衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
我々は望む、ジェリコの嘆きを
我々は覚えている、七つの古則を
.........パスワード承認
「シッテムの箱」へようこそ、衛宮──先生。
#2 welcome to kivotos
〈ガタンゴトン、ガタンゴトン〉
自分の部屋で寝たはずの俺が目を覚ましたのは、電車内だった。
太陽の光が眩しく、手の甲で遮ろうとする。
そこには完全に消えてはいない令呪の痕があるはずだった。
『.........私のミスでした。──』
ふと対面する席を見ると、腹部から血を流す白い制服を着た少女が座っている。
それはとても深傷のようで、足元にさえ血溜まりが出来ていた。
「ッ!!」
駆け寄ろうにも、体が動かない。
イリヤに城を見せて貰った時の『意識、視点が別の物』になる感じと似ていたが、苦しさは感じなかった。
ただ、目の前で血を流す、その彼女を助けられない、という拷問じみた状況があった。
『私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。』
頭の中に流れ込んで来る、銃を持った、誰かの姿。
破壊されたタブレットの液晶に空いた三つの弾痕。
『結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。』
ただ、俺は彼女の独り言を、何も言えず聞くことしか出来なかった。
『……今更図々しいですが、お願いします。
『先生』。
きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。
何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。』
『先生』と彼女は呼んだ。
その一言で、この身体がやはり己のものでない事がわかる。
『ですから──大事なのは『経験』ではなく『───』。
あなたにしかできない『──』の数々。』
その言葉が磨り減るように、聞き取れなくなっていく。
この子供が話しているのは自分とは別の───
『──を負う者について、話───があり───』
ぱりんっ、と眼球が割れた。
そして、流れ込んできたのは自分では無い、別の世界の、自分の記憶。
ビル上でセイバーと対峙するライダー。
心臓をギルガメッシュに引き抜かれ、絶命するイリヤ。
黒い光に弾かれ、片腕の吹き飛んだ俺自身。
自分のものでは無い記憶に、脳が拒否反応を起こす。
思考が乱れる、頭がすり潰される、壊れたはずの視界がノイズで溢れる。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
それよりもっと嫌なのは─────
目の前の少女の言葉を、聞き取れない、
きっとそれは────
次に気がついた時に目の前に居たのは鉄の仮面と大柄な祭儀服を来た男性のような、ナニかだった。
「───!」
今度は体が動いた。
咄嗟に席から立ち上がり距離を保つ。
が、少し見ていると、彼からは一切の殺気や敵意が感じられなかった。
俺のことを認識しているのか居ないのか、話し始める。
「
と。
その声には聞き覚えがあるような気がするが、意識がはっきりとしない。
「
結局
そんなことは随分前から理解していたはずなのにね。
もっとあの子達に寄り添ってあげられたら.....。」
俺は座席に座り、黙って聞いていた。
外傷の有無は分からない。
彼女のように血を流している訳では無い。
けれど彼の姿はまるで死に装束だった。
きっとこれが最後の言葉なのだ。
いや、──────もう既に死んでいたのだろう。
死んだ人間は、救えない。
「うん、
時間は巻き戻せない、死んだ人間は蘇らない。
そうだよね、士郎くん。」
「....あぁ。」
それがこの世の摂理で、間違っても覆すことは許されない。
「でも、時間を超えることは出来た。
それは
拙いけど。
これが
鉄の仮面越しからでも伝わる感情。
「あんた、後悔してるのか?」
どうしてそう思ったのか、それは分からない。
悪あがきだと、終わった事を曖昧に話す彼の言葉がどうしてもこれまで関わってきた過去に囚われて、自分のために笑えなくなった人達を連想させたのだ。
彼は答えない。
「君に頼むのはやり直しなんかじゃない。
ううん、結果的に言えばやり直しになるのかもしれないし、それは君が容認できない事だとも分かってる。」
彼の願いはなんとなくわかった。
セイバーが聖杯に託そうとしたのと同じく、彼はこれまでの自分が積み上げてきたものを無かったことにして誰かを助けようとしている。
何があったのかは分からないが、彼は自分が間違いをしたと言うのだ。
「あぁ──あんたは間違ってる。
最後まで誰かの為に走り抜いたんだろ?
ならそれは間違いなんかじゃない。
それは誇るべきだ。」
彼は苦笑いのようにハハハと笑い、少しの間沈黙を保った。
「....そうだね。
あの生徒達の未来。
その「尊い理想」を持つ君になら、
また1から始まるあの場所で
未来が確定していない
そこへ繋がる道筋を見つけられる。
だから士郎くん───いや、衛宮 士郎 先生。
どうか────」
彼は俺に少し焦げ目の着いたクレジットカードを渡してきた。
触れた瞬間に分かる異質感。
ただのお金を引き落とすカードなどでは決してない。
これは『先生』
彼の言いたいことが、理解出来た。
過去の改竄、やり直し。
根底から否定したいが、彼がここにいる時点でそれは無意味なのだろう。
それに目の前の人こそ、今救うべき人物では無いのだろうか。
どうしてか、風景が、面影が、
あの頃の、あの夜の家の縁側の2人と重なる。
「あぁ、俺で努まるかは分からないし力不足かもしれない。
でも任せて欲しい。
あんたの生徒達は─
─────── 俺がきっちり
俺はそう告げた。
「あぁ....任せ─────────」
また、ノイズでかき消される。
動いても止まっても居ないその時間から、弾き出される。
画面越しに、彼は笑っていたと思う。
電車が止まり、俺は駅のホームにいた。
そして、先程の少女の声が聞こえ、振り返る。
「巻き込んでしまって、ごめんなさい。」
彼女の顔は見えない。
そもそも、存在しているのかどうかあやふやで、頭が彼女の姿を認識できているかすら分からない。
ホームと電車の間の少しの溝に大きな壁があるような、そんな感じがする。
「いいんだ。これは俺が好きでやっていることだから。」
これまでの衛宮士郎と何ら変わらない。
ただ、少しだけ背負うものが、荷物が増えただけ。
「どうか───」
扉が閉まり、電車は過ぎ去った。
その言葉を最後まで聞けなかった。
願いだろうか、祈りだろうか。
────────────────────────────
welcome to kivotos
「......い」
「.......先生、起きてください。」
「衛宮 先生!」
鋭い声に呼び掛けられて、飛び起きるように意識がハッキリとする。
「───」
辺りを見回せば、そこは高層ビルの一室だった。
トンネルを越えたらそこは雪国、とかそういうレベルでは無い。
あれは夢だったのか。先程の光景を思い出せない。
とんでもなく頭が痛い。
広辞苑並の情報量を脳みそにぶち込まれた気分だ。
頭を抑えながら自分に話しかけた者がいる事を思い出し、その瞳を見つめた。
「少々待っていてください、と言いましたのに。
随分とお疲れだったみたいですね。
なかなか起きないほど熟睡されるとは。
夢でも見ていたのですか?」
待っていてくれと言った?
彼女とは面識すらないぞ。
「いや、悪いんだけど記憶にないぞ?」
その言葉を聞いた彼女は思いっきり溜息をついた。
「何を言っているんですか。
ちゃんと目を覚まして、しっかり聞いてください!」
「は、はい。」
初対面でそこまで強く怒られる筋合いはない───ないが.....
歳頃の女子は怒らせても百害あって一利なし。
主に桜や遠坂で学んだ。
ここは話の流れに合わせよう。
「もう一度、改めて今の状況をお伝えします。」
そう言われて、この摩訶不思議な現状の説明が入ると思ったが、そんな事も無かった。
「私は、七神リン。
この学園都市「キヴォトス」の連邦生徒会幹部です。」
「───────」
頭に情報を詰め込まれた上にさらに追加された。
彼女の頭上に浮く冠のようなソレ。
遠坂と同じ名前の少女。
童話に出てくるエルフの様な耳。
そして、どうやらここは冬木市ではない、という事実。
自室で寝ていたはずの俺は、どうやってここに来たのだろう。
「そして、貴方はおそらく。
私達がここに呼び出した『先生』....の、ようですが....
嗚呼、推測形でお話したのは、貴方がここに来た経緯を私も詳しく知らないからです。」
お互い、情報が足りないようだった。
「いや....俺も何が何だか....。」
「混乱されてますよね。分かります。」
いや、多分君の想像している混乱とはベクトルが違うぞ?
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。
でも今はとりあえず、私についてきてください。
どうしても『先生』にやっていただかなくてはいけない事があります。」
俺より彼女の方が困っている、
とりあえず疑問は置いとこう。
「分かった。
それで、俺は何をしたらいいんだ?」
「.....。」
二つ返事の了承に対してなのか、一瞬だけ驚くものの、直ぐに先程までの表情に戻した。
「....学園都市の命運。かけた大事.....ということにしておきましょう。」
「いやしておきましょう、って....ちょっ!」
彼女は俺に背中を向け、部屋を出ていく。
その背中を追いかけた。
廊下を曲がり、エレベーターホールにやってきては、彼女はエレベーターをボタンで呼ぶ。
チン、という音と共にドアが開いた。
エレベーターはガラス張りで、高層ビルなだけあってか、かなり広い範囲の風景が見渡せる。
間違いなく冬木市じゃない。
いくら新都といえど、こんな風景にはならない。
「──というか、このビル何階建てだよ。」
困惑しているのをみかねてか、ようやくこの場所の説明がされる。
「「キヴォトス」へようこそ。先生。
キヴォトスは数千の学園が集まって出来ている巨大な学園都市です。
これから先生が働く所でもあります。」
「はい....?」
学園都市....キヴォトス?
今、数千、って聞こえたのは聞き間違いだよな?
「きっと先生がいらっしゃった所とは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが.....。
でも、先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。
あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですから。」
「連邦生徒会長......。
あのさ、ええと....」
混乱ついでに呼び方に困る。
リン、だとどうしてもあいつと被るし、そもそも親しくない相手に名前で呼ぶのは失礼だ。
「なぁ、七神。
その「連邦生徒会」ってのはなんなんだ?
沢山ある学校をまとめる為の生徒会、って事でいいのか?」
俺の質問に彼女は頷く。
「とりあえずは、その認識で構いません。
後でゆっくり説明させていただきます。」
エレベーターが泊まり、ドアが開いた。
レセプションルーム、と書かれたその場所には色々な制服を着た生徒が集っている。
「ですから今リン行政官を──」
「違うわよ!だから──」
部屋の前に待機している七神と同じ制服を来た生徒に、表面は白地、裏は青のコートを羽織ったスーツを来た生徒が絡んでいた。
ツーサイドアップを振り、その顔がこちらを見る。
「ちょっと待って!───
代行!見つけた、待ってたわよ!
今すぐ連邦生徒会長を呼んできて!!
....うん?隣の大人の方は?」
彼女がこちらに掛けてくると共に、他の生徒も集まってきた。
ふと、違和感を感じた
その生徒達には頭上に天使の輪のようなナニカが浮いている。
「首席行政官、お待ちしておりました。」
と、黒い長髪、黒セーラー、赤い瞳の少女....いや俺より背丈が高い!
あれ180あってもおかしくないぞ!?
しかもなんだあれ!翼!?
「連邦生徒会長に会いに来ました。
風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求しています。」
淡い朱色の髪を持つメガネの生徒が。
「忙しい所申し訳ありません。
私の学校からの救援物資の申請書なんですけど、回線が途切れたのか、何度送ってもエラーを───」
黒髪ショートの紅い眼鏡をした少女が。
次々と七神リンの元にやってきては責め立てるように質問をしていく。
まるでニュースでお偉いさんがマスメディアに質問攻めにあっているようだ。
「あぁ....面倒な人達に捕まってしまいましたね。」
そう呟く七神は隠しきれていない嫌味な顔をして彼女達に向き直った。
「こんにちは。
各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」
うわ....ご機嫌斜めなんてもんじゃない。
笑顔でキレてる遠坂レベルだ。
「こんな暇そ...... 大事な方々が訪ねてきた理由は、よく分かっています。」
「いや!?オブラートに包み切れてないぞ!?」
と、ついツッコミを入れてしまう。
(ドスッ)
「...───!?」
他の生徒立ちには見えないように、土手っ腹に肘鉄をスムーズに食らった。
声が出ない。
「今、学園都市に起きている、混乱の責任を問うために、でしょう.....?」
悶絶する俺を他所に話は進んでいく。
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ!
連邦生徒会なんでしょう!?
数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!?
この前なんか、ウチの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒達について、一部が脱走したという情報もありました。」
「スケバンのような不良達が登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。
治安の維持が難しくなっています。
SRTの出動の話は───」
学校に風力発電所があるなんて、変わった学校だな。
不良か...そういえば穂群原学園にはそんなに不良はいなかったな。
くらいに聞き流していた。
しかし、次の言葉を聞いて俺の思考と腹部の痛みはクリアになった。
「戦車やヘリコプターなど、出処の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。
これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
「───────────」
(戦車?
洗車の間違いだろうか。
いや、次の言葉が何せ ヘリコプター だ。
というか、武器って言って───)
下げた視線に、少女達の手元が映る。
そして、ようやく彼女達に対する違和感の本当の正体に気づいた。
銃だ───銃を持っている。
俺が初めて見たのは子供の頃、親父が「開けてはいけない秘密の箱」と、言っていたその中身を見た時だ。
その当時はそれが何なのか、分からなかった。
人を傷つける為に生み出された、争いしか呼ばない鉄の塊。
だが、彼女達が持っているのは拳銃だけではない。
ライフルとサブマシンガン。
子供にだって危ないものだとわかる代物だ。
アメリカでさえ、市民がおいそれと持ち歩けない物を持っている。
「────────────」
言葉に詰まった。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?
どうして何週間も顔を見せないの!?
今すぐ会わせて!」
「......。」
七神はこちらの表情を一瞬見たが、先に質問に答えた。
「連邦生徒会長は今、席におりません。
.....正直に言いますと、行方不明になりました。」
「....え!?」
「....!!」
「やはり....あの噂は...。」
頭の中がクリアになっても、情報を脳みそが整理していく。
どうしてか俺を呼び出した生徒は行方不明になった。
そしてその生徒は連邦生徒会長。
つまり、この数千の学園のトップに立つ生徒で、その子が居なくなった。
結果────
「「サンクトゥムタワー」の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態にあります。」
当然だ。
国にしろ、会社にしろ、学校にしろ、トップが居なくなれば立ち行かなくなる。
だが、それにしても大袈裟すぎる。
確かに子供が一人いなくなったのはとんでもなく、問題だが、それをバックアップする大人がいるはず。
「大人達はどうしたんだ?」
「「はい?」」
数名の生徒が目を細めてこちらを見てくる。
七神が小声で話しかけてくる。
「....後でご説明いたします。少し黙っていてください。」
再度現状報告を始めた。
「タワーの認証を迂回できる方法を探していましたが、先程までそのような都合の良い方法は見つかっていませんでした。」
「先程まで....?
では今は方法がある、ということですか?」
「はい。」
そして、話題が等々俺に向けられた。
「この『先生』こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
「「!?」」
「───俺が?」
「ちょっと待って!
そもそもこの『先生』は一体どなた?
どうしてここに居るの?」
ツーサイドアップの少女が俺に指をさして七神を問いただす。
「キヴォトスではないところから来た方のようですが.....『先生』だったのですね。」
「はい。こちらの衛宮先生は、これからキヴォトスの『先生』として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名した『先生』...?
ますますこんがらがってきたじゃない...。」
目の前の少女達には悪いが、俺にはなんの事だかさっぱり分からない。
そもそも始めてきた場所で初めて見るものばかりで何をしろって言うんだ?
───なんて口が裂けても言えない。
とりあえず、俺が誰だかはハッキリさせておこう。
「どうも、衛宮士郎です.....来たばかりで状況はさっぱり分からないけど.....俺に手伝えることがあったらなんでも言ってくれ。
できる限りの事はするよ。」
我ながら情けない、たどたどしい自己紹介になってしまった。
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの────
って、挨拶なんて今している場合じゃ....!」
素の礼儀正しさを隠せてない目の前の少女には好感が持てた。
「そのうるさい方は気にしなくても───」
「誰がうるさいですって!?
私は早瀬ユウカ!覚えておいてくださいね!衛宮先生!」
(はやせ、ハヤセ、早瀬。
あぁ、もしかしたら名前は日本形式のようだ。)
「あぁ、よろしくな早瀬。」
そうして、早瀬と握手をした。
七神は続ける。
「....先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることなりました。
連邦捜査部、通称「
単なる部活ではなく、一種の超法的機関。
連邦組織の為、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を、制限なく加入させることも可能。
各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行う事も可能です。
何故これだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが...
シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。
今は殆ど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令でそこの地下に「とある物」を持ち込んでいます。」
彼女の視線は窓ガラス先へ移る。
どう見ても煙を吹いていた。
「衛宮先生を、そこにお連れしなければなりません。」
彼女はタブレットで誰かを呼び出した。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど────」
と、思えば急に目の前にS.Fでお馴染みのホログラムが展開される。
「シャーレの部室?
.....あぁ、外郭地区の?そこ、今大騒ぎだけど?」
モモカ、と呼ばれたホログラムに映る少女は、ポテトチップスをつまみながら七神に返した。
「大騒ぎ....?」
「矯正局を脱走した停学中の生徒が騒ぎを起こしてるの。
そこは今戦場だよ?」
「.......」
七神の顔つきが鋭くなる。
気にせずホログラムの少女は続けた。
「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。
巡航戦車までどっかから手に入れて来たみたいだよ?
それで、どうやらシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。
まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動き。
ま、でもとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事───
あ!!先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また後で連絡するね!」
そうしてホログラムは消えた。
慣れたような言い方。
彼女達が持つ銃。
戦車、ヘリ。
ここはそういう場所なのだと、頭が理解した。
そうだ、アーチャーの記憶を覗いた時に、似たような風景を見た。
頭は理解出来ていなくても、エミヤシロウは分かっている。
七神の方を見た。
「やばっ!?」
それはブキチレ寸前の遠坂を彷彿させるように拳を顔の前で握りしめている。
「待て!!七神!!ストップ!
ほら深呼吸だ!!」
何とか堪えたようで────
「....っ、だ、大丈夫です。
少々問題が発生しましたが、大した事ではありません。」
薄暗い苦笑いを見せながらそう言った。
そして、何かを思いついたのか、早瀬達を見つめる。
「....な、何..?どうして私たちを見つめてるの?」
「いえ、ちょうどここに、各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので。」
「えっ!?」
もう完全にオブラートから出した本音を口にする七神。
あぁ、うん、キャパシティ超えたんだな?
「キヴォトス正常化の為に、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。
さあ、行きましょう。」
そうして俺と沢山の困惑した生徒を置いて、七神は歩いていく。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!どこに行くのよ!」
「落ち着けって七神!!」
俺たちには彼女を追いかける選択肢しか、残されていなかった
まさか、30kmも歩けってんじゃないだろうな?
unwelcome to kivotos
「な、なによこれ!」
早瀬が叫ぶ。
どこもかしこも煙を吐き、辺りでは銃声が止む間もなく聞こえてくる。
「────なんだ。これは。」
小柄なヘルメットを被った恐らく子供であろう人影が銃を乱射している。
「どうして私達が不良達と戦わなきゃいけないの!?」
つまりだ。
何故か大人が居ない。
大人が居ないため国なんてそんなもんすらない。
あるのは学校だけ。
学校こそが国であり、稚拙な子供だからこそ、何かあれば暴力で解決しようとする。
ここ、キヴォトスはそういう場所なのだ。
そりゃ当たり前のように皆銃を持つわけだ。
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が───」
「それは聞いたけど!
私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!!
なんで私が────」
早瀬が愚痴るその時だ。
真横の路地から飛び出してくる子供に気がついた。
その生徒もまた、銃を構えている。
いや、それどころか、その銃口はこちらを向いていた。
(パパパパパッ!!
「.....早瀬─────危ないっ!!!」
「えっ!!?先──」
「きゃっ!!」
反射で数人を押し倒す。
数発が腕を掠めた。
「ぐっっ....!!!」
肉を抉るような痛みには、多少慣れている。
とはいえ、銃で撃たれたのは初めてだ。
「「先生!!」」
他の生徒が心配してか、駆け寄ってくる。
(タァン!)
「うっ!!」
相手といえば、こちらの黒セーラーの少女の狙撃によってダウンしていた。
頭にクリーンヒット。
「──────」
狙撃した生徒が俺の安否を確認しに来た。
「大丈夫ですか....先生?」
「─────あの子は、死んだのか?」
我ながら馬鹿だ。
分かりきったことを聞いている。
その子は困ったように
「.....?いいえ、気を失っただけかと。」
相手は死んでいない、殺しはしていない、と主張した。
「───────....は!?
いや!脳天直撃したのが見えたぞ!?
いくら正当防衛だからって殺すのはやりすぎだ!」
「いいえ....ですから───」
「え、衛宮先生、重いので退いてください...。」
押し倒した生徒の声に少し冷静になる。
「わ、悪かった。
皆、無事だよな?」
動転する俺を他所に庇った筈の早瀬は落ちた弾丸を拾った。
「やっぱり!!アイツらJHP弾を使ってるじゃない!!」
そして、またも飛んでくる銃弾の雨。
「伏せてください。ユウカ。
それにホローポイント弾は違法指定されていません。」
「うちの学校ではこれから違法になるの!
傷跡が残るでしょ!!」
「傷跡....?まさか。」
この子達は見た目に寄らず、実はバーサーカー並に頑丈で撃たれた程度では死なないのではないか。
「先生、混乱している御様子ですね。
心配要りません。
先生がいた所がどういう場所なのか存じ上げませんが、キヴォトスの生徒や市民は銃弾で撃たれた程度では死にはしません。」
「───────────────────────。」
今度こそ言葉を失った。
「ユウカ、今は先生が一緒なので、その点に気をつけましょう。
やはり、この方は──」
「はい、衛宮先生は私達と違って弾丸ひとつで生命の危機にさらされる可能性があります。
注意しましょう。」
早瀬は他の生徒の言葉に頷いた。
「分かってるわ。
衛宮先生。
先生は戦場に出ないでください。
私達が戦ってる間は、安全地帯にいてくださいね!」
その言葉が、俺の琴線に触れた。
「────駄目だ。それはできない。」
「「!!?」」
『先生!?』
通信から七神の焦った声も聞こえてくる。
が、そんなのは関係ない。
早瀬が迫ってくる。
「何言ってるんですか!!聞いてました?今の話!
先生は───」
「それでもできない。
俺だけ安全な場所にいて、戦闘が終わるまで隠れてろ、なんて馬鹿げた提案なんて呑めない。」
俺の言葉を聞いてから、これまで態度が柔らかかった早瀬は襟元を掴んでくる。
「じゃあ、どうするって言うんですか?
その様子じゃ銃もろくに使ったことないですよね?
ハッキリいうと前に出られても足でまといです。」
「────大丈夫だ、俺には俺の戦い方がある。
戦場で前衛に立つから、皆は援護を頼む。」
今度は黒セーラーの生徒がこちらを睨みつける。
「─では聞きますが。
衛宮先生は「生徒に手を挙げる」のですか?」
いや、それは嫌だ。
「武器を破壊して無力化する、傷つけない。」
「えっ!?」
「傲慢だ、って思うかもだけど、これは譲れない。
それに、先生ってのは生徒を導く存在なんだろ?」
一番嫌なのは目の前で少女達が銃口を突きつけあって互いに傷ついている姿を見ることだ。
「なら、『先生』は前に立ってなくちゃいけない。」
いまなら分かる。
アーチャーはこうしてドブ沼のように『正義の味方』から抜け出せなくなったのだろう。
それでも後悔はない。
そうして、
「.....
剣の荒野からそれを取り出し両手に握りしめる。
夫婦剣、干将・莫耶。
「久しぶりだったけど、何とかなるもんだな。」
「───────」
息を飲む声が聞こえる。
魔術とは基本的には秘匿するものである。
何度も遠坂や親父に教えられた。
でも、教えの親父は言っていた。
「魔術はね、他人のために使うんだ。
そうすれば士郎は魔術使いであっても、魔術師ではなくなるからね」
と。
遠坂も俺がまだ魔術師であると知らないうちから、死にかけた俺を魔術を使って助けてくれた。
そして、常識の違うこのキヴォトスでなら。
「.....先生、貴方は一体───」
早瀬が1、2歩離れていく。
その質問に対して俺は
「そうだな、俺は「正義の味方」、って奴かな?」
自然に、そう名乗っていた。