衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
馬鹿みたいな話、また誘拐された。
初めには便利屋68に、次はブラックマーケットの銀行員に。
そして今度は────ゲヘナの生徒に。
高速道路を走る橙色の車。
その荷台の上で芋虫のように蠢くことしか出来ず、文字通りぐるぐる巻きにされた状態で刃物を投影しようものなら自分に突き刺さってもおかしくない。
どうにか体を起こし、車後方を見れば風紀委員会の物と思わしき車両がこの車を追跡していた。
「止まれ!この規則違反者共め!
美食研究会!止まれと言っているのが聞こえないのか!!」
凛とした少し高めの声。
これまた俺をさらった銀髪赤髪の特徴、されどその髪型はツインテールの少女。
拡張器を使いこちらに向かって叫んでいる。
「車の荷台に人質?
フン、銃弾数発くらいで死んだりしないだろ。
でもなるべくあてるんじゃないぞ。」
と言っている。
待て、と叫びたかったがその時間も無く、そもそも猿轡替わりに縄を噛ませられてる俺にその自由はなかった。
荷台に再び寝転がる。
唯一俺を守ってくれるのはこの荷台の後ろアオリのみ。
(カキンッ)
金属と金属がぶつかるような音が響く。
せめて強化の魔術が使える体勢なら良かった。
魔術師にとって必要な「言葉」を塞がれては太刀打ちもできない
いや、そんな事ができる状態ならさっさとホシノ盾なりアイアスなり展開している。
すぱん、という音ともに早くも銃弾がアオリを貫通する。
運のいいことに弾は縄にかすり、プツリと音を立て拘束を緩ませる。
「しめた!」
力に任せ縛っていた縄を引きちぎる。
銃声が響き続ける中、どうしてその音に気づいたのか、運転席の1人が慌て出す。
「あれ!先生が抜け出しちゃったみたいだよ!!」
縦巻き角が特徴的な生徒がこちらを見る。
「問題ありません、時速100kmも出ている車から高速道路へ飛び降りるお馬鹿さんでは無いでしょう♪︎」
しれっと言ってのける黄色い髪の少女。
正しいのが憎らしい。
こんな状態で降りようものならミンチになるに決まっている。
かといって、車を停めようものなら強引な手段しかない。
で、急制動をかければ間違いなく反動で地面に叩き出される。
───つまり、高速道路に上がられた時点で俺に為す術など無かったのだ。
強いて言うなら後方からの射撃に当たらないように防ぐしかない。
車全体をカバーするにはホシノの盾では小さすぎるし、アイアスでは大きすぎる。
故に───
「
故にいちばん早いのは車の
「構成材質、解明。
基本骨子、変更。
先程まで弾が貫通していたアオリが弾を跳弾させている。
しかし良い事づくめ、とはならなかった。
跳弾した弾丸は当然反射する。
故にその弾かれた弾丸の先の物が破壊される。
俺は何が起きても対処できるよう、弾丸の向かう先に集中する。
その弾丸のひとつが、道路上空の標識の支柱に直撃した。
傾くメタルプレート。
そのままこちらを追跡する彼女達の車両の上に落下していく。
さっきのマコトの状態を思い出す。
今度は俺のせいで、生徒が怪我をする。
それだけは、先生としてそれだけは許されない。
指先は無意識に作り上げたトリガーアクセルに触れている。
その先端の口径の弾なら、あれだけの重量の標識だって弾き飛ばせる。
7.62×53mmの弾など手元に無い。
しかし、銃弾程度魔力さえつぎ込めば作れるはずだ。
「
即座に投影した銃弾を中折式の銃に装填する。
銃など使ったことがない俺が、どうしてこんなにスムーズに弾丸装填出来ているのか。
それは一概に 過去、切嗣の銃から当人の経験技術を吸収していたからに他ならない。
落ちていくソレに銃口を向け引き金を引いた。
「
(バァァンッ!!)
反動をコントロールして衝撃を逃がした。
(チュインッ!.....ズガッ!)
発射された弾丸が直撃したことにより道路標識はその衝撃で横にそれ、道端に転がった。
「ふぅ.....」
安堵した。
気づけばその混乱によって風紀委員会の車が立ち往生してしまっている。
「まーた、やっちまった。」
シロコの時と同じように、彼女たちを助ける為、その行動の邪魔をした。
しかし、今度は固有結界の暴走は見られない。
彼女達の車が離れていく。
「どうやって────」
この車から脱出しようか、と考えていた矢先である。
(ピロピロ)
端末が鳴り響いた。
『先生!チナツさんからです!』
アロナの声に勢いよく端末をポケットから引き抜き電話に出た。
「あぁ、昨日ぶり火宮。いまさ────」
『衛宮先生!!今すぐその車から飛び降りて地面に伏せてくださいッ!!!』
火宮は俺の状況を察している。
というか、風紀委員なのであの止まった車のいずれかに乗っているのかもしれない。
それより異常なのは火宮が切羽詰まっていることだ。
落ち着いている印象の彼女が声を荒らげている。
「うおっ!?
ごめん、それは無理だぞ。
いくら何でもここから飛び降りたら────」
『何かに捕まってください!!先生!車が急停車する筈────』
「何かって一体何に────」
目の前にあるのは穴の空いたアオリと千切れた縄。
それを無理やり結びつけ、腕にぐるぐる巻にして衝撃に備える。
車が急停車した。
運転席の彼女達を見たら諦め顔でこちらを見ている。
車の前方に立っているのは小さな少女。
おそらくホシノと同じくらいの身長で右手にはとんでもない大きさの機関銃を脇に挟むように持っている。
「..........はぁ....。」
車前方に立つ彼女はため息をついた。
『先生!!早くッ!』
その異質さに体の方が理解して勝手に動きだす。
アオリを飛び越え、車を盾に頭を庇い地に這った。
(バリバリバリバリッ!!)
その豪快な音ともに弾幕が形成され、車ごと撃ち抜いてきた。
対弾装甲で出来ている車を強化したのだからそれは戦車の装甲並に硬い。
故に先程は弾を弾き返した。
それを貫通するのだからその弾はレーザー並の威力だろう。
そんなものを掃射して当てられ続けているのだから車がもつわけがない。
俺をさらった生徒達を運転席に残したまま、車は炎上し爆発した。
「うわぁ........。」
『──────不良が恐れるとんでもない生徒がいるんだ。
それがゲヘナの風紀委員会とその風紀委員長。─────』
藤河の言葉を思い出す。
その生徒は炎上する道の中堂々と歩いてきて、俺に手を差し伸べた。
『空崎ヒナ。
アイツの名前を聞いて震え上がらない不良生徒は居ないよ。』
「怪我は無さそうね。大丈夫?
「──────」
「......あの?」
言葉が出なかった。
余りの強さと、唐突すぎる救いの手に困惑していたんだろうか。
違う。
ただ、その姿があまりにも格好良すぎて、言葉を失ったんだ。
彼女は何の感情も、その瞳に乗せず俺を見据える。
この瞬間だけは、周囲の炎をわすれ、状況を忘れ、時間を忘れた。
「私は風紀委員長のヒナ。
名前は知ってると思うけど…。よろしく。」
対策委員会編第2章終盤で士郎には
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無限の剣製を使って欲しい
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カタルシスにはまだ早い(固有結界未使用)