衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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2ヶ月ほど温めていたヒナの回です。

一言言わせてもらうとほんへの先生の対応。
あれが100%のグッドコミュニケーションだったとは思えないんです(←結果としてはgoodになっとるやろがい)

とこんなこと言い出すのもヒナは責任感が強いと同時にある意味大袈裟に言えば「承認欲求」を先生に対して抱いていました。

そんな彼女に「頑張りすぎなくていいよ、ずっとそう言ってあげたかった。」と話し、ヒナを戦力として数えるのを辞めました。

逆を言えばそれでヒナが「あ、私とうとう先生にも必要とされてないんだ」と捉えてしまえばその時点でアウト。(こじつけ)

じゃあ今回士郎の選択が正解か?といえばそんなことは無い。
むしろ先生としては赤点───で済めばいいレベル。

そもそも「正義の味方」に人の心が分かるわけない【定期】

それでも単に「わかった。」で済ませてないのはプラスだとおもう。
が、どう考えてもマッチポンプ。

じゃあ何が正解よ。
って言えば当然のように「正解なんて」ない。



#8 せめて悔いのないように/The reason why you fight.

上半身を起こす。

ゲヘナの食堂、辺り一面は怪我人で最低限歩くルートが形成されているだけだ。

 

「本当に心配したんですよ!

服は血だらけで、戦場で倒れてたんですから!

どこにも傷跡がないので、安心しましたけど......。」

 

「フウカ、どうして俺はゲヘナ学園にいるんだ?」

 

そうして聞かされた。

俺が1人あの場に残りサオリに撃たれた後、アズサがサオリの相手をして時間を稼ぎ。

そこにやってきたフウカ達に救助されたこと。

 

そして───アズサは1人いまもあの区画にいるのだと。

 

 

「アズサさんは「やることがある」と一人で.......

彼女のことも心配ですが、今はご自身のことを考えてください。

今誰か呼んできますから!ここにいてくださいね!」

 

フウカが鬼の形相で捲し立てている。

少しだけ、安心した。

 

「ぜ、絶対ですからね!」

 

念を押された。

そんな目を離したら何処かへ行く子供じゃないんだから。

 

「......あぁ、約束する。」

 

そうして走り去っていくフウカの背中を視線で追った後トリニティ───主にナギサに連絡をとった。

混乱の真っ只中という事もあり、1度のコールでは出なかったが、3度目の発信音の後に繋がった。

 

『........もしもし、桐藤ナギサです......。

単刀直入に聞きますが、貴方は誰ですか。

衛宮先生な訳が無いことはわかっています。』

 

「.........はい?」

 

会話が始まった矢先に疑われた。

なんでさ。

ナギサからしたら「俺から電話がかかってくる訳ない」と思われてるってことか?

 

「いや正真正銘、俺はその「衛宮先生」。なんだが....?」

 

俺の声を聞いたナギサは即座に狼狽えだした。

 

『そのお声は───っ.....い、いえ待ってください、衛宮先生はあの場で....!

そんな筈はありません!』

 

動揺しているナギサは電話口の向こうで浦和に相談し始めた。

 

『衛宮先生....が?』

『....はい、声は確かに.....』

『しかし、ナギサさんはアリウススクワッドから逃走する際に撃たれて倒れる衛宮先生を見たんですよね.....?』

『....血飛沫が....。都合よく「あれは見間違いだった」と考えて良いのか.....』

『........。』

 

なるほど、簡単に言えば。

俺は死んだと思われてたのか。

 

『────代わります。

もしもし、「衛宮先生」ですか?』

 

聞こえてきた通り、通話相手は浦和に切り替わった。

 

「あぁ。そうだけど。」

 

そして、怖すぎるほど冷静な声から。こんな状況なのに。

トンデモない話が繰り出された。

 

『衛宮先生、補習授業部の合宿で私と一緒にお風呂に入ったこと、覚えていますか?』

 

「はい!?」

『はい!?』

 

いきなり変なこと言い始めた。

驚いてるのは俺だけじゃない、ナギサもらしい。声が重なった。

 

『衛宮先生が....まさか生徒に手を出していたなんて.....』

『はい、一緒に裸でイチャイチャしながら湯船に♪』

 

その発言を聞いて、俺は慌てて大声で訂正した。

 

「おいまて浦和!お前には背中を流してもらっただけで湯船には浸かってないだろ!

それに裸じゃない!お前は服着てただろうが!」

 

顔を真っ赤にして言い放った。

そして、騒ぎ始める周囲の意識のある生徒たち。

 

「え.....何急に!?」

「湯船?裸!?」

 

「やっぱり「シャーレの先生」って───って噂─」

 

────血の気が引いた。

自分で変なこと言い出したのが伝わるのは仕方ないにしても。

なんだ、よからぬ事してるみたいなその噂話。

 

『では────』

 

浦和の声で、我に返る。

まだ拷問のような会話で尋問されてる真っ最中だった。

 

『私は何を着ていました?』

 

「それは......。」

 

さて、これは「水着」と答えるのが正解か、「下着」と答えるのが正解か。

─────いや違う。

 

「.....わからない。

けど俺はあれは水着だったと思ってる。」

 

『......では柄は?』

 

......浦和の着ていた「それ」の柄?

 

「上は知らない。ボトムでいいか?」

『はい。』

「ピンクと白の縞柄。」

『.......。』

 

なんでこんなこと聞いたのか。

それは、俺と浦和。2人しか知らないことだからだ。

 

『ナギサさん、大丈夫です。

相手は衛宮先生です。

 

ご無事で何よりです。』

 

「あぁ。状況は知ってるか?」

『はい、ナギサさんから一通り。

話したいことやお聞きしたいことはありますが、今は───』

「....あぁ、ナギサに代わってくれ。」

 

そして、やや興奮したナギサの声が通話口から飛んできた。

 

『衛宮先生!貴方という人は....!

ハナコさんもなんという本人確認をしているんですか?!

 

全く────ご無事で、本当に.....。』

 

ナギサの声は、徐々に潤んでいく。

 

「........ナギサ、心配をかけて悪───」

「衛宮先生はあの行動を「間違いだった」と認めて反省しているのですか?」

「──────。」

 

『お前にとって、それが最善の選択だったんだろ?

なら謝るな───お前がそんな事する必要なんてない。』

 

あれはナギサの行動を俺が理解できたからそう言っただけで。

みんなに心配をかけた事とはまた別だ。

 

『古聖堂で私を庇い、最後の救急車での逃走の時も。

衛宮先生のおかげで私は今ここにいられます。

ですから、衛宮先生のしたことは間違いではないと、思っています。』

 

「お前────

........わかった。じゃあ俺はナギサには謝らないからな。」

 

『そうですね。

衛宮先生は他に謝罪しなければいけない生徒がいるでしょう。

今現在はどちらに?』

 

「ゲヘナだ。

アズサと給食部と美食研究会に助けて貰った。」

 

『.....そうですか。

トリニティ内部は私達で固めてみせます。

ゲヘナの混乱はいかほどですか??』

 

「いやそれは───」

 

それはなんとも言えないと伝える。

俺はまだこの食堂から出ていないのだから。

ゲヘナの様子を、どうにか確認しなければ。

 

『わかりました。

衛宮先生は今出来ることをなさってください。』

 

それで通話はきれた。

俺は最初に周囲の生徒たちを見て回ることにした。

 

もう、動揺などしていない。

皆、生きていた。

 

酷い怪我の者たちはいるが、手遅れの生徒はここにはいなかった。

その中に見つけた、小さな少女。

黄髪の本当に小柄な────

 

「イブキ!!?」

 

理解して走り出した。

隣には苦しそうに呻くイロハの姿もある。

 

「.....その声は、衛宮先生ですか......。」

 

彼女は「うっ」と痛ましそうな唸り声を吐いた。

 

「お前達までどうして───。」

 

「.....大したことではありません、いつものことですよ。

マコト先輩が何かしでかすのは。

実はですね。」

 

俺は話を遮った。

 

「今度聞くから今は安静にしてろ!」

と。

しかし───

 

「いえ.....なにか話していた方が、気が....紛れるので.....。」

 

と、頑なに言うことを聞かなかった。

けれど、本人がその方が良いのなら、と俺は黙ることにした。

 

そしてそこから聞いた話。

 

マコトは秘密裏にアリウス分校と共闘しエデン条約でトリニティはおろか、ヒナ達風紀委員会もまとめて叩く計画を秘密裏に進めていたらしい。

 

しかし、それはアリウス分校にとって組みしやすく騙しやすい相手。

彼女たちから送られた飛行船には、爆弾が積まれていたのだ。

 

 

「........。」

「....怒らないんですね...予想外です。」

「いや、怒ってるよ。」

 

隣に寝るイブキの頭を撫でた。

幸い、呼吸も脈も安定している。

しかし、ボロボロになった髪、焦げた帽子、擦り傷だらけの体。

 

「──────マコトは後回しだ。

この状況を何とかするのが先だ。」

 

彼女の瞼は閉じたり開いたりを繰り返す。

腕に手を当てて伝わる脈動から、危ない兆候では無さそうだ。

 

「お前は休んでろ。

多分後で面倒な仕事が増えるから、今のうちにな。」

 

「......そうですね...ゆっくり寝させて.....もらいます。」

 

そうしてイロハは痛みのせいか、体がそれを訴えたのか眠るように気を失った。

彼女の髪の一部はより赤で染まっていた。

恐らくイロハがイブキを庇ったのだろう。

 

「こっちです!」

 

そうしてフウカが火宮を連れて戻ってきた。

 

「火宮、無事だったか!」

 

「それはこちらのセリフです!

簡易的に身体検査をしますので服を脱いでください!」

 

「お、おい!?

火宮────」

 

俺は無理やり上半身の服を剥がされ、体に聴診器を当てられる。

 

「......体に異常はないようですね。

ご無事で何よりです。

 

あの.....行政官がお呼びです。」

 

「.....天雨が───?」

 

sorrow

俺は、ヒナの元を訪れていた。

セナの救急車に乗って離脱したはずのヒナは応急処置を受けるとアコに「トリニティとの戦闘を停止」を命じた。

ただ、それだけ。

 

そのあと姿を消したらしいとの事で、俺は彼女を探していたのだ。

そして、その行動に出たのはおそらく、俺のせいだ。

 

「ヒナ、いるか.....?」

 

『え.....シロウ.....?

そんな、だって貴方は眉間を....

撃ち抜かれ.....────』

 

ドアが開かれる。

そこに居たのはパジャマを着て、あちこち傷だらけで。

一切の覇気のない小さな少女だった。

 

まるで、アビドスで天雨が暴走していた時のように。

いや────あの時よりもっと酷かった。

 

「......もしかして、幽霊なの....?

それともそっくりなだけの別の人.....双子の兄弟とか....。」

 

「よし、じゃあヒナ。

俺の足確認してみろ。

 

ちなみに俺には血の繋がった家族はも(・)う(・)い(・)な(・)い(・)し、多分俺と同じ奴を見つけるのは苦労するぞ?」

 

そう言うと、ヒナのもつ大型の機関銃を魔術で展開した。

ヒナの視線は俺の足元に注がれてるし、当然俺も幽霊になったつもりなど毛頭ない。

 

「....都合のいい、夢ではないのよね......?」

 

いい加減、信じて貰えないだろうか?

まぁ、確かに。

目の前で人が殺されれば疑わざるを得ないのは事実だろうが。

 

実際、殺されたとも言えるし。

回復で防御を補ったとも言える。

 

しかし、だ。

ここで「実は死んで復活しました」なんて、この状態のヒナ相手に言えるわけが無い。

 

なのでここは敢えて茶化すに限る。

 

「Elementary, my dear (初歩的な事だよ)。

あの時のヒナは重症の上、車に乗ってたし見間違えたんだと思うぞ。

だって意識保つのだって、やっとだったんだろ?」

 

そう微笑みとともに水に流せるよう説明した。

 

実際半分真実だ。

サオリは俺の顔に向けて銃口を向けた癖して、引き金を引く寸前に、それを下へ向けた。

お陰で銃弾は喉元、鎖骨を貫通したんだから。

眉間は、撃ち抜かれてなんて居ない......その筈だ。

 

考え込むようにヒナは顎に手を当てて、必死に思い出そうとしていた。

 

「.......確かに.....そうかもしれない。

殺意を向けたあんな集団の前に、シロウをひとり置き去りにしてしまって.....嫌な想像が、現実と重なってしまったのかも.....。」

 

「嫌な想像ってのは嫌な現実を呼び寄せるとも言うけど。

今回ばかりはハズレだ。

 

.......悪かった、心配かけたよな。

でも、どうしても俺を撃ったアイツ(サオリ)と向き合う必要があったんだ。

俺が、先生(俺)である為に。」

 

それも、半分嘘だった。

 

確かにサオリと話がしたかった。

何を目的として、誰を傷つけるのか。

 

正義の味方を目指す俺は、あいつが悪なのかどうか、見定めなければいけない。

そして、どうやっても止められないのであれば───切(・)り(・)捨(・)て(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)。

 

しかし結局、その思考に行き着く度に、アズサの顔が浮かんでくる。

サオリを、アリウスを排せば、彼女を裏切ることになる。

何より、俺はあいつの泣き顔なんて見たくなかった。

 

 

 

けれど、もうひとつの理由は、あの場にヒナが残ったら、間違いなく「殺されてしまった」だろうから。

 

キヴォトスの生徒だって無敵じゃない。

 

どれだけ耐久が高かろうと、限界はいつか訪れる。

 

俺は、ヒナに「死んで欲しくなかった」「あれ以上傷ついて欲しくなかった」。

それだけの理由で、死地に残ったのだ。

その結果、多分俺はヒナの体だけを救い、その心を傷つけてしまった。

 

「.....そう.....。」

 

それでも納得してくれたのか、関心がないのか。

俺を責め立てるようなことは、しなかった。

それが、空崎ヒナという少女なのだ。

 

 

そうして沈黙が続く。

勝手にデスクの椅子を持ってきてはヒナの目の前に陣取り座り込んだ。

「....そういえばどうしてこのセーフハウスを?

ここは風紀委員会の皆はおろかアコにも教えていないのに。」

 

「ちと優秀な助手がいてな。探してもらった。」

 

当然ワトソンではない。

ディビジョンである。

 

俺は無理を言ってアロナの代わりにDivi:sion systemにヒナの移動経路や手段を探してもらったのだ。

 

「........ごめんなさい、シロウ...私にはもう無理。

私はもうダメ....だから....失望させて悪いのだけれど.....

今は、帰って欲しい.....。」

 

「ヒナ.....。」

 

彼女はボソリと呟き始めた。

 

「戦力を探しているなら他を当たって....私は引退したと思って....。」

 

引退.....それは風紀委員長をという話で。

もう、限界なのだろう。

身体はどうか分からないが、心は折れてしまっている。

 

当たり障りのない話をして、少し誤魔化していく。

 

「書類は?」

 

「......まだ、作ってない。」

 

相変わらず顔を合わせてくれない。

肩掛けを強く握って、ベッドに腰をかけている。

この分じゃ、本気で「辞める」と言っているのかも怪しいところだ。

一時の迷いかもしれない。

 

だから、少しだけ、落ち着いて考える時間を、言葉を与えなければ。

俺は座っていた椅子から立ち上がり、ヒナの前へ。

膝まづいて彼女の俯く視線の先から見上げるようにその顔を見た。

 

泣き腫らした目元。

傷つき、荒れた肌。

沢山の枝毛ができ、銃弾や外傷で切れた髪。

 

心だけではない、彼女は全てがボロボロだった。

 

本当は「もういい」と言ってあげたかった。

逆に「ダメだ」と言うべきだったのだろうか?

 

答えはわからない。

 

けれども、彼女の為を思うなら───

 

「じゃあこの一件が解決してからだな。

そうか....。

けど────

やり残した事はないのか?」

 

「......え....?やり残した....こと?」

 

「そうだ、風紀委員長として、やり残した事。

本当の空崎ヒナってのは「面倒臭がり」なんだろ?

 

でも、「責任感」が人一倍強いのもお前の一部だ。

 

だからやり残した事が1つでもあったなら──その延長線上で何かが起きた時───いいや、何も起きなくても、お前は気になって後悔すると思う。

 

俺は風紀委員会を辞めることに関して、「ダメだ」なんて止めるつもりはない。

確かにお前が風紀委員長を続けてくれるなら、これ以上に頼りになって任せられる生徒なんて他に居ない。

そうだ───ヒナの代わりなんて何処を探しても居ないと思う。

 

けど、だからってヒナが風紀委員長でなきゃダメなんて事にはならない。

それを決めるのはお前自身だ。

お前が納得出来ないって言うなら、やるべきじゃない。

 

「出来るからやる」は正解じゃない。

「継続は力なり」なんて言うけど、「しなきゃいけない」を原動力にだけはしてはいけない。

「やりたい」を理由に据え置かないと、人は必ず挫折する。

だってそれは「強制された事」なんだから、いつかは耐えられなくなる。

結末は二つに一つ。

 

「自分を殺すか、壊れる」かだ。」

 

「......誰か、そうなったの?」

 

「あぁ....」

俺は観念して、話すことにした。

未来の俺の至る可能性。

英霊エミヤの、俺の知る全ての経歴を。

 


 

「それだと貴方もいつか───ん....!」

 

まぁ焦るヒナの唇に指を当てて、その先を閉ざした。

 

「大丈夫だ、俺はそうならない。

あくまでそういう可能性もあ(・)っ(・)た(・)って話だ。」

 

そりゃあ「いつか俺は処刑される」なんて言われたら取り乱すだろう。

というか、未来の話なんて、聞かされれば普通は疑うだろうに。

それだけの信用は得ているのだろう。

 

第三の結末を言わなかった理由が、アーチャーだった。

だって、それこそおかしい話じゃないか。

「強制されている事」なのに、「誰かに裁かれる」なんて。

 

「..........。」

 

俺は落ち着いた声で。

語り聞かせるように。

ヒナの事ではなく、俺の話として言葉を紡いだ。

 

次は、ヒナの事だった。

 

「今のヒナがそうだ。

「私がやらなきゃ」って無理を積み重ねた。

.......その引き金になったのが俺の浅慮な行動だってのは、本当に悪かったと思ってる。

 

けれど、今じゃなかったとしても、どこかで同じ結末に辿り着いた筈だ。

 

現に、前から「辞めたい」って言ってたもんな。

 

.....なぁ、これまでどうだった?

お前は何を思っていたんだ?何が嫌だった?何を我慢してた?

 

教えてくれ、ヒナ。」

 

「私は......」

 

その言葉の先を催促することなんて、しない。

俺は彼女の、本当の気持ちが知りたかった。

 

これまで何人にも「見ていない」「知らない癖に」と言われてきたんだから。

 

このくらいしないと。

 

「わ、私は........小鳥遊ホシノみたいにはなれな....い......」

 

......?

今、ヒナはなんて───

 

「どうしてそこでホシノが出てくるんだよ。」

 

口を滑らせたと言わんばかりに、手で口を覆う。

ヒナは申し訳なさそうに語り始めた。

 

「アビドスの生徒会長、その遺体を発見したのは、小鳥遊ホシノだった。

凄く、物凄く大切な人だった筈なのに。

あれだけの苦しみを味わっておきながら、彼女はまだアビドスで戦ってる。

私には、そんなことできない。

それを、今回、シロウが撃たれてようやく悟ったの....。」

 

「ヒナ──お前──」

「私は、そこまで強くなれない。

あの瞬間私は、もう───ダメになったの。

いつも頑張って、目の前の事をどうにかしようとして。

けど、誰にも私の苦しみや辛さは理解されなくて。

「委員長なら」ってそればかりで......。

でもそれは別に良かったの。

大事なのは───私は1番大事な時に、何も出来なかったってこと───!!

 

私だって────頑張った

 

なのに.....シロウはずるいわ.....だって───

私に────やりたいことなんてないんだもの────!!」

 

「───ッ....!」

 

彼女の泣きついてきた指が、爪が、俺のスーツを引き裂いて肉にくい込んだ。

痛い、とてつもなく痛い。

 

けれど、そんな事、彼女に比べたらどうでもいいくらいの、極小さな痛みでしか無かった。

苦しい。

 

1番苦しいのは彼女なのに。

どうして分かってやれなかったのか、それを思うと胸が張り裂けそうになる。

 

アコを、部屋の外に置いてきてよかったと思った。

いや────彼女は分かっていたから、「自分ではダメだ」と言ったのだろう。

 

だからずっと、俺へ助けを求めていた。

「ヒナを助けてあげられない」と。

 

どうして、気づかなかったのか。

 

「私だって......小鳥遊ホシノや補習授業部みたいに.....

シロウに構って欲しかった!褒められたかった!

ずっと──うらやましかった──!」

 

 

「......す───いや....なんでもない。」

 

謝ってはいけない。

謝ったところでそれは俺が謝罪したいだけの話で。

 

今までの苦痛を緩和してやることもできない。

むしろ、「お前の事は大事じゃなかった」。そう宣言することになる。

だから───謝れなかった。

浦和の時とは訳が違った。

 

「私にやりたい事なんてない.....して欲しいことはあっても.....だからこれまでずっと頑張ってきたの──!!

「シロウならもしかしたら」って .....。

 

───止めてッ!」

 

その頭に手を伸ばすも、祓いのけられる。

 

「同情なんていらない────私が欲しかったのはそんな感傷混じりの手じゃない───言葉じゃないもの───!!」

 

「痛(つ)ぅ......。」

 

途端───指先が、裂けた。

そうだ、こんなものヒナは望んじゃいなかった。

 

俺は本当に今度こそ、ヒナの心を傷つけたんだ。

 

「えっ.....シロウ.....どうして.....何で──」

 

だって言うのに、それでも傷心した彼女は俺の心を気遣ってくれた。

こんな少女に今まで「ヒナなら大丈夫」なんてそんな重みを載せていたのか。

 

手を伸ばす。

 

「なら──探すよ、お前のしたいことを。

どこまでも───一緒に。」

 

「........シ...ロウ...。」

 

その小さく震えた肩を抱き寄せる。

そうだ、ヒナの中にだってま(・)だ(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)自(・)分(・)が居るはずだ。

 

「.....そんなもの.....」

 

「ないなら俺が理由になるよ。

これまで通り、いやそれ以上に。

生徒(ヒナ)に「傍にいて欲しい」って思って貰えるように。」

 

血に濡れてないもう片方の手であやす様に乱れた髪の毛を撫でる。

 

「シロウ....それって....」

 

「───いつか百鬼夜行に"桜"を観に行こう──。」

 

「───え?」

 

胸の中に、その小さな体をしまったまま。

俺は仕事の話をした。

 

「いろいろ見て回りたかった学校の中でまだ行ってない所があってさ。

査察ついでに観光しようと思って行ってなかった学校だ。

今度、ヒナを連れてバカンスに行こう。

まぁ、当分俺は忙しいだろうけどさ。

ヒナが風(・)紀(・)委(・)員(・)会(・)を(・)辞(・)め(・)る(・)な(・)ら(・)、時間はこれからいくらでもあるだろう?」

 

わざと揶揄うように、そう言った。

 

「───ありがとう.........シロウって誰にでもそんな約束してしまうのかしら....?」

 

くすっと、ようやく泣き止んだ彼女は耳元で笑ってくれた。

 

「いいや、こんな約束したの.....ホシノくらいか?

以前アクアリウムに───って痛い痛い!!」

 

あーだこーだといっている最中、ヒナに頬を捻られた。

本人はムッとしていたのだが、笑って──

 

「冗談よ、本当はどうするか迷っていたのだけれど、シロウのおかげで決心が着いたわ。

 

───今度こそ、シロウのことは私が守るから。

私を、傍から離さないで。」

 

「......あぁ、俺の隣にいてくれ。ヒナ。」

───決意を固めた。

 

これが正解だったのか、それは分からない。

ただ真実なのは、空崎ヒナは笑っている。

それだけが、俺にわかる事だった。

 

 

「着替えるから出ていて。」

 

そう言われて部屋の外へ出る。

 

 

 

 

「衛宮先生.....」

 

あの天雨が、泣きそうな顔で見つめてきては抱きつくように、俺の胸へ吸い込まれた。

 

彼女は俺の胸をドンドンと叩いた。

 

「本当に.....本当に、バカなんですから.....。」

 

「天雨......お前も、大変だったな.....済まない。

肝心な時にいつも役に立てなくて....。

むしろ迷惑かけてばかりだった。」

 

天雨からのSOS。

それを俺はしっかりと理解してやれなかった。

 

「....委員長は?」

 

「もう、大丈夫だ。

あいつをあんな状態まで追い込んだのは俺だ。

 

天雨は恨むなら俺を恨んでいい。」

 

その目尻に溜まった涙を、指で拭った。

 

「もういいです.....衛宮先生が「先生らしくない」人だとい事は分かっていましたから。

ですが.....。」

 

彼女が顔をあげる。

そこには苦しめな表情も悲しい表情もない。

 

仕事をする時の、天雨アコが居た。

 

「......「私たち」の憧れの委員長の相談に乗って頂き、ありがとうございました。」

 

彼女は滅多に下げない頭を。

俺へ向けて感謝の意を示した。

 

「アコ、ごめんなさい心配をかけたわね。」

 

「委員長.....いいんですそんな事....貴女さえご無事であれば....」

 

ヒナがいつもの制服姿を見せれば天雨はそちらに駆け寄った。

 

「それで、悪い2人とも。

これから俺やらなきゃいけない事があるんだが。

ゲヘナで生徒が誰も来ない、人気の少ない場所って何処かに無いか。」

 

「こ、こんな時に一体何をするつもりなんですか.....?

人気の少ない.....?」

 

何か誤解されているようなので2人にははっきり言おう。

 

「古聖堂でみたあの戒律の守護者(ユスティナ聖徒会)。

あれは単純な火力や武力で相手するには無理がある。

 

だから、使う前提での「切札」を作っておきたい。」

 

考えていることがある。

しかし、この場であれこれするには人目が多すぎる上に集中できない。

 

「衛宮先生.....。

わかった。

ゲヘナには使われてない廃校舎があるの。

そこなら。」

 

「ありがとう。」

 

さて、契約を破るもの。それを作るのは俺の十八番だが今回はひとひねり加えなければいけない。

時間と魔力との勝負。

 

「作るのは俺だけど、使うのはお前達だ。

後で説明する。」

 

ヒナが真剣に、俺の目を見つめてくる。

 

「あれを、破る手段があるのね?」

 

「.....あぁ、信じてくれ。」

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