衛宮士郎 "先生概念"【GRADATION ARCHIVE】   作:神宮寺志狼

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ABYDOS Ayane's Interlude「もう1人の頑張り屋」

 

あれからというもの、激変したアビドス自治区が心配で、何度か訪れていた。

今日はアヤネに連絡し教室に来てみた訳だが───

 

「おーい、。」

 

返事は無い。

「おかしいな....日を間違えたか?」

連絡した日付か、はたまた来た日が間違っていたのか。

 

「~......い~!」

 

 

「ん?

隣の部屋からなんか聞こえてくるんだが.....?」

 

「し.........い~」

 

耳に届いたそれを頼りに向かえばそこには漫画やアニメーションのように本の山に埋もれ、腕だけが助けを求めるように蠢き、何やら怪しげだ。

 

地面から手だけでてるようにも見えるし、何やら見覚えのあるようでないような光景......。

 

「士郎先生~...」

 

でその声を聞いてようやく主がわかった。

 

「アヤネか?ちょっと待ってろよ。」

 

取りあえず本を雑に扱う訳にもいかず積み重ねながらその身体を引き起こした。

 

「はぁ~ .......助かりました。士郎先生。ありがとうございました。」

 

ぺこりと頭を下げて感謝を述べるアヤネ。

メガネはズレてるし、髪の毛は荒れに乱れてるし、ブレザーは脱げかけてるし、スカートにも変に折り目がついている。

 

 

「なんだってこんなことになってるんだよ。」

 

周囲を見れば空っぽの棚。

まぁ、棚の下敷きになるよりマシか、死ぬほど痛いからな。

 

........ってまるで経験した風に考えてるのはなんでなんだ?

 

 

「......改めましてこんにちは、先生。

その本の整理をしていたら体制を崩して頭を棚にぶつけてしまって、その衝撃で本が全て崩れるかのように落ちてきまして。」

 

「あはは....」なんて笑っているが顔は真っ赤に染っているし、そもそも体勢を崩すような何かもない。

 

いや、そもそも体勢ではなく体調を崩しているんじゃ?

 

「.....お前、無理してるんじゃないか?」

 

そのおでこに手を当てようと手を伸ばす。

アビドスの1件で分かったことだが必要な情報なすぐ伝達できるアヤネの悪い癖は自分のことは溜め込む事だ。

 

怒りもストレスも不満も。

 

何かあればすぐに言うシロコやセリカほど分かりやすくはなく、かと言って常時ポーカーフェイスのホシノや、そもそも許容範囲の広いノノミとは全く違う、それがアヤネの怖いところでもある。

 

「し、士郎先生ッ....?!//」

 

ぺた、と手が顔に触れた瞬間に壁際まで後退する彼女。

 

「いいからじっとしてろって!」

 

「私は大丈夫ですからッ!お、落ち着いてくださいっ....!」

 

「いや、落ち着くのはお前の方じゃないか?」

 

ん。これは無理してる自覚があって周りにそれを悟られまいとしてる奴の反応ではないのか?

 

「この前それでセリカだって倒れたんだから。

諦めて往生....じゃなくて養生しろってんだ。まったく。」

 

両腕を伸ばして捕まえようとするとひょい、横にステップを踏んで回避される。

 

再度腕を伸ばそうとすると力比べのように押し合いに。

 

「ね、熱なら自分で測れますし体調だって悪くありませんからっ...//!」

 

「本当か?無理してるわけじゃないんだな?

今倒れたら困るのはホシノ達だぞ?」

 

 

今のは少し意地悪だった。

 

確かに対策委員会はメンバー上、誰が欠けようと業務に差し障るというか、障らないようにアルバイトや休息のローテーションを組んでいるようだけど....

あんな言い方じゃ俺は心配してないみたいじゃないか。

 

とはいえ、別に俺は心配しているがこちらにかかる迷惑などないわけで。

 

「ほ、本当に大丈夫ですから!

 

す、少し離れて頂けませんか?!

い、嫌ではないのですが、さすがに距離がち、近すぎて.....//。」

 

言われて意識を向けた。

 

む。

確かに、年頃の女の子との距離感ではなかった。

 

やっぱりシャーレ()に陣取ってる藤河とか、あの辺まで行くと肩がつくような距離感の子ばかりだから、あんまり気にしなくなっていた。

これは確かにまずいな。

 

「わ、悪かった。」

 

重ねていた手を離す。

 

「あ....いえ、分かっていただければ....!」

あはは、と恥ずかしさを笑いながら隠そうとする彼女。

 

なんて馬鹿だ、俺は。

無理をさせていたのは俺自身じゃないか。

 

よし、反省、反省、次から距離感は気をつけよう!

頬を叩いて気持ちを切り替える。

 

「さてと、じゃあこの大量の本をどうにかしますか。」

 

「は、はい!」

 

10分くらいで山になった本を並べ直す。

直すのだが.....

 

「おい、アヤネ。この本全然読めないぞ?何語だよこれ。」

 

ヒエログリフじゃないんだから、もはや文字ですらねぇ.....。

 

「なんか価値が高そうな本だけど....いいのか?こんなもんズボラにここに置いといて。」

 

アヤネに手渡した。

 

「これはアビドスの本当に古い書物なんですが...アビドスが砂に埋もれてなかった時代よりさらに昔の生徒の本で....私にも読めないんです.....。

もちろんホシノ先輩達も.....」

 

 

アヤネが言うには古代のアビドス文字を読める者はほぼ居ない、いても他の地区に移ったので探しようがないとの事。

 

「ふーん.....そういや知り合いに情報屋になりかけてる神父と古代文字が読めるシスターがいるんだけど....あ、いや....トリニティの古代文字とはちょっと違うのかもしれないな....

 

そういや黒服─────」

 

「.......?

珍しいですね、士郎先生が途中で言葉を止めるなんて。」

 

.......黒服なら読めるからなんだと言うのか。

あの得体の知れない影に気を許したつもりなんてない。

 

「いやなんでもないんだ、忘れてくれ。」

 

黒服といえば....

 

「そういえばアヤネ」

 

「はい?」

 

 

ちょっと、疑問に思っていたことを聞いた。

 

「ホシノ救出の時、俺いなかったから聞きたいんだけど、ちゃんと皆でホシノを叱ったり「おかえり」とか「ただいま」とか言い合ったりしたか?」

 

 

「───────。」

 

あえて言わなかったが

 

『わ、私はします!!

皆さんがしなくても、多分ホシノ先輩を助け出した時にはみんな涙でぐしゃぐしゃですから!!

 

多分嬉しくて抱きついてると思います!!』

 

んな事を言っていた気がする。

 

「......そういえば涙なんて流しませんでした.....どうしてでしょう、感極まっていたのは間違いないはずなんですが.....

 

ずっと、ホシノ先輩が隣にいた気がして....シャーレのバンで突撃した時もずっと....

 

あははは....おかしいですよね、私は運転席に座っていたので隣は助手席しかなくて、当然そこに居たのは士郎先生だったのに....

 

なんでだろう .....」

 

「.....きっと場所は離れてても気持ちだけはみんなと一緒にいたんじゃないのか?ホシノも.....。」

 

そんな都合のいい話は無い...が人の気持ちなんて都合物だ。

全てに理屈をつけられるわけじゃない。それはただのこじつけ、屁理屈だ。

 

「じゃあ笑って再会できたんだな。」

 

「はい!あの時送って下った士郎先生のお陰です!ありがとうございました。

 

本当はあなたも含めて5人で迎えに行きたかったんですけど.....。」

 

俺が一緒にいても、何にもならなかったと思うが .....。

 

 

「いやむしろ謝るのは俺の方だ、ごめんな。

俺はホシノが皆の元から去るって分かっていながら止めれなかった───違う、止めたくなかったんだ。

 

多分俺がホシノの立場だったら同じことをやったと思う。

 

だからアヤネのあの時の怒りは、間違いなく俺に向けられて正しいものだ。」

 

 

 

 

『衛宮....先生!!!

どうして....どうしてホシノ先輩を引き止めてくれなかったんですか!!!

『俺に任せてくれ』って仰ったじゃないですかッ!!!』

 

ホシノに後悔はして欲しくなかった。

動けるのに、俺の言葉一つで、腕で無理矢理止められて、何も出来ずに事態を見守るなんて....それこそ今の俺の立場のようじゃないか。

 

幼い頃の俺は、身体を救うために、心が身代わりとなり死にかけた。

切嗣にその心をも救われたが、それでもあんなものは思い出したくもないし、同じような目には誰もあって欲しくない。

 

「.....」

 

「あの時の俺には、お前達の身と心、両方助ける手段は無かった....。

やっぱり現実って残酷だなってたまに思うよ。」

 

「残酷なのは───────────」

 

「お前だ」とアヤネが纏う雰囲気がそう言った。

言われて当然だ。

 

「.........悪い。」

 

謝って済む問題では無い。

俺はホシノの心情に肩入れしたように見えて、結局は自分の都合で彼女を止めなかった。

 

 

「......その言葉は、私ではなくホシノ先輩に─────と言いましたが、先輩なら「えー?なんのことー?」で済ませること請け合いですね。」

 

「む、それは確かにな。」

 

 

ははははは、と過去の話を流すように2人してその場で笑った。

 

「.....もう次なんて、ないと思いますけど....その時は今度こそ止めてくださいね.....

 

でなければ私は士郎先生をアビドスの対策委員会としても生徒会としても不信任案を提出せざるを得ません!」

 

 

「了解。

確かに「次」なんてない方がいいけどな.....」

 

当然だ。

人生山あり谷ありというものの、流石に感覚が無さすぎる。

 

 

「私、士郎先生は信じていますから。」

 

 

 

そして、片付けが終わり、水路の補修で詰まっていた砂が吹き飛んできては2人して砂まみれになり各自学校のシャワーを浴びたり。

 

高価な金属を近場の貴金属買取会社まで運んだ。

バカみたいな重さだった。

300kgあるものを、どうやって勉強机が耐えていたのか不思議でならない。

 

気づけば夕食の時間。

 

「そういやアヤネは自炊してるんだよな?」

 

「は、はい!?

そ、そうですけど、美食研究会に付け狙われる士郎さんの口に合うとは....!」

 

「いや何言ってんだ。

どれだけ飯が美味くてもひとりじゃ楽しめないだろ。

 

特に料理人ってのは相手のために料理を作る者でもあるけど、食ってる相手の笑顔とか感想とか辛口評価で経験値を貯めてくようなもんだ。

 

だから、アヤネの料理の腕関係なく俺がアヤネの作った飯を食えばアヤネの腕も上がるし、俺の作った料理の感想をアヤネが言ってくれれば俺の腕が上がるんだよ。

 

正直シャーレ()にいる奴ら全員「美味い」しか言わないから好みとかわかんないんだよ。

 

って事で俺を助けると思ってどうかこの通り。」

 

膝を着いて両手を合わせる。

 

「わ、分かりましたから!お願いします!街中で土下座なんてやめてくださいって!!

 

た、確か食材はあったと思うので.....宜しければ、来ますか?」

 

 

 

こうして、アヤネの誘いを受け俺はアヤネの家で料理をすることになったのだった。

 

 

アリスの士郎に対する呼び方。

  • 「士郎」、「士郎先生」
  • 「シロウ」、「シロウ先生」
  • 「マスター」、「先生」
  • 「衛宮先生」、「先生」
  • 「エミヤ先生」、「先生」
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