衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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怒涛の伏線回収、と言うには荒っぽいですがちょっと重要なお話。


#19 Texture as are Teacher/便利屋68VS美食研究会(Ⅰ)

乗せてもらっている最中、車が柴関ラーメンを通り過ぎた。

 

「あ、悪い!ここまででいい。知り合いの店なんだ。」

 

そう言うと運転手を務める生徒は停めてくれた。

 

「わかりました、くれぐれもお気をつけて、衛宮先生。」

 

「あぁ、ありがとな。」

 

 

柴関ラーメン

 

正直、仕事を引き受けたにしてはあまりに顔を出していない。

 

 

「大将、調子はどうだ?」

「あ、先生か。

今日は人手が足りなくてな。手を貸してくれると助かる。」

 

見れば客は多いがセリカは見当たらない。

それは彼女のシフトが入っていないか、まだ時間になっていないことを示している。

 

「わかった。」

 

見たところラーメンを茹で、トッピングまでは芝大将で何とか足りている。

 

が、その先、ラーメンを運ぶ人員が足りていない。

俺の役割はそれだろう。

 

「良し。」

殺菌消毒を終え、エプロンを付けて暖簾をくぐった時。

 

 

「「あ」」

 

銀髪に赤目の生徒と目が合う。

 

それはヒナが美食研究会と呼んでいて、俺をさらったグループが勢ぞろいしていた。

 

 

「あら先生、ごきげんよう」

 

とにこやかに言うのだから恐ろしい。

 

「なんでお前たちがここに居るんだ!?」

 

「なんだ?先生の知り合いか?」

 

大将に聞かれるがそんなことは一切ない。

知り合いどころか初対面なのに縄でぐるぐる巻きにされ誘拐された。

 

「初めまして。

私は 黒舘ハルナと申します。

 

このキヴォトスにて美食の道を探求する者のひとりですわ。」

 

 

何の反省も悪気もなく、彼女はそう言った。

 

「───────なんで美食研究会が俺をさらったりするんだ。」

 

「あぁ、それは衛宮先生の作る料理が絶品だ、というお噂を聞いてま────」

 

「それで人をさらうのが問題だとは思わないのか!?」

 

ツッコミが追いつかない。

 

「衛宮先生~、ラーメンまだなのー?」

 

と、縦巻き角の生徒が言う。

 

「.....あぁ、もう。ちょっと待ってろ!」

 

少し苛立ちながら大将の元に戻った。

 

「仲良さそうだな、先生」

 

どこがだ!どこが!!

 

 

 

 

少し時間が経って客が彼女たちしかいなくなり、手が空いたので彼女の話を聞いた。

 

俺をさらった理由は、「噂の衛宮先生の料理がどの程度のものなのか知りたかった。」との事。

 

あの騒動の発端は「客対応と料理の味が悪い店を爆破したら隣の武器屋に誘爆した。」

 

さらには

 

「先生のお車、いえ正確には万魔殿の車がちょうど通りかかりまして、ふと見たら衛宮先生のお顔が目に入りまして。」

 

 

なんて言い出す。

 

 

誘拐した理由になっていない。

 

「......なんで飯を作ってもらうだけで誘拐案件になるんだよ。

直接シャーレに来るなりして俺に頼めばよかったじゃないか。」

 

 

「「え?」」

 

「そんなので作ってくれるんですか?」

 

当たり前だ。

銃器で攻撃されたり爆破されたり誘拐されるより余程そちらの方が平和的だ。

 

 

というか────

 

「客対応が悪くて爆破される店って.....どれだけ店としてなってないんだ?」

 

「ええ、ですから────」

その後長きに渡る黒舘の現場解説が入った。

 

入ったのだが、頭にくる正当な理由もあれば、普通であれば気にならない細かい問題もあった。

最たる物は店員の態度、腕組みして待機するシェフだったりそわそわするウェイトレスだったり。

 

「それだけで店を破壊したのか?」

 

「むしろ十分では無いでしょうか?

 

料理を振る舞う側にそれ相応の心構えが出来ていなかった。

それだけで飲食店を名乗る権利はないと思いますが?」

 

「だからって爆破はやり過ぎだ!」

 

たしかにキヴォトスにはキヴォトスなりの食文化が根付いているのだろう、それはわかる、わかるが.....。

 

「たしかに対応は悪かったんだろう。

でもそれは店員全てがそうだったのか?

 

日々努力していたシェフだっていただろうし、真面目に業務に取り組んでたウェイトレスだって居たはずだ。

 

1人悪かったからって10全部悪いわけじゃないだろ。」

 

黒舘は少しだけ押し黙った、が、取って返した。

 

「....ですが、正そうとしない時点で同罪です。

その人が行っていないから、ではありません。」

 

 

「店だから連帯責任だって、そう言いたいのか?

自分は正しい、正しいから何をしてもいいって言うんだな。」

 

奥歯がぎしりと鳴る。

 

店を爆破。

それは「消えてなくなって欲しい」という意思表示。

 

ただ1度のミスで改善や改心の余地なく全てが無くなる。

それは、今の藤河達を否定するのと同じだ。

 

 

そもそも行動の割に口調が丁寧だ。何処かのお嬢様なのかもしれない。

それこそ、気に食わない、みすぼらしい、目障りだ、と言ったあの傍若無人な英雄王と何が違うのだろう。

 

 

瓦礫に溺れる街。

 

火に包まれる人々。

 

思い出す。

 

「なら、そこに足を運んだお前は見る目がなかったんだな。」

 

口にするな

彼女の目付きが変わる。

 

 

おそらく行動や思想を責められていた事はあるが、美食家としての価値観に傷をつけられたことは無いのだろう。

 

「─────言いますわね。

では先生には私よりも正しい評価が出来ると?」

 

「出来ない。

そもそも俺は高級ホテルのシェフでもなければ料理人ですらない。

一般人だ。

 

でも、ひとつ言えるとしたら。」

 

 

その先を口にするな。

 

 

 

「お前のそれはただの独善──────」

 

ゴポッ、と口から床へ血がこぼれる。

 

「.....え?」

「ちょっと先生どうしたの!?」

 

 

俺と黒舘の話を傍聴していた美食研究会のメンバーと柴大将が慌てふためく。

 

胃からせり上ってくるのは、金属の塊。

体の軋む音が聞こえる。

 

 

銃を乱射されたわけじゃない。

 

身体に穴は空いていないし、目の前の口論していた生徒も顔をひきつらせている。

 

 

 

────────やはり、この銃弾は体内で作られ、発射されたのだ。

 

 

 

「ゴホッ....」

 

洗面台のある場所まで駆け込む。

 

胃からは2マガジン分はあろう7.56mm×56の、誰が見てもスナイパーライフルの弾。

 

 

 

「あら、衛宮先生は銃弾を食べるのが好みなんですか?」

 

「うわっ!!!」

 

後ろにいたのは横巻きの角を生やした生徒。

 

「お前は....」

 

 

「美食研究会のアカリです。

 

それで、先生どうしたんですか?その銃弾、口径がハルナさんのものと一致しますが。」

 

 

 

え.....?

名前よりそのあとの言葉が耳に残る。

 

 

たしか最初に吐いた時は、セリカの弾丸だった。

 

 

 

 

 

洗面台に手を置き、考える。

 

あの時セリカに拒絶され、去った後便利屋68が─────

 

 

生徒から、拒絶された。

消えて欲しい、目障りだと。

 

それは「先生」としてそもそもおかしかった。

 

つまり─────。

 

 

「俺が「先生」として認められない───いや。

生徒から「要らない先生」として扱われると、衛宮士郎(先生)を保てなくなるんだ。」

 

「はい?」

 

疑問符を投げるアカリをよそに俺は思考した。

 

 

 

 

 

 

 

回路の暴走。

それは魔術行使による反動などではなく、俺が「先生」の道から外れた時に起こるのだ。

 

そうでなければ、なんどもアイアスを剣の丘から引っ張って来れている説明がつかない。

結局は剣が起源の俺の魔術によるものなのだから。

 

 

 

 

便利屋68の時には沸騰した頭で陸八魔に向けた干将 莫耶は自壊した。

 

それは剣のイメージが崩れたからでは無い。

衛宮士郎という先生の概念が崩れかけたからだ。

 

生徒を傷つける先生などいない。

生徒に銃を向ける先生などいない。

生徒に剣を向ける先生などいない。

 

 

 

そうだ。だから銀行員の持つバッグを撃ち抜いて、生徒を攻撃したことを自覚した瞬間に、固有結界が暴走した。

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

アカリが背を撫でてくれたことをきっかけに我に戻る。

 

 

「....あぁ...平気だ。

ちょっとした持病みたいなものだ。」

 

この世のどこに血と共に弾丸を吐く病気があろうか。

そんなことは嘘とわかっていながらアカリは

 

「そうですか。大丈夫そうで安心しました。」

 

そう言ってくれた。

 

 

「.....悪いこの事は黒舘には言わないでくれ。」

 

「.....でしたら今日の支払いは衛宮先生持ち、ということでどうですか?」

 

そうにこやかに笑う目の前の少女は何かを察してくれたようだった。

 

その笑顔に少しだけ心を救われた。

 

 

「あぁ、よろこんで。」

 

再度洗面台で顔を洗う。

 

そうしてアカリと共に戻ろうとしたところ。

 

 

目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば瓦礫の下敷き。

 

とっさに体がアカリを庇って押し倒したのか目の前には気絶した彼女がいる。

 

 

「何が起きたんだ......?」

 

 

『衛宮先生!!ご無事ですか!!?』

 

端末からアロナの声が聞こえる。

 

「アロナ、一体何が。」

 

 

『わかりません。柴関ラーメンがいきなり爆発しました!』

 

 

 

は?

店が爆破された?

 

「待ってくれ!まさか黒舘が!!」

 

「.....いくら私でも美味しいラーメンをご馳走してくれた店を爆破はしませんわ。」

 

と俺の頭の上の瓦礫をどかしてくれたのは先程まで口論していた黒舘だった。

というか「いくら私でも」ってそう言う自覚はあるのか....。

 

「じゃあ一体───」

 

「それは本人たちに聞いてくださいな。」

 

苛立つ黒舘。

しかしそれは俺に対してでは無いようだった。

 

 

 

「え、衛宮先生!!?」

 

 

そこにはまさかの便利屋68メンバーがいた。

 

 

 

 

激突する魂

 

 

陸八魔は咳払いをひとつすると

 

「ごきげんよう、衛宮先生。

 

流石は魔術師ね。

こんな爆発の中でも生きているなんて。」

 

軽くそんな演技をした。

額には冷や汗が流れている。

 

 

「馬鹿言ってろ。アロナの守りがなかったら今頃消し炭だ。」

 

 

「ア、アロナ.....?よく分からないけど随分と謙虚なのね。」

 

 

当然これは本音だ。

 

というかそれで気づいた。

 

 

「柴大将は!!」

 

「彼なら無事ですわ。私が庇いましたもの。」

 

と、遮蔽物の後ろを指し示した。

 

見れば気絶はしているが怪我はあまりなさそうだ。

 

 

「.....一応礼を言っとく。」

 

「そんなものは要りませんわ。

彼のラーメンは美味でしたから。」

 

結局そこに行き着くのか。

 

 

 

「それは置いといて。

陸八魔。なんで柴大将の店を爆破したんだ。」

 

「そ、それは.....。」

かなり困っている。

犯人は便利屋68で間違いないだろう。

 

しかしあの顔、予想外のことが起きた、と申し訳なさそうな表情をしている。

顔は青ざめ白目を剥いている。

 

 

「.....アルちゃん....マジで?マジでぶっ潰しちゃったの?

 

情に絆されるからって、あんなに優しくしてくれたラーメン屋さんをぶっ飛ばしちゃったの!?

 

やるじゃーん」

 

 

白髪の少女が陸八魔の肩を叩く。

資料によれば彼女の名前は浅黄ムツキ。ゲヘナ学園の2年生だ。

 

 

「これぞまさに、血も涙もない大悪党!

そんじょそこらのザコには到底出来ない鬼畜の所業!悪人中の悪人じゃん!

これがハードボイルドなアウトローってやつだね!!すごいよ!アルちゃん私見直しちゃった!」

 

浅黄が陸八魔を煽てる。

 

「へ.....あ.....?

........あ、アハハハハッ!!と、当然でしょう!?

冷酷無比、情け無用、金さえ貰えば何でもオッケー!

 

それがウチのモットーだもの!」

 

 

風紀委員会の資料によれば元々陸八魔アルという少女は内気な生徒だった。

しかし、いつの日かイメージがガラリと変わったらしい。

 

とはいうものの、今の雰囲気を見れば分かる。

彼女は変わりきれていない。

 

おそらくは元々いい子だったのだろう。

 

先程負傷した柴大将を一瞬だけ見て、瞳を伏せたのを俺は見逃さなかった。

 

おそらく浅黄はそんな陸八魔を庇うためにおだてたのだ。

これは不慮の事故。

 

お互い謝れば済む話───ではないが、そこまで問題ではなかったはず。

 

そう、ここに彼女たちがいる限り、そのような終わり方は無い。

 

 

「こうも1日に2度も、私の価値観に傷をつける人間を見かけるなんて。厄日ですわね。」

 

彼女はスナイパーライフルの弾倉を装填した。

 

場合によっては戦闘になる。

俺はこれまで以上に生徒に剣を向けられない。

 

『約束して、死なないって』

 

ホシノとの約束は破れない。

 

戦うすべがあろうと、戦闘になれば俺は死ぬだろう。

 

 

 

 

「衛宮先生、後ろに。私達へ指示を。」

 

黒舘の言葉に顔を上げる。

 

「聞いた話、戦術指揮もお得意だとか。

自らのお世話になった店の尊厳を守る気はあって?」

 

黒舘は柴関ラーメンが自分の眼鏡に叶ったと、そう言った。

そして、そこで働く俺にチャンスをくれている。

 

「まさかあれだけ私に口舌を垂れておいていざとなれば自らの店の名誉を守るつもりはない、なんてことはありませんわよね?」

 

 

「いや、黒舘の言う通りだ。

協力してくれ。」

 

頭を下げた。

1度言った言葉は取り消せない。

 

故に、行動で自らの意志を示すしかない。

 

 

「結構。では行きますわよ。皆様。」

 

「「オー!!!」」

 

 

こうして、何度目かの便利屋68との戦闘が開幕した。

 

対策委員会編第2章終盤で士郎には

  • 無限の剣製を使って欲しい
  • カタルシスにはまだ早い(固有結界未使用)
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