衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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A.衛宮先生の魔術に惚れ込む

お待たせしました。
裏で何が起きているのか、黒服の計画、とある者の考え、士郎の選択と彼に課せられたさらなる枷。


#15 大人の戦い(Ⅱ)

俺はある建物の前で立ち止まる。

 

「.......」

 

 

 

あの時俺は、黒服の誘いを断った。

 

 

 

 

 

 

『───────衛宮先生。貴方に1つ、断れない提案を。』

 

 

「悪いけど黒服...今日は無理だ。明日の夜にしてくれないか?」

 

『出来れば今日の方が良かったのですが....そうですね、明日にもなれば先生もご自身の立場がわかる────いえ、私の立場がわかるかと。

 

では先生、1つアドバイスを。

 

けっして諦めぬよう、抗うことです。』

 

「余計なお世話だ!!こんちくしょう!」

(ブチッ....ツーツー)

 

 

 

その後必死にホシノを探したが見つからなかった。

 

 

 

 

指定された部屋の扉を開ける。

 

(ギィィィッ......!)

 

「お待ちしておりましたよ、衛宮先生。

貴方とはこうして面と向かって話をしてみたかったのですよ。

 

ですが.....ええ、こうして顔を合わせれば分かります。

貴方がどれだけ異質なのかが。」

 

 

「お、お前 ........」

 

オフィスに座っている男の後ろからは光が漏れ出ている。

おかしい、今はなんせ夜だ。

 

つまり太陽の光では無い、というよりこのオフィスそのものがキヴォトスではない .........?

 

 

「俺が異質だって?

 

お前の方が異質だろ。

なんだよその頭。」

 

真っ黒い影で出来た人形のような実態があるかすら分からない不気味な存在。

頭部と思われる部分には目のような大きな穴が空いており、そこを中心にひび割れている。

 

口元の部分もそうだ、引き裂かれたかのように、口のような裂け目がある。

それがギリギリ、俺のコイツに対する認識を「人」と押しとどめている要因でもあった。

 

確かに黒服、というより黒いスーツを来ている、がそんなことよりツッコミどころが多すぎる。

もしやホシノ達には別の姿に見えているのだろうか。

 

 

あいつは俺の質問を易々とスルーした。

 

「......あなたのことは知っていますよ?

連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。

あのオーパーツ「シッテムの箱」の主であり、連邦捜査部「S.C.H.A.L.E」の先生。

 

カイザー理事の様に貴方を過小評価するものは今のキヴォトスでは多いようですが、私(・)た(・)ち(・)は違います。

 

まず、はっきりさせておきましょう。

私たちはあなたと敵対するつもりはありません。

 

いえ、敵対すればまず間違いなく私たちは葬られるでしょう。

あなたの持ちうる神秘、いえ、魔術によって。」

 

「っっ!!!お前、この世界の住人じゃないな!?」

 

目の前にいる存在は不敵に笑う呑み。俺の質問には答えない。

 

 

「私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全くもって大した問題ではありません。

ですが先生、あなたの存在は決して些事とは言えない。

故に、協力はすれど敵対することは避けたいのですよ。」

 

 

コイツは先程から「私たち」と言っている、やはりゲマトリアは1人では無いのか。

 

「お前は一体なんなんだ....!」

 

「おっと...?

先生はもう私たちが何なのか知っているはずですが......まぁ良いでしょう、改めて自己紹介を。

 

 

私たちはあなたと同じ、キヴォトスの外部の者.....ですが、あなたとはまた違った領域の存在です。

 

適切な名前がありましたので今はそれを拝借して使っております。

私たちは「ゲマトリア」、そして私の名前は「黒服」とでもお呼びください。

 

私たち(ゲマトリア)は観測者であり、探求者であり、研究者です。

ええ、あなたと同じ「不可解な存在」だと考えていただいて問題ございません。」

 

 

くだらない、そんなことはどうだっていい。

 

「 なんだっていいよ、そんな事よりここに俺を呼んだ理由を教えろ。」

 

 

「ふむ、そうですか、では1つ。

衛宮先生、私に協力する.....いえ、あなたに協力させて欲しいのです。」

 

 

「協力.....だって?お前が俺に?」

 

このタイミングで味方が増えるのはいい。

いいが、こいつの思惑がどこにあるのか、俺まで大人に利用される訳には行かない。

 

「一応聞くぞ、どういう事だ?」

 

「.....怒らずに聞いてください。

衛宮先生、小鳥遊ホシノを攫った、いえホシノさんと契約してアビドスから連れ去ったのは、私です。」

 

 

その一言で頭に血が上る。

 

「オマエッ!!!」

 

拳を振りかぶった。

 

それは黒服の拳により止められる。

 

「衛宮先生.....2度忠告しました。

 

相手を怒らせないよう、怒らずに聞くようにと。

それに話によってはホシノさんを解放するお手伝いをさせていただきます。」

 

は?

まるで自分の手にホシノが居ないような言い分はなんだ?

 

「話を聞いていただけますか?」

 

 

俺は右手の力を緩めた。

 

「.....悪かった。」

 

「良いでしょう、今の謝罪において何も我々の間にはなかったと。」

 

 

そして聞いた、コイツが何をしようとしていたのか。

ホシノに何をして、何を見ようとしていたのか。

 

怒りで握った拳が砕けそうになるくらい、黙って聞いていた。

 

 

「.......ですが、私はホシノさんの神秘より非常に興味深いものに出会いました。

それが衛宮先生、あなたなのですよ。」

 

「....お、俺?」

 

「はい、あなたの魔術は普通では考えられません。

あなたの使う魔術は投影魔術に酷似していますが、それそのものでは決してない。

 

この世に存在しないものを呼び寄せる力です。

 

通常の投影魔術は持って数分、傷つきやすく壊れやすく、戦闘に使用出来るような代物ではありません。

それに対する魔力の消費も本来は半端ではない。」

 

 

「おまえ、どこで俺の魔術を!!」

 

「あぁ、陸八魔アルとカイザー理事の通信を見ていましたから。

それに風紀委員会との戦闘で見たあの数多の剣製。

非常に美しく非常に興味深い!!」

 

 

わざとらしく両手を広げ、「感動した」と言わんばかりの黒服。

 

 

「あぁ、本当に美しい。故に私はあなたの魔術を見たい、研究したい、観測したいッッ!!!」

 

目がある訳でもないのに前身を舐められるような感覚。

 

「友人の言葉を借りるのであれば衛宮先生、あなた自身が芸術品だ。」

 

「─────ッッ!!」

 

「なので、どうでしょう?

週に、いえ?月に1度で良いので私にあなたの魔術で作った品を提供していただけませんか?

 

その代わりとして、小鳥遊ホシノの監禁場所と生徒としての全権利、それとアビドスの背負っている全額を私が負担いたしましょう。」

 

「.....は?」

 

「もしや.....?衛宮先生はご自身の価値が分かっておられないのですか?

あなたの投影品は1寸たりとも狂いなく本(・)物(・)と(・)同(・)じ(・)複(・)製(・)です。

あなたの世界の数多の刀剣が記録されているあなたを標本にされてしまってはとんでもなく勿体ない。

故に傍で観察したいのです。

 

こんなに破格の条件は他にありません。」

 

「本当にそれだけなのか!?」

 

ただ俺の投影した剣が欲しい。

それに対しアビドスの借金、それが釣り合うというのだ。

 

「本当の目的はなんだ、ゲマトリア!」

 

「いえいえ、これは私個人の興味であり、ゲマトリアは一切関係ありません。

いかがです?

 

あなたは剣を1つ作るだけ。

 

そして、私たちの動向、存在意義をその目で観察することが出来、尚且ついま抱えてる問題全てが解決するのですよ?」

 

 

「.........」

 

俺がどうなろうとそれは関係ない。

だが、

 

「違う、違う気がするんだ。」

 

「違う?何が違うのです?」

 

 

この違和感はなんだろうか?

想像してみる、全てが解決したとシロコ達に報告した時のことを......

 

納得できるのだろうか?

全てが自らの手ではなく他人の手で解決されるのが。

 

特にセリカはどうだろうか?あいつは最後まで大人の俺が関わることを良しとしなかった。

それに、借金を返済するにしても、彼女達の力でやらなければ意味が無い。

 

「断る、そんな都合のいい条件はいらない。

アビドスの問題は、あの子達が解決するべき問題だ。

 

お前に手を貸されなくたって、あいつらは必死で何とかするだろう。

だからそんな金なんて要らないんだ。」

 

 

黒服は少し考えたあと身を震わせた。

 

 

「なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?ナゼ?ナゼナゼ何故何ゼ何ゼ!?

 

理解できません、何故、何故断るのですか?この破格の条件を?

 

普通に考えれば受けるでしょう?

約20億もの借金、そして土地、このままいけば破滅寸前です!

 

それに小鳥遊ホシノの全権はこちらにあります!それを────」

 

「そんな事はどうだっていい、俺はホシノを返してもらいに来ただけだ。

ここにいないって言うなら何処にいるんだ?」

 

「どうだっていい!?

いいえ、どうでもよくはないはずですよ、先生。

ホシノさんはもうアビドス高校の生徒ではありません。

 

届け出を確認されていませんか?」

 

いいや、違う。

 

 

「俺はまだアレにサインをしていない。

だから、ホシノはまだ対策委員会の生徒だし、アビドス生徒会の副委員長だ。

 

それに──────」

 

手元にとある短刀を取り出す。

 

 

「!!!それは」

 

「こっちにだって切り札がある、その気になればお前たちをこの世界からはじき出すことだってできるはずだ。」

 

 

 

「......良いでしょう。

ですが、支援だけはさせていただきます。

やはり借金の半額、せめて、彼女達が違法に搾取された金額とそれにより取られた土地、それを取り返す手助けをさせてください。

 

小鳥遊ホシノの救出だけでは、あなたが私たちに敵対しないというその条件に見合わない。」

 

 

「......半額....それと土地か....まぁ確かにずる賢い大人に奪われたからな。お前たちのような!」

 

「........先程も言ったはずですよ、私たちは観察するものだと。

それで?衛宮先生、納得していただけましたか?」

 

 

俺は無言で頷いた。

 

「では次のお話です。

 

お入りください。」

 

 

 

そうして入ってきたのはまたもや機械で覆われた人間。

 

「ようこそおいでくださいました。カイザープレジデント」

 

「!!!カイザープレジデント!?」

 

急な展開すぎる。

何しろ、敵であるカイザー理事より上の存在か突如として俺の前に立っているのだから。

 

 

俺は椅子から立ち上がって警戒水位を上げた。

 

「我々ゲマトリアは連邦捜査部シャーレに対して協力体制をとりました。

カイザープレジデント、あなた方は如何しますか?」

 

「ふん、そこの若造と、こちらの理事のせいで我社は大損害を受けている。

 

正直ここで撃ち殺したいが、そうもいかん。」

 

 

「は?」

 

そうしてカイザープレジデントは俺に手を差し伸べた。

 

「私たちカイザーグループはそれぞれの子会社を解体し一新することにした。故に衛宮士郎、テロリストとなった元カイザーPMCを協力して討伐しようではないか。」

 

 

「なっ!??お前!切り捨てるつもりか!!」

 

カイザー理事諸共!?

 

 

「都合が悪くなったら切捨てか!!お前!」

「ふん、そういうことでは無い、もともとアビドス自治区を買い取るよう指示したのは私だが、なにも都市部まで買い取れとは言っていない。

 

アビドス砂漠だけあれば良かったのだ。

 

それをあいつは暴走し勝手な行動にばかり走り始め、正直こちらとしても困っていたのだ。

優秀な分、切り捨てるのも難しくてな。」

 

「........つまりなんだ、条件が揃ったから事前通達もなく切り捨てると?」

 

「戦闘の前に勧告はする。

故にそれに従わない者のみ処罰するつもりだ。

 

協力してくれないか、衛宮士郎先生。」

 

 

 

「.......俺の一存では協力はしてやれない。

でも目的は一致するし、お互い邪魔することもないだろ。

 

だから──────」

 

俺はその手を握り返した。

 

「よろしく頼む、カイザープレジデント。」

 

 

その後各それぞれの動きの確認、そして最終目標が何処なのかを確認。

そうして会談は終了した。

 

帰り間際、俺は呼び止められた。

 

 

「衛宮先生。」

 

それは黒服の声だ。

 

「衛宮先生は自分の立場がおわかりですか?」

 

「え?俺は......」

「貴方は今なんですか?「先生」ですか?「大人」ですか?

 

それとも「衛宮士郎」ですか?

思ったことはありませんか?

 

「先生は生徒を傷つけてはならない」とか「生徒なら全員に優しくあるべき」だとか。」

 

何を言って──────

 

 

「衛宮先生、もうひとつ忠告を。

 

自分を強く保つように。

あなたはこの世界の枠組みである「先生」に侵食されつつあります。」

 

「.....なん....だって?」

 

 

「もう既に実感しているのでは無いですか?

 

生徒を傷つけたり、生徒に剣を向けた時の反動(デメリット)を。

 

故に衛宮先生は自らの力を「先生」の枠組みから超えた際、矯正されるようになっています。

その度貴方は「先生」という概念に侵食されている。

他ならぬあなた自身の抱く、先生のイメージのものが。

あなたは力を使えば使うほど、「先生」になり「衛宮士郎」という存在はどんどんと消滅していく、ということです。

 

はたして、「先生」となった衛宮士郎先生は衛宮先生と言えるのでしょうか?」

 

「今度はテセウスの船かよ.....冗談も程々に────」

 

「冗談ではありませんよ。衛宮先生。

 

ですから力を使うのなら慎重に、間違っても生徒を攻撃することの無いよう、よろしくお願いしますね。」

 

 

「そうかよ。忠告感謝するよ。」

 

俺は皮肉を交えて扉を閉めた。

 

 

「衛宮先生、私たちゲマトリアはあなたを見ていますよ。

クックックッ」

 

アリスの士郎に対する呼び方。

  • 「士郎」、「士郎先生」
  • 「シロウ」、「シロウ先生」
  • 「マスター」、「先生」
  • 「衛宮先生」、「先生」
  • 「エミヤ先生」、「先生」
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