衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】 作:神宮寺志狼
.... 閉じ込められてからどれだけの時間が経ったのだろう。
「皆....」
無響室に閉じ込められたため、自分の声すらしっかりと聞き取れない。
だと言うのに。
私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって思って、何度も頬をつねったんだ。』
頭の中で声がする。
そういえば、最後に───先輩を見たのは、このアビドス砂漠だった。
でも伝えておきたかったんだ。
ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとって魔法みたいなものだって事を。』
かつてのあの人の言葉だ。
どうしてこんな時に思い出すのだろう。
私はなんて答えたのだったか。
昨日も今日も、明日も。
こんな当たり前のことをどうしたらそんな大袈裟に言えるんですか。』
そうしてその後に告げた言葉を思い出し、独りボソリと、呟いた。
「『魔法なんてあるわけないじゃないですか.....』って....言ったんだっけ。」
そんな都合の良いものはない、と私はバカにした。
それでも彼女は否定した。
その時は頼りない私と違って─────
』
今度こそ、頭がおかしくなったのかと思った。
突如として聞こえてきたのは、今アビドスにいるはずの後輩たちの声だった。
「あ~ぁ.....私も、もうダメかな.....。起きながら、夢でも見てるのかな....」
『夢ではありませんよ、ホシノさん。』
黒服の声も頭の中に響いてくる。
その声と同時に、私に付けられていた枷が外れた。
「なんで ....体が自由に....?」
『3日間の契約は終了しました。、これで貴方は晴れて自由の身です。』
え....?3日間....の契約?
『気をつけてください。ちゃんとサインをするのであれば、契約書を読んでおかなければ。
では私の役目はこれにて終了です。
ホシノさん、ゲマトリアはあなたをずっと見ていますよ。』
言いたいことだけ言って、黒服の声は突然途絶えた。
体が自由になり、立ち上がる。
「皆の声が聞こえたのは....こっちかな?」
目を逸らすと見える、分厚い黒い扉。
その隙間から、ほんの少しだけ光が差し込んでいた。
聞き間違いでも幻聴でも、夢でもない。
この扉の向こうにはきっと満面の笑顔をした皆が待っている。
こんな馬鹿な私を心配して、助けに来てくれたであろう、後輩達が。
「私は.......」
扉に手を伸ばす。
『行きますよ!』
『1!2の......』
「私は、皆にもう一度会いたい.....!」
その扉の隙間に指を差し込み、力を入れる。
『3!!!』
(ガタンッ)
....丸1日、いや2日ほど経っているのか。
夜は明け、東の空から登る太陽の光が眩しく、手の甲で遮ろうとする。
しかし、それよりはるかに先に、みんなの声が私の耳に届いた。
額を覆う手を誰かに取られ、引き上げられる。
「ん、無事でよかった。」
「.....シロコちゃん.........皆....えへへへ....ただいま。」
私の言葉に、皆が用意していたかのように答えてくれた。
こんな魔法みたいな現実に、私はとんでもなく感謝した。
走る、ただひたすら、剣の生えたこの荒野を駆け抜ける。
「────────────」
心臓はただひたすら身体中に血液を送る燃料タンクになり、煮えたぎっている。
額から流れる汗は止まらない。
目の前にある数多の剣でこちらを射殺さんと飛翔する銃弾をいなしながら前進する。
敵の数が千であるのなら展開される弾幕はその何百倍にも及んでいた。
────しかし、なんの問題もない。
「ふっ.....」
いくら弾薬があろうが、大砲があろうが、限りもあれば一撃あたりの火力にも限度がある。
故に、例え贋作であろうと、古より神秘を纏う剣達が、そんな心のないものに負けるはずがない。
「──────は.....あぁ!!!」
(ダダダダダダダッ!!!)
(カンッ、キーンッ!キーンッ!!)
押し寄せる機械歩兵の大群を、剣の大群で迎え撃つ。
弾幕を弾くと同時に後方にある剣を飛翔させ、その相手の頭上から降り注ぐ。
(ヒューーン......ズダダダダダァァァアン!!!)
無限の剣と、有限の戦力。
どちらが有利かは誰の目にも明白だ。
しかし、俺が彼らを圧倒できているのは、単にここが俺の世界だからだ。
固有結界が閉じれば、以前と何も変わらない。
故に────勝敗を握るのは俺の残りの魔力量。
ありったけの剣へ指示を出す。
頭痛と、
干からびるように枯渇していく俺の魔力。
されど、問題などない。
元々長期戦など想定していない。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
手元に、何時ぞやの高射砲の弾丸をはじき飛ばした
「
(ガコン......ウィィィィン!!!)
(ボォォォン!!!)
その砲塔から放たれた白い閃光は目の前にいる敵全員を包み込むように戦闘不能にした。
「ガ──────!!」
右腕の魔術回路が悲鳴をあげる、肉体強化を完全まで読み込まなかったツケにより、その武器を放棄した。
カイザー理事までの視界と道を確保すると、同時に奴の間合いへ一気に踏み込んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
ホシノの盾と、ショットガンを手に、周囲にある剣を飛ばしながら駆け抜ける。
そこで目に映る。
何故だろう、俺の横では対策委員会全員の武器が浮遊し、同時にカイザー理事へ独りでに発砲していた。
(ダダダダダダダッ!!!)
(タタタタタタタタタタタタタンッ!!)
(バリバリバリバリッ!!)
(パンッ!パンッ!!)
場所は違えど心は同じく、彼女達の写し身は俺と同じ場所を目指す。
1歩、1歩、と空気を切り裂くように、進んだ。
「ふっ─────は!!!」
「ぐあっ!!」
最後の敵を倒しきり、カイザー理事と対峙する。
「ば、馬鹿な......我が精鋭六個大隊をいとも容易く.....!
まだ3分と経っていないと言うのに......!
この───────化け物が!!!」
(────ブンッ)
カイザー理事の拳が迫る。
「は、あ──────!!!」
(ガキィィン!!!)
展開した盾で相殺した。
結局、俺の体の防御力はゼロに等しい。
そうでなければブラックマーケットで機械歩兵に殴られただけで気絶するわけが無い。
故に体が機械であるなら、コイツの遅い拳であろうと、一撃貰うだけで致命傷になりうる。
「や!────はぁ!!!」
出し惜しみなし、一手一手、全てに全身全霊で魔力を込める。
「貴様のような自分のないようなものに、何故負けるのだ!!
有り得ない!有り得ない!有り得ない!間違いだおかしい断じて認めん!!」
(ブォン!!)
「ぁ───────」
相手の振るう力任せの横払いを相殺しきれずに吹き飛ばされ、情けなく大地へと転がる。
「ポッと出の、貴様のような!貴様のような─────!!!」
倒れた俺の頭蓋を踏み潰さんとばかりに理事の足の影が俺を覆った。
「あぁ、そうだ。
俺はそんな立派な大人じゃない!
だから何だってんだ──────!!!」
防御になど手を割かない。
こちらも力に任せ、盾を相手の顔面へと投げあげる。
(ガギィイィイン!!)
「ぐあっ!!!」
相手のよろけた隙に体を起こし、トリガーをひいた。
(バァァァン!!)
伸びた距離からの散弾による攻撃では相手に傷をつけられないのか、カイザー理事は無傷だった。
「この距離で、当たるとでも思っているのか!!!!」
こちらへの距離を詰める理事。
(カチッ、カチッ!)
「ッ!!」
弾切れになったショットガンを宙へ放った。
剣を操るほどの魔力など、残されていない。
相手もこちらも徒手空拳でお互いへ殴りかかった。
恐らくこれが最後。
「ぬぉぉぉぉぉっっ!!!!」
(ブンッ!!!)
「─────────ッ!!」
大振りの拳をしゃがんで回避し─────
「─────────はぁっ!!!」
相手の顎目掛けて、この拳を打ち込んだ────────。
こちらは魔力切れ。
固有結界は解除され、元のアビドスの砂地へ再び立っている。
理事はノックバックし、倒れ込んでいた。
カイザーの兵士達は全員戦闘不能。
戦いに勝利した。
その事実を認識したら瞬間に、一気に体の力が抜け、その場に仰向けで倒れ込んだ。
「はぁぁ.........。」
いつの間にか夜が明けていた。
「士郎~~!!!!」
「衛宮先生~!!!」
そんな寝転がる俺の元に、あの子たちが駆け寄ってくる。
嬉しそうなその声を聞きゃ、顔なんて見なくたってわかる。
寝ている俺の周りに集まった対策委員会、その中に見つけた。
「先生、ありがとね。」
そう、満面の笑みで笑ったホシノ。
「ったく.....ありがとね、じゃないぞ、ホシノ。」
彼女は困ったように苦笑いして、言った。
「ただいま、先生。」
言いたいことだって沢山あった。
伝えたいこともあった。
でも、そんなことは後でもいい。
「おかえり、ホシノ。」
アビドスの、気持ちのいい朝の風が吹いていた。
アリスの士郎に対する呼び方。
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「士郎」、「士郎先生」
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「シロウ」、「シロウ先生」
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「マスター」、「先生」
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「衛宮先生」、「先生」
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「エミヤ先生」、「先生」