衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
仕事面でもボロボロです。
何発撃っても倒れない。
ダメージが入っているのかもはや怪しい。
いや、違う。
倒れていないように、見えていただけだ。
それは無尽蔵に、何百体も後ろに控え、無力化した数だけ───いやそれ以上に現れてくる。
1人2人倒したところでは、「倒した」とは言えないほどに。
「.........。」
ツルギの表情も険しい。
諦めてはいないだろうが、為す術がない事に無力さを感じているようだ。
負傷して不調とはいえ、ツルギをもってしても巻き返せないという現状に、この場にいる全員の士気と戦う熱意が削られつつあった。
「.......これでは....。」
「まずいです....せめて衛宮先生だけでも....。」
ヒナタの献身的な言葉を起点にして、この場の流れが変わっていく。
その発言から、この先の展開が読めてしまった。
「......ハスミ、この場をお前に任せる。
その間に......私が
案の定、このタイミングで一番聞きたくない発言が聞こえてきた。
ツルギはハスミ、自分の部下に「ここで死ね」と。そう言ったのだ。
「おい、待───」
「....分かりました。
衛宮先生と、ナギサ様を─────。」
(ダダダダダダダダッ!!)
ハスミが、決意を固めたその時だ。
突如として、機関銃を掃射する爆音が耳に入る。
するとどうだろうか。
目の前にいた「
その存在が初めからなかったかのように、塵一つ残さず。
「良かった.....間に合った。
消え入りそうな掠れた声。
しかし、しっかりと聞こえる、叫びのような呼び声。
「.....!ヒナ、無事だった───の...か。」
安心をもってその声の主を見上げる。
しかし、希望とは裏腹。
彼女の身体はハスミ以上の重症だった。
「話は聞いた。
正義実現委員会、ナギサとシロウは私が受け持つ!
イオリ、時間稼ぎをお願い!」
「りょ、了解!」
そして、ヒナの判断もツルギ同様。
俺とナギサを逃がす為に、ここに残れと、自らの部下に命令を下した。
「いい加減に....しろ!」
「......シロウ...?」
────ダメだ、そんなこと許容できない。
盾をかなぐり捨て、両手に二刀を作り上げる。
「.....お前たちを置いてここから離脱しろだって!?
そんなこと出来るもんか────!」
怒りが勝り、撃鉄が落ちた。
こんな状況で、皆死ぬかもしれないって時に、おめおめ逃げ出せなんて。
そんなこと、どうして出来ようか。
足をバネにして前方へ飛翔する。
「「衛宮先生──!」」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ──!!」
覚悟が決まる。
距離を詰めるは瞬きの間に。
その二刀を、ユスティナ聖徒へ振りかざした。
問題ない、既にそいつが持っているアサルトライフルの適正射程距離じゃない。
反応も遅い、防ごうとする挙動など微塵もない。
これならいける。
「
───た.....?」
───が、振りかざした二刀は不自然な形で崩れ、壊れた。
まるで、彼女達聖徒会も、生徒の一部だ、と言わんばかりに───
攻撃は失敗した。
すかさず再び盾を形成しようとするも、相手の動きの方が早かった。
(ダダダダダダダッッッ!)
「────ガ....!」
回避できず、胴体に弾丸が直撃する。
そのまま仰け反るように仰向けで地面に倒れる。
「衛宮先生....!」
ツルギが駆け寄ってくる。
幸い、俺の体に穴は空いていない。
全部胴体に直撃し、頭は逸れていたので当たらなかった。
その直撃した胴体は、月雪達のくれた防弾チョッキが守ってくれた。
「か、間一髪助かった。
けど、あれは「生徒」だ....。
「先生」のままじゃ倒せない.....。
今度は「神秘」を全開で────」
「.....いいえ.....衛宮先生はこの場を離脱してください。」
立ち上がろうとする俺の肩に、ハスミが手を置いた。
「そんな事───」
「.......
ですが、今はハッキリしています。
私達「正義実現委員会」は「規律、規範」を守り、守らせる事だけが仕事ではありません。
その真髄は「人を守る」ことにあります。
よって、ここで私達がすることは、自らの「正義」を最後まで貫くこと.....。
そうですね.....ツルギ、皆さん。」
その言葉に、皆が頷いた。
けれど、俺は受け入れられない。
「なら俺の正義は────」
子供を、自らの生徒を守ること。
それが「先生」としても「正義の味方」としても歩むべき道だろう。
「───ッッ!」
(パシンッ!)
敵の戦力に即応しなければならないっていうこんな時に。
ナギサは、俺の元まで走ってきて頬を叩いた。
流石にこれには味方どころか、敵も混乱したらしく攻撃が止まった。
「貴方は.....何をしているのですか───!」
「何って....ここで戦って、活路を切り開かないと。
今のお前達だけじゃアレは突破でき──」
ナギサは俺を睨みつけ、「もういいです」と一言つぶやくと辺りの生徒に指示を出し始めた。
「空崎ヒナさん......衛宮先生と私を連れてここから脱出してください。
ここはツルギさん、ハスミさん旗下の正義実現委員会で食い止めていただきます。」
ナギサも、ツルギと同じようにハスミ達を切り捨てた。
「お前、怖気付くのは後にしろ!
今は────」
「今、生き残るべきは私達です!
現在のティーパーティーの唯一のリーダーである私と、シャーレの衛宮先生が生きて、ここから脱さなければ事態は好転しません!」
「────。」
表情は怯えても怖がってもいなかった。
ただそこには「ティーパーティーホストとしての責任」を持った、桐藤ナギサが立っている。
「現在トリニティは混乱の真っ只中でしょう。
私を除けばミカさんは
トリニティの混乱を収められるのは私だけです!」
「だから.....俺たちが逃げる時間をこんな状態のハスミ達に稼がせろってのか ....!
冗談じゃない、それならお前とツルギが───」
「ゲヘナとのコミュニケーションはどうするのですか!?
混乱しているのはトリニティだけではないでしょう.....。
先程のハスミさんとイオリさんのように責任を互いに押し付け合うようになるのは想像に容易い.....。
貴方は何ですか、何の為の「シャーレ」なのですか!?
今、その判断は「シャーレの先生」として、正しいものですか!?
衛宮先生───!」
────その質問は。
あの時ナギサを宥めた時と、立場が逆になっていた。
それを言われては、立つ瀬がない。
「けど....俺は....!」
見捨てられない。
誰一人として、
ここで生徒を残して、生き延びることは可能かもしれない。
だが、それでも────
「俺は失いたくないんだ───傷ついて欲しくないんだ!
もう誰も!もう二度と!」
沈黙が支配する瓦礫の上。
決心したように、ナギサは俺を睨みつけてこう言った。
「────衛宮先生がその態度を取り続けるのであれば、私にも考えがあります.....!」
考えとは、なにかこの状況を打開できる策があるのだろうか───なんて考えている矢先。
ナギサの体が、左足を軸にして仰け反った。
「歯を食いしばってくださいね。
─────せいあっ!」
(ドガッッ!!)
強烈な衝撃。
俺の体は気づけば吹き飛んでいて、壁を砕き、ガラスを割り、瓦礫に衝突していた。
「ナギサ.......お前......」
可愛らしい声と共に繰り出された一撃。
加減無しの拳による殴打はミカの攻撃に迫るものだった。
当然のごとく、強制的に意識が混濁し、動けなくなった。
「....ミ、ミカさんの真似をしてみたのですが .....
少々、やりすぎてしまったようですね.....。」
苦笑いするナギサ。
ツルギもハスミも、銀鏡も、当然ヒナも目を丸くしてその光景を眺めている。
「ですが、うまくいきました。
ヒナタさん.....衛宮先生を運んでください!」
「は、はい....!」
そうして、ヒナの銃撃が、敵を蹴散らす中。
ツルギ達の姿が遠ざかっていく。
そして最後に───
「風紀委員長!───衛宮先生をよろしくお願いします。」
「委員長───どうかお気をつけて!」」
ハスミと銀鏡が、頭を下げて俺たちを見送った。
「任せて....3人共、私一人で守りきってみせる。」
俺の意識は、ヒナのその言葉を最後に、途絶えた。
揺れる体。
誰かに担がれているのだと、状況を理解する。
「........下ろしてくれ。
ヒナタ。」
しばらく経ったのか、目を覚ますと敵を撒いたのか細道を走っていた。
「先生気がついたのですね!」
「衛宮先生!」
ヒナタとナギサが心配そうにこちらを見つめている。
殴ったのはナギサ、お前だろうに。
ヒナはと言えば、後ろを振り向かない。
そして、当然ながら辺りを見回したところでツルギもハスミも
「────......!」
その現実に立っていられなくなり、下ろせと言ったばかりでその場で足がもつれ膝をついた。
「何も失わない」なんていうそんな理想は
分かっている、何かを助けるために何かを犠牲者にしなきゃいけない時だってあるってことくらい。
けれど、納得できているかはまた、別の話だった。
吐いた。
吐いた。
吐いた。
弾丸どころか明確な「ナニカ」なんて出てこない。
何も出てこないのに、吐き続けた。
5分程だろうか。
逃げなければいけないのに、早くこの場から離脱しなければいけないのに、皆立ち止まってくれた。
そうだ────誰かを犠牲にして生き残ったなら、立ち止まってなんて居られない。
俺にはまだ、やるべき事があった。
例え、それが俺が望んだものでない選択であったとしても。
「........衛宮先生、申し訳──」
「ヤメロ───。」
謝ろうとしたナギサを、俺は力んだ声で止めた。
「.....お前にとって、それが最善の選択だったんだろ?
なら謝るな───お前がそんな事する必要なんてない。」
「─────。
......はい、ですが.....加減を....。」
謝るって、俺を殴ったことの方か。
だけど。いやむしろ、謝らなければいけないのは俺の方だった。
確かに、「シャーレの先生」ならば、「大人」なら。
あの場でその判断を下さなければいけないのは、俺の筈だったのだから。
「シロウ.....立てる?」
ボロボロになったヒナが手を伸ばしてくる。
それは心配もあるだろうが、どこか弱々しい。
「.....誰にも連絡がつかない。
周囲はおろかクロノススクールの中継も電波障害で繋がらない。
多分、これは補習授業部を妨害した時と同じ手段だと思う。」
連絡が取れない?
それは情報の共有がほぼ出来ないことを示していた。
誰が?なんの為に?
そんな事はもう分かりきっている。
アリウス分校が、ミサイルで混乱を起こしたのなら。
俺たちを分断し各個撃破を狙っていることも想像が着く。
しかし、それは現状を理解している俺たちだから把握可能な事だ。
嫌悪なゲヘナとトリニティの残存勢力はお互いに「ゲヘナに」「トリニティに」やられた、と思うことだろう。
もとより形無かったエデンは崩壊した。
それどころか、ひとつになり平和を目指そうとしていた学園同士はもう敵同士になりつつあるということだ。
そして、互いの言葉は伝わらない。
いや、もう意見を述べることすらしないかもしれない。
これではまるで─────
「.....シロウ。」
ヒナの呼び声で我を忘れていたことに気づく。
考えにふけるなどそれどころではなかった。
気づけば、辺りのビルのとビルの間の道、後方の至るところから例のサーヴァントモドキ。
この速度....もしかしたらもうツルギ達は────
「えへへ.....ようやく追いつきました。
空崎ヒナさん.....にがしませんよ.....。」
背中に大きめの箱を背負い対物ライフルを構える生徒がこちらへ迫ってくる。
「.......ヒナさん。
後のことはお任せします.....衛宮先生を連れて先に...逃げてください。」
それを、迎撃しようと言うのか。
ヒナタはここぞとばかりに持ち歩いていた20グレネードを構え出した。
「.......お願い....。
行くわよ、2人とも。」
「────はい。」
ヒナはそう言うと俺の手を引っ張る。
だがそれは────
「ま、待てよ.....ここにヒナタ1人置き去りにするって事かよ....ふざけ────」
明らさまにボロボロなヒナの引く力に抗えず、体は動いていく。
あの大群に1人で.....無茶な。
「ヒナタ!来い!
お前も逃げるんだ───」
彼女は、こちらに向けて最大限笑って見送っていた。
「衛宮先生......どうか─────」
連続で、生徒を犠牲に生き残った。
その度に、何かが、俺の中で失われていく。
「委員長───!」
その中聞き覚えのある声がひとつ。
見覚えのある車に乗ってやって来た。
「.......セナ....よく来てくれたわね。」
「委員長こそ、よくご無事で。
アコさんは回収しました。
お2人もお早────」
背後から現れたのは一番見たくなかった生徒だ。
その生徒は俺たちに聞こえるように、なにか語りかけてくる。
それは.....確か旧約聖書の創世記、バベルの塔からの一文だ。
人々は高い塔を建て、神に迫ろうとした。
早い話、蝋で翼を作ったイカロスのように、「そこへ」至ろうとした。
それを、神は止める為、言葉を分け、人種を分けた。
そうして意思疎通のできないものは
逆を言えば、互いを理解できなくさせるため「国」が作られたとも言える。
「だが、主は手ぬるすぎた。
何故自らのつくった物が自身の意図しない行動をしたというのに
私にはこれが分からない。
私なら、そのような愚かな真似などしない。」
帽子を深く被り、見慣れぬマスクを付けたアリウススクワッドのリーダー。
「錠前.....サオリ。」
「こうして会うのは初めてだな、「シャーレの先生」。
私達はアリウススクワッド。
お前達を、葬る者だ。」
「セナ......はやくシロウとナギサを乗せて、行って!」
ヒナが迎撃とばかりに銃を構える。
しかしその腕は震えていてしっかり保持できていない。
ようやくだ。
「逃げるのはお前だ!ヒナ!」
「────え....?」
俺はヒナの体を持っていた機銃ごと抱き上げて、セナの乗ってきた車のバックドアに投げ込んだ。
行かせまいと、サオリは射撃を繰り返す。
「クソったれ!」
その斜線に立ち、そのまま身体そのものを盾とした。
(ドガドガドガッ!!)
伝わる衝撃は1発1発が重く、鋭い。
あっという間に防弾チョッキなど役に立たなくなるだろう。
「.........胴体がダメなら頭を撃ち抜くまでだ。」
その銃口が真っ直ぐこちらへと向いた。
「な、なんてこと───!」
戸惑うナギサ。
それとは別に誰の声か、一瞬判断つかない弱々しい声が、耳に入る。
「.....い、や.........やめ...て。」
間違いなくそれは、ヒナのものだった。
多分顔を歪ませていることだろう。
されど、それを無視して、俺は運転手に指示を促した。
「行けっ───車を出せ、セナ!」
「......ご武運を。」
そうして車はエンジン音をたてて道路の奥に消えていく。
「なら生け捕りは中止だ。」
そして、俺の顔に向けて、銃弾が発射された。