衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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#8 残された手がかり/ブラックマーケットへ(I)

 

 

朝、学校の机で目が覚める。

 

誰かに起こされることも、無い。

ワカモは昨日シャーレに帰らせたからだ。

 

久しぶりに1人だった。

 

アビドスに来てまだ3日しか経っていないのだが、シャーレの布団が恋しくなる。

 

 

 

朝食の前に七神に電話する。

 

 

 

俺は昨夜、とある書類を送った。

 

 

それはアビドス対策委員会とアビドス生徒会の顧問就任の書類だ。

 

アビドスに来る前数枚持ってきたのだが、対策委員会だけでいいはずだがホシノがこちらも、とアビドス生徒会の書類も制作しろと言ってきた。

 

 

正直、違いがわからない。

 

 

「おはよう、七神。」

 

 

『......なんですか、衛宮先生、こんな馬鹿みたい───いえ、こんな朝早くから。

 

一体どのような要件ですか?』

 

「いや、昨日そっちに送った書類、届いたか?」

 

 

いつもの態度。

しかし、寝ぼけているのか頭が働いていないようだ。

 

 

『あぁ、あれですか。

あれなら審査が通って正式に承認が降りました。

 

──先生は変わり者ですね。

廃校寸前の学校の顧問になるだなんて。

 

 

 

ですが、先生。

承認が降りたのはアビドス生徒会のみです。

 

 

そもそも対策委員会は正式な部活として認められているものでありません。』

 

 

「は?」

 

 

つまり、あれだ。

 

「アビドス生徒会の存在がなかったら今頃。」

 

『とっくにアビドスは取り壊されていたでしょうね。』

 

ホシノは知っていて書かせたのだろうか。

 

 

「対策委員会を部活として認定することは出来ないのか?」

 

 

『......そちらであれば、もうシッテムの箱で割り込んだ方が早いでしょう。』

 

 

割り込むって、なんだ?

 

七神の言いたいことが分からない。

 

遠坂では無いが、俺も現代進歩には少しついていけていない。

タブレットはギリギリ操れるだけ、PCとかネットはよく分からない。

 

 

『....はぁ、いいですか、衛宮先生。

 

これはあくまでも先生の生徒、七神リンとしての言葉です。

 

生徒会長代行としての言葉ではありませんので。』

 

 

そこになんの違いがあるんだ?

 

 

『先生はシッテムの箱を使い、サンクトゥムタワーの制御件を回復した事を覚えていらっしゃいますよね?』

 

 

「あぁ、アロナがやってくれたけど....。」

 

『同じことをしてデータを書き換えてしまえばいいのです。』

 

 

要は、七神は、俺に、犯罪者になれ、と助言している.....?

「って!そんなこと出来るか!!

七神!お前まだ寝ぼけてるのか?」

 

 

『私達としては無駄は書類仕事が減ります。

 

当然、先生は犯罪者になるわけですが。』

 

いや、それはダメだ。正規の手続きを踏まないと意味が無い。

 

ショートカットなんてろくな事にならない。

 

『....あの、衛宮先生、今のは冗談なのですが、まさか本気で検討した訳では無いですよね?』

 

あ、これは電話先でキレてるな。

 

 

 

 

 

結局、書類はアロナに用意してもらい、俺が書くことになった。

 

七神の話では1週間そこらかかるらしい。

 

 

 

そして。

 

 

今朝は珍しく全員が集まっていた。

 

「おはよう、皆。どうしたんだ?こんな朝早くから。」

 

見ればアヤネは膨れていた。

 

何があったんだ?

 

「今日はねー。

 

借金の返済日なんだー。」

 

 

はっ!?

 

「いや!待ってくれホシノ!現状10億円なんて返済できないだろ!?」

 

俺は慌てて椅子から立ち上がった。

 

アヤネが訂正する。

 

「違います。

ただしくは利息の返済ですよ?ホシノ先輩。」

 

 

「同じ事だよー。」

 

俺はホッとした。

 

利息、利息か.....

俺は借金をしたことが無い。

 

あの地主は親父の知り合いで、安くしてもらってたわけだし。

親父の金は殆ど手を付けなくてもどうにでもなっていた。

 

それに特に欲しいものはこれと言ってなかった。

 

「.....利息は約800万円。何とかなったね。」

 

校門に車が丁度停まった。

 

 

 

 

 

 

「.....お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。

 

全て現金でお支払い頂きました。」

 

 

 

「どもどもー。」

 

 

目の前でホシノが書類にサインとハンコを押した。

 

 

「以上となります。

カイザーローンとお取引頂き、毎度ありがとうございます。

 

来月もよろしくお願い致します。」

 

そう言って銀行員は車と共に去っていった。

 

(ブロロロロ.....)

 

 

皆の空気が重くなる。

 

表情が不安げだ。

 

 

唯一顔色を変えていないのは、シロコだけだ。

 

 

「なぁ、シロコ、この分だと完済までどのくらいなんだ?」

 

 

彼女は首を振った。

 

その代わりにアヤネが答えてくれる。

 

「.....309年返済なんです....今までの分を入れると」

 

「309年!!?」

 

それも当たり前か、よく良く考えればむしろよく5人だけで月1000万円近い利息を返済できているものだ。

 

 

「考えるだけ無駄よ!正確な数字を出されるともっとストレス溜まるし!

 

どうせ死んでも返済できないんだもの。」

 

 

 

「......。」

 

「うへ.....。」

 

「.....」

 

 

とうとうその場が凍りついた。

 

セリカにも悪気は無い。

むしろ彼女は頑張っている方なのだ。

 

 

「そ、そういえば、どうしてカイザーローンは現金でしか受け付けないのでしょうか?

 

間違いなくクレジットカードや口座引き落としの方が楽です。

 

現金輸送車なんて狙われてもおかしくないのに。」

 

 

空気を和ませるためなのか、ノノミが口を開いた。

 

 

「.....。」

 

現金輸送車を意味ありげに見つめるシロコ。

 

 

そういえば、俺も何か忘れている気がする。

 

 

「帰るわよ!先輩!あれは襲っちゃダメだからね!」

 

襲う?

 

「何言ってるんだ?セリカ?」

 

 

俺の問いに

 

「後でわかるわよ。」

 

と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は改めて対策委員会の皆から(主にアヤネ、セリカ、ホシノ)怒られた。

-

それはもう一刀両断に。

 

 

 

「セリカちゃんを逃がしてくれた事にはお礼を言います!!

 

ですが、衛宮先生は無茶をしすぎです!!

 

あの時もそうでした!!

先生は便利屋68とその仲間の前にろくに武器も盾も持たず出ていって!!

 

先生は自分がどれほど危険なことをしているのか少しは自覚するべきです!」

 

「.....はい。」

 

 

対策委員会において、1番怒らせてはいけないのはアヤネだということを俺は初めて知った。

 

 

 

「そうよ!!私をかばってそんな怪我して!!

 

馬鹿じゃないの!?

こっちは砲弾なんかじゃ死にやしないって言うのに!!」

 

 

それは違う。

死ぬ死なないとかの理由じゃない。

 

「あの時は仕方ないじゃないか。

そもそも傷ついてもいいって前提がおかしいんだ。

 

俺はセリカが怪我をする所なんて見たくなかった。

 

俺は先生だから女の子に傷がついたら責任取れないんだぞ!?」

 

 

「あー!そうですか!!もうこっちは体のあちこちに傷がついてるわよ!!」

 

「セリカ。シロウの言ってる「責任」は意味違────」

 

そうしてセリカは俺の目の前で服の裾やスカートを捲り始めた。

 

 

スカートの裾を。

 

「うわー。セリカちゃん、大胆ですねー。」

「ちょっと!?セリカちゃん!!?」

 

ノノミが微笑ましく笑っている中、アヤネがセリカの行動を止めに入った。

 

「おい馬鹿っ!!何やっ....」

 

「────────────」

 

自分のしていたことにようやく気がついたのか、セリカの顔が青ざめた。

と思いきや真っ赤になる。

 

女の子とはこういう生き物だったか。

 

 

 

いつか、アーチャーも言ってたっけな?

 

 

「女の激情とは実に御し難い物だ。」と

 

 

 

「──────ッッ///!!!

 

 

この変態ッ!!人でなしッ!!消えろぉッ!!!!」

 

(パパパパパッ!!)

 

セリカは焦点の合わない目でアサルトライフルを乱射し始めた。

 

「うわっ!!この馬鹿っ!!こんな密閉空間で銃を乱射するやつがあるかって!!!」

 

思考時間(シークタイム)ゼロ秒。

 

俺はみんなの前に盾を展開した。

 

「工程中断!────"熾天覆う七つの円環(アイアス)ッ!"」

 

(カンカンカンカンッ!)

 

ひび割れるアイアスの盾。

 

どうにか防げた。

 

 

その後、暴走しそうになったセリカをアヤネとシロコが押さえ込んで沈静化した。

 

 

 

 

「ううっ.....///もうお嫁に行けない.....」

 

 

「ん、セリカの結婚相手は対策委員会だから大丈夫。」

 

「何よ!それ酷くない!?

 

私だって普通の女の子なんだから普通の恋愛くらいしたいわよっ!!」

 

 

 

 

 

普通、普通か────

 

 

『士郎、貴方の行動は異常よ?』

 

 

セリカの、いやキヴォトスにおける普通とは一体誰基準のものなのだろうか?

 

 

 

 

「まぁ、でもさ。

先生も普通の人じゃないんだしー。

 

もう責めても仕方ないんじゃないかなー?

これから同じこと何度も起こるだろうし。

 

おじさんはもう諦めたよ。」

 

と直球で「先生には失望した」とホシノは言った。

 

 

 

「.......そっか。」

 

 

「でも、それはそれでいいんじゃない?

 

無理やり理想の『先生』として振る舞わなくても。

衛宮先生は先生なりに学んでいけば。」

 

 

 

「......やけに核心突いてくるよな。ホシノって。

 

確かに俺は先生になってまだ一年目だし、教師というか、先生としての貫禄がないのも当然だけど。」

 

 

 

その言葉に皆が唖然とする。

 

 

「......え?衛宮先生は先生1年目なんですか?」

 

「あぁ、そうだぞ?3月に教員免許取って、これからって時にここにやってきたんだ。」

 

 

聞いていた、いや、俺の知ってる教師の立場とはだいぶかけ離れていたが。

 

そもそも、世界も常識も違うんだから当たり前だ

 

それで今誰かを守れているんだから、文句は言わない。

 

 

「アンタ新米なのに、戦闘中生徒の前に出てくるの?」

 

「てっきりベテランなのかと思ってた。」

 

 

なにか誤解されてる。

 

「先生は強くは無いけど戦い慣れはしてるから。

おじさんも疑問に思ってたんだー。」

 

「シロウは先生になる前何してたの?」

 

 

何とは。

 

大学で教師になる為に勉強していた、とかそういう事を聞いてるわけじゃない。

 

アヤネが思い出したように呟く。

 

「そういえば、D.Uにいた時「ちょっとした戦争を使い魔と一緒に戦い抜いた」って仰ってましたね?」

 

 

──失敗した。

そういえばそんな事を言ってしまった気がする。

 

 

「先生のいた場所では魔法による戦争でも起きてたの?」

 

ホシノは勘がいい。

キーワードを結び付けて大体の事実を当てている。

 

 

「.....まぁ、そんなとこだ。」

 

「.....詳しく聞きたい。」

 

シロコやアヤネは興味津々のようだ。

 

───しかし、それをホシノが諌めた。

あくまでも、ホシノは自分の考えていたことがあっていたか、知りたかっただけのようだ。

 

 

「はーい、話はそれまでー。

 

今日の会議、始めなくていいの?」

 

 

 

 

ホシノの言う会議とは「対策委員会」の本業である

 

「借金返済の主な方法」

 

「環境改善案」

 

「今月の方針」

 

それらを決めるための会議である。

 

 

「まず、昨夜の戦闘で回収した戦車ですが、どうやらキヴォトスでは使用が禁止されている違法機種と判明しました。」

 

 

「「!!?」」

 

 

そんなものまで持ち出していたのか。

 

「.....いくら便利屋でも簡単には用意できない。」

 

シロコが呟く。

 

「もう少し調べてみないとなんとも言えませんが、便利屋68は依頼主からかなりの軍資金、いえ、もしかしたら武器弾薬、装備、乗り物、あらゆるものを調達しているのかもしれません。」

 

 

となると、

 

「あぁ、それなら心当たりがある。

 

情けないけど、誘拐された時に陸八魔が言ってた。

 

『ふ、ふざけないで、これだけ支援してもらって手を引けですって!?そんな事したら────』

 

って。

 

だからアヤネの推測はアタリだと思う。」

 

「では、この戦車の流通ルートが判明すれば、便利屋68の依頼主がわかりますね!」

 

ノノミがやる気満々、と、言った表情で笑っている。

 

 

「....ですが。」

 

カタカタとキーボードを叩いてネットのショッピング画面を見せてくれた。

 

「生産中止」

 

「取引停止」

 

 

「ご覧の通り、今ではどこも扱っていないようです。」

 

「ってことは───手に入れる手段はひとつしかないね。

 

ブラックマーケットだ。」

 

ホシノが妙な単語を口にした。

 

 

 

「ブラックマーケット!?」

 

 

俺の予想が正しいのであれば、生徒達が非合法なものを取引する闇市場、と言ったところだろうか。

 

 

 

「.....とても危ない場所です。普通の生徒が近寄ればただで戻っては来られません。」

 

「はい。あそこには中退、休学、退学、様々な理由で学校を辞めた生徒達が集団を形成しており、連邦生徒会の非認可の部活も沢山あると聞きました。」

 

 

そんなヤバい所なのか。

 

アビドス外郭で自立の手助けをしてあげたような子達が五万といる。

 

 

『1人助ければもう1人と、視野は拡がってしまうんだ。』

 

 

アーチャーが言っていた。

 

 

『いずれ救いようのない者が出てくる。』

 

 

そういう子達を無くすためには一人一人に手を差し伸べるだけじゃダメだ。もっと全体を見なければ。

 

 

 

「便利屋68みたいに?」

 

 

 

シロコはそう言った。

 

 

 

彼女は今、便利屋68がゲヘナの非認可の部活であると、言ったのだ。

 

 

確かに、学校があんな部活を許せるわけが無い。

 

学校のバックアップ無しに裏社会で名を────

 

いや、違う。

 

 

もしかしたら便利屋68は俺の投影した銃みたいにハリボテなのかもしれない。

 

 

「はい。情報ではブラックマーケットで便利屋68が問題を起こした、というのもありました。」

 

 

「では、ブラックマーケットが重要ポイントですね!」

そうして、対策委員会のリーダー、ホシノは決定を下す。

 

 

 

「じゃあ決まりだね。この後はブラックマーケットを調べよっか?」

 

 

 

「「はい!」」

 

 

その後は、どうやって借金返済をするかの議論が上がった。

 

 

「ん、簡単。

 

銀行を襲う」

 

 

なんて、シロコが提示した時はなんの冗談かと思った。

 

しかし、本人は真面目なようで、銀行の見取り図、警備員の見回りのスケジュール、はたまた覆面すら用意していた。

 

 

これには意識が飛びそうになった。

 

 

「.... ダメ?」

 

「ダメに決まってるだろ!!」

 

 

あと他にはアイドル活動やバスジャック、さらにセリカはマルチ商法に引っかかり「ゲルマニウムブレスレットがー!!」とか言い始めたのである。

 

 

もちろん、全部却下した!

 

そうして、具体的な案は決まらず、アロナが仕事を探してくることになった。

 

むしろ最初からそうしていれば効率も利益も良かったのかもしれない。

 

『はい!お任せ下さい!先生!!』

 

対策委員会は全員シャーレの所属となった。

シャーレの部員の登録は特に書類は必要ないらしい。

 

 

そうして、会議が終わり、ブラックマーケットへ向かうことになった。

 

 

 

 

 

「.....ブラックマーケットか。」

 

「....気が進まないなら先生はここに居てもいいよ?

 

歪んだ生徒や、辛い目にあってる人を見るのが先生にはキツイだろうし。」

 

 

いや、なら尚更違う。

 

「いや、俺も行く。それにずっと引っかかってることがあるんだ。

 

それがなんなのか。分からないんだけど。」

 

 

ホシノは笑って言った。

 

「そっか.....先生は強いね。」

 

 

「いや、ホシノの方が大変だろ。その、色々と。

また迷惑をかける。」

 

「それはお互い様だよー。」

 

 

 

 

「何してるの!ホシノ先輩!士郎!

置いていくわよー!!」

 

と、いつの間にかグラウンドにいるセリカに声をかけられる。

 

 

「早!行動力早いな!?」

 

 

 

 

この時、俺は知らなかった。

 

まさか、ブラックマーケットであんな事になるなんて────。

 

 

 

 

 




次回

神父と少女/ブラックマーケットヘ(Ⅱ)

対策委員会編第2章終盤で士郎には

  • 無限の剣製を使って欲しい
  • カタルシスにはまだ早い(固有結界未使用)
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