衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:─────
5日も寝ていたのでストーリーショートカットです。
士郎の察しが良すぎる気もする。
柔らかい、何か食べ物の感触が、唇に触れた。
「.....あぐ.....むぐむぐ」
誰かの料理だろうか、なぜ寝ながら食べているのかは分からないが、せっかくだ。
味あわせてもらうとしよう。
「お目覚めですか?あなた様?」
この話し方をするのは一人しかいない。
シャーッという音ともにカーテンが引かれ、俺は眩しい日差しを手の甲で遮った。
「おはよう、ワカモ。
やっぱりお前に起こされるのはなんか安心する。」
毎日の日課。
それは当たり前である、ということ。
それが続かないことは人にとって、不安を想起させるものだ。
とくに新天地であればあるほど。
俺が寝坊助になった時のみ、ワカモが起こしてくれている。
それがキヴォトスにおける俺にとっての当たり前になっていた。
体を確認する。
「......何ともない.......?」
覚えている。
セリカとノノミ、便利屋68、そして美食研究会を率い、ゲヘナ風紀委員会と戦って敗北したことを。
俺が負った怪我は酷い重症だったはず。
下手をすれば出血多量で死んでいてもおかしくなかった。
そうなっていないのは......、
いや、おかしい。
セイバーの、彼女の鞘はもう随分と機能していない。
だと言うのに、どうして傷がどこにあったか分からない程に塞がっているのか。
起き上がろうとすると目眩がした。
「ダメです!士郎さん!大人しく寝ていてください!
輸血したとはいえ、全然血が足りていなかったのですから。」
布団に馬乗りで押さえつけられる。
「血が、足りてない?」
つまりだ。
血を流し過ぎた分、誰かの血で補った。
外見だけ治って中身は後回しだったということになる。
「まさか、あなた様にあの女の血が.........」
「ワカモ?」
様子がおかしい。
「なんでございましょう!?」
「??
ホシノとヒナを呼んできてくれ。」
俺の言葉に珍しくやれやれといった態度をとるワカモ。
「士郎さんはシャーレに帰ってきてから5日間も眠っていました。
空崎ヒナとホシノさんはもう居ません。」
「5日間!!?ならあの後どうなった!?」
「.....風紀委員会が7割悪いということで、空崎ヒナが正式に謝罪して終わりました。
対策委員会とシャーレに対し風紀委員会が"貸り"を作ったことになります。」
「........そっか。」
俺は抵抗する力を緩めた。
話し合いの席に座ることは出来なかったが本人達が平和的に解決したというならそれでいい。
「それで、士郎さん、両者お2人から言伝を預かっております。」
とワカモは俺に向き直った。
「言伝?」
「はい。
まず、空崎ヒナ、風紀委員長からです。」
と、ワカモが差し出した手紙。
かなりしわくちゃになっているが、封は開けられていない。
恐らく怒ったワカモによるものだろうか。
「珍しいな、ワカモなら封を切って中を見ると思ったんだが.....」
「いくらなんでも乙女の手紙の封を宛先本人以外の者が切るのは......」
??
だからしわくちゃにして、捨てようとしたと?
「....業務関係のお話が載っていたら.....その....」
衝動より理性で行動したらしい。
アビドスでの便利屋との戦闘時に比べ、ちゃんと考えていた。
「よし、偉いぞワカモ、この調子で行こうな?」
生徒を傷つけられて、衝動的になる自分が何を言っているのやらと、今更ながらに思う。
まぁ、撫でられてる本人が嬉しそうにしてるので、まぁいいか。
封を切る。
ヒナの手紙の内容は、謝罪、謝罪、謝罪。
「別に気にしていないんだけどな.....」
あれはヒナのせいでは無い。
間違いなく天雨の独断専行だ。
それはさておき、手紙の最後の文章。
『捨てられたアビドス砂漠で、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる』
その文章はどうにもひっかかる。
ブラックマーケットであれだけ事実を隠そうとした黒幕の情報がどうして簡単に入手出来たのか。
ゲヘナの情報部が優秀だ、の一言で片付けてしまうにしてはおかしい。
「ホシノはなんて?」
「.....風紀委員長から情報を確認した後、5日後まで先生が目覚めない場合、指定の場所を調査しに行く。と伝えて欲しい。
との事でした。」
──────────。
「ワカモ、他に何か言ってなかったか?!
柴大将の事とか、柴関ラーメンの事とか。」
「えっ?
そうですね.....」
ワカモは思い返しながら説明してくれた。
柴大将の怪我は軽傷。
しかし、店を畳む決意をしていたと。
もともとラーメン屋のあった土地はアビドスではなく、カイザーコンストラクション持ちであり、立ち退きを要求されていたらしい。
セリカ、ノノミも2日もしないで退院し、学校に復帰していること。
アヤネは単独、土地の管理に関しての調査をした結果、アビドス高校が所有している土地はほぼ無かったこと。
そして、その持ち主がカイザー系列であること。
まだホシノ達にゲヘナで得た情報を共有出来ていない為黒幕がカイザーで確定したことを知らないはず。
ここで、いや今更疑問に思う。
アヤネは言った。
「自分たちにお金を貸してくれる真っ当な金融機関など存在しない。」と。
それは返してもらえる見込みがないからだ。
であれば、カイザーはどうして10億などという大金を対策委員会に貸していたのか?
利息が700万とはいえ、どう考えても割に合わない。
そして、これまでどうやって利息を納めていたのか。
現状証拠で結びつく。
ホシノ達が入学するより遥かに前の世代。
過去の対策委員会は土地を売り膨大な金に変換して借金や利息に肩代わりした。
しかし、砂漠に埋もれつつある街の土地にそこまで付加価値がつくとは思えない。
足りず土地を売り、また足りず、と芋づる式に。
それはカイザーからしてもそうだろう。
つまり、カイザーグループにとってはそれに代わるものがアビドスにあったのだ。
昔はマンモス校だった。
人の多い土地には霊脈が走っていることもあるが.....ここはキヴォトス。
いや、考えても仕方が無い。
「.......ワカモ。そこをどいてくれ。」
行かなければならないのに、されどワカモはどかなかった。
「いいえ、あなた様を行かせる訳には参りません。
あなた様はいつだって、誰かのために大怪我をしています。
そんなお姿を私は見たくありません。
私だけではありません、対策委員会の方々も同じ考えだと思います.....。
ですからここにいてください。
伏して、伏してお願いします、士郎さん....。」
ワカモは布団の上に三指をついて深く頭を下げた。
それはやはり、俺の体を気遣っての事。
それでも。
「それでも、出来ない。
........アビドスに行かなくちゃ。」
その願いを、俺は拒絶した。
「何故ですか?考えてもみてくださいませ!
あの額の借金を抱えながら自治区の運営がいつまでも出来るとお思いですか!?」
その諭し方は、間違いなく現実を見ている少女の言葉だった。
周りが見えていないと思っていたその少女はロマンチストであり、現実主義者でもあったようだ。
「それは夢物語です!
いつかは利息を返す手段すらなくなり、自治区の地権を放棄せざるを得なくなるのはお分かりでしょう?!
例え彼女達の在学中、それがまかり通ったとして、その後は?
金が回らない、魅力もない砂漠ばかりの自治区の学校に入学する生徒なんてどれほどいますか!?
いずれは無くなる学校です、自治区です。
そんな無意味な事の為にあなた様の身が傷つく事など─────」
「ワカモ、出来る出来ないじゃないんだ。
たとえ越えられない壁があっても、それに向かって挑戦することに意味が無い、なんて俺は思ってない。
諦めたら、そこで全部終わりだけど、「いつかは」と手を伸ばし続けることは出来る。
出来ないこともあるけど、人っていうのはそうやって成長していくんだと思う。
例え借金を完済出来なくても、アビドスが復興できなくても。
彼女達は最後まで走り続けると思う。
何せ「死ぬまで返せない」なんて現実を見て言っている生徒が1番頑張ってるんだから。
だから俺はその手助けをしたいんだ。」
違う。もっと単純だ。
セリカが、ノノミが傷ついて改めてわかった。
「守ってやりたいんだ。
先生としても大人としても、正義の味方としても。
少しでも不条理で残酷な現実から。
それに立ち向かえるように。」
──────私達、間違ってたのかな?──────
シロコの悲しい顔を覚えている。
そう、傷ついて欲しくない。
体だけでは無い、心が。
折れて欲しくないのだ。
「出来ないって、届かないって周りから言われても、止まらないし、振り返らない。
それをしてしまえば今までの自分が間違ってた、って事になる。
俺は間違いなんかじゃないって、信じてる、俺もアイツらも。」
「士郎さんも、そうなのですか?」
ワカモの疑問に、俺は頷く。
「俺はみんなが笑って暮らせる、誰も傷つかない世界にしたいんだ。」
「それは.....現実的ではありません....」
再び頭を縦に振る。
「だけど、出来ないからって諦めたら、この世界そんなことばっかりだ。
だから、俺は少し救われてるんだ。」
こちらも体ではない、心がだ。
叶わないなんて微塵にも思っていないかもしれない。
ほんとに返済できると思って、復興できると思っているのかもしれない。
それでもいい、誰かに見捨てられても、笑われても彼女達は「自分達の道が間違ってない」って言ってくれるなら。
「俺は信じてる。」
ワカモは少し考えたあと。
条件を出した。
「わかりました......私を傍においていただけるなら、士郎さんの夢と全てを外敵からお守りいたします。」
「.....この前みたいなのは無しだ。
相手は何考えてるか分からない大人達ばっかりだから、下手を打ったら皆の頑張りが無に帰すかもしれない。
だから約束してくれ。
俺が指示するまでは戦わないって。
ワカモは俺の護衛に呑み専念して、決して隣から離れないって。」
「はい!このワカモ、自らの命に───」
「後それも無しだ。」
そうして彼女はやっと俺の上から退いてくれた。
「行こう、アビドス砂漠に。」
ホシノには繋がらない。
砂漠に基地局なんてある訳ない。
幸い、目標座標の情報はあったのでアロナのナビゲートを頼りに藤河に頼み込んで車を出してもらう。
「コンパスよし、非常食と水もよし。でも士郎、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だ。出してくれ藤河。」
魔力は回復しきってない。
コンディションも良くはない。
でも、止めなければ。
どんな罠にせよアビドス対策委員会は毒蛇のいる薮をつついている。
危険だ。
「今回は対策委員会を止める。」
「例え戦闘になっても?今連れている10人じゃ太刀打ち出来ないよ?」
バンに乗っている藤河組のメンバーは9人、そしてワカモで10。
6個中隊相手を叩き潰せる対策委員会に対して勝ち目は薄い。
「それでも止めなくちゃ。」
「ま、士郎ならそう言うと思ったけど。
大丈夫。先生の言葉なら聞いてくれるよ。なぁ、皆。」
と藤河が乗っている仲間に聞いた。
その皆も首を縦に振ってくれた。
「サンキュ、皆。
頼りにしてる。」
バンは走り出し、俺達はアビドス砂漠に向かった。
Vol1 2章終了後、見たい絆ストーリー。とある事情により絆が深まらないのでホシノを除く。
-
黒見セリカ
-
砂狼シロコ
-
奥空アヤネ
-
十六夜ノノミ
-
早瀬ユウカ
-
羽川ハスミ
-
空崎ヒナ
-
本編を進めろ余り我を待たせるな雑種
-
全部書け、そのような泣き言聞く耳持たん
-
「バカの藤河は何処だ!」