衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
俺が現場に着いた時には、既に戦闘は終わっていた。
「悪い!どいてくれ!」
そう言って傭兵たちを掻き分けて騒ぎの中心へと向かう。
「ふむ、どうやら役者が揃ったようだな。」
全身機械の男は不敵な笑みを浮かべ、こちらを見た。
「役者が....揃った?」
「士郎....!?どうやってここに来たのよ!?」
セリカの一声で全員がこちらに向く。
対策委員会は戦車や傭兵に囲まれ、カイザーグループの責任者と話し合いをしていた。
彼女達は無事、手荒い扱いをされている、なんてことも無い。
「改めて挨拶をしよう。私はカイザーPMCならびにカイザーコーポレーション、カイザーローン、カイザーコンストラクションの理事だ。
連邦捜査部シャーレの、衛宮士郎だな?」
「あぁ、そうだ。
あんたのことはカイザー理事、って呼ばせてもらう。
俺はただあんた達の私有地だと知らずに調査に向かったこいつらを回収しに来た。」
「ほう...?」
とりあえずこっちの目的は正確に伝えておかなければ。
変な事を言えば、周りの機械兵達に撃たれてもおかしくない。
「なんだ?つまり「知らなかったから許してくれ」とでも?」
「いや不法侵入したことは確かだし、PMCって事はそれなりに秘匿義務とかあるんだろ?
そこの罪は諸共俺の監督不行届だ。
全責任は俺にある。」
「士郎!?」
「.....待った、今回の事にシロウは関係な───」
再度生徒達に銃が向けられた。
「今、シャーレの先生は私と話をしている。口出しするな。」
銃で脅して黙らせる。
力で子供をねじふせる、俺の苦手な手合いだ。
「それで?どう責任をとるつもりだ?」
「話し合いの前に俺も聞きたいことがある。今回先に手を出したのはどっちだ?」
「....何?」
俺の言葉に怪訝な顔をするカイザー理事。
「先に戦闘行為を始めたのがそちらであるなら正当防衛だって成立するだろ。
普通軍隊の私有地になんて入れば、普通警告するもんだ。
ホシノ達が理由なく暴れるとは思えない。」
「.......。
まさか、私有地に侵入したとはいえ警告なく射撃されたからそれは正当防衛だと?
とんだ話だ。」
カイザー理事は余裕を見せているが、事実を口にしようとはしない。
「どうなんだ?ホシノ。」
「......私達はなんの警告も受けてないね。
それに急に攻撃されたよ。」
ホシノはただ事実を口にした。
「って、俺の生徒達は言ってるけど、どうなんだ?理事。」
「......ふん、戦闘ログなどそちらにも残っているだろう。
わざわざ私に確認せずとも分かる事をこの場で聞くとはな。
頭が回るじゃないか。衛宮士郎先生。
義務を怠った非は認めよう。
......この程度の損害賠償を請求したところでアビドス高校が我々に借りている金額に比べたら大したことは無い。
ここでは何も無かった、と、そういう事にしよう。」
俺はその提案を拒否した。
「いや、損失分の半分はシャーレとアビドス対策委員会で補填する。」
「「先生!?」」
「勝手に決めて悪い。でも.....」
ここは簡単に引かせてはダメだ。
「......貸しにするつもりか?」
「どうとでも思ってくれ。
ただ自分達の正当性だけ主張して相手を黙らせるのが嫌なだけだ。」
「ハッ、話には聞いていたがこれ程甘い小僧とはな。」
「.......。」
「良いだろう。では次の話し合いだ。
古くから続く借金の、な。」
ここからが本題だと言わんばかりに理事は述べた。
こちらの勝ちはその程度で揺るがない、と言わんばかりに
「.....結局、あなたがアビドス高校を騙して、搾取した張本人って事でいい?」
言われっぱなしが気に触ったのかシロコがカイザー理事に対して憎悪を込めて言った。
「ほう?」
「待てシロコ、ここは俺が受け持つ。」
「でも────」
「いいから!
それに俺の判断を待たずに調査に向かったお前たちにだって非があるんだから。
今はまだ、だと。
相手の口から「私が敵だ」と言わせるまではそうじゃない。
そう言い含めた。
当然その態度になるのもわかる。
いるべき時に傍にいなかった、俺のせいなのだが...。
「....わかった。シロコちゃん、ここは衛宮先生に任せよ。
でも、先生、私たちだって人間だし驚けば勝手に
と、これから言う言葉はあくまでカイザー理事を侮蔑するつもりは無い。
そうホシノは主張した。
「ふん、言葉遊びか。
私もこう見えて大人の端くれだ。
そのくらいは許容してやろう。
それに──────これはまぁ言わずともいいか。」
自分達に負けは無い、と理事は確信している。
不利だ。
今から始まるのは、相手の土俵でどれだけ事態の悪化を防ぐことが出来るか。
そんな戦いだ。
「さて、話を戻そう。
お前達はつい数日前までは知らなかったらしいが、アビドスの自治区の大半は既に私が買い取った。
それは前アビドス生徒会長との合法的な取引、記録も全てしっかりと存在している。
この数日間、情報収集に奔走してわかったのではないか?
私達は不法な行為をした訳では無い、ということを。
細かい部分まで調べ上げ、私達の黒い部分を粗探ししたようだがそのような事実は無い。」
「「!!!」」
驚きも驚きだ。
ここ数日間の皆の動きをマークされていた。
「お前、皆の動きを────」
「知っていたとも。
そして、先程の「カイザーの土地だと知らなかった」というのが嘘だと言うことも知っている。
その上で先程の茶番に乗ってやったのだ。」
「........。」
もう既に盤上、俺達は手のひらの上で踊らされていた。
「終わった話は置こう。
お前達がここに来た理由、それは私たちが此処で何をしているのか気になったからだろう?
わざわざ不毛なアビドスの土地を買い、何を企んでいるのか。
教えてやろう。
私達はアビドスの何処かに埋められているという、宝物を探しているのだ。」
「.....そんなでまかせ!信じるわけないじゃない!!」
「ほう?でまかせであると、何故そう思う?」
セリカの言葉に分からないと、そんな風にカイザー理事が聞く。
当人の代わりにシロコが口を開く。
「....アビドスに資源は無い事が昔の調査で判明してる。
それにこの兵力を動員して、PMCの基地拠点を建てている事に説明がつかない。
この兵力は、私達の残った自治区を武力で占拠する為の準備。
違う?」
カイザー理事は笑いだした。
「フッ.....ハハハハハハハハッ!!
何を言い出すかと思えばそんな幼稚な。
数百もの戦車、数百名もの選ばれし兵士達や火薬に弾薬。
それをたった5人しかいない学校の為に準備したと?
冗談じゃない。
いくらカイザーグループとはいえ、武力で自治区を制圧し、自治権をまるまる奪ってしまえば連邦生徒会との戦争になる。
あくまでこれは、何処かの集団に宝探しを妨害された時の為のものだ。
お前達からアビドスを奪うなど、他にいくらでも手段はある。
例えばそう、こういう風にな。」
カイザー理事は端末を取りだし、何処かへ連絡を取った。
「私だ。そうだ進めろ。」
皆も困惑している。
「急に....何?電話? ...それに「進める」って何を......。」
「......」
セリカやノノミと違い、ホシノはそれが何であるかを悟ったようだった。
「....やられた。」
その小さな言葉の後に、カイザー理事が続く。
「残念なお知らせだ。
どうやら、君たちの学校の信用が落ちてしまったようだ。」
と、わざとらしく、笑って吐き捨てた。
「ふむ.....そういえば連絡係が見当たらないな。
ここ周囲一帯は強力なジャミングを放っている。
......何が起きたか分からないだろう?
今、分かるようにしてやる。
あぁ、妨害を解除しろ、今すぐだ。」
そして、別の所に連絡したカイザー理事。
その後俺の端末が震え、ホログラムにアヤネの姿が浮かび上がる。
『え、衛宮先生!皆さん!!
カイザーローンから「アビドスの信用評価値を最低ランクに引下げした。」と通告が...
金利3000%上昇、来月の利息が9130万に....
一体そちらで何が─────』
「9000万!?」
信用評価の強制ダウン。
金利の引き上げ。
利息、およそ1億。
それが今のカイザー理事の連絡で確定したことをアヤネが知らせてきた。
皆がカイザー理事を睨みつける。
「クククククッ.....
これでわかっただろう?
お前達の首輪についている鎖が、一体誰の手にあるのかをな。」
「う、嘘でしょ ...!?本気で言ってんの!?あんた!」
「あぁ、本気だとも。
しかしこれだけでは足らんな。
9億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。
1週間以内に我がカイザーローンに3億円を預託してもらおうか。
この利率で、借金を返済が可能だという事を証明して貰わなければな。」
と。
そんな事を口にしやがった。
「.....嫌であれば学校など去ればいい。
我々にとって9億など、痛くも痒くもない。
お前達個人の借金では無いのだから、1人残った者に責任が行く、などということは無い。
そもそもこれは「学校」が責任を取るべき金だ。
何もお前達が進んで背負う必要は無いのではないかね?」
「そんな事出来るわけないじゃないですか....!」
ノノミが怒りを露わにして言った。
「そ、そうよ!私達の学校なんだから!!私達が.....」
そう言うセリカの声は小さくなっていく。
1番現実を認識していたのは、誰でもなく彼女だった。
「そうか、で?他に何か良い手でも?
お前達の労力ではこれまでの利息を返済するのが精一杯だ。
何故なら、そういう風に仕向けたからな。」
「.....!!やっぱりあなたが搾取してたって事でいいんだ。」
シロコの握りこぶしに力が入る。。
「そうとも、お前達がここに来るよう仕向けたのも、私だ。
やれやれ、やはり子供の頭では気づけなかったか。」
「.....え?何を言ってるのよ、私達は─────」
「ブラックマーケットであれこれと探索していたようだがな?
お前達が手ぶらで帰った理由は情報を我々が揉み消したからだ。
だと言うのに今回に限って、簡単に情報が手に入った。
何故だと思う?
それは各地に情報を流したからだ。
アビドス高校にさえ伝わってくれればどこでも良かったのだがな。
そうしてお前達は私の仕組んだ通り、我々カイザーグループの土地に断りもなく侵入し、暴れた。
相手の疑わしい情報が一切掴めない状態で、我々の流した偽の情報を見つけ、さぞ藁にもすがる思いだったのだろうな。
ハッ、哀れな奴らだ。」
カチンと来た。
人の思いを踏みにじり、その努力を笑い飛ばすなんて。
ふざけてる。
「そういえば、何処ぞのシャーレの先生は、そのアビドス高校の全権責任者になったのだったな?
どうする?お得意の魔法とやらで金塊でも作ってみるかね?」
「は?」
「お前のような青二才は汚れた世の中を知るべきだ。
「正義の味方」だと?
笑わせる。
子供の絵空事を大人になってまで続けているお前がどうやってその地位についたのかは知らんが。
綺麗事ばかり言っていられるほど現実は甘くない。」
それは明確な敵意を。
対策委員会には虫を見る様な目を向けていたカイザー理事が初めて見せた殺意だった。
「どうだ、ここらで汚れてキヴォトスにおける大人の仲間入りというのは。」
ふざけるな。
「断る。
俺はお前達のようにはならない。」
「.......だろうな。
貴様のような世間を知らんような若造は全て失う。
失ってから理解するのだ。
無力だったと、無意味だったと。
そのような理想や思想は力がなければ貫けぬ。
力とは?強者とは?
どのような方法であれ、結果を手に出来る者だ。」
だと言うのに「正義の味方になる」だと?
己の道が定まらない愚か者であれば、今ここで死ね、
衛宮士郎。』
そう告げたのが誰だったか。
その「誰か」の人生が、どんなものであったか。
俺は知っている。
理想と現実の間で苦しみながら突き進み、地獄へ踏み込んで尚理想を貫いた男がいた。
「訂正しろ。
人の夢も努力も、否定していいのは同じ道を進み、辿り着いた奴だけだ。
俺の理想も、ここにいるこいつらの夢や努力も。
お前に否定されて嘲笑される筋合いなんてない。
俺はお前を認めない。
他人の痛みを理解できないならお前は言峰以下だ。」
「.........俺があの出来損ないの人間と同じだと?!」
何処で言峰のことを知ったのか。
そんなのはどうでもいい。
「お前のような大人は俺が否定する。
子供の夢を
「..........貴様に俺の何がわかる!!!」
威厳のあった態度は一変した。
カイザー理事という仮面は一瞬剥がれ、本音が漏れ出た。
深呼吸したのか、落ち着きを取り戻した理事。
「.....良いだろう。
それほど死に急ぎたいのであれば────────
提案しようではないか、衛宮士郎。」
「提案?」
「力を見せてみろ。
お前一人で、生徒の手も借りず、ここにいる......そうだな...。
一個中隊相手に模擬戦で1時間粘ってみろ。」
笑い捨てて言った。
一個中隊なので最大で250人程度だろうか。
「衛宮先生!そんな話聞く必要─────!」
ホシノの声は銃声でかき消される。
「外野は黙っていてもらおうか?これは大人の会話だ。
そうだろう?衛宮士郎先生。
お前に拒否権などそもそもない。
生徒の前であれだけ綺麗事を宣ったのだからな。
逃げることなど出来まい?
お前の技は初戦の便利屋68から聞いている。
が、所詮吹聴。
一撃とて、戦車の砲の威力を超えることはないだろう。
そうだな?
正当な対価として、お前が粘れたら、先程の借金の件は取り下げてやろう。」
一気にスイッチが入った。
どうせ口約束だと。
守る気は無いのだと。
そんなことは関係ない。
衛宮士郎が先生と名乗る以上、大人と戦うことは目に見えていた。
「あぁ、いいぜ。
やってやる。
むしろ一個中隊で十分か?」
と、言ってやった。
「何?貴様、調子に乗るのもいい加減に─────」
「.....いいんだな?たったそれだけで?」
「────ッ!?」
俺の強気にカイザー理事がしり込みした。
全身に魔力を流し状態を確認する。
魔術回路、通常戦闘なら問題なし。
憑依経験による肉体強化の準備完了。
無限の剣製使用不可。
回復しきってない俺の魔術回路全開で展開すれば、その時点で自滅する。
故に剣を投影する手間暇はこれまでと変わらない。
しかし、戦う相手が違う。
キヴォトスに来た初日剣戟による弾幕の切り払い、踏み込みは出来ている。
勝てる、いや勝て、と。
体が、心がそう言っている。
衛宮士郎が戦う相手は生徒では無い。
やっと本領を発揮するのだと。
丘の頂上に突き刺さった剣を引き抜くイメージで、片手に剣を握る。
それはセイバーが、いつか失った、装飾の施された輝ける誓いの剣。
刃が太陽の光を反射し、全員の目に黄金に光って映される。
「....何あの剣.....凄い綺麗.....。」
「ホントですね.......」
対策委員会の皆は過去の俺と同じように、美しいと、この剣を見て言う。
この剣は、掲げた誓いを守る騎士の剣。
折れぬ限り負け無いのではない。
自らに負けぬ限り、折れることは無いのだ。
所詮衛宮士郎の最大の敵は、己自身であるのだから。
「行くぞ、カイザー理事。兵の補給は充分か。」
俺は剣を向け、そう言い放った。
Vol1 2章終了後、見たい絆ストーリー。とある事情により絆が深まらないのでホシノを除く。
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黒見セリカ
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砂狼シロコ
-
奥空アヤネ
-
十六夜ノノミ
-
早瀬ユウカ
-
羽川ハスミ
-
空崎ヒナ
-
本編を進めろ余り我を待たせるな雑種
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全部書け、そのような泣き言聞く耳持たん
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「バカの藤河は何処だ!」