータイ、所謂「ガラケー」と言われる開閉式のボタン操作型端末だった。

 

「あの────サクラコさん?

モモトークはそれ対応していらっしゃるんでしょうか?」

 

これには苦笑いして聞いている浦和。

余程予想外だったのだろう。

 

「─────いいえ、あぷり...?を開くことはできるのですが、一切反応せず画面が固まってしまって......。」

 

「「─────」」

 

.......大当たりだったらしい。

遠坂ならこの手のやらかしはしそうなものだが、まさかサクラコも同じ手合いだったとは。

 

なんだろう?

こう、時代に置いていかれた近所のお婆さんのような。

 

「......今度から直接話しに行く。

あの時はどう足掻いてもサクラコに会えなかったから仕方ないとして。

まぁ、その話はまた今度だ。

さて、話を仕切り直そう。」

 

そう、その点でいえば何も解決してない。

 

「ナギサ、俺はただその場しのぎをしただけだよ。

今のトリニティと同じだ。」

 

「........確かに蓋をしたに過ぎませんか。

ですが解決策は用意してるのでしょう?」

 

頷きはするものの自信はあまりない。

あるにはあるというか、相変わらずの一点張りというか。

 

「藤河組の皆が何処かの学園に再入学してくれればいいんだがなぁ。

 

さて、それ以外にも話す事がある。

────ワカモ、頼んだ。」

 

そう言って俺の席の後ろに立つワカモに話を振った。

 

「はい、あなた様。

.......ご報告があります。」

 

そしてワカモの口から話された事実。

D.U騒動の裏で暗躍する、アリウス生徒。

その特殊部隊。

 

「D.Uの騒動にアリウススクワッドが.....ですか。」

 

「........俺も信じたくはないんだが、容姿の話を聞く限りおそらくそいつはアズサの所属していたアリウススクワッドの姉貴分、サオリって奴だ。」

 

敵の正体だけはハッキリとした。

その目的は一切不明のまま。

 

「「!!?」」

 

「あ、あなた様?

アズサさんからお聞きになったのですか?」

 

あ─────。

そういえば、話していなかった。

というか、忘れていたのもあるが、話をしないべきだと、今まで思っていたのだが....。

 

「俺は、合宿のある日。

アズサがひとりでに別館を抜け出していたのを尾行した。

 

今思えばあいつは偽の情報を伝えるために、サオリに会っていたんだってわかる。」

 

「─────アリウススクワッドのリーダー、錠前サオリに会ったんですか!?

よくご無事で.....。」

 

流石の浦和も驚いている。

 

「「今は俺を始末するタイミングじゃない」みたいな事言ってた。

多分アリウススクワッド───アリウス分校が描いているシナリオはセイアやナギサ、お前たちの暗殺だけに留まらない。

多分()()()があるはずだ。」

 

ナギサは考えるために、ティーカップをソーサーごとテーブルへ置いた。

 

「........つまり、衛宮先生は「アリウススクワッドの狙いはエデン条約」にあるかもしれないと?」

 

 

「あぁ.....狙ってきてもおかしくない。

警備体制を強化するだけじゃダメだ。

事実俺達は()()()どこからあれだけのアリウス分校の生徒達が侵入したのか未だに掴めていない。

 

それと、お前達の取り巻きやミカを操っていたのは精神干渉の魔術だ。

一種の洗脳に近い。

となるとサオリの背後にさらに魔術師がいて相手は移動させる行程に魔術を使っていた可能性もある。

 

アリウス分校の人数がどのくらいかは分からないが最悪調印式中に転移───わかりやすく言うなら瞬間移動してくる可能性もある。」

 

考えうる限りの最悪の想定を、実は言っていない。

()()()()()()()()()なんて話、対抗手段がある訳もなく。

 

「ですが、それならば私達ティーパーティー3人をそれで攫えば済む話なのでは?」

 

「魔術の条件も分かってないしな。

あくまで可能性の話だ。

 

話を変えよう。

サクラコ、アズサから聞いた話を、俺にも共有してくれないか?

実は今でもセイアの件に関しては分からないことだらけなんだ。」

 

「はい、アズサさんの話では────」

 

 

 

サクラコが言うには。

アズサはティーパーティーを()()任務についていたということ。

けれど本人は真逆で、アリウス分校とトリニティの関係を改善こそすれ悪化させたくないと考えていた。

そのまま任務を開始したアズサはセイアを指示通り襲撃。

 

しかし戦闘の最中、セイアがアズサを半ば説得するような形で任務は達成されないまま終わった。

アズサはセイアが死亡したように偽装し、セイアも救護騎士団の蒼森ミネへ連絡、ティーパーティーへ「死亡」の連絡をさせた。

負傷はしていたので団長はセイアを救助した上で指示の元その身を隠した。

 

 

「けれど、一転。

その「真実」はティーパーティーに伝えられなかったが故にナギサさんは疑心暗鬼に陥ってしまった。

それがこの一連の────」

 

───なぁ、サクラコ。

別に悪気があるんじゃないだろうけどさ。

最後のそれ、本人の目の前で普通言うか?

 

「....うっ...!ゲホッゲホッ....!」

 

パリンパリンと陶器が割れる音が響いた。

まぁ音の出処は言うまでもない。

 

「ど、どうしましたナギサさん!?」

 

無自覚らしい。

 

「お前は何処ぞの神父みたいに人の傷を抉るの得意かよ.....。

おい、ナギサ、大丈夫か?

せっかくの美人が台無しじゃないか。

服には....飛び散ってないな、染みにはならなそうで良かった。」

 

その背中をさすってむせ込んだ上に吹きこぼした紅茶はハンカチで顔を拭ってやり、そのまま割れたティーカップをハンカチの上に回収する。

 

「怪我は無いか?

───お、おい本当に大丈夫かよ....。」

 

ナギサは俺の腕を遠ざけるように優しく押しのけた。

 

「────ご心配、ありがとうございます......//」

「気にするな。

むしろ顔真っ赤なのは俺のせいか

?」

 

距離は近すぎない、大丈夫だ。

火傷でも無さそうだし、というかこんなので火傷なんてしないか....と思ってしまったことは良い事か悪い事か。

 

「いえ.....その、色々と...恥ずかしいと言いますか.....。」

「誰にだって失敗はある、問題はその経験を活かせるか否かだ。」

 

直ぐ様替えのティーカップに紅茶を注ぎ、ナギサの目の前に置いた。

 

 

「.....申し訳ありません、ナギサさん....配慮が足りませんでした....。」

 

サクラコはと言えば、浦和から軽く説教を受けたようだ。

ここは話を変えよう。

 

「後は、あまり触れられてないけど。

ミカとアズサの供述はどうも食い違ってるみたいだな。

 

ミカは裏で手を引いていてセイアを襲撃して、ナギサを捕縛するよう指示を出したらしいが。

 

アズサに言わせれば、ミカからの直接の指示じゃないらしい。

全部サオリからだって。

 

感情面だけを見るなら、対峙した時にアイツはセイアを殺したってアズサのことを目の敵にしてた。

それに人を殺すだけの度胸は無かったし、だからこそ「キヴォトスでの殺人」がどれほど重い罪なのかを理解してた。」

 

あいつから「殺し」に対しての考え方は2度聞いた。

 

1度目はマコが行方不明になった、という話をした時。

2度目は体育館で、対峙した時。

どちらも同じように「人を殺す 」ことに対して否定的で、嫌悪を示していた。

 

「あいつは最初、「アリウス分校」と「トリニティ」を和解させたい。って俺に言った。

その為にアズサの書類を偽装して入学させた。

 

動機はともかくとして、アズサの入学の手引きはミカがやっていたんだよな?」

 

「はい、その通りです。」

 

俺がそう疑問を持てば、サクラコがその書類を差し出してきた。

確かに承認印はティーパーティーの物だったが、筆跡は業務していた時の字から見てミカのものだ。

 

「────ならアリウスの生徒を手引きしたのはミカなんだろう。

けど、色々と辻褄が合わないことがある。

 

アズサの話だとあいつ、最後は手のひら返してアリウス分校の生徒を7割方1人で倒しちまったんだ。」

 

「「────!?」」

 

この話は聞いていないのか、ナギサとサクラコは動揺を隠せない。

 

「それは本当ですか?」

 

「はい、間違いないと思います。

実際、別館周辺の罠のないところには撤退するアリウス生徒が多くいましたから....」

 

浦和が事実を裏打ちしてくれた。

さて、ここで問題だ。

 

「ミカは何でアリウス分校やアリウススクワッドを裏切ったんだ?

それは何時からなんだ?」

 

「......。」

「.........。」

 

誰も何も言えない中、浦和が諦めたように

 

「......ミカさんはゲヘナのことを憎んだ結果として、エデン条約を壊そうとしたのではないでしょうか?

もし彼女が被害者側なのであれば正義実現委員会に「私達を守って」と指示すればいいだけの話なのですから、事実上その可能性はなくなります。

 

おそらくセイアさんとナギサさんの2人を軟禁しホストの座に着こうとしていた

ですが、その指示がアリウススクワッドに誤って伝わってしまった。

もしくはアリウススクワッドが先に裏切り憎しみ故に独自に動き始め、ミカさんは「セイアちゃんが死んだ」と知らせを受けたミカさんはパニックに陥り、自分がホストになる方法と同時に「ナギサさんをアリウススクワッドから守る」手段を模索した。

 

こう考えると辻褄は会いますね....。」

 

先に裏切ったのはアリウス、か。

 

「では、私はミカさんに命を救われた。という捉え方も出来るわけですか.....。

 

ですが、補習授業部の方々に対しての妨害はどう捉えられば良いのでしょう?

あれほど過激に私のせいにする必要せいはあったのでしょうか?

 

私が試験会場を提示した時点で、それまでの蛮行を材料に「桐藤ナギサにホストの資格なし」と、トリニティ内でクーデターを起こすことも出来たと思います。」

 

「.....それは.....ミカさんの考えが及ばなかったのではないかと....。」

 

「あの「ゲヘナ嫌い」のミカさんが用意周到に「美食研究会」や「内部工作員」へ連絡を取り、衛宮先生の道や退路を塞いでいたと言うのに?

さらにいえばゲヘナで破壊工作をした生徒の身元は未だ調べが付いていない様子なのです。

 

何か見落としがあるはず....それか手違いが....。」

 

「......。」

 

答えなんて出ない。

今のミカには当時の記憶はないのだから。

あったとして、素直に答えただろうか?

 

「「何がしたかったか分からない」.....か。」

 

「はい?今なんと?」

 

ナギサに尋ねられ、俺は最初にミカが仕事をサボって合宿の査察に来た時にした話を繰り出した。

 

「私も時々、何がしたいのか、何をしようとしてたのか、分からなくなるんだ......」

 

「「目的」を見失った。

だから、「手段」を「目的」にすり替えた。

 

ナギサは守らなきゃいけない。

けど、ホストにもならなきゃいけない。

 

その結果、さらに困惑してこの事態に発展した。

ミカは「()()()()()()()使()()()」。

そう判断できなくもない。」

 

そして、もう一個の議題。

 

「最初の話に戻る。

D.Uで暴動に使われた武器があるんだが。

 

どうやらシスターフッドが前にパテル分派にガサ入れしてまとめてくれた「違法武器」の件があったろ?

 

あれと同型品のものがいくつか見つかった。」

 

そして、カバンから書類を何枚か取り出して見せた。

 

「......確かに、同じもののようですね。

では.....アリウス分校は独自に違法武器の制作をしている、ということでしょうか?」

 

「あるいは、仲買人だったのか、ですかね。

......やはり情報が足りませんね。」

 

サクラコの推測に、浦和も思慮深い推測で返す。

 

今整理出来る情報は、このくらいか。

 

「とにかく、アリウス分校は()()()

アズサもミカも「人殺しを教える学校」と称していた。

 

エデン条約締結式は万全の体制で望むべきだと俺は思う。」

 

「........そうですね。

分かりました。

 

ティーパーティーの生徒だけではなく正義実現委員会にも備えるよう指示を出しておきます。

 

シスターフッドの方はサクラコさん、お願いします。」

 

 

「分かりました。」

 

これで解散だ。

間違いなく会場にアリウスは現れる。

式までもう間もない

不安を抱えたままのエデン条約締結式が、始まる。

 

 

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